中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アリババ創業20周年。アリババが中国市民に提供したのは「時間」

今年2019年9月に、アリババは創業20周年を迎え、そして、創業者のジャック・マーが引退をした。アリババは、アリババの20年は、中国人の時間を短縮した歴史だったと、この20年を振り返ったと上游新聞が報じた。

 

生活サービスの多くが10分以内に完了できる社会

アリババの登場により、買い物、出前注文、チケット購入、病院予約など、多くの生活サービスが10分以内に完了できるようになった。

アリババが公開したデータによると、10分以内に完了できるようになったものは200件にのぼるという。その短縮され、生まれた余剰時間は、個人であれば自分の価値を高めるために使え、企業であれば収益を上げることに使え、社会であれば社会効率を高めるために使える。

f:id:tamakino:20191107120622j:plain

▲アリババが公開した図版。さまざまな生活サービスを利用するのに、過去と現在でどのくらい時間がかかるかを比較したもの。10分以内で完了できるサービスは、200件にものぼる。

 

渋滞の街杭州は、渋滞第2位の都市から35位まで低下

例えば、アリババの本拠地である杭州市は、以前は渋滞の街として有名だった。2014年には渋滞度ランキングで第2位だった。ここにアリババ傘下のアリクラウドが開発した人工知能「都市ブレイン」が導入された。これは交通監視カメラの映像を画像解析し、渋滞状況をリアルタイムで把握し、それに基づいて、交通信号の明滅時間を制御することで、渋滞を緩和させるシステムだ。

この都市ブレインの本格導入後、杭州市の渋滞ランキングは第35位まで下がった。

 

3分1秒で貸付が実行される浙江網商銀行

アリババが公開したデータによると、最も時間短縮になったのは零細企業への貸付だ。1555万1999秒=約180日の時間短縮になっている。

ジャック・マーは20年以上前、アリババの前身となる企業を創業する時に、当時はベンチャーキャピタルなど存在しなかったので、銀行に創業資金の融資を申請した。何度も足を運び、大量の書類を提出したが、一介の英語教師であったジャック・マーに貸付をしようとする銀行は現れなかった。ジャック・マーは半年間、銀行に振り回されたあげく、貸付を拒否され、ジャック・マーの創業は失敗に終わった。

2015年6月、ジャック・マーは浙江網商銀行を設立した。浙江網商銀行は、貸付に310方式を採用している。310方式とは「3分で申請完了、1秒で貸付判断実行、人の介在は0」というものだ。

貸付希望者は、スマートフォンから必要事項を記入して申請をする。すでにアリババの社会信用スコア「芝麻信用」が算出されているので、限度額と貸付利率が自動計算される。貸付判断もアルゴリズムにより自動化されている。貸付はアリペイで行われるので、振り込みは一瞬だ。人が判断をすることは基本的にないというものだ。

もちろん、貸付額は大きくはなく、多くの利用者は農家や地方の個人商店主だ。しかし、すぐに貸付が実行されることから、2018年の貸付顧客数は1227万人となり、第2位の建設銀行の225万人を大きく上回っている。中国のマイクロファイナンスとして機能をしている。

f:id:tamakino:20191107120627p:plain

▲アリババにより、市民の時間がどれだけ短縮されたかを表した図版。1人1日平均で27分の余剰時間が生まれている。


個人にも毎日27分の余剰時間

個人の生活も時間が短縮された。アリババのデータによると1日あたり1620秒=27分の節約になっている。

中国版新幹線「高鉄」のチケットを買うには、以前は駅の窓口で買うしか方法がなかった。人口が多い中国では、窓口に1時間から2時間は並ぶのは当たり前だ。2015年になって、中国鉄路は12306.cnというネットでチケットが買えるサービスを始めた。しかし、これも当初は、予約票を印刷し、駅の窓口でチケットに引き換えることが必要だった。現在では、スマートフォンに対応し、駅に設置されている専用機で、チケットに引き換えることができるようになっているが、それでも専用機に行列ができるていることもあるので、早めに駅に行く必要がある。

一方で、アリペイの中にはチケット購入のアイコンがあり、こちらで列車を検索し、リアルタイムで空き座席状況を確かめることができ、そのまま購入できる。支払いはアリペイで、チケットは身分証に自動的に紐づけられる電子チケットになるので、そのまま改札に向かえばいい。

時間が短縮されただけではない。12306.cnのアカウントがなくても、アリペイのアカウントでチケット購入することができるので、アプリを切り替えたり、複数のアカウントとパスワードを管理しておく必要もない。帳票類はすべて電子化されているので、スマートフォンだけで完結する。さらに領収書のブロックチェーン管理による電子レシート化も始まっているので、電子領収書を会社に転送すればそのまま経費精算ができ、税務署に転送すれば税務申告に使える。

会社で会議をしていて、出張することが決まったら、その場でスマホを取り出して、高鉄のチケットを予約することができる。時間だけでなく、煩わしさもなくなり、すべてがスムースにできるようになっている。

f:id:tamakino:20191107120617p:plain

▲アリペイの中のチケット購入コーナー。座席の空き状況も表示され、タップをするだけでチケットが購入できる。電子チケットになるので、そのまま駅や空港に行けば、乗車できる。

 

アリババとスマホの登場で、中国は別の国になった

アリババのEC「タオバオ」「Tmall」を使えば、ほとんどの生活用品が翌日配送してもらえる。新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を使えば、30分で新鮮な野菜や肉を届けてくれる。

アリババは当初インターネットを活用し、PCベースでのサービスを開発していた。それが2011年頃からスマートフォンが普及をし始め、アリババはすぐにスマートフォンのサービスに軸足を置くようになった。これが中国社会の効率を格段に向上させた。

わずか20年前、中国では何をするにも自分で行かなければならず、長い行列に並ばなければならなかった。この20年で、中国は別の国になった。

 

ジャック・マーの7300日。1つの奇跡と2つの戦いと4つの挑戦(下)

2019年9月10日、アリババのジャック・マー会長が引退をした。この日は、中国の教師の日であり、ジャック・マーの55歳の誕生日でもあった。ジャック・マーがアリババを創業して7300日。この間には、1つの奇跡、2つの戦い、4つの挑戦があったと銷售兵法が報じた。

 

アリババ成長のキーマン、ジョセフ・ツァイCFO

ジャック・マーはフリーミアムモデルのAlibaba.comというアイディアを手に入れた。しかし、これを現実のものにするのには、人と金が必要だ。

ジャック・マーは、杭州市の西湖に浮かんだ小舟の上で、ジョセフ・ツァイに、自分の夢とアイディアを語った。ジョセフ・ツァイは、台北生まれで、米国に移住し、カナダ国籍を持ち、スイスの投資会社インベスターABのアジア太平洋地区の責任者をしていた。

ジョセフ・ツァイは、この一度起業に失敗した元英語講師の話にすっかり惚れ込んでしまった。ジョセフ・ツァイの年収は数十万元はあったはずだが、アリババに転職をすると言い出した。これからプロダクトを開発するアリババでは、月に500元しか報酬が出せなかったが、ジョセフ・ツァイはそれでかまわないという。ジョセフ・ツァイは、アリババのCFO最高財務責任者)となった。

f:id:tamakino:20191112182610j:plain

▲ジャック・マーとジョセフ・ツァイ。あまりメディアには登場しないが、孫正義を始めとする企業家にジャック・マーを紹介し、潤沢な投資資金をアリババにもたらした功労者。

 

2つ目の挑戦:最初のプロダクト「アリババドットコム」

ジョセフ・ツァイは、すぐにアリババに大きな貢献をした。日本のソフトバンク孫正義とジャック・マーをつなぎ、北京での会談をセットしたのだ。そこで、ジャック・マーは例によって、自分の大きな夢を語り、アリババのプロダクトアイディアを説明した。孫正義は、その話をわずか6分間で理解し、3000万ドル(約32.7億円)の投資を決めた(のちに、投資額が多すぎて、議決権まで失ってしまうため、アリババ側から投資額を2000万ドルに減額する申し入れをした)。

アイディアがあり、人を得て、お金も入った。アリババが作ったプロダクトはAlibaba.comだ。中国の中小企業の情報を掲載し、海外企業は取引したい企業を検索して探すことができる。これにより、中国は世界の工場となり、世界中の製品の価格が下がっていった。アリババだけでなく、中国の産業、世界の産業が大きく変わる転換点になった。

f:id:tamakino:20191112182618j:plain

▲アリババ創業の地。杭州市の湖畔花園。このマンションの部屋でアリババが創業された。マンションといっても広大で、かなり高級な住宅群。

 

3つ目の挑戦:アリババの成長の起点「タオバオ

2002年、中国で最大シェアを誇るECサイトは易趣網(イーチーワン、英語名イーチネット)だった。90%のシェアを誇るCtoC型のECサイトだ。米国のeBayと酷似していた。

当時のeBayのメグ・ホイットマン社長は、海外進出戦略を進め、中国市場にも手を伸ばした。イーチネットの株式の1/3を買収することで、中国市場に進出をした。メグ・ホイットマンは、その時に「10年から15年で、中国はeBayにとって最大の市場になる」と語っている。

ジャック・マーにとっては面白くない事態だった。ジャック・マーの頭の中にあるのは、BtoBのAlibaba.comを軌道に乗せた後、CtoC型のマッチングサイトの開発を構想していたからだ。ジャックマーはeBayに対して戦いを挑むことにした。

現在、アリババで「神」と呼ばれるエンジニア蔡景現に命じて、わずか1ヶ月でCtoC型ECサイトタオバオ」を開発させた。2003年4月、アリババはタオバオでeBayに挑むことになる。

f:id:tamakino:20191112182934j:plain

▲eBayの当時のCEO、メグ・ホイットマン。eBayを急成長させた立役者だが、中国では、名前も知らなかったアリババに足元をすくわれた。

 

最初の戦い:アリと象の戦い

ジャック・マーはこの戦いを「アリと象の戦い」と呼んでいた。もちろん、アリババがアリだ。この戦いに向けて、ジャック・マーは社員全員に毎朝、オフィスで逆立ちをさせていたという。ジャック・マーは竹刀を手に「世界を違った角度から見ろ!敵の弱点を見つけろ!」と本気か冗談かわからない檄を飛ばしていたという。

しかし、eBay側は余裕だった。2004年には中国市場で1億ドル(約110億円)の広告宣伝費を使い、ほとんどすべてのウェブサイトに広告を出していた。そもそも、この時点で、メグ・ホイットマン社長は、タオバオの名前すら聞いたことがなかったのだ。

主要ウェブの広告という大通りをeBayに取られてしまったジャック・マーは、インターネットの路地裏でゲリラ戦を展開することにした。掲示板、フォーラムなどに社員総出でタオバオの話題を書きまくったのだ。

これは成功だった。新しいサービスが好きなコアな人たちは、大手サイトのバナー広告よりも、掲示板やフォーラムの書き込みをより信用する。数は多くはないものの、忠誠度の高いタオバオファンが生まれ始めた。

f:id:tamakino:20191112182614j:plain

▲eBayに戦いを挑んでいた頃のアリババ。ジャック・マーは竹刀を手に、社員を逆立ちさせて、「世界を違った角度から見るんだ!」と檄を飛ばしていたという。

 

「無料のランチ」で巨像eBayを打ち負かす

しかし、この戦いを決定づけたのは、ジャック・マーのフリーランチ戦略だった。eBayに出品をするには1元から8元程度の出品料が必要になる。さらに取引が成立すると、取引金額の2%が手数料として徴収される。

タオバオの出品はすべて無料にした。手数料まで無料にした。Alibaba.comと同じ発想だ。では、どうやって収益を上げるのか。それは3年後に考えればいい。ジャック・マーは、重要なのは今期の売上ではなく、3年後の売上だと考えていた。そのため、タオバオの販売業社には「3年間は出品料を取らない」と宣言した。

eBayの出品料を嫌った販売業社が、こぞってタオバオに流れ込み、タオバオは無数の商品が見つかる宝探し感覚のECサイトに育っていった。

この施策にeBayは追従しなかった。メグ・ホイットマンは、「この世に無料のランチは存在しない」と言って、フリーランチを続けるタオバオは、1年半で資金不足になり自然に倒れるだろうと考えていた。しかし、ジャック・マーは、最初から3年間は収益が上がらなくても継続していく計画だったのだ。

 

2つ目の戦い:タオバオ有料化

eBayとのアリと象の戦いが決着すると、流石にジャック・マーもフリーランチを続けていくのは苦しくなってきた。「3年間は出品料を取らない」と約束をしていたものの、タオバオが始まって2年後の2006年5月から「招財進宝」制度を導入しようとした。これは出品者が一定の料金を支払うと、消費者が商品検索をしたときに上位に表示してくれるというものだ。

料金を支払わずに無料のままタオバオに出品することもできるが、この制度が始まると、無料の出品者は検索の下位にしか表示されなくなり、商品が売れなくなる。タオバオの出品者たちは、3年間無料の約束が実質的に破られたとして、タオバオ本社の前で抗議活動をした。抗議活動は20日間続き、3万を越す販売業社が売上がプールされているアリペイの資金をすべて現金化し、出品商品を取り下げるという抗議活動を行った。さらに、タオバオの成功を見て、追従してきた複数の小規模CtoC型ECサイトが「引越しキャンペーン」を始めた。そのようなサイトは、「出品料永久無料」を誘い文句に、タオバオから販売業社を引き抜こうとした。

さすがにジャック・マーもこたえたようだ。招財進宝制度を実行するか中止するかを、タオバオ販売業者の投票によって決めるとした。もちろん、否決され、招財進宝制度は中止になった。

f:id:tamakino:20191112182621j:plain

▲「3年間無料」という約束を違えたジャック・マーに対して、販売業者たちの怒りが爆発した。タオバオ本社前で抗議をする販売業者たち。結局、タオバオの有料化は断念され、それがBtoC型ECサイト「Tmall」につながっていく。

 

4つ目の挑戦:タオバオのマネタイズ=Tmall

しかし、タオバオをいつまでもマネタイズしないわけにはいかない。そこで、タオバオに出品している大手業者をセレクトして、タオバオ商城(後のTmall)というBtoC型ECサイトに分離することにした。こちらは出店料、手数料などさまざまな費用が必要となる。同時に、広告、SEO、キャンペーンなどの支援を行う。

販売業者にとって、費用負担は決して小さくないが、ビジネス支援をしてもらえ、費用負担以上に商品が売れる。さらに、アリババが企画した11月11日の独身の日セールが大成功し、ECビジネスが急成長をすると、出店料などは微々たるものに感じられるようになっていった。

つまり、タオバオでマネタイズするのではなく、Tmallでマネタイズをはかった。こうして、アリババはBtoB、CtoC、BtoCの3つの領域をカバーすることになった。

その後、アリババは、キャッシュレス決済「アリペイ」、社会信用スコア「芝麻信用」、ネット銀行「浙江網商銀行」、新小売「盒馬鮮生」と次々とビジネスを広げていくが、すべてはECサイトタオバオ」が起点になっている。そして、アリババのすべては、1995年の秋、ジャック・マーがシアトルでインターネットと出会うという奇跡から始まっている。

 

ジャック・マーの7300日。1つの奇跡と2つの戦いと4つの挑戦(上)

2019年9月10日、アリババのジャック・マー会長が引退をした。この日は、中国の教師の日であり、ジャック・マーの55歳の誕生日でもあった。ジャック・マーがアリババを創業して7300日。この間には、1つの奇跡、2つの戦い、4つの挑戦があったと銷售兵法が報じた。

 

大学受験に失敗し続けたジャック・マー

1995年の秋、ジャック・マーは米国シアトルにいた。浙江省交通庁の依頼を受けての出張だった。

ジャック・マーは英語は抜群にできたが、数学がからっきしダメだった。高校3年生のときに、中国版大学入学共通テスト「高考」を受験したが、数学はなんと1点。足切りにあってしまい、大学進学に失敗した。アルバイトをしながら受験勉強をし、翌年再び高考を受験するが、数学は19点。もう一年、浪人生活を続け、3度目の高考では数学が79点。足切基準点は85点であり、3度目の高考も失敗だった。

しかし、高校の教師たちが運動をした。ジャック・マーは確かに数学はできないが、英語は頭抜けてよくできる。しかも、音声教材もほとんどない時代に、独学で身につけていた。ボロボロの自転車で 杭州市内を回り、欧米人を見つけると自分から話しかけていく。その熱意を知っていた高校の教師たちが、杭州師範大学に対して運動をしたのだ。その結果、ジャック・マーは杭州師範大学への進学が許された。

ジャック・マーは支援をしてくれた高校教師たちの期待を裏切らなかった。杭州師範大学の主席になり、杭州市の学生連合の主席にも選ばれた。

f:id:tamakino:20191112181805j:plain

杭州師範大学時代のジャック・マー(左から2番目)。英語は抜群にできたが、数学がまるでダメだった。3度も受験に失敗し、高校教師たちの熱心な運動で、特別に杭州師範大学に進学することができた。

翻訳会社を起業するも仕事はほとんどない

杭州師範大学を卒業後、ジャック・マーは杭州電子科技大学の英語講師の職を得た。しかし、世界に飛び出したいジャック・マーにとって退屈な仕事でしかなかった。そこで、杭州市では初めてとなる英語の翻訳をする会社を起業した。しかし、まったく儲からなかった。生活は英語講師の給料でまかなっていた。当時の中国では、翻訳の仕事そのものがなかったのだ。

生活は苦しかったが、「杭州市でいちばん英語に明るい人」という評判を得ることができた。これにより、浙江省交通庁が、シアトルでの交渉にジャック・マーを派遣することになったのだ。

 

1つの奇跡:インターネットとの出会い

シアトル出張で、友人の家を訪問すると、そこでインターネットというものを見せられた。ジャック・マーは、友人に教えを乞いながら、自分の翻訳会社のホームページを作って、公開をしてみた。すると、わずか3時間の間に、米国、ドイツ、日本から合計5通の電子メールが届いた。当時、中国ではまだインターネットを使うことができず、中国語のサイトはとても珍しかったからだ。

ジャック・マーは、このインターネットを使えば、世界に飛び出すことができると興奮した。4年後、ジャック・マーはアリババを起業することになるが、すべてはこの奇跡ともいえるインターネットとの出会いから始まっているのだ。

 

最初の挑戦:チャイナページ

帰国をしたジャック・マーは英語講師の職を辞した。インターネットビジネスに専念するためだ。そこで、開発をしたのが「チャイナページ」だった。それは中国企業のイエローページだった。中国企業の情報が中国語だけでなく英語でも紹介される。海外企業はそれを見て、中国企業に連絡を取り、取引をすることができる。

ビジネスモデルは、掲載する企業から掲載料をもらうというものだ。ジャック・マーは北京に行き、企業を回り、猛烈にチャイナページの営業を始めた。しかし、応じた企業は1社もなかった。それも当然だ。契約が取れていないので、チャイナページの中身はまったくの空だった。空のサイトを見せられて、掲載料を払ってくださいと言われても、多くの企業は腰が引けてしまう。それどころか、多くの企業担当者が、何らかの詐欺ではないかと疑った。

f:id:tamakino:20191112181811j:plain

▲ジャック・マーの最初のプロダクト「チャイナページ」。掲載料を取り、中国企業の情報を掲載し、海外に向けて発信するサイトだったが、掲載企業がない状態で営業活動をしたため、程度の低い詐欺だと思われることが多かった。

 

ホラ吹き、詐欺師。企業人はジャック・マーが理解できなかった

ジャック・マーは営業トークでもスケールの大きなことを言う。「私は中国で最大規模のサイトを作れます」「世の中のビジネスは、すべてがこのインターネットの中で行われるようになります」。「私は中国の情報ハイウェイを発展させようとしています」。ただの英語講師がそんなことを言っても、当時の常識ある企業人は誰もがこう思った。「ジャック・マーは大ボラ吹き」。10年後、ジャック・マーはこの大ボラをすべて現実のものとする。

しかし、その時のジャック・マーは、悔し涙を流しながら、杭州に帰るしかなかった。

f:id:tamakino:20191112181808j:plain

▲北京で、最初のプロダクト「チャイナページ」の営業活動をしていた頃のジャック・マー。「私は中国で最大のウェブサイトを作ることができる」と大きなことを言う杭州市の英語教師に対して、企業人は「大ボラ吹き」「詐欺師」と相手にしなかった。

 

f:id:tamakino:20191112181813j:plain

▲北京から杭州に逃げるように帰る車の中でのジャック・マー。驚くべきことに当時の映像が残っている。「北京はいつか僕が何をやろうとしたか、知る時がくるだろう。それを知れば、北京は僕に対してこんな仕打ちはできなくなる」と泣きながら語っている。


早すぎたBtoC型ECサイト「8848」

杭州市に戻ったジャック・マーは、へこたれなかった。1999年、風光明媚な杭州市にあるマンション湖畔花園の中にある自宅でアリババを起業した。

当時、すでに王俊涛がBtoC型のECサイト「8848」をスタートさせていた。スタイルとしては、今日のアマゾンと同じだ。王俊涛もジャック・マーとよく似ていて、大きな夢を語る起業家だった。しかし、王俊涛は早すぎた。

1999年当時の中国のネット利用者は400万人で、接続されているPCは146万台にすぎなかった。ほとんどが企業ユーザーで、個人は電話回線を使ってダイアルアップ接続をして使っている人がわずかにいるだけだった。電話回線は接続時間に応じて通話料が嵩んでいく。そのため、多くの人が電子メールを見る、決まったウェブサイトを見るという使い方で、ネットの中をあれこれ歩き回って新しい情報を探すという人はほとんどいなかった。

8848を観察したジャック・マーは、8848が中国市場の実状にフィットしていないことが弱点だと感じた。では、その弱点を克服するにはどのようなサービスをすればいいか。

f:id:tamakino:20191112181802j:plain

▲中国で最初のECサイト「8848」。チョモランマという名称で、8848はチョモランマの海抜だ。意欲的なスタートアップ企業だったが、残念なことに早すぎた。中国のインターネットは多くが企業ユーザーだった。

 

2つ目の挑戦:独自にたどりついた「マーさんのフリーミアムモデル」

400万のネットユーザーのほとんどは企業だ。であれば、8848のようにコンシューマーに向けたtoCサービスではなく、企業ユーザーに向けたtoBサービスを提供すべきだと考えた。

なんのことはない。toBサービスであれば、失敗をしたチャイナページが最も適しているのだ。

では、なぜチャイナページは失敗したのか。いきなり掲載料を取ろうとしたからだ。ならば、掲載料は無料にすればいい。無料であれば、ジャック・マーのことを詐欺師ではないかと疑っている企業も、試しに掲載してみるかもしれない。

では、掲載料を取らずにどうやって収益を上げるのか。ジャック・マーはフリーミアムモデルを採用した。フリーミアムという言葉が知れ渡り、明確に定義されたのは2006年前後のことなので、ジャック・マーは5年も早く独自にフリーミアムというアイディアに到達していたことになる。

掲載は無料だが、料金を払うとVIP会員「誠信通」になることができる。誠信通はアリババがその企業の信用調査をし、その企業が信用できるというお墨付きを表示する。海外企業から見ると、この誠信通マークがついている企業とは、安心して取引ができる。さらに、国際ページの作成などの支援サービスも行う。

こうして、ジャック・マーの中で、成功のアイディアが固まっていった。しかし、それだけでは成功はできない。金と人が必要だった。

(下に続く)

 

 

一人で食事をする孤食地域。上位にきたのはIT企業が集中する地域

外売企業「ウーラマ」が、上海で一人分の食事の注文率が高い「孤食地域」のデータを公開した。孤食地域の多くが、IT企業が多く集まる地域と重なっている。同じIT企業拠点でも、それぞれに特色があるとPython愛好者社区王大偉が報じた。

 

上海で孤食が多いのはIT企業が集中する地域

外売(フードデリバリー)「餓了麼」(ウーラマ)は、さまざまなデータを公開している。その中で話題になったのが、「上海で最も孤食が多い15の地域」だ。この統計は、2019年1月から5月までの、夕方5時半以降、朝5時半までの12時間と週末に一人用の食事の配達を注文した数が多い地域を15選んだものだ。つまり、会社で残業しながら、あるいは自宅で、夕食、夜食を一人でとる人の割合が多い地域。

上海にはIT企業が集まる地域がある。特に有名なのが張江(ジャンジャン)と漕河涇(ツァオフジン)の2つだ。この2つの地域は、当然ながら、孤食地域トップ15に含まれている。

f:id:tamakino:20191111113454p:plain

▲外売企業「ウーラマ」が公開した孤食の多い地域。ウェブ系企業の集まる張江では、家賃が高いためか、最も食事の単価が安い。2019年1月から5月までの夕方5時半から朝5時半及び週末に、1人分の食事を注文したデータを集計したもの。

 

同じIT企業地域でも雰囲気が違う2地域

王大偉によると、張江と漕河涇は上海のIT企業が集中する地域として有名だが、それぞれの雰囲気は違っているという。その違いを紹介している。

張江は、上海市の東側の郊外に開発されたIT地区。上海市内と浦東国際空港の中間に位置し、海外出張の多い企業には便利な地域だ。張江に勤める人たちは「張江男」「張江女」と呼ばれる。

f:id:tamakino:20191111113520p:plain

▲張江の全景。川の中洲が人工知能島となっていて、人工知能のスタートアップのオフィスがある他、自動運転などの検証実験が行えるようになっている。上海は人工知能産業を地場産業にしようと、莫大な投資を行っている。

 

賃貸に住み、歩いて通勤する張江

張江男、張江女たちは、高収入だが、張江付近のマンションは高騰しており、平米あたり7万元から8万元(約124万円)になっているため、稼いでいるのに自由なお金が少ないという人も多い。そのため、賃貸住宅を選ぶ人も増えている。いずれにしても、張江男、張江女は会社の近くに住み、数分歩いてオフィスに行くというライフスタイルを理想としている。

f:id:tamakino:20191111113511j:plain

▲張江は、上海市の東側郊外に開発されたITパークで、マンションも豪奢なものが多い。そのため、マンション価格や賃貸家賃が高いため、張江のエンジニアたちが注文する食事は、平均単価が他の地域よりも低い。

 

テンセントビルがランドマークになっている漕河涇

漕河涇は上海市西側郊外に最近開発されたIT地域で、虹橋国際空港に近い。虹橋空港は国際便も出ているが、国内便を主にしているため、国内出張が多い企業にとっては便利な地域だ。

郊外といっても、ほとんど上海の市街地であるため、多くの人が地下鉄で数駅のところに住み、出勤は地下鉄を使う。漕河涇開発区駅を降りると、いったんこの地域で最も大きなテンセントビルの中に入り、そこから外に出ていく構造になっている。そのため、漕河涇開発区駅で降りた人はほぼ全員がテンセントビルの中に吸い込まれていく。

f:id:tamakino:20191111113452j:plain

▲漕河涇では、テンセントのビルがランドマークになっている。地下鉄駅と直結しているため、ほとんどの人がこのビルから出入りをする。

 

通勤地下鉄の中では、技術書の朗読を聞いて勉強

地下鉄9号線はそもそもが混雑する路線で、しかも多くの人が漕河涇開発区駅で降りる。雰囲気は他の地下鉄と違っている。若い人が多く、話をする人はなく、車内はシンとしている。ほぼ全員がスマートフォンを見ている。また、イヤフォンを使いシマラヤFMを聞いている人が多い。シマラヤFMは、ネットラジオ局だが、本の朗読チャンネルがあるのが特徴だ。これを利用して、技術書などを「聞いて」勉強している人が多い。静かだが、なんとなくピリピリとした雰囲気があるという。

 

スーツ姿ではビル内に入れてもらえない張江

この2つの地域はファッションも違っている。張江は、典型的なエンジニアファッションで、ナイキのスニーカー+ジーンズ+チェックのシャツ+黒のジャケットというのが定番になっている。また、張江男の中で流行に敏感な人は、ニューバランスのウォーキングシューズ+スリムジョギングパンツ+パーカーあるいはジャンパーなどという人もいる。

スーツを着ている人は滅多に見かけない。稀に必要があってスーツを着て出社をすると、守衛に止められてしまうのだという。スーツを着ていると、クレジットカードか保険の営業だと思われるからだという。

張江ではチェックシャツ率が高いが、漕河涇では横ストライプのTシャツ率が高い。漕河涇ではストライプTシャツに短パンあるいはジーンズ、それにリュックという姿が圧倒的に多い。

f:id:tamakino:20191111113516j:plain

▲エンジニアはなぜかチェック柄のシャツを着る。エンジニア人材紹介サイト「CSDN」のエンジニアに集まってもらったら、チェック率があまりにも高かった。

 

張江では外売を使って、オフィス内で昼食

昼食時間になっても、張江男、張江女たちは食事に外に出ることはない。オフィスビルの多くが高層ビルなので、外に出るのに時間がかかるからだ。地下鉄駅の向こう側には、伝奇広場という美食街があるが、例外なく混雑している。そのため、ほとんどの人が外売(フードデリバリー)を利用する。そのため、昼時にビルの窓から下を見ると、外売配送員がかぶっている色とりどりのヘルメットが見えてきれいなのだそうだ。ウーラマの青、美団のオレンジ、百度の赤が入り乱れて、張江にきたばかりの人は必ずスマホで写真を撮る。

漕河涇ではオフィスビルの中に無数のレストランがあるので、多くの人がそこで昼食を取る。この地区では、食事専用のプリペイドカードがどこのレストランでも使えるようになっている。しかし、人は多いので、多くの人が平均して20分ぐらいで食事を終えてオフィスに帰っていくという。

f:id:tamakino:20191111113514j:plain

▲男性エンジニアは、自分を自虐的に「プログラミング猿」と呼び、孤独を感じている人が多い。ところが、女性エンジニアは孤独にならないとして、ネットで拡散した写真。

 

ウェブ系の張江、製造系の漕河涇

このような違いが生じる原因は、張江にはウェブ系のIT企業、漕河涇には製造系のIT企業が多いことだ。そのため、張江ではJava使いが多く、漕河涇にはC++使いが多い。面白いことに、漕河涇のエンジニアは顔文字をよく使う。張江のエンジニアはほとんど使わない。そのため、エンジニアとSNSでやりとりをしている時に、顔文字をよく使う人に出会ったら「漕河涇?」と尋ねると、半分ぐらいは当たるのだという。

さらに、面白いことに張江では、プロダクトマネージャーの地位が弱く、漕河涇ではプロダクトマネージャーの地位が強いという。そのため、2つの地域で、誰かが誰かを怒鳴って叱っているのを見かけたら、どの地域かで、どちらがプロダクトマネージャーで、どちらがエンジニアであるかがわかるという。

張江では、叱っている方がエンジニアで、プロダクトマネージャーがなだめている。しかし、漕河涇では逆で、叱っている方がプロダクトマネージャーで、小さくなっている方がエンジニアなのだ。

f:id:tamakino:20191111113500p:plain

▲上海で孤食の多い地域を地図上に表したもの。多くが、IT企業の集中している地区と重なっている。

 

上海に生まれている人工知能の開発拠点

上海は金融都市として、中国で最も発展した都市であるという自負を持っていたが、ITの普及以降、IT産業面では遅れをとっている。そのため、上海市政府はITパークの開発を進め、IT企業の誘致を積極的に行なっている。

特に人工知能系開発企業はさまざまな面で優遇をし、人工知能を上海の地場産業にしようとすらしている。このような事情があるため、上海のIT企業が集中している地域は、環境が整備されていて働きやすいところが多いという。上海にもいくつも特色のあるIT企業エリアが登場してきている。

 

リアルな行列はなくなっても、クラウド行列に悩まされる中国市民

タクシー、飲食店、チケット、病院予約はクラウド化され、スマホから簡単に購入、予約できるようになり、街中での長い行列というのは少なくなっている。しかし、その一方で、クラウド内での「行列」に悩まされるようになっていると半月談が報じた。

 

行列はなくなっても、クラウド内に行列

この20年で、中国の生活は様変わりをした。20年前、中国人は何をするにも長い行列に並ばなければならなかった。列車の切符を買うには駅の行列に並ぶ。具合が悪くなり病院に行ったらまず予約を取るために行列に並ぶ。それが今やスマートフォンの中で行えるようになった。

利便性は大きく向上したものの、今度はその急激な変化による歪みも起きている。リアルな行列は少なくなったものの、今度はクラウドの中にバーチャル行列ができているのだ。

f:id:tamakino:20191108104215j:plain

春節旧正月)の帰省バスのチケットを求めて行列する人たち。現在は、帰省バスのチケットもスマホ購入に対応するバス会社が増え、このような光景も次第に過去のものになりつつある。しかし、今度は、のんびりしていると、オンラインのチケットがすぐに売り切れになってしまうという問題が生じている。

 

終電に間に合わなければライドシェアを呼ぶ

半月談の記者は、上海の陸家嘴の地下鉄駅を取材した。ここは東方明珠塔を始めとする高層建築が立ち並ぶ地域。金融系の企業のオフィスが多く、上海でも最も華やかな地域だ。しかし、オフィス街であるために、地下鉄の終電は11時と意外に早い。この終電に乗り遅れた人たちは、地下鉄駅前にあるタクシー乗り場に長い行列をするのが以前の姿だった。

しかし、現在、その行列は少なくなっている。滴滴出行に代表される網約車(ライドシェア)をスマホで呼ぶ人が多くなっているからだ。ライドシェアは、あくまでも個人の車に相乗りさせてもらうという建前(実際はタクシーと変わらない)なので、タクシー乗り場などの規制を受けない。運転手と乗客が好きな場所で落ち合い、乗せてもらえばいい。

 

時間帯によっては、数十人の利用者待ち

タクシー待ちの行列は減ったものの、今度はネット上での行列が起きている。網約車を利用しようとすると、利用者が殺到しているために、数十人後、場合によっては100人以上が網約車を待っていることがある。帰宅の手段がなくなった人は、結局待っているしかない。以前はタクシー乗り場に行列していたものが、コンビニコーヒーでも飲みながら階段にでも腰掛けていられる分、ましになった程度でしかない。

f:id:tamakino:20191108104206j:plain

▲昔ながらの行列は少なくなったが、人気のカフェに行列するのは、ひとつのエンターテイメント感覚で若者に受けている。喜茶では、すでにモバイルオーダーの仕組みを導入し、行列しなくても購入できるようになっているが、それでも行列をする人がいる。

 

足元を見て、高額要求をするタクシーまで出現

半月談記者は、上海の高級ショッピングモール新天地付近の深夜も取材した。タクシー乗り場の行列はほとんどないが、やはりネット上では網約車の待ち行列ができている。

記者は4台のタクシーが空車表示のまま止まっているのを発見した。声をかけると、80元で市内に乗せていくという。上海市内であればだいたい20元程度で済むはずだ。みな網約車ばかり使うようになり、ネット上では網約車待ちの人が溢れる時間帯がある。その時に、こうして待っていると、値段は高くてもすぐ乗りたいという乗客が見つかるのだという。

 

スマホを使わない人には、昔よりも不便になっている

上海市民のある女性は、半月談の取材に応えた。「私の母はネットでチケットを買ったり、車を呼んだりすることはできません。なので自分一人では遠くにいけません。父親は滴滴出行の使い方が理解できず、一度、実家から上海に出てきたときは、高徳地図アプリが表示した経路通りにやってきました。その時、滴滴出行を使うルートが表示されて、自動的に予約まで入るのですが、父親はそれに気がつかず、時間になって運転手がから電話がかかってきて、叱られ、キャンセル料を5元取られました」。

スマホを使いこなせない人にとっては、昔と変わらないか、それ以上に不便になってしまっている。

f:id:tamakino:20191108104210j:plain

▲大病院の支払い、診察受付には長い行列ができるのがごく普通の光景。これも最近ではクラウド化が始まり、スマホから予約、支払いができるようになりつつあるが、今度は診察受付が開始時間から数分でいっぱいになってしまうという現象が起きている。

 

スマホ世代は行列する権利まで奪われている

上海市民のある男性は、半月談の取材に応えた。「私は上海の浦東に住んでいますが、母親は足が悪く、浦西に住んでいます。母親が出かける時は、私がタクシーを呼んであげています。自分でスマホを使って呼ぶのは難しいからです」。

以前は行列をしていた列車の切符、タクシー、レストランはすべてスマホできるようになっている。映画館や芝居の座席も、いい場所はスマホですぐに予約されてしまい、直接劇場に行っても、チケットは売り切れか、見づらい座席しか残っていない。スマホが使えない両親たちにとっては、行列に並ぶ権利さえ奪われてしまっていると男性は言う。

地方から北京の病院にきたある女性が、半月談の取材に応えた。「地元で病院をスマホで予約をしようとしたのですが、数秒でその日の予約が埋まってしまい、予約を取ることができないのです。仕方なく、大きな病院がたくさんある北京に出てきました」。

f:id:tamakino:20191108104218j:plain

▲ショッピングモールのセールの行列に並ぶ人たち。結局、どこまで行っても、人口の多い中国から行列はなくならない。

 

クラウド内でも早い者勝ち、ネット弱者は忘れられていく

生活サービスの多くが、ネット化されて、スマホを使いこなせる若者や現役世代にとっては利便性の高い社会になった。ネットの予約そのものが混み合うこともあるが、事前予約や、追加料金を支払って優先予約するなどの仕組みも導入され始めているので、適正な追加コストを支払ってもいいという人には非常に快適な社会になりつつある。

しかし、スマホが上手く使いこなせない、サービスの仕組みがよく理解できないというネット弱者にとっては、かえって利便性が低下をしている。以前と同じように、何をするにも行列をしなければならないが、ネット弱者は高齢者であることが多く、行列に耐えるだけの体力も失われていく。

ネット弱者は購買力も小さいので、企業が問題意識を持ちづらいのも大きな問題だ。このまま利便性と収益だけを追求して、世の中がどんどん先に進んでいくのか、どこかでネット弱者をも取り込む方向に転換するのか、中国社会の公共心が試されようとしている。

 

アリババ独身の日セール「2684億元」は捏造数字か。ネットで騒ぎに

今年で11年目となるアリババの11月11日の独身の日セールは、1日での売上が2684億元(約4.17兆円)という驚異的な成績をあげた。しかし、ネットでこの数字が捏造ではないかという疑いが起きている。なぜなら、4月の段階で、2689億元という予測を出し、ほぼ的中させていたネット民がいるからだ。アリババのECサイト「Tmall」も否定のコメントを出すなど騒ぎになっているとシリコンバレー分析獅が報じた。

 

半年前にセール売上高を予測し、的中させていた

問題となったのは、尹立慶という名前のネット民で、2019年4月24日に「タオバオ2009年から20018年の独身の日セールデータの捏造」という名称で、SNS「ウェイボー」に発表された文章。

このときはさほど注目されていなかったが、尹立慶はこの中で、2019年の独身の日セールの1日での売上額を2676.37億元または2689.00億元と予測をし、11月11日の独身の日セールでの売上額が、2684億元と的中したことから、にわかに注目をされ、大きな騒ぎとなった。現在、元の発言は削除されてしまっている。

f:id:tamakino:20191113103707j:plain

▲2019年の独身の日セール1日での売上は2684億元(約4.17兆円)という驚異的な数字。しかし、この数字を半年前に予測していた人がいた。

 

過去の売上高から回帰式を計算。あまりにきれいにすぎる適合率

この尹立慶というネット民は、以前からさまざまなセールスデータの分析を行い、洞察や予測を発表している人物。

そのひとつとして、過去10年の独身の日セールの当日1日分の売上額を分析し、2019年の売上予測をしようとした。手法はごく一般的なもので、過去の売上額をプロットして、回帰式を計算しただけのことだ。

しかし、多項式曲線で近似をすると、平均の適合率が99.94%を超えてしまった。つまり、あまりにもきれいに近似できてしまい、人工的すぎると感じたのだ。

ここから、二次多項式曲線で予測した2019年の売上を2676.37億元、三次多項式で予測した売上を2689.00億元と発表し、11月11日になってみると、ほぼ予測通りの売上になった。

ここから、11月11日にリアルタイムで表示される「現在の売上額」は、リアルなものではなく、捏造された数字なのではないかとネットで騒ぎになった。

f:id:tamakino:20191113103711j:plain

▲半年前は話題にならなかったが、予測が的中したことで、4月24日に発信された尹立慶の発言がにわかに注目を浴びている。

 

f:id:tamakino:20191113103704p:plain

▲過去の独身の日セールの1日での売上高。これをプロットしていくと、きわめてきれいに近似ができることは確かだ。

 

アリババは反論。そもそも捏造する必要がない

捏造数字だと指摘されたアリババ「Tmall」はすぐに反応して、ネットのデマに過ぎないと否定をしている。リアルタイム表示される売上額の数字は、世界中のメディアが見ているもので、捏造の入り込む余地がないというもの。また、そもそもTmallは数字を捏造する必要がないということを訴えている。さらに、このようなデマに対して法的な手段を取る手続きに入っているともしている。さまざまなデータから予測をするのは自由だが、このような企業を侮辱するような予測はされないことを希望すると述べている。

 

問題になった文章中の「ジャック・マーは詐欺師」

Tmallは、このコメントの中で、問題の尹立慶の過去の発言を引用して、デマであることを訴えている。しかし、これがまたネット民をざわつかせることにになった。

過去の発言とは2015年のもので、同じ手法で、アマゾン中国の過去の売上データから2014年のアマゾン中国の売上高を177.49億元または195.30億元と予測をし、実際の売上額177.87億元をほぼ的中させた。

この時の文章と、今回の文章がほぼ同じフォーマットで、アマゾンをTmall、ジェフ・ベゾスをジャック・マーに置き換えたことを除けば、90%文章が一致をするというのだ。

しかし、アマゾンの売上高も、独身の日セールの売上高も的中させているのは事実。問題は、売上高は捏造であり、「ベゾス/ジャック・マーは、詐欺師で、世界の人々を10年も騙し続けてきた」と書かれた部分。

f:id:tamakino:20191113103718p:plain

▲尹立慶の発言。着眼点は面白いのに、「ジャック・マーは詐欺師であり、世界の人を10年も騙してきた」と語っているところが、アリババの反発を招いた。

 

経済メディアはデータテクノロジーの精度があがっていると解説

ネットでは、せっかく着眼点がよく、面白い文章なのに、企業トップを詐欺師呼ばわりしていることが残念だという声が多い。

また、経済メディアなども多くは、売上高数字が捏造である可能性は極めて低いが、回帰多項式にきれいにハマるのは紛れもない事実で、売上がコントロールされていると解説している。

もはや11月11日の独身の日セールは、消費者の消費意欲が高まって買い物をする日ではなくなっている。過去の購入データに基づいて、適切なクーポンを配信をするため、消費者は「欲しい」というよりも、「他の日に買うよりもずっと得になるから」という理由で買うことが多くなっている。いわゆる日本で言う「駆け込み需要」を1日に集中させるセールのような具合になっている。

そのため、各カテゴリーで、売上目標を設定し、そこから逆算して、過去のデータを分析し、クーポン戦略が練られていく。捏造ではないものの、需要予測がきわめて正確にでき、かつクーポン配信で精密に消費行動をコントロールできるようになっていると解説している。

アリババは、それだけ、精密なデータ分析ができるようになっているということなのだ。アリババのダニエル・チャンCEOは、各所でこう述べている。「アリババはもはやIT企業ではない。データテクノロジー企業なのだ」と。

f:id:tamakino:20191113103658p:plain

▲過去の1日での売上高をプロットし、多項式曲線で近似してみると、確かに気持ち悪いほど近似される。あまりにきれいすぎて、目を疑うことは確かだ。

 

監視カメラ都市ランキング。予想通りに中国の都市が上位に。第1位は重慶市

英国のテックメディアCompariTechは、世界120都市の監視カメラの設置状況を調査し、人口と比較、千人あたりの監視カメラ台数のランキングを作成し、公表した。

これによると、上位10都市のうち、8都市を中国が占め、第1位は重慶だった。中国以外で10位以内にランクインをしたのは、ロンドンとアトランタのみだった。

 

監視カメラの数と治安のよさは相関しない結果に

CompariTechの調査によると、人口あたりの監視カメラ数ランキングは、大方の予想通り、中国の都市が上位を占める結果となった。

ただし注意が必要なのは、この調査の対象となったのは閉鎖回路TV(CCTV)の数で、その用途までは調査をしていないことだ。どの都市でも、最も多いのは渋滞や事故を監視する交通監視カメラだ。また、街頭に設置されたカメラにしても、市民を監視する目的のものもあれば、犯罪を監視する防犯カメラもある。

CompariTechでは、NUMBEOが掲載している都市別の犯罪指数との照合を行った。その結果、監視カメラ数と犯罪指数の間に負の相関は認められなかった。つまり、監視カメラが多いからといって治安がいいとは言えなかったのだ。

f:id:tamakino:20191106123605p:plain

▲人口あたりの監視カメラ数の都市別ランキング。渋滞を監視する交通カメラや気象監視カメラなども含まれているが、それでも中国の都市の監視カメラ数は多い。

各都市で監視カメラを大幅増設する計画が進んでいる

中国全体では現在2億台の監視カメラがあると言われている。しかも、各都市でこの監視カメラを大幅に増やす計画が進んでいて、2020年には6.26億個に達する。こうなると、市民2人に1台の監視カメラがある計算になる。

深圳市では、現在、192.9万個の監視カメラが稼働しているが、今後数年で1668万台と大幅増設する計画だ。

CompariTechの編集者ポール・ビショッフ氏は、香港で発行されているサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙の取材に応えた。「中国では広い地域で、市民の行動の自由が制限されています。それには、監視カメラと顔識別のテクノロジーが重要な役割を果たしています。中国だけでなく、世界中の都市で急速に監視カメラが設置されています。監視カメラ自体が簡単に設置、運用できるだけでなく、ウェブカメラなどより簡単で、顔識別などの画像解析ができるようになっているからです」。

f:id:tamakino:20191106123602j:plain

▲天網システムは、高精細監視カメラの映像から、リアルタイムで顔認識をし、身分証データベースと照合、個人の氏名や身分証番号を表示するというもの。従来の監視カメラでは解像度が不足しているため、空港や駅などの公共施設から高精細監視カメラの導入が始まっている。

 


【多维新闻】中国“天网”监控放大招:准确识别行人年龄、性别、穿着

▲天網プロジェクトを報じる報道番組。監視カメラの映像がリアルタイムで画像解析され、自動車のナンバー、個人の顔から氏名、身分証番号などが表示される。すでに駅や空港といった公共施設で運用されている。

 

監視カメラに対する市民感情は複雑

重慶のある女性は、複雑な気持ちだと言う。「確かに重慶に監視カメラが多いというのは気持ちのいいことではありません。でも、路上でスマホを盗まれたら誰が犯人を見つけてくれるのでしょう。それを考えると、監視カメラにも利点はあると感じています」。

深圳のある男性は、監視カメラは必要だと言う。「交通違反が監視カメラにより摘発されるので、今ではみな安全運転をするようになりました。公共の場所に監視カメラがあることによって、犯罪が少なくあり、安心して外出できるようになりました」。

中国の市民は、不安な気持ちを持ちつつも、監視カメラのメリットに注目し、受け入れている人が多いようだ。

f:id:tamakino:20191106123624p:plain

▲人口あたりの監視カメラ数を世界地図にマッピングしたもの。中国を中心としたアジア圏が頭抜けて監視カメラの数が多い。

 

監視カメラに使われるAIテクノロジー

中国監視カメラはネットワークも進んでいて、撮影した監視カメラ映像の画像解析技術も進んでいる。このネットワーク化は天網プロジェクトと呼ばれ、一定条件下で撮影された顔画像を数秒で個人特定し、身分証番号などを表示するところまできている。

また、カメラの性能も進化し、多焦点広角カメラの導入も始まっている。撮影後に、焦点を変えることができるカメラで、1枚の写真を解析することで、近くの人から遠くの人までの顔識別などが可能になる。

難しいのは、監視カメラは、防犯カメラでもあり、市民監視カメラでもあることだ。防犯カメラとして使われるのであれば、社会にとって有益になる。監視カメラは「悪いことをする人」を補足するためのもので、この「悪いこと」の定義が「犯罪」であるか「政府に都合の悪い活動」なのかによって、防犯カメラか市民監視カメラかが決まる。重要なのは、運用とその用途なのだ。