今年の数学オリンピックは米国が優勝した。これまで5回連続で優勝してきた中国を破っての勝利だった。なぜ米国が勝てたのか。その理由は、多様性を受け入れる米国の土壌があったと南方週末が報じた。
6年ぶりに王座を奪還した米国チーム
今年2024年7月22日に、第65回国際数学オリンピック(International Mathematical Olympiad、IMO、https://www.imo-official.org)が閉幕をした。今年の優勝チームは米国で、これまで5回連続で優勝をしてきた中国から1位を奪還したことになる。中国は2位、韓国が3位となった。
このIMOは国際数学コンテストでは歴史が最も長いもので、1959年にルーマニアで第1回が開催されて依頼、1980年を除いて毎年開催をされている。現在は100以上の国が参加をする国際大会になっている。
中国の黄金時代に米国が巻き返し
黎明期の頃は、米国と旧ソ連(現ロシア)が優勝争いをしていたが、2000年以降、中国の黄金時代が始まる。中国は2000年以降の25回に限ると、合計18回優勝し、米国を凌駕していた。
ところが、2015年になると米国が巻き返しを図り、直近10大会のうち、米国は5回優勝をしている。2019年には、米国と中国が同成績の1位となるなど、米国と中国のトップ争いが熾烈になり、そこに韓国が食い込もうとしている構図になっている。
米国の強さは多様性への許容
なぜ、米国は巻き返しに成功したのか。オリンピックと同じように、人種の多様化を尊重し、能力優先でチームを結成、育成をしてきたからだ。今年6名のオリンピックチームのうち、4人は中国系米国人、1人はインド系米国人で、いわゆる白人は1人だけとなった。
2023年のオリンピックチームでは6人全員が中国系で、中国のSNSでは「第2中国チーム」と揶揄する発言もあったが、今年、米国チームが優勝したことにより、そのような声は消えてしまった。
さらに、米国チームはヘッドコーチに羅博深氏を起用した。中国系シンガポール人で、カーネギーメロン大学の数学准教授を務めている。羅博深准教授自身も1999年の数学オリンピックに出場し、団体2位となっている。その経験を活かして、数学オリンピックチームのヘッドコーチに就任をした。
米国の勝因は、人種に対する偏見を持たず、優勝できる能力をもったメンバーを集め、中国から優勝を奪還することを目標にトレーニングを重ねてきたことにある。グローバル国家である米国の素晴らしい面が発揮された。
優れた人材を輩出する数学オリンピック
この数学オリンピックは、各国の数学の水準を向上させるだけでなく、優れた人材の発掘にも貢献している。数学の最高賞であるフィールズ賞では、受賞者の多くが数学オリンピック参加経験を持っている。
例えば、ポアンカレ予想を証明したことで世界をあっと言わせ、2006年にフィールズ賞を受賞したロシアのグリゴリー・ペレルマンも、1982年にソ連チームとして数学オリンピックに出場し、個人優勝をしている。
31歳でフィールズ賞を受賞した中国系オーストラリア人の陶哲軒(テレンス・タオ)は10歳から12歳までの3年間、オーストラリアチームの一員として数学オリンピックに出場し、個人で金銀銅の3つのメダルを獲得している。
2000年代には、中国が連続をして団体優勝をし、その時のメンバーは「北京大学数学黄金世代」と呼ばれるが、この6人はいずれも国際的な数学賞を受賞している。
中国の教育は「投資」
なぜ、中国系がここまで優れた成績を出せるのか。それは中国の家庭の教育に対する感覚にあると言われる。中国の子どもに対する教育は「投資」であると考えられている。そのため、自分の子どもに何か人よりも優れた点を発見した親は、優れた環境を与えることを厭わない。それは、経済的に余裕がない庶民の家庭でも同じで、借金をしてでも優れた教師に学ばせたい、いい環境の学校に通わせたいと考える。これにより、才能が芽を出しやすい環境になっている。
米国の教育は「育成」
米国家庭の教育は「人をつくる教育」であり、苦手なものも含めて、広い能力を幅広く身につけた方がいいと考える。そのため、出場年齢制限が20歳までという制限がある数学オリンピックのような特殊で突出した能力は出てきづらいのではないかと考えられる。
ただし、米国はどのような人種、どのような文化背景を持った人でも受け入れるという土壌がある。これにより、米国はあらゆる分野で世界最高水準を維持することができている。
今後も、数学オリンピックでは、米国と中国が熾烈な優勝争いをすることになる。