中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アパレルに求められることを究極まで追求するSHEIN。アマゾンの中国業者排除が追い風に

ファストファッションブランド「SHEIN」は、「お客さんが求めるものを」「安く」「速く」「大量に」「多品種を」提供するというアパレル企業としては当たり前のことをやっている。ただし、そこにAIなどのテクノロジーをふんだんに使い、効率を極限まで追求している。アマゾンによる中国業者の排除が、SHEINにとっては追い風になったと人人都是産品経理が報じた。

 

自分の写真が勝手に使われていた

テキサス州の美術専攻の学生であり、インフルエンサーでもあるジュリア・キングさんがアーガイルセーターに注目をした。90年代を描いた映画「クルーレス」に登場するようなノスタルジーを感じたからだ。

キングさんは、ネットの卸ショップでぴったりの商品を見つけた。子ども用のアーガイル柄ベストだったが、着てみるととてもいい。キングさんは、ジーンズとディオールのバッグを合わせて写真を撮り、この商品を22ドルでCtoC型ECサイト「Depop」に出品をした。

このベストはすぐに売り切れ、キングさんはそのことを忘れていた。しかし、ある日、彼女のインスタグラムのフォロワーがメッセージを送ってきた。Preguyという中国系のECサイトでキングさんの写真が勝手に使用され、粗悪なコピー商品が販売されているというのだ。

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https://www.depop.com/products/juliasworld-fitted-and-cropped-red/

▲ジュリア・キングさんが出品したECサイト。1300着以上が売れて、しばらくするとキングさんはそのことを忘れていた。



修正までした写真があちこちで使われる

しかも、よく見ると、自分の胴体のくびれが修正してある。さらに驚いたのは、もう1枚の写真には誰のものかわからないマニキュアをした手が添えられていたのだ。

キングさんが慌てて調べ見ると、自分の写真が使われているのはPreguyだけではなかった。アマゾン、アリエクスプレス、ウォルマート、SHEINなどで、彼女の写真が無断使用され、粗悪なコピー製品が販売されている。ブランド名はGadgetVLotやWEANIAとなっているが、調べても見つからない架空のブランドのようだった。

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▲ジュリア・キングさんのオリジナルの写真。何が気に入らなかったのか、腰のくびれが修正をされ、マニュキュアをした手が他人のものに置き換えられた修正版写真がさまざまなECで無断使用された。



海外のSNSを活用して越境販売をする中国のアパレル業者

このような架空ブランドは、その多くが中国のアパレル業者がつくったものだ。この10年で、中国のアパレル業社はアマゾンなどを通じて、海外に販売するをするようになり、数千社が越境ECを利用したビジネスをしているという。このような業者の特徴は、海外のSNSを最大限に利用するということだ。SNSを分析して何が流行っているかを調べ、流行っているとなると、一気に商品を製造して、SNSで拡散をする。

このような流れの中で、ユニコーン企業にまで成長したのがSHEIN(シーイン)だ。

 

H&MZaraを合わせた売上を上げるSHEIN

SHEINは、海外販売に特化をしているため、中国ではあまり知られていなかったが、その成功が他のアパレル業者に知られるようになり、さらには一般消費者の間でも名前が次第に知られるようになっている。

SHEINの本質はD2C(Direct to Consumer)を突きつけめたということだ。中間の卸業者を挟まないことにより、低価格で販売することができ、シャツが7ドル、ジーンズが17ドル、コートが28ドルと、アマゾンなどで買うよりも大幅に安く販売できている。

SHEINは10代から20代の女性向けアパレルを中心に製造販売し、その世代が好きなSNSであるインスタグラムとピンタレストを中心にプロモーションをおこなっている。

SensorTowerのデータによると、2021年上半期のグローバルダウンロード数で、アマゾンが7880万回と1位になったが、2位は7500万回でSHEINになった。ブルームバーグの報道によると、SHEINの販売額は100億ドルを越え、米国のファストファッション市場の28%のシェアをとっているという。これはH&MZaraの売上の合計に匹敵をする。

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▲SensorTowerによるグローバルECアプリダウンロードランキング。SHEINがアマゾンに迫る勢いで伸びてきている。

 

「数打てばあたる」戦略を究極まで突き詰めたSHEIN

SHEINのビジネスの革新は、広州市の6000もの服飾工場と提携をし、自社のシステムを導入させていることにある。SNSなどで最新の流行を分析し、毎日大量の新作商品を製造する。特に2021年の7月から12月は新作が多く、毎日2000SKU(Stock Keeping Unit)から10000SKUの新作を追加していた。これはH&MZaraの20倍にあたる。

ただし、どの商品も数十枚の小ロットしか生産をしない。これで消費者の反応を見て、売れるようであれば、SHEINのシステムを通じてすぐに追加生産ができるようになっている。このような生産から販売数の測定、追加生産までのほぼすべてが自動化をされている。

ある意味「数打てばあたる」手法を恐ろしく効率化しているのがSHEINだ。しかし、それが「いつアプリを開いていも大量の新作がある」というキラキラ感につながり、低価格も相まってZ世代の女性から支持を受けている。

 

アマゾンの中国悪質業者排除がSHEINに追い風

SHEINの成長には、アマゾンが手を貸したようなところがある。2013年からアマゾンは、中国の製造業者との提携を進め、中国製品をグローバルで販売する体制を整えてきた。電子製品が中心だったが、それでも2020年には、マーケットプレイスで販売される商品の40%が中国販売業者のものとなっていた。

しかし、競争に必死な中国業者は、冒頭で掲げたように、ルール違反にならなければなんでもやってしまうようなところがある。権利関係を無視した写真の使用、誇大な商品説明、サクラを使ったレビューの捏造などが問題となり、2021年9月、アマゾンは一斉に問題のある販売業者の排除に乗り出した。

この時、SHEINは売り先を失ったアパレル工場、業者の多くを取り込んだ。2011年から、欧米に向けてアパレル製品を販売しているアモイ市の「アモイ欧誠盛」は、年商が1億ドルに迫っていた。販売ルートは半分以上がアマゾン、1/3が自社サイトだったが、現在は、そのほぼすべてがSHEIN経由になっている。

 

多品種少量生産の効率化を追求するSHEIN

アモイ欧誠盛の林震社長は、SHEINのシステムを導入してから、製造工程も大きく変わったという。SHEINのシステムには、納入した商品の売れ行きがリアルタイムで表示されるだけでなく、販売数の予測も表示される。これを見て、製造や在庫の調整が可能になった。

さらに大きいのがデザイナーだという。一般的なアパレルブランドでは、デザイナーの質が商品の質に直結をするため、どのアパレル企業も優れたデザイナーを確保することに頭を悩ませている。それでも、1ヶ月でデザイナーは20から30の新作を設計することが限界だ。

しかし、SHEINのデザイン要求は低い。ありていに言えば、求められているのは売れている商品のリデザインなのだ。これであればデザイン学校の学生でもこなせる仕事で、大量に雇うことができ、大量の新作を生産することができるようになる。

 

洋服屋さんの基本を追求するブランドSHEIN

アパレルブランドというと、独自のコンセプトやメッセージを持ち、それを世の中に訴えていかなければならないような思い込みがある。しかし、SHEINにそのようなメッセージはないように見える。行っているのは、「お客さんがほしいと思っている商品を提供する」ということで、それを実現するために国際サプライチェーンを改革し、製造管理システムを自社開発し、売れ行き予測にAIテクノロジーを使う。そういう「洋服屋さん」としての基本を極限まで追求したのがSHEINだ。