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人気のサムズクラブが転売屋を排除できない理由。ビジネスの拡大に貢献をする代理購入業者たち

人気のサムズクラブへの不満のひとつが代理購入業者たちを排除しないということだ。消費者にとっては転売屋と同じで希望の商品が買えないなどの不満がある。しかし、サムズクラブが代理購入業者を排除しないのには2つの理由があると品智PLSCが報じた。

 

サムズクラブが一人勝ちのスーパー業界

人気となっているウォルマート系のホールセラー「サムズクラブ」に勢いがある。中国チェーンストア経営協会がまとめた中国10強のチェーンの2023年の売上高前年比は、1位のウォルマート+サムズクラブが10%増だったが、2位から9位までは軒並み減収となった。ウォルマートも業績は決してよくなく、サムズクラブの一人勝ち状態だ。ウォルマートも順次、サムズクラブに転換されていっている。

▲上位10チェーンのスーパーの2023年売上高の前年比。軒並み前年割れになる中、サムズクラブだけが増収になっている。

 

大都市にしかないサムズクラブ

しかし、サムズクラブは大都市にしかないというのが消費者の悩みだ。現在の展開は、24都市48店舗となっている。

地方都市在住者にとってもうひとつの問題が、サムズクラブは会員制であるということだ。コストコなどと同じように買い物をするには会員になり、年会費を支払わなければならない。一般会員が260元、スーパー会員が680元(約1万3800円)にもなる。しかし、さまざまな特典がつき、サムズクラブではスーパー会員の場合、年間最高で6000元の得になると宣伝している。

つまり、毎週買い物に行く人にとってはお得だが、近くに店舗がなく、なかなか行くことができない人にとっては損になる。

▲サムズクラブの店内。商品はケース単位など分量が大きいが、質が高くて安い。大家族や近所の人によるまとめ買いなどの需要で、成長し続けている。

 

手数料なしの代理購入まで登場

そこで登場してくるのが代理購入ビジネスだ。地方都市の人からSNSで注文を受けてサムズクラブで買い物をし、それを配達する。通常10%程度の手数料を上乗せするが、自分でサムズクラブに行けない人にとっては納得できる値段だ。

さらに、手数料を取らずに販売価格のみで配達までをやってくれる代理購入業者も登場してきている。それはスーパー会員の仕組みに秘密がある。

スーパー会員では2%のポイントバックが行われ、それを次回購入に使用することができる。さらに月5000元以上消費をすると、抽選購入に参加する資格が得られる。これは茅台酒など数量限定の高額商品を半額程度で購入できるというものだ。これを販売価格で売れば、1つの商品で1000元程度の利益が出る。

このような手数料なしの代理購入をしている人は、スーパー会員カードを100枚ほど持っているのが一般的だ。本来は、1人1枚しかカードは購入できないが、親戚や友人などの名義を借りて大量のカードを所有している。

1枚のカードでポイントは毎月最大500元まで。これが代理購入の利益となるため、これだけで5万元。さらに抽選購入を10個も引き当てれば合計で6万元の利益になる。スーパー会員の年会費は680元で、これが100枚だとして6.8万元。年間6万×12ヶ月=72万元の収入があり、そこから会費を差し引いても65.2万元が手元に残る。1月あたりにすると 5.4万元になる。

多くの代理購入業者は買い物に行くのは週2日程度。当日から翌日にかけて配達をして、週4日稼働で5.4万元(約110万円)はなかなか実入りのいい商売になる。

▲代理購入業者は、1人で何枚もの会員カードを持ち、地方都市在住者の注文をSNSで受け、配達まで行う。手数料は取らなくても利益が出る仕組みを構築している。

 

消費者は不満でも、サムズクラブは黙認

しかし、一般の消費者からの不満も出てくるようになっている。なぜなら、人気商品の発売日には、代理購入業者が大量に訪れて、商品を大量に買っていってしまい、一般消費者が買えないという事態が起きているからだ。日本で起きている転売屋とまったく同じで、店内で代理購入業者と一般消費者がトラブルになることも起きている。

この問題をサムズクラブはどう解決したか。現場のスタッフは、もはや代理購入業者は顔を見ればわかる状態になっている。そこで、代理購入業者を見つけると、声をかけ、倉庫に案内をしてこっそりと大量に販売をするようになった。つまり、店頭には一般消費者分しか陳列せず、倉庫に代理購入業者分を残しておき、そちらに代理購入業者を誘導するようにしたのだ。

販売を、一般消費者と代理購入業者で分離をすることで、目立ったトラブルはなくなった。

 

サムズクラブが黙認をする2つの理由

しかし、このことが知られるようになると、当然、一般消費者からは不満が出る。お目当ての商品を買いに行って売り切れであっても、それは売り切れではなく、代理購入業者分を倉庫に残してあるかもしれないからだ。

なぜ、サムズクラブは代理購入業者を排除しようとしないのだろうか。それには2つの理由がある。

ひとつはホールセラーの収益構造がある。ホールセラーは、店頭販売ではほぼ利益を出さない原価販売になっている。どこで利益を出しているのかというと年会費だ。一般スーパーというのは薄利多売で、利益率が2%を超えるスーパーは多くない。スーパーで年間40万円買い物をするとして、スーパーの利益は8000円にしかならない。これはホールセラーの年会費とほぼ同じ。つまり、ホールセラーは「先に利益分を年会費として頂戴し、利益を確定させてしまう」ビジネスモデルなのだ。

このため、重要になるのはトラフィック(会員数)だ。すべての施策はトラフィックを増やすために行われる。そのため、1人で100枚もの会員になってくれる代理購入業者は歓迎をされる。また、代理購入業者が人気商品を買ってしまい、品薄になってしまうというのも、話題として拡散し、新たな会員の獲得につながる。もちろん、既存会員が不満に感じ、離脱をしてしまうようでは問題なので、そこはバランスを取り、一定の範囲で代理購入業者を容認するという姿勢になっている。

▲サムズクラブと同じコストコの売上高構成費。販売による売上がほとんどで会費による売上はごくわずかだ。単位:百万ドル。

▲しかし、利益の構成比を見ると、販売から得られる利益はわずかで、会費から得られる利益が3/4を占める。ホールセラーは、会費を徴収することで、先に利益を確定させてしまうビジネスモデルだ。単位:百万ドル。

▲サムズクラブの会員制度は普通科員とスーパー会員の2つがある。普通会員は年間260元(約5400円)、スーパー会員は年間680元(約1.4万円)の会費が必要になる。

 

代理購入を通じて地方都市にリーチできる

もうひとつの理由が地方都市へのリーチだ。サムズクラブは当然ながら、地方都市へも拡大していきたい。しかし、安直に進出をしたら、それだけの顧客が獲得できるかどうかはわからない。

代理購入業者の多くは、地方都市に住んでいて、大都市のサムズクラブで商品を購入し、地方都市住人に配達をしてくれる。これにより、進出をしなくても地方都市の消費者を一定程度カバーすることができ、なおかつブランドが浸透をし、地方都市進出への足がかりになる。

代理購入業者はいわゆる転売屋にすぎないが、今のところ、うまいところに落ち着いていて、サムズクラブのビジネスを助け、地方都市消費者のニーズに応えられる形になっている。しばらくの間は、サムズクラブは代理購入を黙認あるいは容認していくことになりそうだ。