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EC「京東」がデジタル人民元に対応。再び決済方式の競争が激化

デジタル人民元の大規模実証実験は、昨2020年、深圳市と蘇州市で行われた。第2回となる蘇州市の実験では、EC「京東」のオンライン決済にも対応し、配布されたデジタル人民元の44.7%が京東のオンライン決済に使われた。これにより、再びECの競争が激化することになると趣味科技秀が報じた。

 

EC「京東」がデジタル人民元のオンライン決済に対応

デジタル人民元の実証実験が進んでいる。昨2020年10月には、深圳市で5万人の市民に対して200元を配布する1000万元規模の実証実験が行われ、12月には蘇州市で10万人の市民に対して200元を配布する2000万元(約3.2兆円)規模の実証実験が行われた。さらに今年は上海での実証実験が決まっている。

デジタル人民元は、対面決済だけではなく、オンライン決済にも利用できる。ECで買い物をするときに、ApplePayやクレジットカードと同じ感覚で、デジタル人民元で決済ができる。

このオンライン決済の実証実験として、蘇州の実証実験では、EC「京東」(ジンドン)が選ばれた。12月12日のセール期間に当たっていたこともあり、使用されたデジタル人民元の44.7%が京東のオンライン決済に使われた。

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スマホアプリのソフトウェアウォレット。通信方式は、NFCによるコンタクトレス決済とQRコードによるスキャン決済の両方に対応している。

 

京東にとって追い風となったデジタル人民元対応

中国のECは、トップはアリババでBtoC型「天猫」(ティエンマオ、Tmall)とCtoC型「淘宝網」(タオバオ)を有している。決済方法は当然ながらアリペイだ。第2位は流通額では「京東」になる。京東はテンセントの資本を受けていて、アリペイ決済をすることができない。テンセントのWeChatペイを利用する。ただし、京東は独自の京東支付を導入している。京東以外ではほとんど利用できないが、さまざまな特典があるために、京東でたびたび買い物をする人は京東支付を使っている。

第3位は、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)だが、利用者数(月間アクティブユーザー数MAU)では、京東を抜いて第2位に躍り出て、タオバオに迫る勢いだ。拼多多もテンセントの投資を受けていて、SNS「WeChat」を活用し、WeChatペイで決済をする。

この上位3社で、アリババは圧倒的に強く、拼多多には勢いがある。相対的に京東の地位が苦しくなっている。そこにいち早く、デジタル人民元決済に対応したことは京東にとって大きなメリットになる可能性がある。

 

銀行口座を保有しない2億人の巨大市場が生まれる

アリペイ、WeChatペイのスマホ決済は、銀行口座を持つことが必須だ。なくても利用できないことはないが、チャージの手間がかかり、機能も大きく制限されることになる。一方で、デジタル人民元は銀行口座が必須ではない。

中国はスマホ決済が世界で最も進んだ国だが、一方で、世界銀行の統計によると、中国では2億人の成人がまだ銀行口座を保有できていない。そういう人は現金を使い続けるか、工夫をしてスマホ決済を使うしかない。デジタル人民元は、そういう人でも利用できる電子決済になる。オンラインでのチャージはできないが、銀行や商店で現金からチャージができるように見込みだ。

つまり、ECがデジタル人民元決済に対応するということは、銀行口座を持てない2億人を顧客にできる可能性が生まれ、市場を大きく広げるチャンスが生まれるということだ。

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▲デジタル人民元は、スマホアプリだけでなく、ハードウェアウォレットにも対応している。銀行口座がなくても、カード型のウォレットでデジタル人民元が使えるようになる。

 

アリババ、テンセントの独占による「二択問題」

昨2020年後半から、中国政府はアリババに対する独禁法による締め付けを強めている。アリババとテンセントが巨大になりすぎて、新しいサービスが登場をしても、すぐにアリババとテンセントの資本が入り、結局、消費者は「二択」しかできず、消費者の選択の幅を狭めているという批判が起きている。

スマホ決済に関しても、第3極である銀行系の銀聯はシェアを伸ばせず、結局アリババのアリペイか、テンセントのWeChatペイの二択になっている。

このため、京東支付を導入している京東を、人民銀行はオンライン決済の実証実験のECとして選んだと言われている。

アリババや拼多多の場合、アリペイやWeChatペイを使い慣れている人が多いため、そこにデジタル人民元決済を入れても、利用率の正確なデータが取れないということも大きな理由だと見られている。

 

偽物、劣悪商品の不安がないEC「京東」

もうひとつ、趣味科技秀が指摘をするのは、タオバオや拼多多では、いまだに偽物商品の問題が存在していることだ。さすがに、露骨な偽ブランド商品はなくなっているが、大手メーカーの製品と誤解をするような商品、広告内容とは異なる劣悪商品もまだまだ流通をしている。消費者が買い物をするときはよく見極めて買う必要があるし、返品依頼などのクレームもまだある。このようなECでデジタル人民元の実証実験を行っても、正確な行動データが取れないと人民銀行は判断したのではないかと指摘をしている。

京東は、元々、CD-Rなどの光ディスクメディアを販売する店舗から出発をしており、商品はすべて自社で仕入れ、自社で販売をし、自社で配達をするという仕組みだ。このため、偽物商品や劣悪商品がないということが京東の信用となって成長をしてきた。実証実験のECとして最適だと判断されたのだという。

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北京冬季五輪までにデジタル人民元はスタートする?

デジタル人民元が、どのくらいの規模、ペースで普及をしていくのかは、もちろん今はだれにもわからない。しかし、発行主体が人民銀行=中央銀行であることから、ペースはともかく、普及をするのは確実だ。多くの人が、2022年2月の北京冬季オリンピックに合わせて本格導入されるのではないかと見ている。

京東にとっては大きな追い風となり、再び、ECのトップ3争いが激しくなりそうだ。

 

 

広告のコンテンツ化が進むビリビリとTik Tok

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 055が発行になります。

 

今、ネット広告が大きな課題に直面しています。ネットを利用すれば、どこにでも広告が表示されることはどなたもご存知のことです。多くのメディアは、その広告掲載料で運営をされていて、これにより、私たちは無料でニュースその他の有用な情報に触れることができるのですから、ある意味、素晴らしい発明だったことは間違いありません。

しかし、ひとつ期待を裏切ったのは、ネット広告の技術的進化があまりにも遅い、あるいは進化の方向が私たちの望んでいる方向とは違っていたことです。グーグル検索などが登場してきた20世紀末、ネット広告はひとつの有用な情報源のひとつになるはずでした。

それまでのアナログなマスメディアの広告は、印刷や放送という一方通行の配信方法であったため、読者、視聴者全員に同じ広告を配信するしかありませんでした。マスメディアの広告エンゲージメント(反応率)はきわめて低いものです。しかし、大量の人に広告を配信するため、エンゲージメントが低くても一定数の見込み客を得ることができ、ビジネスとしては成立するというものでした。その代償として、大多数の人にとっては広告は雑音であり、じゃまなものになっていました。

 

ネット広告は、広告=ノイズという問題を解決できる切り札だと考えられていました。個人のネットでの検索履歴、行動履歴を分析することで、その人がどのような分野に興味があるかどうかがわかります。ネット広告は、個人ごとに配信する内容を変えることができるので、その人にぴったりの広告を提示することが可能です。ジョギングをしたいと思い、地図を開いて、近所のジョギングコースを検討していると、シューズやウェアの広告が表示され、それをクリックすると、ジョギングセットがECで購入できるというようになります。ここまでくると、広告はノイズではなく、有用な情報源のひとつになってきます。

しかし、現実はそうはなっていません。見るからに興味が持てないゲームアプリの広告であったり、出会い系サービス、消費者金融の広告であふれています。ネット広告はエンゲージメントが得られたときにだけ広告費が発生する成果報酬型が一般的であり、何回でも繰り返して表示できるため、無駄打ち覚悟で表示をするため、結局、それが雑音になってしまっているのです。スマートフォンでは、広告によって表示画面が狭められ、それが使いづらいという理由で大画面スマホが人気になります。動画共有サイトでは、わずか30秒の動画を見るのに、それと同じくらいの尺がある広告を見なければ本編が始まりません。長い動画を見ていると、本編の内容とは関係なく、唐突に広告が入り、本編が分断されてしまいます。

ネットは、旧メディアに比べて、もはや広告の割合が高いSN比の低いメディアになってしまったのかもしれません。

 

特に近年問題になっているのが、広告トラッキングの問題です。広告プラットフォームは、あなたの行動を監視し、追跡するようになっています。

ウェブにあるクッキー(小さな情報保存用ファイル)という仕組みを利用して、広告プラットフォームは、あなたがどのサイトを見ているかを監視し、広告を配信するのです。あるサイトで、自転車について調べ、別のサイトに移動しても自転車の広告が表示されることになります。広告トラッキングと呼ばれる手法です。

これは消費者にとってあまり気持ちのいいものではありません。さらに問題なのは、その広告プラットフォームがワールドワイドなもので、契約をしているサイトが無数にある場合、その広告プラットフォームにはユーザーがどこのサイトを訪問しているか、行動が筒抜けになってしまうことです。プライバシーの観点からも、大きな議論を呼んでいる問題です。

アップルは、自社のブラウザーSafari」にITP(Intelligent Tracking Prevention)という機能を搭載しています。原理は簡単で、広告プラットフォームなどのクッキーを消去する仕組みです。広告プラットフォームは、クッキーが保存されていなければ、行動を追跡することができません。さらに、ポリシー変更などで、広告業者がユーザーの隙をついて収集したプライバシー情報に基づいた広告配信ができないようにしています。

 

この問題は簡単ではありません。広告業者には広告業者の言い分があります。プライバシー情報を収集しているといっても、適切な匿名化処理を行なっている。広告配信の精度があがれば、その人にとって必要な広告だけが表示される世界が実現できる。そうなれば、広告はじゃまなノイズではなく、有用な情報のひとつになる。メディアは広告収入で運営ができるようになり、多くのサービスが無料もしくは無料に近い低価格で利用できるようになると主張します。

アップルは、プライバシーのページでこう説明しています。「ウェブサイトの中には、サイトを閲覧するあなたの行動を何百ものデータ収集会社に監視させ、あなたのプロファイルを作成して広告を表示するものがあります。Safariのインテリジェント・トラッキング防止機能はデバイス上の機械学習を使って、これらの追跡型広告をブロックできるようにします」。

アップルは、このような広告業者のプライバシー軽視のやり方から、自社のユーザーを守ろうとしています。

米国と日本の広告市場では、アップル対広告関連企業の静かな戦いが続いています。広告関連企業とは、グーグルとフェイスブック、アマゾンです。つまり、GAFAは、AvsGAFという図式になりつつあります。

 

中国では、広告トラッキングの問題はあまり話題になりません。それは中国人がプライバシーに無頓着ということではありません。中国では、ブラウザーを使ってさまざまなサイトを閲覧するというスタイルが次第に少なくなっていることが大きな要因です。

中国のアプリMAU(月間アクティブユーザー数)を見ると、ウェブブラウザーは「QQブラウザー」(テンセント)、「UCブラウザー」(アリババ)の2つしかランキングされず、しかも決して上位とはいえません。多くの人は「WeChat」「タオバオ」「アリペイ」「Tik Tok」「百度」「ウェイボー」などのアプリを入れれば用が足りてしまいます。「今日頭条」などのニュースアプリを入れている人も多いですが、WeChatでニュースアカウントをフォローしてニュースを読む人も入れます。また、生活サービス系のサイトは、ブラウザーからアクセスをしなくても、WeChatやアリペイの中のミニプログラムでアクセスができ、その方が早く、ログインの手間もなく、安全です。

ウェブを訪問する時は、多くの人が検索をして目的のサイトを探し出しアクセスをします。この用途には「百度」アプリがじゅうぶん用をなしてくれます。中国では標準の検索エンジンである百度で検索し、リンクをタップすると、百度アプリ内のブラウザーでサイトを表示してくれます。

ブラウザーというのは、もはやメインのアプリではなく、数ある応用アプリのうちのひとつになっています。

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▲中国のスマホアプリのMAU(月間アクティブユーザー数)のランキング。ブラウザーのアクセスは決して多くない。また、BAT+バイトダンスによる寡占化が進んでいる。

 

もうひとつの特徴が、アリババ、テンセント、百度、バイトダンスの寡占化が進んでいることです。テンセントはWeChatを筆頭に、QQ、テンセントビデオ、テンセントビデオなどの自社アプリ、さらにはピンドードー、快手などの系列企業のアプリがランキングに入っています。当然ながら、テンセントの広告部門が、さまざまな広告主からの依頼を受けて、広告を配信しています。しかし、アプリの寡占化が進んでいるために、「アプリ越えトラッキング」があっても、同じ企業のアプリ内なので問題になりません。

米国や欧州、日本のネット空間は、小さな王国が無数に存在する戦国時代です。GAFAという4つの帝国がこのような小国を取り込もうとしているところです。この支配が中国では一歩先に進み、BATという3つの帝国がネット空間を支配してしまっているのです。そこに、バイトダンスや美団といった次の帝国を狙う新興国が登場してきている状況です。

 

中国のネット広告業界では、広告トラッキングの問題がない代わりに、大きな問題になっているのがネット広告詐欺です。ネット広告詐欺と言っても、消費者を騙すのではありません。広告主を騙し、出稿料を騙し取るのです。広告主から見ると、広告費をかけて宣伝をしても広告効果が上がらないことになります。ネット広告業の成長にも大きな足枷となっています。

今回は、ネット広告詐欺がどのように行われているのかをご紹介し、そして、従来のネット広告を変え、新しい広告モデルを構築しようとしているビリビリとTik Tokの事例をご紹介します。

 

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アクティブな銀髪族。サービスを利用するだけでなく、発信も始めた高齢者

現役世代のネット人口が頭打ちになる中、注目をされているのが高齢者で、銀髪族と呼ばれるようになっている。時間があるために、熱心にネットサービスを使い、積極的に情報発信を行い、有名になる高齢者配信主も登場していると解放日報が報じた。

 

朝5時からネットで活動を始める銀髪族

コロナ禍以降、不思議な現象が起きている。生活関連のニュースアプリ「趣頭条」(チートウティアオ)では、朝5時という早い時間から100万人規模のアクセスが始まり、その集団は午後9時にはアクセスしなくなる。他のアプリやサービスでも、朝5時から午後9時の利用者が急増している。このような生活パターンを持っているのは高齢者で、銀髪族と呼ばれている。

調査会社QuestMobileの調査によると、昨2020年5月に、50歳以上の中高年モバイルネットユーザーは1億人を突破した。どのサービスでも、銀髪族の動きを無視できなくなっている。

 

ビリビリに90歳の配信主が登場

若い世代が主に利用する動画共有サイト「ビリビリ」に、昨年90歳の配信主が現れた。広州の江敏慈(ジャン・ミンツー)さんだ。

4月頃、孫がビリビリに動画をアップするのを見て、わずか2日後に、自分も自撮り動画をアップし、配信主となった。その動画は「90歳ですが、ビリビリの配信主になれますか?」というもので、瞬く間に500万回以上再生され、さらには各メディアも「最高齢のビリビリ配信主」としてニュースに取り上げた。現在でも、江敏慈さんの動画は「おばあちゃん、こんにちは」という弾幕で埋めつくされ、弾幕をオフにしないと画面が見れないほどだ。

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▲あっという間にビリビリで有名人になった90歳の配信主、江敏慈さん。「おばあちゃん、こんにちは」という弾幕で埋め尽くすされるのが恒例になっている。

 

ポイント集めに夢中になる高齢者が続出

アクティブな高齢者は、江敏慈さんだけではない。多くの高齢者が、中年や若者に比べてアプリ内でアクティブな行動を取るようになっている。

趣頭条では、ユーザー数を拡大するために、ニュースなどの記事を読むとポイントが貯まり、友人を紹介するとポイントが貯まる仕組みを導入している。といっても、貯まるポイントはごくわずかであり、あまり大きな効果は得られていなかった。

ところが、高齢者はこのポイントを集める行動を懸命にやってくれる。上海の周季梅(ジョウ・ジーメイ)さんは、現在61歳だが、2年前から趣頭条を使い始めた。これといった趣味もないため時間を持て余していたところ、娘が勧めてくれたからだ。周季梅さんは、記事を読むとポイントが稼げるというところにハマってしまい、夢中になってしまった。

朝5時に起きると、ベッドの中で趣頭条を開く。家事の合間にも趣頭条を開く。夜はテレビも見ずに長時間、趣頭条を読んでいる。健康やお笑い、時事ニュースなどを朝から晩まで読んで、ポイントを稼ぐ。と言っても、1日に稼げるポイントは1元分にも満たない。

娘たちは驚いている。今までご近所の噂話しかしなかった周季梅さんが、突然、米国大統領選について熱く語り始めたからだ。少しスマホに熱中しすぎにも思えるが、本人は楽しんでいるし、知識が増えることは悪いことではないので、娘たちは静かに見守っている。

 

ミニゲームにも夢中になる高齢者

趣頭条には、クルミの木を育てるミニゲームがある。毎日水をやり、虫を取り、クルミの木を育てていき、育つと抽選で本物のクルミ500gがあたるというものだ。これは趣頭条が行った農業新興キャンペーンで、趣頭条が農産物を買い上げて、利用者にプレゼントするというものだ。

周季梅さんは、このミニゲームに夢中になってしまった。稼いだポイントを注ぎ込んで肥料を買い、どんどんクルミの木を育てる。そして、抽選でなんと500kgのクルミを当ててしまった。とても家族では食べきれないので、近くの老人介護施設に寄贈をした。記事を読み、ポイントを貯め、それでゲームをし、介護施設からは感謝された。

周季梅さんは、スマホのデータ通信量契約を変えた。趣頭条を始める前は、ほとんどデータ通信をしなかったので、最も安い月18元の契約だった。それを大容量の月38元の契約に変えた。

趣頭条によると、60歳以上のユーザーは平均して1日に64.8分趣頭条を使うという。これは40歳以上のユーザーの48.6分よりも16.2分も多い。

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▲趣頭条が始めた「趣助農」キャンペーン。ミニゲームをすることで、農産品が当たるというもの。高齢者が夢中になっている。

 

若者から人気を得る高齢者配信主

このようなネットアクティブな高齢者が続々と登場している。70歳になる「新疆李奶奶」(シンジャンリーナイナイ)も人気だ。彼女は、80年代に皮革工場を経営し、一財産を作った。そのお金で、大規模なブドウ園を買収し、老後の楽しみと生活費を稼いでいる。

2019年に、若い知り合いがこのブドウ園に遊びにきた。その規模の大きさと本格的な経営に驚き、スマホで撮影をし、SNSでブドウ園を紹介した。これが話題となり、新疆李奶奶自身もビリビリなどで映像を公開し始めた。現在はブドウ園だけでなく、新疆のグルメや観光スポットの紹介映像も公開して人気になっている。

Tik Tok(抖音)で有名なのは、75歳の「北海爺爺」(ベイハイイエイエ)だ。男性だが、いつもおしゃれをして、上級の生活を追求している。かっこいいおじいちゃんとして人気になり、Tik Tokに動画をあげるようになって6ヶ月で、40万人近いファンを獲得している。

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▲ブドウ園を経営するリッチなおばあちゃん、新疆李奶奶。今では、新疆の観光地などを紹介する有名配信主となった。

 

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▲Tik Tokで人気になっている75歳の北海爺爺。おしゃれなおじいちゃんが、優雅な生活を紹介している。

 

使い始めればアクティブにネットを使う高齢者

高齢者がネットを利用するようになると、アクティブな行動を取ることが多い。時間があること、一度習慣化をするとそれを守ることなどから、若者よりもアクティブになる。各サービスがポイント還元の施策を打つと、それに真面目に乗ってきてくれるのは高齢者だ。

中国の60歳以上の高齢者人口は3億人。そのうちのネット利用者は1億人だ。つまり、まだ2億人の潜在ユーザーがいることになる。各ネットサービスは、この潜在する2億人に注目を始めている。

 

 

AutoXの完全無人のロボタクシー。深圳での試験運行が始まる

深圳市で、AutoXのロボタクシーの試験運行が始まっている。安全監視員も同乗しない完全無人の自動運転を実現している。ディープラーニング専用チップを搭載したことで、自動運転の性能が大幅に向上したと新浪科技が報じた。

 

安全監視員のいない完全無人のロボタクシー試験運行始まる

2020年は、ロボタクシー元年となった。百度バイドゥ)、文遠知行(ウェンユエン、WeRide)、滴滴(ディーディー)、高徳(ガオダー)などが、上海、長沙、滄洲などで、乗客を乗せた試験営業を始めている。しかし、これらのロボタクシーはL4自動運転だが、無人運転ではない。運転席に安全監視員が乗車し、交通状況の監視を行い、場合によっては緊急停止や手動運転を行う。

しかし、深圳を拠点にするAutoXは、深圳で安全監視員のいない無人運転ロボタクシーの試験運行を始めた。

すでに25台の無人ロボタクシーを製造し、深圳での試験運行を始めている。車体はフィアット・クライスラーグランドボイジャーをベースにしている。

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▲既存車両をベースにしているため、ハンドルなどの装置が残されているが、運転手も安全監視員もいない。

 

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▲AutoXの無人運転ロボタクシー25台が深圳市に投入され、試験運行を始めている。車体はフィアット・クライスラーグランドボイジャーをベースにしている。

 

ディープラーニング専用処理チップを搭載したAutoX

AutoXのロボタクシーは、安全監視員がいないだけでなく、リモート監視も行われない。そのため、どこでも走れるわけではなく、条件が整った道路のみの走行になるが、都心の施設から施設への移動であればじゅうぶんに対応ができる。現在、平均速度は時速40km程度での走行となる。

この無人運転を可能にしたのが、XCUと呼ばれるL4/L5自動運転専用チップだ。センサー情報を処理し、ディープラーニングによる学習をする専用のチップで、チップとソフトウェアの両方を一体化して開発したため、自動運転性能が大幅に向上た。

従来のロボタクシーは、L4自動運転を達成して、5G通信によりリモート監視を組み合わせるという考え方だったが、AuotXは、ディープラーニングの学習により自律的にL4/L5自動運転を達成することを目標にしている。2018年からすでにAutoXでは深圳で試験走行を行い、学習を進めてきた。


AutoX puts fully driverless RoboTaxis on the roads in China

▲AutoXの公式ビデオ。ハンドルや運転席がなくなる未来がもうやってきている。

 

AutoXの登場で、2026年無人運転の予測が大幅に前倒しの可能性

安全監視員のいない無人運転ロボタクシーは中国でも初めてとなる。また、乗降地点も制限がなく、どこでも乗車、降車ができるロボタクシーも中国初となる。

AutoXは、深圳で試験運行を始めた他、すでに上海、武漢、広州、カリフォルニア州でも無人運転の免許を取得した。

完全無人運転を実現するには、交通法規の改正や道路の5Gネットワーク整備などが必要で、中国工信部では、無人運転車が公道走行ができるようになるのは、2026年から2028年あたりになると表明していた。しかし、AutoXの登場で、この見通しは大きく前倒しされる可能性が出てきている。

 

 

大手テック企業が続々参入する地元密着系EC「社区生鮮店」

コロナ禍以降、都市の住宅街に「社区生鮮店」が急増している。主要テック企業が続々と参入をしているからだ。原則はスマホで商品を注文すると、近所の店舗に翌日配送、受け取りにいくというもの。しかし、店主も地元民であり、消費者と顔なじみになっているため、配達などの融通をきかせてくれる。この融通のきく人情商売に惹かれて利用する高齢者が増えているとAgeClubが報じた。

 

大手テック企業がコロナ終息に続々参入する「社区生鮮店」

「社区生鮮店」と呼ばれる小店舗が急増をしている。社区というのは中国独特の町内会組織。ここでは、「ご近所」程度の意味だ。そこに以前の八百屋、肉屋の感覚で、生鮮食料品を扱う小店舗が増えている。

といっても、従来の八百屋とは異なり、プラットフォーム化されていて、アリババ、拼多多(ピンドードー)、美団(メイトワン)、滴滴(ディーディー)などのテック企業が相次いで参入している。特に、拼多多、美団、滴滴の参入は、新型コロナ終息後だ。

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▲社区団購は、コロナ禍以降、大手テック企業が続々と参入し、競争が激化している。

 

リタイヤ世代に利用されている社区生鮮店

社区生鮮店は、日本で言えば、野菜、肉、果物などの生鮮食料品を中心にしたミニコンビニのような感覚の店舗。従来、その場所で八百屋、雑貨店などを営んでいた店主が、フランチャイズ参加することで社区生鮮店に衣替えをするケースが多い。店舗面積は40平米から80平米が一般的で、店主のみか従業員1人というケースが多く、家族経営が一般的だ。商品はプラットフォームに発注することで配送される。このようなプラットフォームは、社区団購(シャーチートワンゴウ)と呼ばれる。

ご近所の消費者は、スマホ、電話などで商品を注文し、受け取りに行くか配送をしてもらう。もちろん、店舗に行って普通に買い物をすることもできる。

この社区生鮮店の主要顧客は50歳以上の高齢者(中国では早ければ50歳で定年になる)、つまりリタイア世代だ。

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▲蘇寧グループも、従来から展開していたO2Oコンビニ「蘇寧小店」を利用して、社区団購に参入している。

 

高齢者には使いづらい菜市場やスーパー

このような世代は、従来は菜市場と呼ばれる場所で、日常の生鮮食品を購入していた。菜市場は、規模はさまざまだが、個人商店が集まったマーケットだ。感覚的には日本の商店街に近い。ただし、商店街のように商店が並んだ通りではなく、建物内に個人商店が集まっている。20年ぐらい前までは、誰もがこのような菜市場を利用するのが普通だった。

しかし、大型スーパーやコンビニが登場すると、中年や若者はそちらに流れ、高齢者だけが利用する場所になっていた。それが、コロナ禍により、高齢者が急速に菜市場から社区生鮮店を利用するようになっている。

 

コロナ禍がきっかけでECを使うようになった高齢者

新型コロナの感染拡大期間、リスクの高い高齢者はほぼ3ヶ月外出を控えていた。そして、多くの高齢者が息子や娘に使い方を教わって、生鮮ECを利用し、日用生鮮品を宅配してもらうようになった。

一般的に、高齢者は保守的で、このような新たなサービスは使わない傾向があるが、コロナ禍によって否応なしに使うしかない状態となった。そして、使ってみると、その利便性と品質の高さに満足をし、終息後も生鮮ECを利用する高齢者も多い。

 

ECよりも融通が効く地元密着系EC「社区生鮮店」

しかし、高齢者にとって生鮮ECの難点は、融通が効かないことだ。例えば、欲しい商品がスマホのメニューからなかなか見つけられない。宅配注文したが、急に出かけることになったので注文をキャンセルしたいのにキャンセルの仕方がよくわからない。

これが近所の店で、店主をよく知っているのであれば、電話1本で尋ねることができるのだ。

また、足腰が弱ってくると、菜市場や大型スーパーでの買い物はつらくなってくる。価格の表示もよく見えないことがある。

これが社区生鮮店であれば、歩く距離も少なく、簡単に買い物ができる。店主に必要な食材を注げれば、店主が代わりにピックアップもしてくれ、重たいものがあれば、後で配送してもらうこともできる。

つまり、社区生鮮店とは、消費者と店主の信頼関係を築くことによって、高齢者に他の効率的な小売店やECではできない、きめ細かい消費者体験を提供できることが強みになっている。ちょうど、日本の街の電気屋さんが、量販店に負けずに、しぶとく生き残っている状況とよく似ている。

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▲独立系の社区団購「你我您」(ニーウォーニン)。ECの宅配物流が行き届かない農村などで、ECの隙間を狙って始まったのが、店舗受取型ECの社区団購。それが店主と顧客が顔なじみであるという強みを生かして、都市部の高齢者にも利用されるようになっている。

 

商圏は狭くても、安定収入が得られる

店主と近所の消費者との信頼関係が構築できてしまうと、社区生鮮店は強い。高齢者は毎日買い物をする習慣の人が多く、さらに一度買い物習慣を作ってしまうと、なかなか変えようとしない。また、利便性を重視するため、多少の価格の高さは許容をする。

店主から見ると、市場は最大でも近所の消費者3000人弱程度と小さいが、価格競争をする必要はなく、サービス競争で勝負をしていける。例えば、雨が急に降ると、店舗が暇になるので、お得意さんに電話をかけて、宅配注文を取るというようなことはどの店主も行う。一度、顧客の信頼を勝ち取ってしまえば、商売規模は大きくないとは言うものの、安定した収益があげられる。

 

地元密着店に回帰する新小売

中国の高齢者人口は約2.5億人で、高齢者向けの生鮮食品市場は5000億元(約8兆円)規模であるといわれる。このような高齢者は、昔は近所の個人商店で買い物をしていたが、それが菜市場となり、大型スーパーとなるにつれ、歩く距離は長くなり、対面接客の時間は減少をしていった。世の中の進歩は、高齢者にとっては、退歩しているにも等しかった。

そこに気がついたスタートアップが社区生鮮店を始め、テック企業も続々と社区生鮮店に投資をしたり、自社で始めたりして、5000億円の市場を取りにいっている。

この社区生鮮店の強みは「人情商売」であると言われる。電話や対面で、高齢者の話を聞くことは、一見、効率が悪い接客に見えてしまうが、そのリピート率、購入頻度を考えれば、決して効率は悪くない。

この20年、中国の小売業は大きくうねりながらオンラインとオフラインを融合した新小売に進化をしてきた。その中で、昔と同じ形態の地元密着店=社区生鮮店に回帰してきたというのは面白く、考えさせられる現象だ。

 

 

スマホアプリで実現されたARナビ「高徳地図」。画像解析により、他車両や信号も認識

地図アプリ「高徳地図」のARナビが話題になっている。フロントカメラで前方の風景を撮影し、ルートを風景映像の上に重ねて表示するわかりやすさだけでなく、車両や歩行者、交通信号を画像解析により認識をし、さまざまな注意情報をドライバーに伝えてくれる。これがスマホ1つで実現できると汽車が報じた。

 

ルートが風景映像にオーバーラップ描画されるARナビ

アリババ系の地図アプリ「高徳地図」がARナビ機能を搭載した。高徳地図には車載版もあり、車載版では以前からARナビ機能が搭載されていた。それが、スマホアプリでも利用できるようになった。

スマホをスタンドなどに設置し、ARナビを起動すると、フロントカメラで風景を撮影し、その映像の上にオーバーラップするようにルートが描画される。

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▲実際のARナビ画面。左側にフロントカメラで撮影した前方風景が表示され、その上に進むべき車線がオーバーラップ表示される。GPSだけでなく、画像解析により車線を認識している。

 

画像解析により車両、信号機などを認識

ARナビは、ただルートを表示するだけではない。リアルタイム画像解析により、風景画像からさまざまな情報を読み取り、情報を伝えてくれる。

車線を認識し、その後の右左折に合わせて、どの車線を走るべきかを教えてくれる。また、交差点では、交通信号を認識し、赤信号などで侵入しようとすると、警告の音声が発せられる。

さらに、走行中の自動車やバイク、歩行者を認識し、距離が縮まると黄色の枠で注意を促し、さらに接近すると赤枠で警告し、音声でも知らせる。

夜間では、歩行者の認識は難しいが、自動車やバイクはテールランプなどの画像解析から認識ができ、目視しづらいバイクなどを警告してくれる。

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▲交通信号も画像解析により認識される。赤で進もうとすると、警告が発せられる。

 

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▲他車両も認識。同じ車線にあって、距離が近くなると、警告が発せられる。

 

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▲さらに距離が近いと警告レベルが上がる。

 

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▲ナビラインは風景の上に描画されるため、路地などを入らなければならい場合はわかりやすい。

 

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▲夜間であっても、テールランプなどの形状から、右端のバイクを認識し、接近した場合は警告をしてくれる。

 

取り付け位置はルームミラー下が最適

機能は素晴らしいが、あまりに画面情報が多く、注視をしてしまいかえって危険にならないのかと感じる人もいるだろう。阿汽車の配信主「哥」によると、慣れないうちは画面を注視してしまいがちだが、慣れてくると音声情報だけで運転できるようになり、注視時間は減る。

曲がる場所などを画面で確認したい場合も、従来のカーナビであれば現実の風景とカーナビに表示される地図情報を、頭の中で重ね合わせる必要があるが、ARナビであればすぐに理解することができるので、注視時間は減るという。

汽車では、ルームミラーの下に取り付け、前方とスマホの視線移動を少なくするようにすることを勧めている。

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▲高徳地図アプリでルート検索。ルームミラー下に取り付けて、ARナビを開始するという手順。ルートは、交通渋滞なども加味して検索される。赤は渋滞が起きている場所。

 

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スマホ画面を注視してしまい、かえって危なそうにも思えるが、取り付け位置を工夫すれば、ダッシュボードに設置したナビよりも注視時間は少なくなるという。

 

 

加入者1億人を超える「後払い、わりかん保険」。保険金の支払いは、加入者全員の投票で決める

アリババのスマホ決済「アリペイ」を運営するアントフィナンシャルのわりかん保険「相互宝」(シャンフーバオ)の加入者数が1億人を突破したものの、解約する人も増加し、難しい局面を迎えていると学覇説保険が報じた。

 

支払った保険金を、加入者で割り勘後払いする保険「相互宝」

相互宝は、後払いのわりかん保険。4種類のメニューがあるが、メインの「大病互助計画」では、がん+99種類の大病+5種類の希少疾患に対して、最高30万元(約470万円)が保障される。

分担金(保険料)は、毎月2回、実際に支払った互助金(保険金)の総額に、管理費8%を乗せて、これを加入者数で頭割りするという仕組み。もし、加入者の誰も病気にならず、互助金の支払いがなければ、支払う分担金は0元となる。現在、4元(約60円)で推移をしている。

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▲相互宝のメニュー。主にリスク別に3つの疾病保険を用意していた。加入者の伸び悩みを乗り越えるため、交通傷害保険も新設した。

 

アリババ系、テンセント系ともに加入者1億人を突破

この相互宝は、2018年10月に信美人寿保険社が、アリペイ上で開始したネット保険「相互保」だが、中国の法律上、保険に相当しないということが問題になり、アントフィナンシャルに運営が移管され、名称も「相互宝」として、保険商品ではないことを明確にした。

このようなわりかん保険は、「ネット互助」と呼ばれる。保険ほど厳しい規制がないために、テック企業が次々と参入している。特に、テンセント系の「水滴互助」(シュイディー)とアリババ系の「相互宝」は、いずれも加入者数が1億人を突破して、競い合っている。

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▲主な「ネット互助」サービス。テンセント系「水滴互助」、アリババ系「相互宝」が2強として競い合っている。

 

簡単に加入ができ、定額の「わりかん保険」

このネット互助が人気を集めている理由は、「加入が簡単」「分担金が低額」「運営の透明性が高い」などさまざまな理由がある。

加入は、アリペイ上のミニプラグラムから簡単に行え、医師の健康診断なども不要。健康であることを自己申告するだけでいい(もちろん、虚偽申告が発覚すると互助金を受ける資格を失う)。また、芝麻信用スコアが600点以上あることも必要だが、高い点数ではなく、キャッシング返済の遅滞などを起こしていない普通の人であればクリアできる。それで分担金が月に10元以下でありながら、最高30万元の保障を受けられる。

 

保険金の支払いは、加入者全員の投票で決められる

さらに注目されるのが、運営の公平性と透明性だ。加入者が病気になり、互助金の申請を行い、運営の調査員が審査をして、規定上問題がなければ、互助金が支払われる。ところが、支払い条件に問題がある場合は、加入者全員参加の投票にかけられることになる。

例えば、ある例では、急性心筋梗塞で死亡した41歳男性の案件が投票にかけられた。この男性は2020年10月に胸の痛みを訴え、救急搬送されたが、そのまま死亡してしまった。相互宝では、互助金を受けるには国家二級以上の公立病院か、指定をした民間病院での診断を受ける必要がある。しかし、この男性が搬送された病院は、この規定から外れる病院だった。

家族は、命を救うために、選択の余地のない行動だったと主張した。診断のために、遠方の指定病院に搬送をすることはできない状況だった。この事情を汲み取って、互助金を支払うべきかどうか、投票が行われた。

 

掲示板で有資格の審判員が議論、加入者全員で投票

投票に先立って、申請人の主張と調査員の主張が公開され、論点整理が行われる。詳細情報が、相互宝ミニプログラム内の掲示板に公開をされる。また、加入者の中で、医学または法律の専門知識を持つ人は審判員の資格を得ることができ、自分の意見を掲示板に書き込むことができる。

審判員の意見には、「申請人を支持」「中立」「調査員を支持」のいずれかのタグをつけ、立場を明確にする。さらに内容によっては、「医学的角度」「法律的角度」のタグもつけられる。

一般の加入者は、この審判員の意見を読み、同意できる意見には「いいね」ボタンを押す。この「いいね」ボタンの数で、意見の集約ぶりが直感的にわかり、最後に「申請人を支持」(互助金を支払う)か「調査員を支持」(支払わない)のいずれかに投票する。

申請人を支持が50%以上であった場合、無条件で互助金が支払われるという仕組みだ。このケースでは、10万人以上が投票し、63%が「申請人を支持」に投票し、互助金の支払いが実行された。

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▲判断が難しい保険金(互助金)支払い案件は、仮名で詳細情報が公開され、加入者全員の投票で支払いが決定される。この例では、10万人以上が投票し、63%の人が支払いを支持した。

 

「悪貨が良貨を駆逐する」現象により、加入者が足踏み

きわめて透明性の高い仕組みで、加入者から歓迎をされ、また、コロナ禍による不安心理もあり、2020年8月に加入者1億人を突破した。

しかし、ここへきて、加入者の新増も多いが、同時に退会者の人数も増え、1億人を割り込む局面もあり、加入者1億人の大台を挟んで、足踏み状態が起きている。これは「悪貨が良貨を駆逐する」現象が起きているのではないかと専門家は見ている。

理由は単純で、分担金の上昇だ。2019年初めまでは分担金が0元の時も多かったのに、2019年後半に急上昇、現在は4元を超えるほどになっている。それでもじゅうぶん安いと言えるが、それでも健康にまったく不安がない人には不満が生じる。いったん退会して、体の不調を感じるようになってから再加入すればいいのではないかと考える人も出てくる。

一方で、元々健康に不安を持っている人は、多少分担金が高くなってもなかなか退会はしない。つまり、健康でリスクの小さな加入者が退会をし、不安がありリスクの高い加入者の割合が増えていくことになる。

これが続くと、どこかで分担金が急上昇する局面が現れることになり、分担金があがるたびにこの「悪貨が良貨を駆逐する」現象が強まっていくことになる。

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▲相互宝の毎月(月2回)の分担金の推移。分担金があがると、低リスクの人は退会し、高リスクの人が残り、より分担金が上昇するというスパイラル現象が始まると指摘されている。これをどう乗り越えるかが、ネット互助の定着の鍵になる。

 

傷害保険を導入して、足踏み状態を突破しようとする相互宝

2020年8月に、相互宝は4つ目のメニューとして「公共交通事故計画」を新設した。これは飛行機、鉄道、タクシーなどで交通事故に遭遇した場合の傷害を保障するものだ。最高で100万元(約1600万円)まで保障される。新たなメニューを追加することで、加入者の引き留めを図っている。健康に不安がない人で、疾病メニューから離脱をする人は、傷害メニューに切り替えてもらおうというものだ。

このわりかん保険(ネット互助)は、2011年に互保公社(現康愛公社)が登場したことに始まり、世界の中でも中国が先行をしている分野だ。1億人突破と、ひとつの商品としては未知の規模領域に突入している。

相互宝は3億人加入を目標としているが、そこに到達できるのか、それとも「悪貨が良貨を駆逐する」現象により停滞をすることになるのか注目されている。