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失踪した児童を3時間以内に発見する。アリババのエンジニアたちがボランティアで開発した児童失踪情報公開システム「団欒」

アリババのエンジニアたちが、失踪児童の緊急情報を半径100km以内にプッシュ配信するシステム「団欒」を開発した。すでに4960人の児童の保護に役立ったと経済観察網が報じた。

 

アリババが4960人の失踪児童を救出

アリババはESG Report(Environmental, Social and Governance Report 2022)を公開した。この報告書は、アリババの社会貢献に関する レポートだが、その中で注目されている数字がある。4960だ。

「2016年、アリババは公安部に協力をして、児童失踪の緊急公開システム「団欒」を開発し、2022年5月までに4960人の子どもを取り戻した」というものだ。

 

大量の善意の通報が捜査を難しくしている

子どもの誘拐に関する社会的関心はとても強い。そのため、誘拐事件が報道されるとSNSには市民が多くの情報を投稿してくれ、公安にもメールやSNSを通じて大量の情報が寄せられる。

しかし、それが捜査を難しくしている。多くの通報は善意からのものだが、結果的にはその多くが誤った情報であることはしかたがないことだ。しかし、捜査班は寄せられた情報の裏付けをとらなければならない。寄せられる情報が多すぎて、その裏取りに労力の大半が割かれてしまい、子どもの救出に至る道筋を見つけることができなくなってしまっている。

▲公安部に協力して開発された「団欒」。児童失踪事件が起きると、顔写真などの情報が半径100km以内にいる人にプッシュ送信される。

 

アリババのエンジニアがボランティアとして開発

2015年末、公安部の誘拐事件の責任者がアリババの魏鴻を尋ね、システム開発への助力を求めた。そのポイントは、誘拐事件が発生した場合に、すぐに市民に正しい情報を伝え、効果的に市民の協力を求める仕組みを構築したいというものだった。

魏鴻はすぐに企業セキュリティ部のシニアエンジニア韓旭傑のことを思い出した。韓旭傑に事情を話すとふたつ返事で協力をするという。

韓旭傑は幼い頃に誘拐されそうになった経験がある。もし隣家の人が父親に正しい情報を伝えてくれなければ、もし父親が探しに出るのが少し遅れていたら、韓旭傑の運命はどうなっていたかわからない。そのため、韓旭傑は以前からこの世から誘拐をなくすことに貢献したいと考えていたのだ。

このプロジェクトは業務ではなく、ボランティアベースとなり、韓旭傑は業務時間外に開発をすることになったが、手伝う人が増え、半年後には6人のチームになっていた。アリババも企業のリソースを提供する形で協力をした。こうして、2016年5月15日、公安部の自動失踪情報緊急公開システム「団欒」の最初のバージョンが稼働した。

▲児童失踪の情報通知システム「団欒」の開発チーム。全員がボランティアで働き、業務時間外に開発を行った。

 

公開情報の配布地域を時間とともに広げていく仕組み

この団欒は、誘拐事件が発生すると、公安が収集した子どもの顔写真などの情報を、微博(ウェイボー)、高徳地図、アリペイなどを通じて市民に公開するというものだ。

この時、誘拐の発生地点から半径100km以内にいる市民に1時間以内に公開され、半径200km以内には2時間で、半径300km以内には3時間で、半径500km以内に3時間以上で公開される。公安部によると、誘拐は発生してから3時間がゴールデンタイムで、この3時間以内に周辺にいる市民に的確な情報を伝えることが目的だ。

 

テスト中にも成果、25のアプリが対応

2016年5月13日午後、団欒システムの最終テストを行なっている最中に、河北省衡水駅で、両親が疲れてうつらうつらとしている間に2歳の女の子が誘拐されるという事件が発生した。

河北公安は、通報を受けると、すぐに団欒システムで第一報を公開した。1時間以内に衡水駅周辺100km以内にいる市民にプッシュ通知が送られた。30時間後、この通知を見た運転手が該当の女の子ではないかと思われる子どもを発見し、通報。無事保護されて、犯人も逮捕された。

団欒システムが効果を発して、市民の協力により、子どもを取り戻した最初の事件となった。

現在、この団欒システムに対応しているアプリは25件にのぼる。

 

癌で困窮する母親に善意の寄付リンク

アリババはこのような社会貢献プロジェクトを数十件行なっている。例えば、淘宝網タオバオ)で買い物をすると、寄付の画面が現れることがある。0.1元の寄付を求める公益プロブラム「公益宝貝」だ。

この公益プログラムは2005年に始まっている。2005年に江蘇省蘇州市の小学校で教師を務める周麗紅が癌になってしまった。仕事はできなくなり、5歳の娘の学費が捻出できなくなってしまった。そこでタオバオに子ども服を販売する「魔豆宝宝小屋」を開店した。事情を知った他の商店は、自発的に魔豆宝宝小屋に対する1元の寄付のリンクを掲載し始めた。

タオバオもこの仕組みを支持し、2006年末には「愛心宝貝」の機能を実装した。販売業者が自分の販売商品を「愛心宝貝」商品だと指定すると、その販売代金の一定額が魔豆宝宝愛心アカウントに送られ、必要な人に寄付されるというものだ。

2010年、この愛心宝貝は公益宝貝と改名された。2021年の独身の日セール「双十一」には、天猫で販売される商品の10%が公益宝貝となり、過去15年間で800万の販売業者が参加をし、473億件の寄付購入があり、4300万人の助けになったという情報を公開している。

▲癌になった蘇州市の小学校教師は、生活に困窮してしまった。すると、多くのタオバオ販売業者が自発的に寄付のリンクを掲載し始めた。

 

アリババエンジニアたちがボランティアで行う社会貢献

アリババは、このような公益活動を行う上で、大きな予算を割くことはしていない。アリババが構築してきたプラットフォームが利用され、担当するエンジニアはあくまでもボランティアだ。活動を広げるための告知はするが、それをアリババのイメージを高めるための広告活動には利用をしていない。アリババが持っているプラットフォームを利用してもらい、善意と善意を結びつける手法で公益活動を行っている。この奥ゆかしい姿勢が、多くの善意を集めることにつながり、継続することにつながっている。

タオバオには「公益宝貝」のタグがついた商品がある。商品代金の一部が困窮をしている人に児童的に寄付をされる仕組みだ。