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フードデリバリーの「美団」と「ウーラマ」。働くならどっち?

外売サービスの大手と言えば「美団」と「ウーラマ」の2社だが、この2社は同じところが出発して、次第に性格を変えつつある。美団はギグワークを主体にし、ウーラマは専属ワークを主体にしつつある。では、配送員として働くならどちらがいいか。携景網は、5つの理由を挙げて、美団に軍配を上げている。

 

差が広がりつつある美団とウーラマ

外売(フードデリバリー)と言えば、美団(メイトワン)と餓了麽(ウーラマ)が有名だが、先行して創業したウーラマを美団が追従し、すぐに追いついただけでなく、最近では美団が圧倒的とも言える差をつけつつある。

QuestMobileの調査によると、2019年の美団の日間アクティブユーザー数(DAU)は6985.86万人となり、日間7000万人の大台が見えてきている。一方のウーラマは1097.03万人で、美団の1/6と大きく水を開けられてしまった。

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▲美団とウーラマに対応している飲食店の割合。両方に対応している飲食店は31.57%。美団のみが52.75%、ウーラマのみが15.68%となっている。対応飲食店でも美団が優勢になっている。

 

飲食店ガイドと連動させる美団の戦術が成功

これは、外売に誘導するシナリオに大きな差があったことが原因だ。ウーラマはウーラマ専用アプリから注文をする。一見正しいようだが、これはユーザーシナリオの上流部分を無視していたことになる。

後発の美団は、飲食店ガイド「大衆点評」と提携をして(現在は、美団と合併)、大衆点評の飲食店ページから外売を注文できるようにした。消費者は、まず「お腹がすいた」という欲求が生まれると、「家で何かを作るか」「外に食べにいくか」を考える。外に食べにいくと決めると、飲食店ガイドである「大衆点評」を開いて、店を探す。食べたい料理を出す店が見つかるが、現在地から遠く、いくのが面倒だと感じたときに、外売を利用する。自然なシナリオだ。

しかし、ウーラマでは、最初に「出前を取る」と決めてからでないと、ウーラマの

アプリは開かない。ここで大きな流量の差が生まれてしまう。

後に、ウーラマはこのことに気がついて、アリババ系の飲食店ガイド「口碑」から外売を注文できたり、スマホ決済「アリペイ」の中から注文できるようにしたが、多くの人に一度身についてしまった「大衆点評」→「美団」という習慣を変えることができずにいる。

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▲美団とウーラマの連携模式図。美団は、飲食店ガイド「大衆点評」とSNS「WeChat」からの流量があることが圧倒的な強みになっている。ウーラマの場合は、飲食店ガイド「口碑」と「アリペイ」からになっている。ウーラマは料理を配達する外売から、アリババの新小売戦略の即時配送の役割を担うようになりつつある。

 

働くなら美団がお勧め

携景網は、面白い比較記事を掲載した。それは消費者の視点ではなく、配達員として働くのであれば、美団とウーラマのどちらがいいかというものだ。仕事内容はほぼ同じだが、結論は美団で働くことを勧めている。その理由は5つある。

 

1)働き方が自由

外売配達員のような仕事は、ギグワークが可能だ。自分で働きたいときに、働きたいだけ働けるというもので、時間を自由に使える。美団は、このようなギグワーカーが多い。2/3から3/4がギグワーカーで、残りがフルタイムの配達員となっている。

 

2)美団の方が仕事が多い

美団は今や利用者数、注文数が圧倒的に多い。しかし、それに比例をして、配達員の数も多くなっているため、ウーラマと比べて、1日フルで働いた場合の稼ぎには大きな差はない。

しかし、注文数が多いということは、自分の都合のいい時間に仕事に入っても、仕事があるということだ。外売では、原則、1件配達をしたらいくらという報酬体系なので、仕事が多いということは、稼ぐ効率がいいことになる。

配送員は1件ずつ注文をこなしているわけではない。複数の注文を受け取りと配送を交えながら同時にこなしている。この複雑な手順は、プラットフォームが自動的に割り当ててくれるが、注文量が多ければ多いほど、その配達順路は効率的なものになっていく。

配達順路が効率的だということは、配達員にしてみれば、同じ時間でよりたくさん稼げることになり、利用者にしてみれば短時間で料理が配達されることになる。外売では、注文量が多いということが圧倒的な強さになるのだ。

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▲美団のプラットフォームが算出する配送員のルート。オレンジのマーカーが料理の受け取り、緑のマーカーが配達。バイクの収納ボックスの容積を考慮し、受取と配達を組み合わせ、最短距離になるように自動的に計算してくれる。ウーラマでも同じようなアルゴリズムが採用されているが、美団の方が配達量が多いため、より効率的な配送ルート算出が可能になっている。

 

3)ウーラマのボーナスは長期勤務寄り

美団、ウーラマともに、基本の配達手数料だけではなく、さまざまなボーナスを支給している。ボーナスと言うよりはインセンティブと言った方が正確だ。例えば、配達員の数が不足している時間帯であるとか、天候が悪く配達員が仕事に入りたくないような日に、ボーナスを付加することで、配達員を確保をする。

近年、ウーラマは、このボーナスを長期連続勤務に振っている。つまり、ウーラマ専属で働いてくれる配達員を優遇するようになっているのだ。これはギグワークをしたい人にとっては無縁のボーナスで、自分の都合で働きたい人には美団で働き、時間帯や天候によるボーナスを狙った方がいいということになる。

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▲美団で行われている奨励金の例。1日に28件をこなすと、88元のボーナスが支給される。美団では、短期、短時間で達成できる奨励金チャレンジが頻繁に行われている。運営は、このようなイベントを使って、配達員の過不足を調整している。

 

4)奨励金を含めると、かなりの額を稼げる

美団では、さまざまな奨励金活動を行っている。例えば、1週間で一定数以上の配達をこなすと奨励金がもらえるなどの配達員向けキャンペーンを行っている。その奨励金が得られるように働くと、基本報酬と奨励金を合わせると、かなりのいい給料になる。中には、奨励金キャンペーンの実施時期以外は働かないという人もいるほどだ。

ウーラマでも似たような奨励金制度を行っているが、ウーラマは専属配達員が長期での勤続をするように誘導しているため、美団のような短期間で達成できる奨励金制度は少ない。

 

5)ウーラマはギグワークでは格付けが下がりやすい

配達員には格付けがある。配送数が増えると格付けが上がっていくだけでなく、利用者からの高評価を受けると格付けが上がる。逆に、利用者からクレームを受けると格付けが下がる。格付けは高いほど、基本報酬が上がっていくことになる。

この格付けのアルゴリズムをどうしているかは、それぞれの戦略によるが、長期の継続勤務を重視するウーラマでは、上がりづらく、落ちる時はすぐに落ちるようになっている。ギグワークを前提にした美団では、短期間で格付けをあげることが可能だ。

 

注文料の多さがあらゆる面での強みを生む

このようなことから、ウーラマは配達員を専業の仕事として行うのであればいいが、ギグワークには向かない。他に仕事を持っていて、空いた時間にだけ働きたい。次の仕事を見つけるまでのつなぎとして働きたいというのであれば、美団の方が働きやすいという。

ウーラマはもはや外売だけでなく、アリババの新小売戦略に組み入れられ、料理以外の商品も運ぶようになり、配達員を新小売スーパーなどに提供するようになっている。外売の需要は、昼時と夕食時に跳ね上がるが、ウーラマはアリババ傘下で他の短時間配送にも利用されるようになっているため、グループ内で配達員リソースの平準化ができるようになっている。そのために、ギグワークではなく、長期勤続の専属配達員を増やそうとしている。

一方で、美団は、ピーク時の配達員を確保するために、ギグワークを活用している。注文数と比べて、配達員が足りなければ、単価や奨励金が上がっていき、参加をするギグワーカーが増え、人手を自動的にうまく調節できる仕組みだ。

ただし、ギグワークで労働量を調整するためには、大量の注文があり、大量のギグワーク参加者がいることが前提になる。この規模が小さいと、注文はあっても配達ができないために自動キャンセルという最悪の事態になったり、奨励金を多く出さなければならなくなり、プラットフォームの経営が成り立たなくなる。

結局、外売ビジネスを継続していくには、注文量の規模がまず必要であり、美団は大衆点評やWeChatなど、さまざまな入り口を用意し、流量を確保をしている。一方のウーラマは、アリババの新小売戦略に組み込まれることで、さまざまな短時間配送を請負い、配送料を確保している。

美団とウーラマは、同じ外売企業から出発して、次第に方向性を変えようとしている。