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クーポン設計のロジックと、ウーラマの行動経済学を活かしたユニークなキャンペーン

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今回は、クーポン設計のロジックについてご紹介します。

 

クーポンは一般的に「5%割引」や「20円割引」などの(今日では)電子アイテムで、ECなどのアプリで決済時に適用することで優待割引が受けられるものです。Yahoo!やLINEでは毎日にようにクーポンを配り、PayPayのような決済サービスでも毎日のように配っています。また、ブランドの専用アプリでも配信されることが多く、もはや珍しいものではなくなっています。

当然ながら、中国のECやサービスなどでも同様のクーポンはたくさんありますが、クーポンの面でも中国は進んでいます。と言っても、進んでいるから優れているとも限りません。クーポンがあまりに複雑になってしまって、随分前から「クーポン疲れ」を口する人が増えています。

そこにピンドードーやライブコマースなどのように思い切った価格で販売をするサービスが登場してきたために、以前のようなクーポン熱はなくなっています。しかし、非常に戦略的にクーポンを設計しているため、学べるところは多いかと思います。

 

日本のクーポンは、ほとんどの場合、次の2つのいずれかです。

1)割引クーポン:特定の商品の購入数を上昇させることをねらう

2)初回割引クーポン:新規顧客の獲得をねらう

新しいサービスの場合は、初回割引クーポンで1000円、2000円といった大きな割引をし、新規顧客を獲得し、その後50円程度の割引クーポンでアクティブ率(アクセス回数、購入回数)をあげることをねらうというパターンが多いように思います。

 

中国のクーポンは、これらに加えて、次のような違いがあります。

1)満減券が多い。

満減券とは「200元以上使うと30元割引」のようなタイプのクーポンで、購入金額が190元であった場合は適用されません。そこで15元ぐらいの商品をついでに購入して、合計金額を205元にし、クーポンを適用して、175元を支払うというようなことをします。

余計な商品を買った方が得になる場合があり、さらには他のクーポンと併用できることもあり、どのクーポンを使ったらいいかは悩みどころになります。バーゲンセールの時は、このクーポンの適用を考えるのがゲーム的で楽しいという人もたくさんいましたが、今ではかなりの人が面倒に感じるようになっているのではないかと思います。

ただし、クーポンを発行する側からすると、クーポンの組み合わせ方で業績数字を制御できるため、サービスの運営にはクーポン戦略を考えることが今でも必須になっています。

2)配信ではなく、取りに行くクーポンが多い

日本のクーポンはアプリに配信されてくるパターンが多いですが、中国のクーポンは指定されたURLに取りに行くパターンが多いように感じます。これは重要です。なぜなら、リンクを友人にも教えてあげることが普通に行われ、そのことがキャンペーン情報の拡散につながるからです。配信をしてしまうと、使わない人は使いませんし、配信されたことに気がつかない人もいます。

確かに「クーポン配信数」の数字は大きくすることができますが、この数字は重要ではありません。重要なのは、クーポン取得数とクーポン使用数、その比であるクーポン使用率などです。

配信をした場合、クーポン取得数は大きくなるものの、使用数は大きくならず、しかも、アクティブでなかったユーザーを掘り起こす力も弱く、結局、いつも購入してくれるアクティブユーザーが定期的な購入をする中で割引を受けるという、効果の薄い結果になってしまいがちです。アクティブユーザーの離脱率をある程度下げる効果はあるかもしれませんが、アクティブユーザーは普通は離脱をしないもので、非アクティブユーザーが離脱予備軍であるわけですから、ここに対処していくことの方がはるかに重要です。

 

もちろん、日本のマーケティング担当者も、クーポンだけでなく、全体の戦略を賢明に考えており、その中でクーポンの貢献度がさほど大きくなく、他の方法と併用することで成績数字を確保しようと考えられているのだと思います。

一方、中国の場合は、クーポンが果たす役割が大きく、どのサービスでもクーポンに対してさまざまな戦略、手段を練っています。

ただし、その副作用として、クーポンが複雑になり、面倒に感じる消費者が出てくるという問題があります。

 

アリババは、毎年、アリババグローバル数学コンテンストを開催しています。優勝賞金4万ドル(約580万円)というもので、世界中の数学に自信のある学生、社会人が参加をします。オンラインで参加でき、参加資格も制限はありません。

 

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▲アリババの数学コンテンストの公式サイト。問題などは英語版もあるため、挑戦してみることも可能。

 

みなさんにも、ぜひ腕試しをと言いたいところですが、決勝で出題される問題は、大学の数学レベルでそれも難問ぞろいです。一方、予選の問題は高校数学か、場合によっては算数的な発想で解けるものも多く、しかも、出される問題が現実に即していてなかなか面白いのです。

フーマフレッシュの配達員が、どのルートを通れば最も効率的に配達ができるかを問う問題や、幅広麺を中央からカットして、メビウスの輪のようにして、100回捻りの幅広麺の輪を中央からカットするとどうなるかを問う問題など、ユニークな問題が毎年出題されます。

2019年の予選では、割引クーポンの適用問題が出題されました。これをご紹介するので、ぜひ挑戦してみてください。そして、これはあえて複雑にしているのではなく、実際にこのような複雑なクーポン適用が日々起きているのです。

解くのは少し面倒ですが、数学的な難易度は高くはありません。算数レベルです。

 

問題:

アリババは11月11日に、ショッピングフェスティバルを開催する。店舗Aは、重複使用可能な「60元購入すると5元割引」のクーポンを発行した。重複使用可能とは、1回の注文で何度も使えるということだ。例えば、120元の商品を購入した場合、クーポンを2回使って、110元で購入できる。このクーポンは商品に対して適用されるものだ。

店舗AはECサイト「Tmall.com」の店舗で、Tmallでも「299元購入すると60元割引」のクーポンを発行しているが、1回の注文で1度しか使えない(複数の商品を買った場合でも、全体に対して1回のみ)。例えば、299元の商品を購入した場合、60元割引されて、239元になる。合計購入金額が299元に達しない場合、ポケットティッシュのような低額の商品を他のTmall内の店舗から購入して、合計金額を299元以上にすれば、このクーポンが利用できるようになる。このクーポンは注文単位(カート)に対して適用される。そのため、複数の商品を購入するときは、まとめて購入するのではなく、分けて購入すれば、それぞれにこのクーポンを適用することができる。

この2つのクーポンは同時に使用することができる。その場合、先に適用したクーポン後の支払い金額ではなく、あくまでも商品の価格に対して適用ができる。例えば、300元の商品購入した場合、前者のクーポンを5回適用し、同時に後者のクーポンを1回適用し、

300-(5×5)-60=215元を支払うことになる。

 

問1:

ミンさんは、Tmallの店舗Aで250元のヘッドフォンと600元のスピーカーを購入した。ミンさんは、いずれのクーポンも無限に持っているとして、いちばん支払額を少なくした場合、支払金額はいくらになるだろうか(1元単位で別の低額商品を買ってかまわない)。2つの商品をまとめて購入しても、別々に購入してもかまわない。

 

問2:

あなたはTmallに自分の店舗Bを開店しようと考えた。販売するものは、店舗Aと同じヘッドフォンとスピーカー。表示価格も同じにした。さらに、注文1回につき1回使える「99元購入でx元割引」クーポンを企画した。xに入るのは整数のみ。Tmall全体では「299元購入で60元割引」のクーポンが配布されていて、このクーポンとも併用ができる。

このクーポンを利用して、店舗Aよりもあなたの店舗Bで250元のヘッドフォンとと600元のスピーカーを購入した方が支払い金額が1元でも少なくするようにするには、xをいくつにしたクーポンを配布すればいいだろうか。

 

これは架空の問題ではなく、非常に実践的です。マーケティング担当者は、日々このようなことに頭を使っています。

中国のマーケティング担当者がクーポン企画を立てた場合、必ずその企画のねらいを尋ねられます。そのクーポンによって、客数を上昇させようとしているのか、客単価を上昇させようとしているのかなどです。さらに過去のデータがあるわけですから、それを分析して、どの程度目的の業績数字を上昇させるのかも説明しなければなりません。「客単価を5%上昇させるために、予算xxx元を投入する」という状態になって、上司や経営者はその企画を実行するかどうかを判断します。

そのため、クーポンの設計ロジックは非常に精密です。もちろん、そのロジック通りに消費者が行動してくれるとは限りませんが、ロジックを精密に組み立ておかないと、効果測定ができません。精密なロジックがあれば、それが思惑と外れたとしても、効果測定が可能となり、次の企画に役立てることができます。

さらに、最近では、ゲーミフィケーション行動経済学の理論を取り入れたクーポンプロモーションも行われるようになっています。

今回は、一般的なクーポン発行のロジックをご紹介し、今年になって、フードデリバリー「ウーラマ」が行って大きな成果をあげている行動経済学的なクーポンプロモーションの例をご紹介します。

 

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先月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.140:始まった中国義務教育の情報教育。どのような授業が行われることになるのか

vol.141:Z世代お気に入りのスマホOPPOコモディティ化が進む中国スマホ状況

vol.142:ライブコマースはなぜ中国だけで人気なのか。その背後にあるECの成長の限界

vol.143:「抖音」「快手」「WeChatチャネルズ」三国志。ライブコマースとソーシャルグラフの関係