中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

バス料金はNFCからQRコードに転換。流れが変わった中国の交通決済

中国で市民に最も身近な都市交通であるバスの乗車賃は、以前から交通カード(NFC)による支払いが進んでいた。しかし、中国交通部(日本の国土交通省に相当)は、QRコード支払いを推進することに方針を転換し、すでに多くの都市で、スマートフォンQRコード支払いが始まっていると捜狐が報道した。

 

QRコード決済へ方針転換する中国のバス

日本でも、多くのバスがSuicaなどの交通カード支払いに対応をしている。中国でも同じく、以前から交通カードによる支払いが進んでいた。均一路線では、乗車時にタッチして支払う。距離によって料金が変わる場合は、乗車時と降車時にタッチをして支払う。

しかし、中国交通部は、アリペイ、WeChatペイなどの普及を見て、QRコード方式を推進するという方針転換をした。これを受けて、各都市のバスは続々とQRコード方式への転換を始めた。当面は、交通カードでもスマホでも支払える両対応機を導入する。

 

交通には不向きだと言われていたQRコード決済

一般に、QRコードは反応が鈍く、交通機関には向かないとされていた。例えば、JR東日本SuicaFelicaカードで、多くの人が連続して改札を通過するために、反応速度を上げることが開発の焦点になっていたという。これがもし、QRコード対応の改札であったら、朝夕のラッシュ時には大混乱になるだろう。

しかし、バスの場合は、地下鉄ほど一度に大量の人を処理しなければならないわけではない。一般のバス停で乗り降りする人は数人ずつ。始発駅では多くの人が乗ることがあるが、それでも反応速度に地下鉄の改札ほど神経質になる必要はない。

中国交通部は、技術改良により、反応速度も上がり、なおかつQRコード方式にするメリットが大きいとして、「バスはQRコード」という方針転換をした。

 

技術改良により、処理速度は0.3秒に

深圳のIT機器メーカーRAKINDAは、QRコードの反応速度の問題を大幅に向上させた。QRコードの読み取りに時間がかかるのは、カメラで読み取りをする時に、露出と焦点を調整しなければならないからだ。RAKINDAはCCDセンサーをすり鉢状の奥に設置することで、この問題を解決した。外光の影響を受けづらく、スマートフォンがタッチした状態の露出と焦点を想定した設計にすることで、読み取り時間を0.3秒と大幅に短縮した。また、QRコードの画像解析アルゴリムズも大きく改善させた。

それでも地下鉄の改札などのシビアな環境ではまだ問題はあるが、バスのような環境であれば十分に実用的だと、中国交通部は判断したようだ。

f:id:tamakino:20170801100103j:plain

▲バスに設置され始めた支払い精算機。RAKINDAが開発し、QRコードの認識速度を大幅に向上させた。

 

QRコードにより、100%の電子化が達成できる

バスの支払いをQRコードにすると、NFCカード方式に比べて数々のメリットがある。ひとつは、アリペイ、WeChatペイなどのスマホ決済から直接支払えるようになることだ。交通カードは、使用前にチャージしておく方式が一般的で、オートチャージ方式をするには、システムの問題、金融機関との提携の問題などがあり、簡単ではない。スマホ決済では、事前チャージということ自体が不要になる。

また、交通カードの場合、残高が分かりづらく、乗車する時になって初めて残高不足に気がつく乗客が多かった。運転手がチャージ業務をしなければならず、場合によっては運行時間を遅れさせることもあった。

もうひとつ大きな問題が、交通カード方式では、電子決済率を100%にするのは難しく、現金支払いがどうしても残ってしまうことだ。市内居住の市民の多くは交通カードを利用しているが、市外からの出張客、観光客は現金を使う。都市交通は市が運営をしていて、市ごとに異なる交通カードが使われているからだ。

電子決済にする最終目的は、電子決済率を100%にして、現金のやり取りをなくすことだ。しかし、交通カード方式では、どうやっても現金決済が残ってしまう。一方で、スマホ決済はアリペイ、WeChatペイで決済ができるので、市外の人もそのままスマホ決済ができ、電子決済率を限りなく100%に近づけていくことができる。

 

ビッグデータ解析により配車計画を改善することも

中国交通部は別の次元でのメリットも感じている。中国ではすでに携帯電話は実名登録制になっていて、アリペイ、WeChatペイの支払いIDから、居住地、性別、年齢などがわかる。決済データを解析することで、路線計画や配車計画の参考にすることができる。交通カードは無記名で購入でき、貸し借りも簡単だったので、データは収集できるが、解析したデータはあまり役に立たなかった。

深圳だけでなく、武漢杭州、広州、青島、天津、温州などの都市が、QRコード方式の運用を始めている。スマートフォンを持っていない人、すでに交通カードを使っている人のために、しばらくはQRコードNFC両対応の機器を利用する。

 

武漢では、バスに乗ると現金が当たるキャンペーンも

8月1日から3日までの3日間、武漢市政府は、スマホ決済でバス利用すれば、乗車料金を12回まで無料にすると発表した。それだけではなく、自動的にくじも引けるというキャンペーンを行う。スマホ決済は、支払いだけではなく、現金の受け取りもできる。バスに乗車して決済をすると、最初の1回のみ、8.8元、88元、888元のいずれかが抽選でキャッシュバックされる。バスの利用を促して、市バスのよさを再認識してもらい、スマホ決済を一気に普及させようという狙いがある。

また、他の都市でも、「スマホ決済なら、3キロ以内の乗車は無料」などのような「ゼロ元運賃」を設定し、バスの利用を促す努力をしていくという。

中国のバスは、スマホをかざして乗るというのが今後の常識になりそうだ。

 

世界進出を狙う中国産スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」の戦略

中国のスマホ決済、アリペイとWeChatペイは、中国国内の大都市をほぼ網羅した。次に狙うのは海外進出だが、どのような戦略を持っているのだろうか。中国産スマホ決済がいよいよ本格的に海外進出を始めたと科技日報が報じた。

 

中国人観光客とともに海外進出する中国産スマホ決済

日本でも、アリペイとWeChatペイの普及が静かに進んでいる。私たち日本人には無関係に見えるが、百貨店、レストラン、観光地、タクシーなどインバウンド観光客が行きそうな場所ではどこででもアリペイ(支付宝)とWeChatペイ(微信支付)のロゴを見ることができる。ローソン、セブンイレブンも中国人観光客を取り込むためにアリペイに対応した。

WeChatペイ海外運営責任者の殷潔(いん・けつ)氏は、科技日報の取材に応えた。「日本での今年6月のWeChatペイ利用額は、1月の40倍に急増しました。加入する日本商店も6倍以上に増えています。中国は無現金社会の面で、世界をリードしていますが、海外でも、中国人が出かける場所から無現金化が広まっていくのです」。

中国国内の都市部では、スマホ決済が普及をし、大都市では無現金社会がほぼ実現されてしまっている。それはつまり、スマホ決済による収益の頭打ちを意味していて、アリペイ、WeChatペイともに、海外進出に力を入れてきている。しかし、海外に直接スマホ決済のシステムを輸出するのではなく、旅行熱が旺盛な中国人が現地で消費する莫大な人民元マネーをスマホ決済で吸収するのが狙いだ。2016年、中国人による海外消費は2610億ドル(約28兆8000億円)で、ここ数年世界一であり、さらには毎年10%以上の成長をしている。

f:id:tamakino:20170731104025j:plain

▲韓国でもアリペイ、WeChatペイが、中国人観光客とともに普及し始めている。韓国の観光産業にとっても、中国人観光客は重要だ。

 

外市場への本格進出は簡単ではない

アリペイは、金融企業「アリ金服」を通じて、2007年から海外展開を進めてきた。現在、欧米、日本、韓国、東南アジア、香港、マカオ、台湾など26の国と地域12万店舗がアリペイを導入している。また、ウーバー、グラブのライドシェアと提携し、世界70の国と地域で乗車料金の支払いがアリペイで可能になっている。さらに、政府との提携も進み、23の国で、旅行者は、消費税などの還付金をアリペイで受け取れる。いずれも、現地市民ではなく、中国人観光客が利用することを想定している。

中国産スマホ決済が伸びているのは、東南アジアと日本、韓国だ。「このような国々には、大量の中国人観光客が旅行に行っています。これが大きな原動力となって普及が進んでいるのです」。

しかし、中国人観光客でなく、現地の市民の間にも中国産スマホ決済を普及させるのは簡単ではない。人民大学国際通貨研究所の曲強(きょく・きょう)所長補佐は科技日報の取材に応えた。「まず、ブランドの認知力の問題があります。さらにアプリの使い方も国により異なり、これも調整が必要です。最も大きな壁は、現地の金融業界で、中国スマホ決済の進出は時として乱入者として見られがちです。現地業界の抵抗にあって、必要な法整備がなかなか進まないことも多いのです」。

f:id:tamakino:20170731104114j:plain

▲日本でもアリペイとWeChatペイのロゴをよく見かけるようになった。中国人観光客のためのものだ。

 

インドでは技術提携の形でアリペイが進出

中国産スマホ決済そのものを海外進出させるのではなく、技術輸出をする形で進出をしたのがインドだ。インドもホテル、レストラン、ガソリンスタンドなどでスマホ決済が進んでいるが、最も伸びているスマホ決済Paytmは、アリ金服社の技術支援を受けている。つまり、アリペイの技術がベースになっている。技術提携を受けてわずか2年で、Paytmは2.2億人の利用者を獲得し、今年4月には、電子決済の世界利用者ランキングで第3位になるというところまで成長している。

このような技術輸出は中国側にとっても大きなメリットがあるとアリ金服国際事業部のアナリスト呉暉(ご・き)氏は科技日報の取材に応えた。「インドのネットワーク回線はとても細く、質も高くありません。さらに、性能の低い格安スマホ使っている人が多く、通信費も高いので、利用者は通信量をとても気にします。そこで、Paytmでは通信量を極限まで絞り、利用者にストレスを感じさせない設計にする必要がありました」。

f:id:tamakino:20170731104203j:plain

▲インドでもPaytmが爆発的に普及し、路上の屋台でも対応している。良質の回線が確保しづらい環境では、QRコードをスキャンする方法だけでなく、店舗のID番号を手入力する方法でも支払いができる。

 

アセアン諸国3.6億人の”金融弱者”に狙いを定める中国産スマホ決済

インドはそれまで有力なスマホ決済が存在しなかった。そのため、アリペイの技術をベースにしたPaytmが爆発的に普及した。しかし、他の日本や韓国、欧米、東南アジアという地域には、すでに現地のスマホ決済が存在する。このような“ご当地決済”と真正面からぶつかって消耗戦を展開するのは得策ではない。

そこで、中国産スマホ決済が狙っているのが、金融弱者だ。世界銀行の統計によると、世界ではまだ20億人が銀行口座を持てず、60億人がクレジットカードを持てずにいる。住宅などのローンを組みたい人の21%は、非正規の金融機関を利用している。特にアセアン諸国に限ると、6.8億人の人口のうち、3.6億人が銀行サービスを受けられていない。この層に、中国産スマホペイは進出をしていこうとしている。

中国産スマホ決済の海外進出戦略は明確だ。海外旅行をする中国人とともに海外に出て行き、認知度を上げる。スマホ決済がない国には、インドのPaytmのように技術提携という形で現地ブランドのスマホ決済として浸透する。スマホ決済が発達している国では、銀行サービスを受けられない金融弱者を中心に展開をする。

中国産スマホ決済は、漢字と華人に次いで、中国がアジア圏に輸出する第3の発明品になるかもしれない。

f:id:tamakino:20170731104245j:plain

シンガポールでもアリペイが入り始めている。QRコードをスキャンして、暗証番号を入力するだけという手軽さが受けている。

決済の黒船 Apple Pay (日経FinTech選書)

決済の黒船 Apple Pay (日経FinTech選書)

 

 

中国の新小売革命を阻む農村という大きな壁

大手ECサイト企業、アリババと京東商城は、それぞれに農村地区に実店舗を出店する大規模な計画を進めている。しかし、利用率が上がらず、その計画に支障が出かねない状況になっていると、今日頭条が報じた。

f:id:tamakino:20170728133001j:plain

▲農村で見かける農村タオバオの広告。改革開放以前の社会主義スローガンが壁に描かれているのと同じセンスの広告。農村には、まだ50年前の時間が流れていることを象徴する写真として、中国国内で話題になった。

 

 

新たに生まれている都市と農村の電子決済デバイド

中国の都市部では、スマートフォンの普及率が95%越え、ほぼすべての商店、サービスがアリペイ、WeChatペイのスマホ決済に対応するという無現金都市になっている。一方で、農村地区は未だに現金が主流の社会で、農村と都市のテクノロジー格差は、急速に拡大している。

2016年、中国のスマホ決済額は58.8兆元(約964兆円)で、これは全体の消費支出額の42.2%。しかし、スマホ決済加入者は約5億人で、中国の人口14億人の35%でしかない。つまり、無現金都市、新小売革命は大都市で突出して起きていることで、農村には無縁の現象であることが推測される。

一概に比較をすることはできないが、総務省の家計消費状況調査年報(平成28年)によると、日本の2016年の電子マネー保有世帯は48.7%、平均利用額は月1万6133円。これは平均消費支出額24万円の7%程度にすぎない(この他に、クレジットカードや銀行引き落としもある)。

中国に比べてあまりに低い数字だが、日本の電子マネーの利用の特徴は、都市部と地方の格差が小さいことだ。利用者の年代も比較的高い。もっとも利用額が大きいのは50歳代で、70歳以上も平均で月1万3124円を消費している。日本の電子マネーが、全国津々浦々に出店し、地域の日用品供給の重要な拠点になっているコンビニを中心に普及をしていることを考えると納得がいく。日本の電子決済は、数字だけを見ると、中国に大きく立ち遅れてしまっているが、平均的に健康的な成長をしていると言える。

f:id:tamakino:20170728133113j:plain

▲京東商城が運営する京東便利店。ECサイト「京東商城」の商品の代理購入をしてくれる。5年で100万店舗出店の計画が立てられているが、実現が難しくなってきている。

 

農村の新小売革命の拠点となる農村コンビニ

一方で、中国の農村は、電子決済比率は低いものの、スマホ普及率は意外に高く、中国全体で65%ほどがスマホユーザーだ。農村部では、インターネット回線が少なく、PCも手軽には利用できないため、スマホを利用する人が結構多い。数百元(約5000円程度)の格安スマホも市場に出回っていて、農民にとっては「最もお金のかからないインターネット」になっているからだ。

ここに目をつけ、都市と農村の新小売革命格差を解消しようと、アリババは「農村タオバオ」、京東商城は「京東便利店」の出店を進めている。主な業務は代理購入だ。農民が店を訪れて、タオバオや京東商城のECサイトを閲覧し、購入したいものを選ぶ。その商品を店舗が代理購入をし、配送も店舗に行われる。購入者は連絡を受けて、店舗に取りに行き、代金を現金で支払うというものだ。

アリババは、2014年から「農村タオバオ」の出店を進め、すでに10万店舗を開設している。京東商城は今年から出店を始めたが、5年で100万店舗の計画を打ち出している。農村と呼ばれる地区は200万あるとされ、その半分をカバーする計画だ。

アリババや京東商城が狙っているのは、ECサイトの販路拡大だけではない。農村への物流拠点として活用することも狙っている。ECサイトの商品だけでなく、通常の宅配荷物も配送し、農村店から各戸へ配送することを計画している。アリババのジャック・マー会長は「7年以内に、中国全土での24時間配送を実現する」と発言している。また、この店舗を拠点にアリペイなどのスマホ決済の普及も狙っている。つまり、単なるECサイトの農村店ではなく、都市部で起きている新小売革命を農村に広げる拠点にしようとしているのだ。

f:id:tamakino:20170728133233j:plain

▲農村タオバオECサイトタオバオ」の商品を代理購入してくれる。農村の新小売革命の拠点にしようと、すでに10万店舗が営業している。

 

農村の消費行動を変えるのは簡単ではない

しかし、京東商城の出店計画の責任者が今年6月に辞職をした。今年の出店目標である50万店が達成できそうもないというのが原因だと推測されている。出店は直営方式ではなく、地元の有志によるフランチャイズ方式だ。そのため、運営コストは各店舗の経営者が負担をする。売り上げが上がらずに、コストだけかかり、経営に行き詰まってしまう店舗経営者も現れ始めている。

記者は、農村の店舗経営がうまくいかない原因を3つあげている。ひとつは消費者の年代の問題だ。農村では、50歳以下の人は都市部に出稼ぎに行っていて、農村にいるのは年寄りと子どもばかり。年寄りは、農村の公共市場である小売部に商品を買いに行く習慣があり、それを変えようとしない。小売部の店員と顔なじみになっていて、買い物をするときにおしゃべりも楽しむという余暇のひとつになっているからだ。

二つ目は消費習慣の問題だ。農民は「なくなったら買いに行く」という消費行動パターンを持っている。例えば、食用油を使おうと思って、なくなっていることに気がついたら、それから小売部に行って買ってくるのだ。夜など、購入できない時間帯の場合は、隣の家から借りたりする。それでじゅうぶん間に合っていた。

しかし、農村タオバオなどの場合、商品を注文してから、到着するまでに数日かかる。その間は、我慢をしなくてはならず、農村の消費行動とうまく噛み合わないのだ。事前になくなることを予測して、注文をするという行動に変えるには、まだまだ時間が必要だ。

もうひとつは配送コストによる価格の問題だ。確かに農村タオバオを利用すれば、自分の好きな商品を買うことができる。テレビであれば、「この機種」という指名買いができる。しかし、1台のテレビをわざわざ店舗に配送するために、配送コストがかかり、その価格は販売価格に転嫁されている。そのため、どうしても価格が高くなりがちなのだ。

一方で、農村にある実店舗では、一括して商品を仕入れるので、1商品あたりの配送コストは安く済む。農民は、店舗が仕入れた数種類の商品の中から選ぶしかなく、選択肢はとても少ないのだが、そこに不満を持つ農民はまださほど多くない。「テレビならどこのでもかまわない」「洗濯機ならなんでもいい」といった買い方が多く、それよりも店舗の主人との人間関係の中で、「店主が薦めるものを買う」という買い方がまだまだ多い。

f:id:tamakino:20170728133336j:plain

▲閉店された京東便利店。農民の消費行動を変えるのは簡単ではなく、経営に行き詰まる店舗も現れている。

 

農村の格差を解消して、無現金国家を実現できるか

アリババ、京東商城とも、今の施策のままで、計画目標が達成できるとは考えてなく、さらなる工夫が必要だとしている。需要予測システムを構築して、店舗がある程度の在庫を持つようにする、既存の小売部と業務提携をするなどの工夫が始まり、また、出かける足のない老人や遠方に住んでいる人たちのために、日用品を積んだワゴン車の移動店舗をつくり、配送と巡回店舗を兼ねるなどの試みも始まっている。政府もこの出店計画を後押ししている。なぜなら、農村タオバオや京東便利店を核にスマホ決済が普及をすれば、中国全体を電子マネー社会に進化させることができるからだ。それは、政府がすべての金の流れを把握できるということであり、金融犯罪や脱税といった問題を解決することができるからだ。

世界でも最先端を走る無現金都市だけでなく、中国は無現金国家となることができるだろうか。この農村店の計画の成功いかんによって、無現金国家への道が見えてくる。

f:id:tamakino:20170728133415j:plain

▲農村タオバオの店内。店主が、利用者に変わって、ECサイトの商品を注文。荷物の受け取りを行う。利用者はアカウントがなくても利用でき、支払いも現金で行える。

明るい農村 1800ml

明るい農村 1800ml

 

 

規模は小さくても、100都市、200万台。中国自転車ライドシェアに強力な伏兵

中国では自転車ライドシェアの起業が盛んだ。複数都市に展開をするライドシェアサービスだけでも20社近くがひしめき、競争は熾烈になっている。その中で、確固たる地位を築いたのが、ofoとMobikeの2強だ。一方で、わずか200人の企業で、100都市、200万台を投入しているhellobikeが話題になっている。hellobikeは、賢い戦略で急成長し、IT系スタートアップのお手本のような企業として注目されていると、中国起業家雑誌が報じた。

f:id:tamakino:20170727103406j:plain

▲自転車ライドシェアの意外な伏兵hellobike。あえて小都市をカバーすることで成長してきた。最近では、観光の足としても利用されている。

 

自転車ライドシェアの起業数は20を超える

中国では、2015年から、自転車ライドシェアの起業が続いている。GPSを搭載したシェア自転車で、スマートフォンアプリで近くの空き自転車を検索、電子錠をBluetooth経由で開錠して、料金は利用時間に応じてアリペイなどで自動精算。自転車を駐車していい場所であれば、どこでも乗り捨てられるという手軽さが受け、大手のofo、Mobikeは登録者が2000万人を超えている。

中国は、街の1ブロックが大きく、地下鉄の駅間も長い。そのため、地下鉄利用を基本に行動すると、目的地まで15分以上歩くのはごく普通だ。マイカーを運転していくと、今度は駐車場の確保と、渋滞に悩まされる。さらには、大気汚染の問題もある。このような事情から、低料金で利用できる自転車ライドシェアが急速に普及した。

f:id:tamakino:20170727103617j:plain

▲主な自転車ライドシェア企業。成長が見込まれる産業であるだけに、投資も集まりやすい。一方で、すでに市場から退場する企業も現れ始めている。

 

淘汰再編が始まった自転車ライドシェア業界

そして2年。すでに淘汰が始まっている。6月13日には、悟空単車がサービスを停止した。悟空単車は重慶市を拠点にサービスを始め、他都市に展開しようとしていた。重慶は、人口が2800万人という超巨大都市だが、長江の3つの支流が合流する場所に位置し、中心部は河岸から急峻な斜面にあるという“坂の街”だ。

つまり、自転車には向かない都市で、多くの市民はバスなどの公共交通か、自動車、電動バイクに依存している。さらに、悟空単車はGPSを搭載していないため、利用者が空き自転車の場所を検索することができない。それだけでなく、悟空単車自身も自社の自転車がどこにあるのかが把握できない。90%の自転車の位置が把握できず、利用率が上がらない上に、市民からは放置自転車が邪魔だと不満が上がっていた。管理が手薄いことから、盗難、破壊、投棄も頻発した。

6月21日には、3Vbikeがサービスを停止した。悟空単車と同じように、管理が雑であったため、ほとんどすべての自転車が行方不明になるという有様で、サービスの継続が難しくなったと判断したようだ。

つまり、初期のマーケティング戦略が間違っていた、サービス開始後に適切な施策を打たなかったという、あまりにも典型的な失敗だった。

 

成功と失敗を繰り返した起業家、楊磊

ofoとMobikeは、この点、うまくやっている。人口の多い一級都市からサービスを始め、利用者には信用ポイントを付与し、自転車を丁寧に扱うように誘導している。地方政府と協議し、駐輪場所を定め、放置自転車を回収する市民ボランティアを組織するなど、サービスの拡大だけではなく、市民生活に溶け込む努力をしている。

しかし、この2強とはまったく違った戦略で、急成長しているスタートアップがある。それがhellobikeだ。

hellobikeは社員数わずか200人。それで、100都市に200万台の自転車を投入している。カバー都市数、投入台数ではofo、Mobikeを圧倒している。しかも、一台あたりの1日の営業コストは0.3元と驚異的に低く、売り上げはさほど大きくなくても、利益率は相当に高いと推測されている。なぜ、hellobikeは急成長できたのか。

創設者の楊磊(よう・らい)CEOは今年29歳で、中国のスタートアップ経営者としては決して若くはない。2013年に自動車運転代行のスタートアップを始めて、わずか1年で、200都市に展開、社員数は600人に成長し、業界第2位の地位を占めるまでになった。

しかし、システムの大幅改良を当時のCTOに任せたところ、突如、システムダウンし、アプリからサービスの申し込みができない状態になった。営業できない状態が1週間半続き、回復をしても、逃げた客と信用は戻らず、業績は急降下した。

2015年7月、業績が安定をすると、楊磊はCEOを辞職して、米国に行きFacebookなどを視察した。帰国後、アプリで近くの空き駐車場が検索できて、そのまま予約ができるという「車鑰匙」というスタートアップを始めた。利用者からの評判はよかったが、事業の拡大に比例して社員を増やさなければならず、すぐに社員数は200人に膨れ上がってしまった。楊磊CEOの脳裏に、以前の大失敗が蘇った。社員数が多くなると、一人ですべての業務を把握することが難しくなり、そこに大失敗の入り込む隙が生まれる。

楊磊CEOは、今のビジネスを捨てても、少ない社員数で成長していける新しいビジネスを模索するようになる。

f:id:tamakino:20170727104104j:plain

知名度は低いhellobikeだが、提供都市数、投入台数では、ofo、Mobikeの2強を圧倒している。いよいよhellobikeの大都市への侵攻が始まろうとしている。

 

少数精鋭で、狙うのはブルーオーシャン

2016年になって、楊磊CEOは駐車場マッチング事業を売却し、リストラを行い、社員数を40人まで減らした。そして、自転車ライドシェア事業に目標を定めた。

新事業を行うにあたって、楊磊CEOは、過去の失敗から、いくつかの原則を自分の中で定めた。

  1. 社員数は可能な限り増やさない:社員数が増えると、社内の管理をすることに時間が取られてしまい、事業に集中できなくなる。
  2. 徹底的にコストダウンし、利用料金を安くする。しかし、品質は下げない:答えは徹底したITシステムによる管理だ。最高のバックヤードシステムを構築することが最も重要だと考えた。
  3. 徹底してブルーオーシャン市場を狙う:ホットな市場で、ライバルと戦うのは面白いし、やりがいはある。しかし、それは事業の本質ではない。競争を避けて、空いている市場で、良質のサービスを構築することに集中する。ライバルと戦うのは、その後でいい。
  4. 可能な限り、現場で働く:変化の激しいこの時代に、豪華な執務室にこもっていたのでは、すぐに消費者の感覚がわからなくなってしまう。可能な限り、現場に出て、消費者の感覚を肌で知る必要がある。楊磊CEOは、今でも、街に出て自転車の回収作業や、修理作業をしている。

 

農村から地方を包囲する。毛沢東の戦略で急成長

hellobikeの本社は上海にある。だとしたら、上海からサービスを始めるのが自然だ。しかし、楊磊CEOは上海を見送った。すでに競争が激化して、レッドオーシャンになっているからだ。次に候補に上がったのが北京だった。楊磊CEOはこれも見送った。北方は、気温が零下になる季節が4ヶ月もあり、自転車に乗るには向かない場所だと考えたからだ。

では、どこからサービスを始めるのか。楊磊CEOが出してきたアイディアに、社員はみな驚いた。楊磊CEOは、毛沢東がかつて国民党軍と戦った戦術「農村から都市を包囲する」を採用した。つまり、大都市ではなく、小さな都市からカバーしていこうというのだ。

これにはさまざまなメリットがあった。

  1. 利用時間が圧倒的に長い:大都市ではそれなりに公共交通が発達しているので、自転車の利用は「最後の1km」と言われ、15分程度の利用が多い。しかし、小都市では公共交通が未発達なので、自転車に乗る時間が長くなる。実際に60分前後の利用が多い。稼働率が圧倒的に高くなる。
  2. 地方政府、地元市民の理解を得やすい:自転車ライドシェアは大都市では摩擦も多い。放置自転車に対して市民からクレームも数多く出ている。一方、地方政府は公共交通の不足に悩んでいるので、hellobikeを歓迎し、積極的に駐輪場を整備してくれる。市民コミュニティーもしっかりしていて、放置自転車を回収するボランティアも組織しやすい。
  3. 小都市の潜在消費力は小さくない:多くの自転車ライドシェアが消費力の大きい大都市からカバーしていこうとする。しかし、30分1元という低価格であれば、所得の低い小都市であっても、高い価格ではない。それどころか、公共交通の発達していない小都市の方がはるかに総需要は大きい。
  4. 小都市の重要産業は観光である:産業規模の小さな小都市は、観光産業が収益の大きな柱になっている。つまり、大都市からの観光客にhellobikeを利用してもらえる。小都市でhellobikeを使ってもらい、名前を知ってもらえれば、大都市に進出する足がかりとなる。

こうして、小都市をカバーすることで、大都市を包囲し、最後に大都市を攻略しようというのだ。

f:id:tamakino:20170727103942p:plain

▲ある研究機関が発表した自転車ライドシェアの需要予測。実は、一級都市ではなく、三、四級都市の方が総需要は大きい。都市数が多いからだ。効率的な管理運営システムが構築できれば、最も需要の大きな三、四級都市への展開ができるはず。hellobikeはそれを実践して、急成長してきた。

 

大都市で、地方都市で始まるhellobikeとの競争

hellobikeは、観光都市蘇州からサービスを開始し、寧波などの南方の小都市を中心にサービスを展開していった。今年の7月には、地方小都市ばかり100都市に展開をし、投入車両は200万台を超えた。提供都市数、車両数ではNo.1の自転車ライドシェア企業になったのだ。

楊磊CEOは言う。「現在、1台あたりの1日の営業コストは0.3元ですが、これを0.1元まで下げる努力をしています。現在の社員数は200人ですが、サービスを拡大しても、社員数を増やす予定はありません。今のシステムなら、200万台を管理するのも1000万台を管理するのも同じ程度の手間で可能です」。

ofo、Mobikeといった大手は、大都市のカバーをほぼ終わり、次の市場を求めて地方都市への展開を始めている。ここでhellobikeとぶつかることになる。「まったく怖くありません。ライバルはサービスの拡大しか考えていないからです。大量の自転車を投入しても、それをどう効率的に管理するか、その管理を行うITシステムをどのように改善していくのかは、あまり考えていないように見えます」。

楊磊CEOは、週に何回か、夕方に仕事を終えると、蘇州や杭州といったサービス地域に出かけていく。着くのは夜中になってしまう。そこでhellobikeの自転車を1台1台点検して回る。「hellobikeはまだ60点です。まだまだシステムを改善していかなければなりません。自分で自転車を点検することで、改善すべき点が見てくるのです」。

中国自転車ライドシェアは、ofo、Mobikeの2強で市場が形成されるに見えたが、強力な伏兵が地方から侵攻してくる。

 

中国テンセントが猛反発したアップル税がようやく廃止に

アップルのApp Storeガイドライン改定により誕生した“アップル税”に、中国大手IT企業テンセントが猛反発をしていたが、最終的にアップル側が折れ、アップル税は廃止になったと澎湃新聞が伝えた。

 

大反発を受けた“アップル税”

アンドロイドアプリと異なり、iOSアプリはアップルが運営するApp Storeを通じて配布、販売することが原則になっている。有料アプリの販売益、アプリ内課金の利益の30%はアップルに入る契約になっている。

この収益は決して小さくない。2016年のApp Storeの売り上げは、243.48億ドル(約2兆7300億円)で、アップル全体の売り上げの11.3%を占めている。また、2016年は前年比49%増、2015年は前年比35%増と、アップルの収益の柱に育ってきている。

そこで、アップルは6月にApp Storeガイドラインを改定し、さらに収益力を強化しようと図った。これがテンセントの猛反発を招いた。

 

投げ銭収入の最高額は月収19億円

中国のアプリには、「打賞」「賛賞」と呼ばれる機能を持っているものが多い。これは発言者に対して、投げ銭を贈れるシステムだ。SNSなどで優れた記事を発表してくれた人に対して、あるいは動画配信アプリで面白い動画を発表してくれた人に対して、好きな額のお金をアリペイ、WeChatペイなどを使って送ることができる。

これにより、一般の人の中から、ブログを書いたり、生中継をして生計を建てる人が登場してきている。日本のアルファブロガーやユーチューバーにあたる人たちが登場してきた。さらには、新聞社、雑誌社やテレビ局なども自社コンテンツを配信し、収益が見込めるようになった。

この打賞による「投げ銭」は広く普及し、陌陌アプリが発表した投げ銭額トップ10ランキングの配信者の平均月収は75.5万元(約1250万円)で、過去には月収1.15億元(約19億円)という記録が生まれたこともある。

特に人気があるのが女性の配信者で、女主播と呼ばれ、視聴者との会話を生中継することで人気をつかみ、女主播から新たなスターが生まれている。今、小中学生の女の子の過半数が、将来なりたい職業に女主播を挙げるという。

もちろん、常識外の大きな収入を得られるのは、トップクラスの数十人であり、そこから下は生活をしていくのもギリギリな収入でしかなく、投げ銭収入全体が莫大な金額になっているのかどうかは不明だ。しかし、年々成長していることは間違いがない。

f:id:tamakino:20170726120124j:plain

▲女主播と呼ばれる女性動画配信者が流行をしている。動画配信サイトによって、投げ銭の履歴が画面下に次々と表示される。トップクラスの女主播になると、月収が1000万円を超える。

 

アップル税は投げ銭の30%

アップルは、ここに目をつけ、アプリ内でやりとりされる金銭もアプリ内課金の一種であり、アップルのアプリ内課金の仕組みを利用しなければならないというガイドラインの改定を行った。アプリ内課金以外のルートで金銭をやり取りするアプリは、ガイドライン違反なので、App Storeからリジェクトすると通告したのだ。リジェクトされれば、アプリが配布できなくなる。

知乎(Q&Aアプリ)、陌陌(近くにいる見知らぬ人と交流できるSNS)、今日頭条(ニュースアプリ)、映客(動画配信アプリ)などは、アップルのガイドライン改定に従い、ユーザー同士での金銭のやり取りも、アプリ内課金の仕組みを使って行うようにアプリを修正する方針を固めた。

この場合、やり取りした投げ銭の30%はアップルに入ることになる。あるユーザーが100円の投げ銭をした時、それがアンドロイドスマホやウェブからであれば、配信者に100円が入る。しかし、iOSアプリから投げ銭をした場合、配信者に70円しか入らないことになる。ユーザーからも配信者からも、これは「アップル税ではないか」という批判の声が上がった。

f:id:tamakino:20170726120317j:plain

▲打賞機能は、面白い発言や動画を発信した人に、直接アリペイなどで送金ができる機能。

 

テンセントが猛反発、アップルが譲ることで解決

この問題に、テンセントはiOS版のWeChatから「投げ銭」機能を削除し、アップルに対して、ガイドラインを再考するように申し入れた。ネットワーカーたちは、続々と中国工信部(日本の総務省通信部門に相当)に陳情をした。しかし、工信部は「企業間の利益配分の問題であり、当事者同士で解決すべき問題。政府機関が介入する問題ではない」と回答した。

ただし、多くの専門家は、アップルが市場の中での支配的な地位を乱用して、市場の健全な競争を阻害し、他社の利益を損なおうとしていると批判し、国家商工総局が適切な時期に調査に入ることになるだろうと発言している(実際に立ち入り調査が行われたかどうかは不明だが、多くのメディアが商工総局とアップルの”話し合い”が持たれたのではないかと見ている)。この間、テンセントとアップルの間でも水面下で協議が行われていたと見られている。

7月17日になって、iOSアプリ開発企業の関係者が、澎湃新聞に匿名で取材に応じた。「投げ銭機能は、アプリ内課金の仕組みを利用しないことになった。アップルは、投げ銭機能の意義を再考し、ガイドラインをさらに改定する用意があるようだ」と語った。

アップルは、なにもコメントをしていないが、同様の発言が他のiOSアプリ開発企業からも行われたため、アップル税が廃止される見通しが確定的になった。一時、ネットワーカーたちは、「アップルは、中国人の得るべき利益を米国に吸い上げようとしている」という国家間での対立を煽るような危険な物言いまでしていて、アップル税問題は深刻化する危険性があったが、アップルの決断がこの問題に終止符を打った。

しかし、ネットワーカーたちの間では、アップルのイメージは下落し、それに屈しなかったテンセントのイメージが急上昇した。アップルは、アップル税収入を失っただけでなく、イメージまで自ら毀損してしまうことになった。

Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学

Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学

 

 

寂れゆく中国深圳の”ラジオ会館”ーー華強北電子商城。空室率が40%の商城も

深圳市の華強北(ホワチャンベイ)と言えば、電子製品の卸市場街として世界的に有名で、ガジェット好きの人が深圳に行けば、必ず訪れるという地域。しかし、時代は変わり、華強北の商城にも空き店舗が目立つようになり、空き店舗率が40%に達している商城もあると深圳新聞網が報じた。

f:id:tamakino:20170725110013j:plain

▲深圳市の華強北。今でも通りは大勢の人で賑わっているが、商城の上層階では、倒産する小規模店舗が増えている。

 

空き店舗率が40%にも達する商城も

ガジェット好きの人にとって、華強北は朝から晩までいても飽きることのない夢の国だ。商城と呼ばれるビルが建ち並び、その中に無数の小規模店舗がひしめいている。著名メーカーの電子製品が驚くほどの価格で販売され、中古品はビニール袋で梱包され山積みになっている。さらには、山塞(シャンジャイ)と呼ばれる独立小規模メーカーの店舗が無数にある。数人の仲間で、携帯電話やPC周辺機器を製造し、店舗で販売している。中には、品質が悪く、権利関係を無視した偽物製品もたくさんある。法的な問題はあるが、見ているだけでも楽しい場所だった。

しかし、時代が変わり、その商城にも空き店舗が目立ち始め、空室率が40%に達している商城もあるという。夢想青年科技が公開した曼哈数碼広場の取材映像では、シャッター通りとなっている無残な姿が映し出されている。

記者が、華強北で最も有名な華強北電子世界を取材してみると、1、2階のメーカー製品売り場は相変わらずの賑わいだったが、4階の携帯電話売り場は閑散とし、閉店をしている店舗が目立った。営業を続けている店主に尋ねると、「携帯電話の売れ行きが以前から落ち込んでいて、倒産する店舗が相次いでいます。この一角は、デジタル一眼レフカメラ売り場に改装される予定だと聞いています」と言う。

明通数碼城も1階は相変わらず賑わっていたが、2階には空き店舗が目立ち、「入居募集中」の張り紙があちこちに貼られている。明通数碼城の管理会社に取材をすると「家賃3000元の店舗を1920元まで割り引いていますが、入居する人が見つからない状態で、空室率は40%に達しています」と言う。

以前の華強北の賑わいを知っている人にとっては、なんとも切なくなる状況だ。

f:id:tamakino:20170725110111p:plain

▲曼哈数碼広場の2階は、ほとんど営業している店がなく、閑散としている。1階も営業している店が半数ほどになってしまった。

 

携帯電話の進化によって、零細メーカーが次々と脱落

空き店舗が増えたのには、複数の要因が重なっている。ひとつは、2010年頃から、華強北の商業組合が協同して「品質の華強北、誠実の華強北」運動を進めてきたことがある。低品質の製品や権利侵害をしている山塞製品を売る店舗には、店舗を貸さない、賃貸契約を延長しない運動を進めてきたため、空き店舗が増えていった。それでも、問題のある店舗が排除できたことに、地元商業組合は一定の成果があったと感じている。

もうひとつの理由は、タオバオなどの個人レベルでも簡単に出品できるECサイトが登場したことだ。華強北に店を構えるよりも、ECサイトで販売した方が、家賃や光熱費は不要で、中国全土に売ることができる。タオバオの流行とともに、商城の店舗は減少していった。

記者は今でも営業を続けている山塞携帯電話を製造販売する店舗に取材をした。「山塞携帯電話のいちばんよかった時期というのは、2Gの携帯電話時代だったのです。あの頃は、深圳周辺の中小企業がパーツを生産し、それがジャンク品として大量に流通していました。それを購入して組み立てれば山塞携帯電話が簡単につくれました。しかし、3Gの携帯電話時代になると、内部が複雑になり、大量生産をする大メーカーでないと、製造原価が高くつくようになってしまいました。山塞メーカーの中には、大量の資金を投入して携帯電話を製造するところもありましたが、零細の山塞メーカーは資金面でついていけなくなったのです」。

そして、4G、スマートフォンの時代になると、零細メーカーではほとんど手が出せない製品になっていった。大量の資金を投入して、数百万台を製造しなければ、利益がだせないのだ。山塞メーカーは、現在では安価なアンドロイドスマホ仕入れて、外装を改造したスマホを販売するようになっている。

f:id:tamakino:20170725110152p:plain

▲曼哈数碼広場は、入居者募集中の張り紙が出て、中が荒れている店舗が多い。空き店舗率が40%を超えてしまっている。

 

昔を懐かしむ深圳悲歌

品質に問題があり、権利侵害もしている山塞製品は確かに問題はある。しかし、それを面白がる人が一定数いたことも確かだ。そういう妖しさを楽しめる場所が、深圳から消えようとしている。一部のマニアからは「深圳悲歌」と呼ばれ、昔を懐かしむ声があがっているという。あの熱気の塊のような華強北を体験できた人は、その思い出が一生の宝物になるかもしれない。

f:id:tamakino:20170725110228j:plain

▲在りし日の深圳市華強北の遠望数碼城。華強北の商城はどこも熱気の塊で、身動きもできないほどだった。

プラッツ 1/1000 ラジオ会館×シュタインズゲート ラジオ会館 プラモデル

プラッツ 1/1000 ラジオ会館×シュタインズゲート ラジオ会館 プラモデル

 

 

スマホも不要。進む杭州市の顔認証サービス。顔パスの未来がもう始まっている。

浙江省杭州市と言えば、中国を代表する古都。その古い街で、顔認識技術を応用した本人認証サービスが多方面で始まっている。古今東西文人墨客が愛した西湖を抱える古都が、未来都市に生まれ変わろうとしている。都市快報の記者が取材した。

 

顔パスで、ホテルにチェックイン:星都酒店

杭州市の都市部人口は約700万人。中国の都市の中では小さい方だが、文人墨客が愛した西湖があり、中国特有の熱気や喧騒とは無縁の落ち着いた静かな都市だ。その古都が、顔認証技術を導入することで、未来都市に生まれ変わろうとしている。試験導入や実証実験ではなく、官民一体になって実用サービスとして導入され始めているのだ。アリババが、レジなしの無人スーパー「アリババ無人販売店」の第一号店を杭州市に開いたのは、このような杭州市の取り組みがあったことと無関係ではないだろう。

杭州市の中心街北側の拱墅区にある星都酒店は、チェックイン時に顔認証を導入した最初のホテルだ。中国では旅行や出張の際、身分証の携帯は必須だ。ホテルに宿泊するときには必ず提示を求められるし、博物館、美術館などの公共施設を利用するときにも提示が必要になる。家に忘れてきたり、紛失してしまうと、なにもできなくなり、すぐに警察に届け、仮身分証を発行してもらう必要がある。

しかし、星都酒店では、身分証がなくても、顔認証でチェックインができる。専用機器のカメラの前に立ち、身分証の番号を入力すると数秒で照合が行われる。公安部の身分証データベースと連結しており、事前登録のようなものは不要だ。身分証に使われている写真と同一人物であるかどうかを判定するだけなので、認識率はほぼ100%。星都酒店では、身分証を忘れた、荷物に紛れてすぐに出てこないという宿泊客に限って、補助的に使っているが、それでも毎日2、3人が利用している。

このシステムを開発した悉点科技の開発責任者によると、現在の判定精度は99.8%。星都酒店ではすでに4ヶ月間、このシステムを使い、2、300人の宿泊客が利用したが、トラブルは一件も起きていないという。他のホテルも今後、この顔認証システムを導入していく予定だ。

f:id:tamakino:20170724103114j:plain

▲星都酒店の顔パスチェックイン。公安部の身分証データベースと照合するので、身分証の顔写真と同一人物であるかどうかを判定する。顔画像から個人を検索するのではなく、一致を判定するだけなので、精度は高い。すでに、数百人が利用して、トラブルはゼロだという。

 

顔パスでゲートが開く駐車場:杭州蕭山国際空港

杭州市の国際空港である杭州蕭山国際空港の駐車場では、顔認証技術が使われ、「顔パス支払い」が可能になっている。スマートフォンも不要で、顔を見せるだけで駐車、支払い、出庫ができる。事前に専用アプリに、自分の顔と自動車のナンバー、アリペイのIDを登録しておく必要があるが、それができてしまえば、入り口のバーの前に車を一旦停車させるだけで、前方のカメラが運転席の本人の顔と自動車のナンバーを読み取り、バーが開く。駐車料金はアリペイから自動的に支払われる。ドライバーは、操作のようなことをする必要はなく、ただゲートの前に車を止め、そのまま数秒持っているだけでいい。

このシステムは、アリババが開発した「無感支付」と呼ばれるもので、杭州市だけでなく、中国全土の駐車場に広がり始めている。

f:id:tamakino:20170724103206j:plain

▲空港の駐車場では、顔認証によるゲートの開閉が行われている。カメラで、運転席のドライバーの顔、車のナンバーを認識し、料金はアリペイから引き落とす。ドライバーは、運転席に座ったままでいい。

 

顔パスで現金を引き出し:中国農業銀行

中国農業銀行では、銀行カードを持っていなくても、顔認証でATMの操作が可能になっている。ATMにカードを入れる代わりに、顔認証をして、身分証の番号とカードの暗証番号を入力する。これで、通常のカードと同じように、引き出し、入金、振込などの操作ができるようになる。銀行カードを持ち歩く必要がなくなったと、預金者からは好評だ。

しかし、本人の顔写真を、ATMのカメラに見せるなどして、ハッキングされてしまう危険性はないのだろうか。このシステムを開発した雲従科技の開発責任者によると、通常の顔画像と同時に赤外線による顔画像も同時に取得しているため、生体の顔でなければはじかれてしまうという。顔写真で誤認識させるということは不可能であり、現在のところ、そのような事件は1件も起きていないという。

 

顔パスで日用品をレンタル:徳信北海公園小区

杭州市北側の高級住宅街には小区と呼ばれるマンション群が林立する。出入り口には警備員がいて、居住者以外が出入りするときは、警備のチェックを受ける必要がある。小区の中は、公園のように整備されていて、居住者が散歩を楽しんだり、子どもを遊ばせたりしている。この中のひとつ、徳信北海公園小区の中には、居住者だけが利用できる生活用品のレンタル店がある。自転車の空気入れ、ベビーカー、折りたたみ椅子、雨傘、レインコート、レインブーツ、充電バッテリーなど10数種類の商品が用意されている。

ここにも顔認識技術が使われている。店舗に置かれているタッチパネルのメニューから借りたい商品を選び、レンタル料金を確認した後、「レンタル」ボタンをタッチする。すると、顔認証が行われ、アリペイ用のQRコードが表示される。これを自分のスマートフォンでスキャンすると、アリペイで支払いが完了する。初めて利用するときは、身分証の提示や顔の登録が必要だが、2回目からは貸し出し、返却の際は、身分証不要で、顔パスが可能になった。

このサービスは好評で、他の小区からの出店要請も多く、需要の高い小区、集合オフィスビルなどへの出店がすでに決まっている。

f:id:tamakino:20170724103137j:plain

▲マンション内にある日用生活品のレンタル店。顔パスで貸し出し、返却の処理が行え、支払いはスマホ決済。利用者からは好評で、他の小区、オフィスビルなどからの引き合いが多いという。

 

顔パスで出退社:杭州人工知能小鎮

杭州市のIT企業、中国(杭州人工知能小鎮では、顔認識を使って、社員の出退勤を管理している。中国(杭州人工知能小鎮の入り口手前には、60インチの液晶モニターが置かれている。社員はこの前に立つだけで、顔認識され、モニターに社員証番号と姓名が表示される。同時に、入り口の自動ドアが開き、会社の中に入れる。

このシステムを開発した宇泛科技の蘇亮亮CEOによると、朝夕は大人数の社員が出退勤をする状況を想定し、同時に40人までの顔認証が可能なように設計されているという。実際に利用している社員は、スピーディーに認識が行われるので、実際にはモニターの前で立ち止まる必要がなく、モニターの方に顔を向けて歩いていけば、止まることなく自動ドアが開いて、中に入れると好評だ。

宇泛科技の蘇亮亮CEOは、当初、このシステムを顔ではなく、胸に下げている社員証のQRコードを認識する設計で開発を始めた。社員が、社員証をスキャナーにかざすのではなく、歩いているだけで社員証のQRコードを認識させようと考えていたのだ。ところが、この動いているQRコードを認識するというプロセスは複雑な画像処理を必要とし、1人ではうまくいくものの、2人になるとシステムが混乱し、処理時間が大幅に伸びてしまったという。そこで、顔認識に注目したところ、スピーディーな処理ができるシステムになったという。

宇泛科技では、同様の顔認識技術を応用した入館管理システムを開発し、柒号主場東聯館などのジムの入館管理に採用されている。今後も、ジムを中心に導入されていく予定だという。

現状では、顔認証が応用されているのはまだ一部でしかない。しかし、杭州市政府はこの技術導入を促し、杭州市を「顔パス都市」にしていく計画を立てている。杭州市は、アリペイなどのスマホ決済を促す政策も進めていて、すでに「無現金都市」の宣言をしている。数年以内に、身分証を携帯することなく、日常生活が送れる環境を構築することを目指しているという。未来は杭州市から始まろうとしている。

f:id:tamakino:20170724103150j:plain

▲IT企業の出退勤管理に使われている顔認証。画面では社員証のバーコードをカメラに見せているが、現在は不要で、顔認証だけで、右側の自動ドアが開く。

mouse USB顔認証カメラ Windows Hello 機能対応  CM01