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電子書籍リーダー「Kindle」が中国から撤退。プロダクトのポジションを確保できなかったKindle

電子書籍リーダー「Kindle」が中国市場から撤退をする。WeChatのアマゾン公式アカウントが告知をした。2022年10月末まではKindleの返品を受けつけるが、2023年6月末以降は電子書籍が読めなくなるため、ダウンロードすることを推奨している。撤退する理由については説明されていない。

 

Kindleが中国市場から撤退

Kindleが2024年6月30日に完全撤退をする。利用者からはすでに購入した電子書籍がどうなるのかという不安の声があがっている。

すでに、Kindle電子書籍の販売は停止をされている。2022年1月1日以降に購入したKindleは返品を受けつけるが、10月末までに返品を申請しなければならない。電子書店は来年2023年6月30日まで営業されるため、購入した電子書籍を読むことはできるが、閉鎖以降は読めなくなる。そのため、ダウンロードをしてローカルに保存をしておく必要がある。2024年6月30日にはダウンロードもできなくなる。また、スマートフォン向けのKindleアプリもダウンロードできなくなる。

購入した書籍の量によってはダウンロードしきれない場合もあり、その場合はPCなどでダウンロードをし、読みたい本をKindleにUSB経由で移動させる必要がある。なお、書籍の返品は受けつけない。

Kindle公式アカウントが発表した撤退スケジュール。2024年6月に完全撤退となる。書籍はダウンロードをしておけば読み続けられるが、Kindleが故障をしたらその時点で読めなくなる。

 

被害の大きい読み放題のUnlimited会員

また、読み放題のKindle Unlimitedの会員は、2023年6月30日で利用できなくなる。それ以降の期間までの契約をした場合は月割での返金がされる。しかし、Kindle Unlimitedの利用者はこれまで読んだ本がすべて読めなくなることになる。

電子書籍の利用者は、サービスが停止された後、購入した書籍が読めなくなるのではないかという不安を持ち続けながら利用してきた。この撤退ではKindleが故障しない限り、読み続けられることが保証されたが、管理には手間がかかるようになる。また、Unlimitedの場合は、書籍が読めなくなるだけでなく、ブックマークやメモなどもすべて消えることになる。やはり、サブスクリプションではなく、購入した方がいい、いや、紙の本の方が安全だという声があがっている。

▲アマゾンは撤退に関して、丁寧なFAQを公開した。購入した書籍が読めなくなるかもしれないという事態に多くの消費者が動揺をしたようだ。特に、読み放題のUnlimited会員の中には怒りをあらわにしている人もいる。

 

国内ライバルに押されたKindle

Kindleは中国市場で2013年から販売をされ、当初の販売は好調だった。2016年には中国がKindleが最も売れた国になったほどだ。

しかし、それ以降、Kindleの人気は低下をしていく。ファーウェイ、小米、科大訊飛などの中国メーカーがE-Inkタブレットを発売し、価格や機能の点でKindleは影が薄くなっていった。

ひとつは高級機だ。タッチペンに対応をし、手書き文字が描けることから、企業でのノートや書類閲覧を兼ねるビジネスツールに適したE-Inkタブレットが登場をした。

▲EC「京東」で「E-Inkタブレット」を検索すると、さまざまな製品が見つかる。ビジネスに特化した高級機と、読書に特化をした格安機にわかれている。

 

ビジネスに特化した高級E-Inkタブレット

科大訊飛(iFLYTEK)のビジネス用E-Inkタブレットhttp://www.iflyink.com/#/product_detail_a1)では、タッチペンによる手書き、音声入力に対応しているだけでなく、メール、スケジュールなどの機能があり、PDFの閲覧、カメラによる書類のPDF化にも対応している。さらに、高級機になると、音声認識により自動的に会議録を作成してくれる機能が搭載されている。声質や音声源の方向から人を区別し、会話が被っても人別の議事録をつくってくれる。

Kindleアプリなどを入れれば電子書籍リーダーともなるため、こちらを好む人も多い。

もうひとつはシンプルな電子書籍リーダーだ。電子書籍を読むだけの機能しかないが、価格はKindleの半分程度。これもKindleよりもこちらを好む人が多い。

▲iFLYTEKのビジネス用E-Inkタブレット電子書籍リーダーだけでなく、音声入力による会議録作成、書類のスキャンなど多彩なビジネス機能を持っている。価格は高いが、電子書籍を読む層は比較的所得が高い消費者であるので、このような高機能E-Inkタブレットを好む人が多い。

 

中途半端なポジションに陥ったKindle

中国では多くのコンテンツが違法ダウンロードされていた時代があり、2001年のWTO世界貿易機関)加盟から正常化がされていった。しかし、「ネットで検索をして探し、ダウンロードする」という習慣が根付いていたため、多くのコンテンツサービスが配信サブスクや無料サブスクのスタイルを取るようになった。有料で会員になり見放題か、または無料で見ることができるが、有料コンテンツの販売、広告、グッズ販売などで利益を得るというスタイルだ。そのため、Kindleのように一冊一冊を購入するという習慣が定着しづらかった。

KindleにもテキストやPDFを転送して読む方法は用意されているが、USBケーブルで転送をするか、クラウドを経由させる必要がある。しかし、シンプルな電子書籍リーダーは、中身はAndroidタブレットであるため、リーダーのブラウザーから無料の書籍を検索して、そのまま読むことができる。利便性の点で、Kindleは遅れをとっていた。スマホが大型化をしてくれると、文庫本感覚でスマホで読書をする人も増えいった。

つまり、Kindle電子書籍閲覧以外のことがほぼできないデバイスであり、であればスマホやもっと低価格の電子書籍リーダーでもいいと考える人が多かったようだ。

 

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たびたび起きていたKindle撤退の噂

このような事情により、ネットでは以前から「Kindleは撤退するのではないか」と囁かれていた。特に今年2022年初めには、淘宝網タオバオ)や京東などのECでKindleが軒並み在庫なし状態になったため、Kindle撤退の噂がネットを駆け巡り、Kindle公式アカウントが否定をするという事態になった。

撤退の噂が出たのは過去にもあり、そのたびに「Kindleカップ麺の蓋にしか使えない」とネットでは揶揄をされた。特定の目的に特化した「専用端末」という発想が中国市場には合わなかったようだ。