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会員制ホールセールクラブ「サムズクラブ」の頭痛。会員カードの転売、偽造アプリに悩まされる

コロナ禍以降人気が高まっている会員制ホールクラブ。36店舗を展開するウォルマート系のサムズクラブが不正入店に悩まされている。会員カードの転売だけでなく、偽造アプリまで登場していると澎湃新聞が報じた。

 

コロナ禍以降人気が高まったホールセールクラブ

ウォルマート系の会員制ホールクラブ「サムズクラブ」が拡大をしている。店内が広く、多くの商品がケース買いなどのまとめ買いが基本になる。店舗というよりも倉庫に行って商品を買うような感覚だ。コロナ禍以降、狭いスーパーで密集することが避けられるようになり、広々した店舗が好まれるようになっている。会員制ホールクラブであれば買い物に行く回数も減ることからにわかに人気が高まっている。

サムズクラブは、1996年に中国に上陸したが、それから17年で8店舗にしか増えなかった。しかし、2014年からマイカーに乗る人が増え始めるとともに増え始め、さらにコロナ禍になって人気が高まり、現在は36店舗まで増え、現在も新店舗の開店計画が進んでいる。

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▲ホールセールクラブは倉庫のような中でケース買いをする。コロナ禍以降、サムズクラブ、コストコなどの人気が高まっている。

 

事前に支払う会員費がネックになっていた

サムズクラブが停滞をしていた17年間、中国では会員制ホールセールクラブは中国の消費者に合わないと言われていた。ひとつはケース買いが基本になるために、自動車で行かないと持って帰りようがないことだ。この問題は2010年代に多くの人がマイカーを持つようになり解消していった。

もうひとつが年会費を事前に支払うということだ。サムズクラブで買い物をするには、事前に会員になっておく必要がある。一般会員で年260元(約4800円)、スーパー会員で年680元の会費を支払う必要がある。支払うことにより、パスかアプリがもらえ、買い物ができるようになる。パスの場合はチャージができるようになっていてそれで決済をする。アプリの場合は、顔写真を登録し、それでスマホ決済ができるようになる。

会員制ホールクラブは、会費を支払うことで、多くの人がもとを取ろうと考え、同じものであればサムズクラブで買い物をするようになる。いわゆる顧客の粘性を高める手法だが、これが中国の消費者の感覚に合わないと言われていた。どのくらい買い物をするかにもよるが、月1回程度は買い物をしないと年会費以上の得にならないとも言われている。

多くの消費者が、年会費を払うのは損をするのではないかと考え、また入会手続きをするのを煩わしく感じる。そこでサムズクラブでは1日体験パスを配布をし、会員数を伸ばしてきた。

 

退会すると半年は入会できない

しかし、現在、会員数の減少が起きているのではないかとも言われている。その根拠になっているのが、サムズクラブが退会をした場合の処置を店頭に掲げるようになったからだ。

退会をして半年間は新たに会員になることができない。また、2回退会をすると永遠に会員になることはできないというものだ。

このような退会が起きている背後に、偽物のパスが出回っているということがあると言われている。

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▲サムズクラブの店頭に掲げられた掲示。いったん退会をすると半年は再入会ができず、2回退会をすると永遠に再入会ができなくなるという内容。

 

偽造パスアプリが半額程度で販売される

EC「淘宝網」(タオバオ)で検索をしてみると、サムズクラブの1日体験カードが大体2元程度で販売をされている。これを利用すれば、月1回買い物をするとして、年で24元となり、本来の年会費の1/10程度で利用できるようになる。

さらに、それに混ざって、年間パスも100元から170元程度で販売をされている。これは正規の年間パスの家族カードなどを販売している例もあるが、偽造アプリであることが多い。正規のアプリのパスでは、入店時に会員カード画面をスタッフに見せる必要がある。ここにはQRコードと登録をした顔写真が表示され、QRコードがスキャンされ、顔写真により目視による本人確認が行われる。

偽造アプリでは、自分の顔写真を登録すると、QRコードが生成され、本物の会員カード画面とまったく同じ画面が生成されるので、一般の会員と同じように入店をすることができる。

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タオバオで検索をすると、サムズクラブの1日体験カードが2元程度で転売されている。

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▲正規パスあるいは偽造パスも販売されている。

 

決済時には知らない人の顔写真が使われる

しかし、問題は決済時だ。支払いはスマホ決済からサムズクラブアプリにチャージをしておき、そこから支払われる。しかし、支払い時にはQRコードと顔写真の両方がスキャンされ、QRコードによる会員コードと顔写真による本人確認が一致をする必要がある。偽造アプリでは偽造の会員コードと自分の顔写真なので、一致をせずエラーになってしまうのではないか。

支払い画面では、自分ではない別人の顔写真が表示をされる。つまり、販売業者の方で人を用意し、実際の会員となり、その人物の会員番号と顔写真を使い回しているようなのだ。

このようなやり方だと、利用歴を見れば、同じ人物が異常な回数の買い物をしていたり、短時間の間に距離の離れた店舗で買い物をしているという異常な履歴データになるため、サムズクラブの方でも把握ができる。サムズクラブでもそのような会員を発見しては凍結処理などを行なっているようだ。

偽造アプリの価格は10元程度から170元程度までさまざまだが、高価な偽造アプリは全国で使えるが、安い偽造アプリは特定の店舗、特定の地域でしか利用ができない。サムズクラブ側に発覚をしないように、偽造アプリ業者側も対策をしているようだ。

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▲偽物のサムズクラブアプリ。左が本物で、右が偽物。アイコンに中国名があるのが本物で、偽物では省略されている。

 

サムズクラブを悩ませる代理購入ビジネス

さらに、サムズクラブの代理購入ビジネスも広まっている。注文を受けて、サムズクラブで買い物をし、配達までしてくれるビジネスだ。手数料は10元程度だが、価格は会員価格であるため、スーパー会員になってさらなる割引価格や還元ポイントを利用すればじゅうぶんに稼げる。

この代理購入に関しても、サムズクラブは対策をしている。購入量の制限を始めている。たとえばローストチキンは1人10匹まで、菓子類は1人100個までなど、一般の個人が購入するにはじゅうぶんな量であっても、代理購入をする場合には制限に引っかかる量が設定されている。

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▲サムズクラブの代理購入ビジネスをする人がSNSで公開した写真。注文を受けて、サムズクラブで購入し、配達まで行う。

 

「有料会員制」をいかに認知していくかが鍵になる

会員制ホールセールクラブは、サムズクラブが最も拡大をしているが、コストコも2019年8月に上海に1号店を開店、さらにアリババの盒馬鮮生(フーマフレッシュ)も「盒馬X会員店」を7店舗出店している。また、ドイツ系のメトロ、フランス系のカルフール、国内系の永輝(ヨンホイ)なども会員制ホールクラブの出展計画を進めている。

サムズクラブの偽造アプリ、代理購入などをみると、「先に会費を支払って買い物をする」というビジネスモデルが、中国人の感覚にあっていない問題はまだ解決をしていない。期待される会員制ホールクラブビジネスの思わぬ落とし穴にならないかと警告をする専門家もいる。