中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

夜空が広告スペース。進化するドローンダンシング広告

ファーウェイが新機種nova 4のプロモーションで、湖南省長沙市を流れる湘江の上空で、200台以上ものLEDつきドローンを使って、ドローンダンシング広告を行った。全体が回転するなど、ドローンの自律飛行技術も進み、大きな話題になったとIT之家が報じた。

 

スマホの広告で夜空にドローンダンシング

ドローンダンシング広告とは、LEDつきのドローンを自律編隊飛行させて、夜空に図形や文字を描き出すもの。このドローンダンシングでは、nova 4の本体と特徴的なトリプルカメラ部分の図形を描き出し、全体が回転をするという進化を見せた。nova4は、前面のセルフィーカメラがパンチホールカメラと呼ばれる小さな穴になり、全画面フルベゼルレスを実現したもの。

一方、背面のフロントカメラは、標準、広角、深度測定用と3つのカメラが装備されたトリプルカメラになっている。

この2つの特徴的な図形が湘江の上の夜空に描き出された。

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▲湘江の夜空に描き出されたnova 4の文字。

 

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▲ドローンで、nova4の特徴的なデザインを描き出した。nova4はノッチがなく、前面にパンチホールカメラがあるフルベゼルレススマートフォン。そのデザインをうまくアピールしている。

 

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▲背面はトリプルカメラ。この特徴的なデザインも夜空に描き出された。

 

数百万人が見る夜空の広告

使われたドローンは200台以上、長沙市の人口は740万人なので、数百万人がこのドローンダンシングを見たことになる。

ドローンを飛ばすという演出であるため、湖や川の上空でなければできないが、中国には、大きな湖を抱えた都市が多い。今後、新たな広告手法として定着する可能性がある。


华为橘子洲头无人机灯光秀,刷屏长沙朋友圈

▲ファーウェイの公式ビデオ。タイムラプス処理がしてあるので、実際はここまで高速回転するわけではない。

 


Nova 4 drone light show (HD) Trailer , light up the brightest star in the night sky🌟⭐✨🔥

▲ファーウェイのドローンダンシングを実際に撮影した映像。動きはゆっくりだが、その方が市民から注目されやすい。全体がゆっくりと回転している。風などの影響で乱れるドローンもあり、制御の難しさがうかがわれる。

 


EHang Egret’s 1374 drones dancing over the City Wall of Xi’an, achieving the Guinness World Records

▲ドローンメーカー「億航」(EHANG)が西安市で行なったドローンダンシング。ドローンの動きとLEDライトの点滅をうまく組み合わせて、夜空に幻想的な図形を描き出している。

 

中国で横行する課金返金詐欺に悩まされるアップル

中国でアップルのiPhoneなどのiOSバイスゲームで、代理返金ビジネスが問題になっている。ECサイトタオバオ」、SNS「WeChat」で客を募り、客に変わってゲーム課金をアップルから返金させる。その10%から40%を手数料として受け取るというビジネスだ。アップルの手厚い消費者保護ポリシーを悪用したビジネスで、各方面から問題視されていると中国新聞網が報じた。

 

課金を返金してもらうグレーなビジネス

ECサイトタオバオ」などを検索すると、「アップル代理返金」という商品が大量に見つかる。WeChatなどで連絡をすると、iOSバイスのゲームなどを購入またはゲーム内課金したお金を、利用者に代わって、アップルと返金交渉をしてくれるというものだ。

すでに購入したゲームのアイテムなどは消えずにそのまま利用することができるため、利用をする人が後を絶たない。もちろん、アップルに対して不正な行為であり、アップルから訴えられる可能性はある。しかし、法的に違法だと断定するわけにもいかず、グレーなビジネスとして広がり、無視できなくなっている。

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▲返金詐欺の広告は、建前上は「iOSの問題解決します」という文言が使われる。1元で購入すると、先方から連絡が来て、返金交渉をしてくれる。

 

消費者保護ポリシーの抜け穴を利用する

App Storeなどで購入したアプリ、あるいはアプリ内課金の返金は、アップルは原則として認めていない。しかし、一切認めないというのは消費者保護の観点から問題がある。そこで、利用者が直接交渉をして、正当な理由があると認めた場合は、アップルが返金をする。

正当な理由とは「購入したのにダウンロードできない。あるいはダウンロードに常識外の時間がかかる」「アプリを起動したが、App Storeでの紹介とあまりに異なる内容だった」などのアプリ側の問題や、最近増えているのが「子どもが勝手に購入ボタンを押してしまった」などだ。

 

返金をしてもらっても、課金したアイテムは消えない

もちろん、アップル側も言われたら必ず返金するというわけではなく、該当するApple IDの履歴を確認する。購入と返金を何度も繰り返している場合、明らかに利用していないと思われるApple IDなどの場合は、返金を拒否する。

アップルは返金をしても、いちいち該当のアプリ運営元に連絡をするようなことはしていないようだ。購入課金、アプリ課金は、3ヶ月ごと(契約によって異なる)の支払い時期に、アプリ運営元に送金される。この時の明細に、返金分の記載があるのみだ。そのため、アプリ運営元は返金が発生したことは支払いサイトが回ってこないと知ることができない。そのため、返金をしたユーザーのアイテムを消去するなどの措置をとることができない。

このことを悪用すると、ゲームアプリのアイテムを購入し、使い切った時点でアップルに返金請求をすると、タダでアイテムを利用することができてしまう。

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▲ゲームのアイテムを購入し、それを割引販売。自分はアップルから返金してもらうという流れができあがっている。この広告では、6480個のダイアモンド(ゲーム内のアイテム)は648元だが、435元で販売されている。

 

手数料は20%から40%。支払わないと個人情報が売られる

しかし、一般のユーザーは、そもそも返金申請ができることを知らないし、返金をしたらアイテムなどは当然消えてしまうと思っている。代理返金業者は、このような隙をついて、ユーザーに代わって、アップルのサポートに電話をし、返金をさせる。

ただし、必ず返金ができるとは限らない。何度も返金をしているユーザーの場合は、アップルから拒否をされる。そのため、このビジネスは「返金できなかったら無料」になっている。また、どのような理由で返金申請をすれば通りやすいかなど、ある程度のノウハウもあるようで、代理返金ビジネスをするためのノウハウ集を情報商材として販売している業者もいる。

報酬は一般的には返金額の20%から40%程度。返金の難易度に応じて報酬は違ってくる。返金に成功すると、ユーザーの銀行口座やスマホ決済口座にアップルから入金がある。そこから規定の報酬を支払ってもらう。

当然ながら、報酬を払わずに逃げ回ってしまうユーザーもいる。その場合、業者はどうするのか。「基本的には放置です。元手がかかる商売ではないので、報酬を支払ってもらえなくても大きな損害にはなりません。それに一度返金をしてしまったApple IDは、次の返金の難易度があがるので、もういいお客ではなくなるのです。代理返金をするときに、Apple IDや個人情報、相手が教えてくれればパスワードなどを聞き出しますので、それを業者に売却して終わりです」。

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▲返金の方法を伝授する情報商材も販売されている。初級が1988元(約3万2000円)で購入できるそうだ。


養殖をしたApple IDを売り、返金させる業者も

このような代理返金業者は、「Apple IDの養殖」も手がけている。一度、返金をしてしまうと次の返金は難しくなり、あまりしつこくすると、アップルはそのApple IDを凍結してしまうことがある。そうなると、新しいApple IDを作成しなければ、iPhoneなどが事実上使えなくなってしまう。新しいApple IDには、それまで購入したアプリ、アイテムは引き継げない。

そこで、代理返金業者は、養殖したApple IDの販売もしている。この養殖をしたApple IDを使って、ゲームやアイテムを購入。遊んだところで、返金をしてもらい、また新しい養殖Apple IDを購入する。

アップルは返金申請があったときに、そのApple IDの履歴を確認する。つい最近作成したApple IDや、以前作成したとしても長期間動きがまったくないApple IDは、不審なApple IDとして、申請内容に矛盾があるとすぐに「問題のあるApple ID」として一時凍結をしてしまう。

そのため、Apple IDの養殖は、実際のiOSバイス上で作成をし、スクリプトによって、あたかも普通の人が使っているかのような動作をさせて、正常なユーザーであると偽装をするのだという。

こうして、養殖Apple IDが売れると、そのデバイスを中古市場に売り払い、やはり中古市場から別のデバイスを購入して、新しいApple IDの養殖を始める。同じデバイスでいくつものApple IDを養殖すると、Apple IDはデバイス本体の情報と紐づけをするため、アップルから不審なApple IDであることが察知されてしまうのだ。

 

iPhoneの売れ行きは不振でも、App Storeの売上は伸びている

中国でもiPhoneの販売台数は下落気味だが、一方でApp Storeの売上は伸び続けている。中国の法律では、アップルが事前に「一切の返金を認めない」と告知してあるのであれば返金を受けなくても問題はない。しかし、アップルは消費者の利便性を考え、寛容な運用を行っている。これを悪用して、代理返金ビジネスが広がるとアップルとしても対策をせざるを得なくなり、返金審査を厳格化しなければならなくなる。そうなると、結局、損をするのは消費者なのだと専門家は警告をしている。しかし、「代理返金」の広告は一向に減る様子はない。

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サービスを発明した「ウーラマ」は、後発の美団になぜ負けたのか?(下)

前回では、外売サービスを始めたイノベーターであるウーラマが、後発の美団に追い抜かれたことを紹介した。では、美団はどうやってウーラマを追い抜いたのだろうか。そのポイントとなったのが、レストラン口コミサイトとの連携だった。携景網が解説した。

 

外売サービスを発明したイノベーター「ウーラマ」

中国でもはやなくてはならないサービス「外売」。スマホで注文することで、どこのレストランの料理でも配達をしてくれる。現在では、ほとんどのレストランに対応しているだけでなく、コンビニや薬局、ドラッグストアなどにも対応を始めている。出前サービスというよりは、買い物代行サービスになっている。

この外売サービスは、上海交通大学の学生、張旭豪(ジャン・シューハオ)が2008年に仲間たちと始めた「餓了么」(ウーラマ)から始まった。しかし、2013年に参入をした美団(メイトワン)が、一気にシェアの60%を握ることになった。

外売は、まったく新しいサービスというわけでもなかった。多くのレストランでは、持ち帰り用の「外売」サービスを行っている。店舗に行って「持ち帰り」を頼むと、料理をパックに詰めてくれるので、これを持って帰って自宅などで食べる。ただし、自分でお店まで買いにいかなければならない。

また、いくつかのレストランは外売車を出す場合もある。大学やオフィスビルの前に移動販売車で売りに行く。

ウーラマの外売サービスは、消費者から見れば買いに行く手間を代行してくれ、飲食店から見れば外売車(移動販売車、移動屋台)で売りに行く手間を代行してくれるものだ。

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▲ウーラマの創業者、張旭豪。外売サービスを発明したイノベーターだったが、市場の見方という点で、老練な経営者である美団の王興の方が優っていた。

 

既存市場に適合する「ウーラマ」、新規市場を開拓する「美団」

ウーラマはサービスを12都市で展開していた。進出する都市を判断するときに注目をしたのが大学やオフィスビルの前に出ている外売車の数だった。外売車の数が多い都市は、外売を利用する消費者が多く、外売に積極的な飲食店が多いので、ウーラマのサービスを展開しても勝算があると考えた。

しかし、美団の創業者、王興(ワン・シン)は、ここに穴があると感じた。ウーラマは外売の需要が強い都市でサービスを展開しようとしている。これは既存市場に乗っかってビジネスをするということだ。

王興は、外売サービスは、新規市場を開拓すべきだと考えた。つまり、まだ外売を利用していない消費者に利用させ、外売に積極的ではない飲食店に加盟店になってもらう。それでこそ大きなビジネスになる。美団は、すでにまとめ購入サイトの運営をしていた。そのデータから、消費力の強い30都市でサービスを展開できると踏んでいた。

王興は、当初、ウーラマを買収する道を模索していたという。ウーラマを買収して経営方針を改め、新規市場を開拓し、30都市でサービスを展開すれば、売上を大きく伸ばすことができると考えた。ところが、ウーラマの創業者、張旭豪は買収を拒否した。そこで、美団は独自でサービス展開をすることにし、2013年11月に30都市でサービスを開始、あっという間にウーラマを超えて、シェア60%を握ってしまった。

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▲美団の創業者、王興。ウェブサービスSNSなどをいくつも起業してきた老練な経営者。ウーラマの買収が不調に終わったため、美団外売を起業し、一気に市場を支配した。

 

ポイントは口コミサイトとの連携

では、どうやってまだ外売を利用していない消費者に外売を利用させ、外売に積極的ではない飲食店に外売を行わせるのか。その要となったのが、レストラン口コミサイト「大衆点評」だった。

美団を外売サービスを利用する人は、自宅などで食べるために外売サービスを利用しようと思い美団のアプリを起動し、飲食店のメニューを見て注文をするというのが一般的な行動シナリオだ。

しかし、その奥に真の行動シナリオが隠れている。「外売を利用しよう」と思う前に、「お腹が空いた」と思ったはずで、その時点で、大衆点評を開くか、ファストフードのアプリを開くか、美団のアプリを開くか迷った上で、美団のアプリを開いている。

であるなら、より上流の大衆点評アプリに外売注文の機能をつけてしまうのがいちばん理にかなっている。消費者はお腹が空くと、レストランガイドである大衆点評アプリを開き、口コミを読みながら、料理を探す。それから、店までの遠さや時間の余裕に応じて、店に行って食べるか、外売を使って出前をしてもらうかを選べるのだ。

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▲レストラン口コミアプリ「大衆点評」。下の方に「予約」「行列」「外売」のボタンが並ぶ。行列をタップすると、リアルタイムで行列の待ち時間が表示される。消費者は、レストランを決めてから、行くか出前を取るかを選べるようになった。

 

消費者はレストランに行くか、出前を取るか選べるようになった

これで、今まで外売を利用していない人も外売を利用するようになり、外売を利用する人が増えると、外売に対応する飲食店も増えていくという好循環が生まれた。

大衆点評は、テンセント系の資金を得て運営をしているサービスだった。一方で、美団はまとめ購入サイト時代の経営危機に手を差し伸べてもらって以来、アリババと良好な関係を保っていた。しかし、美団は大衆点評を手に入れるため、アリババとの関係を絶って、テンセントの資金を得るという「乗り換え」までして、大衆点評と提携し、2015年に大衆点評と合併をしている。それほど大衆点評との連携が重要なポイントだと考えていた。

一方、ウーラマはそれまでテンセント系の資金を受けていたが、美団に追い上げられ、美団と大衆点評の動きを見て、テンセント陣営から離脱し、アリババの資金を得るようになる。これで美団=テンセント、ウーラマ=アリババという両巨頭の代理戦争の図式ができあがっていった。

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▲フォロワーだった美団は、後発ながらレストラン口コミサイトを活用して、ウーラマを追い抜き、市場のリーダーとなった。


口コミサイトの活用に一歩遅れたアリババ陣営

アリババは2006年に口コミサイト「口碑」を買収していた。しかし、当時は活用法が見出せず、アリババのECサイトタオバオ」の商品口コミシステムとしてか機能していなかった。2015年に、美団と大衆点評による躍進を見て、アリババは、口碑の飲食店口コミ機能を充実させ、ウーラマと連動させることにした。

さらに、第三の外売サービスである百度外売をアリババは、ウーラマに買収をさせた。これで、一度は美団に抜かれたウーラマだったが、ほぼ同じ規模で拮抗をすることになった。

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▲アリババ系のレストラン口コミアプリ「口碑」。現在は、外売と予約のボタンがつけられたが、アリババは買収当初は、口碑と外売サービスを連携させることを思いつかなかった。この隙に、美団と大衆点評に抜かれてしまった。

 

ウーラマは新小売戦略の重要なパーツとなっていく

アリババは、ウーラマを外売サービスだけで運営するのではなく、自社が進める新小売戦略の中に「リアルタイム配送」として組み込むことにした。30分配送の宅配をする新小売スーパー「盒馬鮮生」の宅配部隊、スターバックスの出前「専星送」などの配送部隊もウーラマが提供をしている。

アリババは、ウーラマをリアルタイム配送機能として活用することをより推し進めるために、ウーラマを完全買収し、さらに口碑と合併させ、新会社を設立した。ウーラマというサービス名は残るものの、その創業者である張旭豪の名前は新会社の役員名簿には見当たらない。

ウーラマ(お腹すいたよね?)という奇妙な企業名をつけ、その面白さで認知度が上がりウーラマは成功した要素もある。その命名をし、システムを作り上げ、人手不足の時は自ら料理を運んだ創業者の張旭豪は、これでウーラマとの関係がなくなる。張旭豪はメディアからこのことについて尋ねられると不機嫌になるという。外売というサービスを作り上げた若き経営者が退くことになった。ひとつの時代が終わった。

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▲ウーラマは、アリババの新小売戦略に組み込まれたことで、ドローン配送を始めるなどテクノロジー系の進化が進んでいる。

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サービスを発明した「ウーラマ」は、後発の美団になぜ負けたのか?(上)

中国で普及している外売サービス。どこのレストランの料理でも宅配してくれる買い物代行サービスだ。このビジネスを創造したのは、ウーラマの張旭豪だが、現在市場を支配しているのは後発の美団だ。なぜ、ウーラマは後発の美団に抜かれてしまったのか。その理由を携景網が解説した。

 

追放されたイノベーター張旭豪

中国でもはやなくてはならないサービス「外売」。スマホで注文することで、どこのレストランの料理でも配達をしてくれる。現在では、ほとんどのレストランに対応しているだけでなく、コンビニや薬局、ドラッグストアなどにも対応を始めている。出前サービスというよりは、買い物代行サービスになっている。

この外売サービスは、上海交通大学の学生、張旭豪(ジャン・シューハオ)が2008年に仲間たちと始めた「餓了么」(ウーラマ)が最初だ。当時は上海交通大学の中で学生向けのサービスとして始めた。それが他の大学にも飛び火をし、大学の外にも対応するようになり、今では誰もが利用するサービスになった。

しかし、すぐに美団(メイトワン)がライバルとして登場し、熾烈な競争をすることになる。その中で、ウーラマはアリババに買収をされ、同じくアリババ系列のレストラン、ショップの口コミサイト「口碑」(コウベイ)と合併をすることになった。その新会社の取締役名簿には、ウーラマの創業者、張旭豪の名前はない。追放されたのか、自ら退いたのかはわからないが、新しいサービス「外売」を発明した若き経営者は、ウーラマの経営から離れることになる。ひとつの時代が終わった。

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▲外売サービス3社の揃い踏み。黄色が美団。青がウーラマ。赤が百度外売(ウーラマにより買収)。


上海交通大学で始まった外売ビジネス

ウーラマは、当初は上海交通大学の学生向けのサービスだった。上海交通大学の学生だった張旭豪は、学生たちが学食に飽き足らず、街のレストランの外売を利用していることに注目をした。

中国の多くのレストランでは、外売(お持ち帰り)サービスをやっている。店に行って、お持ち帰り注文をすると、料理をパックなどに詰めてくれるのだ。美味しいものが食べたい学生たちは、何人かで注文をまとめて、誰かが買い出しにいくという方法で、この外売を利用していた。

張旭豪は、これがビジネスになると考えた。学生が買いに行くのではなく、ネットで注文をとって、買い出しの代行をして、料理を学生寮まで届ける。当時は、まだスマートフォンも普及してなかったので、最初はレストランのメニューをスキャンして、ウェブサイトに掲示。PCから注文をしてもらうという方式だった。これが受けた。瞬く間に利益の出るビジネスとなり、他の大学でも噂を聞きつけて、ウーラマのサービスを運営したいと申し出る学生が相次ぎ、大学を軸としてウーラマが広がっていった。

大学内の運営でノウハウを蓄積したウーラマは、大学の外に出て、一般の人からの注文も受け始めた。これも大好評で、外売は一気に中国人にはなくなてはならないサービスとなった。

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▲ウーラマの創業者、張旭豪。外売サービスというイノベーションを起こしたが、ウーラマの経営から離れることになった。

 

老練な経営者、王興の参入

このウーラマの成長ぶりを観察していたのが、美団の創業者、王興(ワン・シン)だった。彼は学生向けのSNS「校内網」(現在の人人網)、ブログプラットフォーム「飯否」などを創業した老練な起業家だった。その時は、まとめ買い購入サイト「美団」を運営して成功していた。しかし、急成長するウーラマを見て、どこかに参入する余地はないのかと日夜考え続けていたのだ。

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▲経験豊富な経営者、美団の王興。後発の美団外売は、あっという間にウーラマを抜き、市場を支配した。

 

ランキングデータから発見したウーラマの弱点

ウーラマは、サイトで、自社のデータを惜しげもなく公開していた。その中に、都市別の売上ランキングというデータがあった。王興は、このデータに奇妙な点を発見した。

売上1位から4位までの都市は、上海、北京、広州、杭州となっている。これは何の不思議もない。人口も多く、消費力も強い都市だ。しかし、第5位に福州が入っている。王興にとっては、これは奇妙なことだった。なぜなら、美団の運営から得られた知見では、福州は消費力ランキングが大体30位前後の都市だからだ。福州の人は、特別美食好きで、特別外売を利用する理由が何かあるのだろうか。

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▲外売では、パックに入った料理が届けられる。自宅で、オフィスで、公園のテーブルで外売の料理を食べる人が増えている。

 

市場に適合しようとするウーラマ

王興は、美団の運営で得られた知見から、外売サービスを始めるのであれば、消費力の大きな上位30都市でサービス展開をすればじゅうぶんに採算が合うと感じていた。しかし、ウーラマは12都市でしかサービスを展開していない。しかも、残りの18都市への展開は遅々として進んでいないように見えた。

その頃、王興は、ウーラマの創業者、張旭豪が武漢を視察した話を耳にした。武漢は、大学が多く、ウーラマのサービスを展開するのにうってつけの学生都市だ。その武漢にサービス展開をするかどうかを張旭豪は見極めにやってきた。

張旭豪が見るポイントは、昼時に大学などにいって、門の前で外売車の数を数えることだった。レストランや食堂の業者は、料理をライトバンのような車に積んで、大学の門前やオフィスビルの集まる場所にいき、そこで料理を販売する。大学の前にはそういう外売車や屋台が並ぶことがある。張旭豪は、このような外売車が多いと、その都市は外売に対するニーズが強いと判断をして、その都市でサービスを展開することにしていた。

ところが、武漢の大学の前にはほとんど外売車も屋台もいない。張旭豪はそれ見て、がっかりしてしまい、ウーラマが武漢に進出することを躊躇してしまったという。

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▲中国のレストランには、持ち帰り専用の外売窓口を設けているところが多い。なくても、料理の持ち帰りにはほとんどのレストランが対応している。写真は、上海の観光地、豫園にある南翔饅頭店。

 

市場を開拓しようとする美団

美団の王興は、この話を聞いて、またとないチャンスだと考えた。ウーラマの戦略は既存市場に適合をすることを考えている。外売を利用したい消費者がいて、外売をしたいレストランがあって、今までは買いに行っていたり、外売車を使っていたものが、ウーラマのサービスを利用するとものすごく便利になる。そういうところにウーラマのサービスを提供する余地があると考えていた。

しかし、美団の王興は、外売は新しいサービスなのだから、新しい市場を開拓すべきだと考えていた。つまり、今まで外売を使っていなかった人を顧客にし、今まで外売に力を入れてなかったレストランを加盟店にすべきだと考えた。ウーラマは、既存市場に適合しようとしたため、消費力の高い30都市のうち12都市しか展開ができていない。だったら、美団は、新規の市場を創造し、残りの18都市でトップになればいい。参入する価値はじゅうぶんにあるし、勝算もあると考えた。

 

イノベーターがフォロワーに負ける

こうして、2013年、美団は、美団外売として外売サービスに参入し、一気に30都市にサービス展開をした。ウーラマがサービスを提供している12都市では、競争があるため、なかなか成果を出せなかったが、残りの空白の18都市では圧倒的な強さを見せた。

ウーラマはそれまでシェア100%だったが、それが40%になってしまった。美団は、それまでシェア0%だったが、60%になった。短時間で業界のトップリーダーとなったのだ。

中国では、ウーラマだけでなく、シェアリング自転車のofoなど、若いイノベーターが新しいサービスを創造してきたが、それを追いかける老練な経営者に追いつかれ、抜かれ、市場を支配されるという事態が続いている。ウーラマの張旭豪、ofoの戴威に共通するのは、自分の信念を曲げず、創業時の志に固執をすることだ。これは人としては素晴らしいことだし、それだからこそ、ゼロから起業して、急成長ができたとも言える。しかし、成熟期になると、やはり経験豊富な老練な経営者に攻め込まれてしまうのだ。今の中国のスタートアップ状況は、そのような段階に入っている。

 

アリババとテンセントが激突するカフェ戦争

2018年は、中国のカフェ界に激震が走った。ラッキンコーヒー(luckin coffee)が、創業わずか1年で2000店舗を超え、スターバックスに次ぐ第2位のコーヒーチェーンとなった。スターバックスがアリババと提携をしたことにより、ラッキンコーヒーはテンセントと提携をした。中国ITの巨人がカフェという領域で対決をすることになると駆動中国が報じた。

 

創業わずか1年で2000店舗を突破

長年スターバックスがリードしてきた中国のカフェ界に新しい風が流れ込んでいる。ラッキンコーヒーの驚異的な急成長だ。創立わずか9ヶ月という短い時間で、14都市1200店を開店し、現在は22都市2073店に達し、利用者1254万人、2018年に8968万杯のコーヒーを売り、スターバックスに次ぐ第2位のコーヒーチェーンとなった。

すでに北京市の中心部では、徒歩5分以内に必ずラッキンコーヒーの店舗がある状況になっている。

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▲ラッキンコーヒーの店内。いわゆる「意識の高い若者」だけでなく、幅広い年代の人が利用している。本来はカウンターで商品を待つ必要はないのだが、短気な中国人はできていないうちからカウンターで待ってしまうのはご愛嬌。

 

スマホアプリを使って、行列という悪いユーザー体験を解消

ラッキンコーヒーの躍進の秘密は、多くのセルフカフェが放置している悪いユーザー体験をスマホを使って解決したことにある。

一般のセルフカフェでは、店舗に行ったらまず注文レジに並び、コーヒーを注文し決済をする。次に、商品カウンターに並び、商品ができるのを待って受け取る。それからコーヒーを持ったまま席を探して座らなければならない。ユーザー体験がいいとは言えない。混雑している店では2回も行列をしなければならないし、コーヒーを持っているのに空いている席が見つからないことすらある。

ラッキンコーヒーは、この悪いユーザー体験を一掃した。店に行ったら、まず空いている席を探して座る。それからスマホを取り出して、専用アプリを起動。そこからコーヒーを注文する。決済も同時に行われる。

注文をすると出来上がり予想時間が表示される(この時に注文をキャンセルすることも可能)。コーヒーができあがると通知がくるので、カウンターに受け取りに行き、アプリに表示されるQRコードをスキャンしてもらって商品を受け取るというものだ。行列に並ぶ時間はゼロになる。待っている間は、席に座って話でもしていればいい。

アプリ注文は、何も店内からしかできないわけではない。オフィスの中で、あるいは店に向かっている途中で注文して、できあがり予想時刻を見計らってとりにいってもかまわない。

セルフカフェで長年改善されない悪いユーザー体験を解消することで、あっという間に受け入れられた。

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▲ラッキンコーヒーのアプリ紹介より。コーヒーができあがるとプッシュ通知がきて、カウンターでも203番の呼び出しがある。カウンターでQRコードをスキャンしてもらうとコーヒーを受け取ることができる。並んで待っている必要はない。

 

専用アプリでユーザーとの接点を作る

専用アプリは、注文だけに使うわけではない。ユーザーとの接点をもつ重要なツールとなる。ラッキンコーヒーでは、大量のクーポンをアプリを使って配信している。「初めて買うときは無料」「2杯買うと1杯無料」「5杯買うと5杯無料」「軽食がすべて半額」などを時期に応じて配布している。また、出前も行なっていて、15分から20分ほどで届けられるが、30分を超えると自動的に無料クーポンが配信される。

こうした大量のクーポンで、ユーザーを拡大し、リピーターを増やしていった。

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▲ラッキンコーヒーのカップ。一般にカフェのブランドカラーは茶系統か暖色系統にする。ラッキンコーヒーは青をうまく使い、他のカフェとの差別化に成功した。

 

投資の勢いが止まらない

これだけのクーポンを配布していると、投資家が不安になるのは、利益があがるのかという問題だ。しかし、あっという間に第2位のカフェチェーンになっただけでなく、第1位のスターバックスを超えるのではないかとも期待され、投資は順調すぎるほどに集まっている。

今年7月には、2億ドルのAラウンド投資を完了し、企業価値が10億ドルを超えて、世間を驚かせた。それどころか、12月にはさらに2億ドルのBラウンド投資を完了し、企業価値は22億ドルと倍以上になり、再び世間を驚かせた。

この大量の資金があるために、現在は大量のクーポンを配布し、店舗展開を進めることができ、急成長をしている。

 

スターバックスはアリババと提携して対抗

カフェチェーン第1位のスターバックスにも影響があった。2018年7月に発表された2018年第3四半期の決算報告書によると、中国での出店数は伸びているのに、9年ぶりに売上が下がった。

そこでスターバックスが対策をしたのが、中国式の外売(出前)に対応することだった。アリババとアリババ参加の盒馬鮮生(フーマフレッシュ)、餓了么(ウーラマ)と提携をして、30都市2000店で出前に対応する。当面は配達料を無料にし、スターバックスの強いブランド力を活かして、生活シーンの中にも浸透をしていこうとしている。

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▲アリババはスターバックスと提携をしている。これがアリババのライバル、テンセントに火をつけた。

 

アリババが動けば、テンセントがラッキンコーヒーと提携

スターバックスがアリババと手を結んだことにより、もうひとつの巨人テンセントも動き始めた。ラッキンコーヒーと戦略提携をし、ラッキンコーヒーの「スマート小売」をバックアップする。決済システムには顔認証などの最先端技術が投入をされ、ネットを使ったプロモーション戦略などを支援するという。

テンセントのもつWeChatペイから分析される消費データによる戦略立案などにも関わり、WeChatのミニプラグラムの活用も考えられている。かなり本格的な深い戦略提携になると見られている。

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▲ラッキンコーヒーとテンセントの戦略提携調印式。アリババがスターバックスと提携したことで、テンセントがラッキンコーヒーと結びついた。

 

激化するアリババとテンセントのカフェ戦争

ラッキンコーヒーがBラウンド投資完了の発表を行った12月14日、アリババとスターバックスはその発表にぶつけるようにして、アリペイへの対応を発表した。アリペイユーザーは、スターバックスの会員登録をしなくても、アリペイアプリの中からスターバックスのコーヒーを注文して、アリペイで支払うこともでき、スターバックスのポイントも貯められるというものだ。近日中にスタートするという。

ラッキンコーヒーの登場によって、コーヒーチェーンが動き始めている。アリババとテンセントが背中を押すことで、技術と資金の面で、コーヒー戦争は次の局面を迎える。2019年はコーヒーチェーン業界が大きく動く年になると見られている。

 

中国IT企業は残業代を支払っているのか?

中国のIT企業では残業は当たり前の話。しかし、一応ながら労働基準法に相当する法律があり、残業代は支払わなければならない。一体、中国IT企業は残業代を支払っているのだろうか?テンセント、アリババ、百度、ファーウェイの4社について、残業手当がどうなっているか、北京硅谷本元信息科技が報じた。

 

9時出社、9時退社、週6日が当たり前の「996」業種

脉脉データ研究院の2017年の調査によると、企業十従業員の90.91%の人が残業を経験しており、約1/4は毎日残業をしているという。特に金融、広告、コンサルティングの3業種は残業が常態化しており、「996」と俗に言われる。午前9時出勤、午後9時退社、週6日の意味だ。

中国で最もよく使われるマップアプリ「高徳地図」は2017年に、マップアプリの利用データを分析した「高徳地図年度交通報告」の中で、各企業の従業員の移動履歴から残業時間を推測し、そのトップ10を公表している。トップ10すべてがIT企業となり、ファーウェイ、テンセント、アリババという順位になった。

会社から強制をされずに本人の意思で残業をしているのであれば、中国では誰も問題にしない。問題は残業代をきちんと支払っているかどうかだが、IT企業の多くは年棒制なので、残業代という考え方がそもそも存在しないケースが多い。

その代わりに、残業をした社員に対しては、無料の食事提供、タクシー代などの支援策を取っている。

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▲マップアプリ「高徳地図」が、各社従業員の移動データから推測した残業時間ランキング。すべての業種のランキングで、トップ10はIT企業ばかりとなった。

 

テンセント:5時半終業なのに、帰宅のバスは6時半

テンセントでは残業を強制されることはない。しかし、終業が午後5時半であるのに、会社のバスは午後6時半から動き出す。この1時間を、多くの社員が残業をしてすごす。それで帰るのかというと帰らない。なぜなら午後8時になると、夕食が無償提供されるからだ。デザートまでついた立派な食事だという。それで、また1時間余りを残業してしまう。食事をしたら帰るのかというとまだ帰らない。午後10時以降になるとタクシー代が支給されるからだ。

結局、多くの人が午後10時まで仕事をして、食事をとって、タクシーで帰宅することになる。

テンセントでは、午後6時から午後10時まで(地域により時間は多少異なる)370路線の企業バス路線を運行していて、バス停の数は1000以上にもなる。中規模都市の都市交通と同じ規模だ。

多くの社員が年棒制であるので、残業代という考え方は存在しないが、そもそもの年棒が高いので、不満を言う社員は少ないという。

 

アリババ:出退勤管理すら存在しない

アリババも年棒制であるため、残業代という考え方は存在しない。それどころか、出退勤管理も特にしていない。すべては、仕事の成果によって、次の年棒が決まっていく。たくさん働くか、短く働くかは本人が工夫をすればいいことだと考えているようだ。午後9時以降は、タクシー代が支給され、午後10時以降になると、社食が無料になる。

企業バスは、杭州市内向けに走り、3時間ほどかかる上海便も定期運行をしている。

 

百度:終業は午後6時でも、帰宅のバスは午後11時まで運行

規定によると、終業は午後6時だが、多くの人が残業をし、地下鉄駅までの企業バスは午後11時まで運行している。午後9時以降はタクシー代が支給される。午後6時以降は、残業する人のための食事が20元(約310円)で提供される。

百度年棒制で、残業代という考え方が存在していない。

 

ファーウェイ:中国一残業の多い企業

ファーウェイは、中国一残業の多い企業だ。ネットに伝わるジョークで、ある人が朝9時にファーウェイの面接試験を受け、終わってから午前10時頃に、ファーウェ本社前からタクシーに乗った。するとタクシーの運転手が、「仕事帰りですか?」と尋ねたというものがあるほどだ。

ファーウェイでは、社食専用の電子マネーに会社から毎月800元(約1万2800円)が支給される。さらに8時半以降は、社食が無料になる。タクシー代も夜10時半以降、支給される。

ファーウェイも同じく年棒制であるために、残業代という考え方は存在していない。

 

残業という考え方が存在しない中国IT企業

中国のIT企業は、米国型の考え方を持っていて、仕事に対して給与が支払われる。「この仕事をしてもらうのに、年棒いくら」という考え方なので、社内でジョブチェンジをしなければ、給与は一生あがらない。それどころか、与えられた仕事をこなせなければ、より報酬の低い仕事にジョブチェンジすることを強制され、拒否をすれば解雇ということになる。報酬を上げるには、まず与えられた仕事をこなし、より報酬の高い仕事に社内転職するしかない。

そのために、規定時間で帰ろうが、朝まで残業しようが、それは本人が決めることという考え方だ。残業といっても、朝までみっちり働いているばかりではなく、仕事に余裕があるときは、社内の図書室に行って本を読んだり、ジムに行って運動をしたりして、それから帰宅することもあるようで、決して目一杯働いているわけではないようだ。

中国IT企業で働く人の多くが、そこで一生働こうとは思っていない。誰もが数年間懸命に働いて一財産作ることを夢見ている。自宅は自宅というよりも、キッチン付きの寝室だという考え方なのだ。

 

アリペイのお年玉機能で、白菜を3時間で売り切る男

アリペイの紅包(ホンバオ)=お年玉機能を賢く利用して、白菜を3時間で売り切った男が話題になっている。ネットでは「それは気づかなかった!」と絶賛の声が上がっていると観察者が報じた。

 

お年玉くじ感覚の送金機能「紅包」

中国スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」には紅包というお年玉機能がある。これは個人間の送金機能だが、一定範囲の額、総額などを指定して送るもので、実際いくらになるかはわからないというものだ。くじ引きのような楽しさがある。

この紅包は、小売にも利用されている。店舗などで、紅包用のQRコード掲示しておき、消費者がスキャンをすると、一定額の範囲でお年玉がもらえる。紅包キャンペーンをすることで、消費者を来店させることができ、お年玉がもらえることで気をよくして買い物をしてもらおうというものだ。

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▲白菜を3つ当てた奥様。この笑顔。現金やポイント還元のプロモーションにはない楽しさがある。

 

紅包を利用して、白菜2トンを3時間で売り切る

この紅包の原資は、当然ながら商店が支払うが、年末や春節などの特別な時期には、アリババがその原資を持つキャンペーンを実施することがある。商店が専用サイトから申請をし、審査を通ると、商店はお金を出すことなく、消費者に紅包を配ることができるようになる。

この制度を利用して、白菜2トンをわずか3時間で売り切った男性が、浙江電視台の6チャンネルの番組「1818黄金眼」で取り上げられて話題になった。

この男性は、農村から白菜をトラックに積んで、北京の下町で売っている。それが紅包を利用して、わずか3時間で売り切った。

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▲赤い横断幕には「お金がいらない白菜」と書いてあり、下町の多くの人が興味本位で群がった。

 

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▲ユニークなキャンペーンをおもついた店主。紅包を利用して、無料で白菜を配り、利益もあげた。

 

無料の白菜に大行列が

この男性は、「お金のいらない白菜」という横断幕を掲げ、無料で白菜が買えると大声で呼びかけた。列に並んだ人は、まずこの男性の紅包用のQRコードをスキャンするように指示される。すると、さまざまな金額の紅包があたる。その額に応じて、買える白菜の数が決まり、今度はこの男性のQRコードをスキャンしてもらい、あたった金額をすべて支払ってもらい、それに応じた数の白菜を渡すというものだ。

紅包は最終的にアリババが負担をするので、男性の出費はない。買う人は、紅包であたった額を男性に渡すだけなので出費はない。それで白菜がもらえる。

2トンの白菜は、いつもであれば1日そこで売ってもなかなか売り切ることができない。今回は「無料の白菜」ということなので、行列ができ、わずか3時間で売り切れてしまい、男性は5000元(約7万9000円)の売上をあげた。

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▲無料の白菜を求めて、並ぶ人たち。

 

店主、消費者、アリババの全員が得をする

ネットでは「これは気づかなかった!」と称賛の声が寄せられている。男性はいつもより短時間で売り切ることができ、利益もあげた。買う方は実質無料で白菜を手に入れることができる。アリババは損をしたかというとそうでもない。下町の中高年はスマートフォンも持っているし、アリペイも使っているが、使用頻度は高くなく、日常の買い物は現金を使うことも多い。そういう人たちに、アリペイを使ってもらうことで、利用者の拡大につながる。さらに、このことが話題になって、全国に拡散したことで、日常の買い物にもアリペイを使う人が増えるだろう。アリババとしても損はないと言っているネットワーカーが多い。


商家狂喊“不要钱”顾客扫码免费送白菜 三小时赚五千多

▲この男性のキャンペーンは、テレビ番組で取り上げられて大きな話題になった。消費者の多くが「無料の白菜」に対して、「本当なの?嘘なの?」と尋ねている。

 

批判的な意見もあるが、多くの人は楽しんでいる

一方で否定的な意見もある。紅包のこのような使い方は、規約違反ではないかと言っている人もいる。本来、紅包で得たお金は、その商店で使うかどうかは消費者の自由。このように白菜を買うためだけに目的を限定するのは規約に反するのではないかという意見だ。

また、紅包を受け取ると、自動的に花唄が開通してしまうことを問題にしている人もいる。花唄とは分割払いやリボ払いに相当する機能で、花唄を使って支払いをすると相応の利子が必要になる。そのため、必要のない人は花唄の機能そのものを開通させることなくアリペイを使っている。今回、白菜を買ったような下町の中高年は、紅包を受け取ると、花唄が自動的に開通してしまうことをわかっているのだろうかと疑問を投げかけている人もいる。

しかし、このような規約違反や花唄の問題を指摘する人は少数派で、多くの人がこの男性のアイディアを面白がっている。アリババも、現在のところ、規約に違反しているかどうかなどについて、特にコメントはしていない。

 

ポイント還元策が限界に達している

それどころか、今では紅包によるプロモーション効果に疑問が持たれるようになっている。以前は物珍しさから、紅包のQRコードをスキャンする人は多かったが、最近ではわずか数元をもらうためにスキャンする人は減りつつあり、その程度で消費意欲が増すとは考えづらくなっていると言われるようになっている。

その観点から、数元を渡す紅包よりも、こうした商品を渡した方が、話題にもなり、消費者に受けるのではないか。紅包キャンペーンも新たな方式を考えるべき時期にきているのではないかと論じているメディアもある。

今後、このような「モノが当たる」キャンペーンが増えていくかもしれない。