2022年5月、Airbnbが中国市場から撤退することを表明した。原因は、コロナ禍により中国の旅行スタイルが様変わりをしたことだ。Airbnbはこの変化についていくことができなかったと独角獣早知道が報じた。
Airbnbが中国から撤退
2022年5月24日、Airbnb中国は「中国のお客様へのお知らせ」を公開し、7月30日から、中国国内の宿泊予約を暫定的に停止すると発表した。実質的な中国市場からの撤退となる。今後は、中国の利用者に海外の宿泊施設を紹介するアウトバンド事業に専念をすることになる。
北京のオフィスに数百名の従業員がいるが、グローバルプロダクトの開発エンジニアが主体であるため、そのまま残し、中国人利用者のアウトバンド事業と顧客サポート事業を継続する。
民泊パイオニアのAirbnbも中国市場では後発組
Airbnbは、宿泊のシェアリング領域では開拓者とされているが、中国市場では参入が遅れ、後発組となる。
Airbnbの創業は2009年、その成長ぶりを見て、中国では2013年に旅行情報サイト「窮游」(チョンヨウ)と「馬蜂窩」(マーフォンウォー)が共同して「Win China」を立ち上げた。ホテルだけでなく、民宿や一般家庭などを紹介する民泊仲介サービスだ。これにより、若い世代の間でバックパック旅行ブームが起こった。
この状況を見て、Airbnbは2014年にシンガポールに拠点を設立、2015年には中国にも拠点を設立し、本格的に中国市場に参入をした。
この時は、中国人利用者に海外の民泊を仲介するアウトバンド事業のみだったが、2017年3月に、創業者のブライアン・チェスキーCEOが中国を訪れたタイミングで、中国内の民泊を仲介する事業を開始した。
つまり、中国市場においては、先行したWin Chinaから4年遅れで民泊事業に参入したことになる。
中国の商習慣に合わせて成長したAirbnb
このため、Airbnbは中国では苦戦をした。わずか7ヶ月後の2017年10月には、グローバル副社長で、中国事業の責任者であった葛宏が辞任をし、それから10ヶ月の間、中国事業の責任者が不在となった。この混乱により、Airbnbは「海外に出かけるには便利だが、中国内に出かけるにはあまり使えない」という印象がついてしまう。
葛宏中国地区CEOは、グローバルなAirbnbの方式をそのまま適用しようとして苦戦をしたと言われる。2018年9月になって、「面包旅行」CEOであり、「城宿」を創業し、旅行業界を熟知している彭韜が中国地区CEOになり、中国市場に適した手法をとるようになり、ようやくAirbnb中国の成長が始まった。
具体的には、中国の消費習慣に合わせて、平均13%だった民泊の紹介手数料を消費者から取るのではなく、手数料を0にして、民泊側から徴収することにした。また、広州市や北京市などの4つの地方政府と戦略提携を結び、その地域が観光資産に育てたい無形文化遺産と組み合わせたモデルコースを提示し、利用者に対してプロモーションを行なった。
このようなローカライズ施策により、2019年Q1には営業収入が前年比3倍以上と大きく成長し、利用者も大都市だけでなく、地方都市にも拡大をしていった。これにより、中国市場での民泊サービスとしてはトップシェアを握るようになった。
リモートワーク需要で回復をしているAirbnb
しかし、2020年の新型コロナの感染拡大により、すべてが水の泡になってしまった。2020年4月には、Airbnbのグローバルでの予約数が72%も減少し、5月にはグローバルで1800人のリストラを行った。これは全従業員の1/4にもなる。
さらに、キャンセルが続出したため、Airbnbは返金の原資として2.5億ドルを投入、中国では契約している民泊施設を維持するために7000万元の補償金を支出するなど、2020年のAirbnbはグローバルで46億ドルの赤字となった。
Airbnbはそのまま手をこまねいていたわけではない。リモートワークが普及をすると、ビジネス客が長期滞在する民泊を提供したり、宿泊代金の後払い制度を導入するなどの施策を行った。
感染拡大が収まってくると、再びAirbnbの利用も始まり、2022年Q1のグローバルでは2.29億ドルの利益を出すなど、力強く復活をしている。
旅行のスタイルが様変わりした中国
しかし、中国市場は回復をしないままだった。ひとつは旅行のスタイルが完全に変わってしまったことがある。それまでは、遠方に行って、見たことがない景色、知らなかった文化を体験するという「遠方、長期」旅行が多かった。しかし、コロナ禍以降、完全に「近隣、短期」にシフトをしている。都市周辺の景勝地で日帰りや一泊でキャンプを楽しむなど、市民は都市近郊に旅の楽しみを見出すようになっている。
さらに2022年になってからのオミクロン株の感染拡大だ。ゼロコロナを目指す中国では上海でロックダウン、北京などのその他の都市でも部分的ロックダウンなど厳しい対策をとっている。感染が拡大していない他都市でも、このようなニュースの影響で、旅行は「近隣、短期」の傾向が強まっている。
新しい旅行スタイルへの対応が遅れたAirbnb中国
美団(メイトワン)、携程(シエチャン、Ctrip)などは、この変化を素早く捉え、大都市周辺のキャンプ宿泊施設や民泊などを抑えていった。さらに、木鳥民宿、榛果民宿などの中小の民泊仲介サービスなども、新しい旅行スタイルに対応した民泊施設を開拓していった。
Airbnb中国は、この新しい旅行スタイルに対応した民泊リソースの確保に遅れをとってしまった。依然として、チベットや雲南のバックパック旅行を勧めていたのだ。
Airbnbはグローバルで600万以上の民泊リソースを確保しているが、中国では50万程度にすぎない。さらに、営業収入では中国が占める割合は1%程度だ。オミクロン株の感染拡大が決定打となり、Airbnbは中国撤退を選択した。
グローバル展開をするサービスは、地域の変化への対応が遅れる傾向があるが、その典型例になっている。