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抖音が子どもの化粧ムービーの投稿を禁止。問題視される子ども用メイクキットの健康問題

ショートムービー「抖音」が、幼い子どもが化粧をするムービーの投稿を禁止した。禁止をされるのは販売、宣伝目的のもので、一般の人が日常の記録として投稿するものについては除外される。禁止をした理由は、子どもの健康に対する被害が未知数だという理由だと中国化粧品雑誌が報じた。

 

流行する子ども用化粧品セット

この数年、中国版TikTok「抖音」(ドウイン)などで、子ども用化粧品が人気となっている。リップやアイシャドー、ネイルカラーなどのコスメセットが、アニメのキャラクターなどが描かれたケースに入っているというものだ。

子ども、特に女の子が欲しがるということもあるが、親が子どもの日、誕生日などのプレゼントとして買い与え、誕生日会などには化粧をして子どもが集まり、ムービーを撮るということが流行し始めている。

▲人気になっている子ども用メイクキット。内容は大人のものと変わらない。母親が誕生日のプレゼントに贈る例が多いようだ。

 

5歳の化粧の先生も登場

それだけでなく、抖音、快手、小紅書、ビリビリなどには、7歳から8歳の「化粧の先生」が登場し、子ども用の化粧の仕方を指南する配信主も登場している。「ネットでいちばん若い化粧の配信主」「女の子に学ぶ化粧」などの幼い配信主が登場し、その中には5歳の女の子もいて、肩を露わにしたドレスを着て、大人びた化粧をするところを中継している。

このような流行にどう感じるかは人さまざまだ。当然ながら、よく思わず、眉をひそめる人はたくさんいる。一方で、容認派も多い。多くの場合、母親がコスメキットを買い与え、自分の娘に化粧の方法を教え楽しんでいる。母と娘のいいコミュニケーションになるという意見もある。

▲ビリビリで紹介された5歳の化粧の先生。SNS「小紅書」に投稿されたものを転載して、子ども用化粧品の問題を訴えている。

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子ども用化粧品の販売、宣伝目的のムービーを禁止

2022年4月、抖音は「子ども化粧品の公開と宣伝についての実施細則」を公開し、子ども用化粧品の販売目的、宣伝目的のショートムービーの公開を禁止することを発表した。

消費者が、生活の記録の一コマとして子どもが化粧しているショートムービーは投稿可能だが、そこに商品タグをつけたり、ライブコマースに誘導するような内容があった場合は違反となり、削除される。メーカーや販売業社は、商品を紹介するムービーを公開することはできなくなった。

▲まだ幼い女の子が化粧をするムービーが投稿され、以前から問題視はされていた。道徳的な観点で否定をする人が多かったが、抖音は健康被害の可能性を考えて、投稿を禁止した。

 

健康上の問題が懸念される子ども用化粧品

抖音がこのような措置に出たのは、良俗の観点からではなく、健康への安全性に問題があるからだ。

子ども用化粧品であっても、フェイシャルパック、バスソルト、シャンプー、保湿クリームなどの皮膚に直接影響を与える可能性がある衛生用品は、化粧品類として厳しい安全基準が設定されている。安全評価試験や含有物などの基準をクリアしないと販売することができない。

しかし、ルージュやアイシャドー、ネイルカラーなどの子ども用化粧品は、玩具として、一般的な3C認証を取得すれば販売することができる。3C認証はCCC(China Compulsory Certificate、中国製品安全強制認証)で、ほぼすべての製品に対して課せられている安全基準だ。ケーブルから電子製品、照明器具、ガス器具など多くの製品が対象とされ、この安全基準をクリアしないと販売をすることができない。この3C認証の対象には玩具も含まれており、子ども用化粧品は玩具として、この3C認証を取得して販売をしている。

しかし、3C認証はあくまでも一般の製品としての安全基準にすぎない。使用をしてケガをしない、火災などの重大な被害を引き起こさないなどの観点の安全基準だ。子ども用化粧品も、ミニカーやフィギュアと同じ安全基準で認証を取り、販売業社は3C認証を取得していることを強調する。しかし、肌につけて健康上の問題を引きおこなさいという観点の安全基準ではない。

多くの消費者が、この3C認証の基準についてよく知らず、「3C認証があるから、子どもに使っても安心」として使ってしまっている。抖音はここを問題視した。

淘宝網タオバオ)では多くの子ども用化粧品が販売されている。しかし、このような基礎化粧品は化粧品に分類されるため、含有物など化粧品としての厳しい安全基準をクリアしている。

▲一方、子ども用メイクキットは、化粧品ではなく玩具に分類されるため、一般的な3C認証のみを取得している。健康に対する安全性は、各メーカーの考え方に任されているため、問題のある子ども用化粧品も指摘をされている。

 

国家薬品監督管理局は使用を不推奨

現状の子ども用化粧品が子どもの健康にどのような影響があるのかはわかっていない。大手メーカーでは、独自の試験を行ったり、原料を厳選して、健康に対する安全には最大限の配慮をしている。水溶性原料使用、食材原料使用、防腐剤不使用などを多くの子ども用化粧品がうたっている。

しかし、子どもの皮膚の構造は成人とは大きく違い、皮膚は薄く、毛が少なく、汗などの分泌は少なく、皮下の毛細血管は密になっている。外界からの刺激を受けやすく、子ども用化粧品は成人向けよりもさらに厳しい基準が必要だとする専門家も多い。

2021年12月、国家薬品監督管理局は「玩具を子ども用化粧品として使ってはならない」という文章を発表している(https://www.nmpa.gov.cn/directory/web/nmpa/xxgk/kpzhsh/kpzhshhzhp/20211209151801110.html)。この文章によると、12歳以下の児童、特に3歳以下の幼児は、皮膚の抵抗力が未成熟であり、外来物質の刺激に敏感であり、容易に損傷をしてしまう。玩具に分類される子ども用化粧品の中には、着色料など化粧品に適さない原料を使用している例もある。また、鉛などの重金属が検出された例もあり、児童の発育に大きな悪影響を与える可能性があるという内容で、国家薬品監督管理局としては、成人向け化粧品よりもさらに厳しい監督管理をしていくとしている。

抖音の措置も、このような政府の動きを受けてのものだと見られる。現在、他のプラットフォームでも、子ども用化粧品の販売そのものは続いているが、ショートムービーの広告はほぼすべて消えている。個人的な投稿や子ども配信主の映像もほぼすべて検索されなくなっている。

▲良心的なメーカーは「環境にやさしい原料」「食材原料」「防腐剤不使用」などを独自におこなっている。