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バングラデシュのShopUpが大型投資を獲得。個人商店を束ねて、小売の大改革が起きる可能性

バングラデシュのEC「ShopUp」が大型投資を獲得した。個人商店が中心になっているバングラデシュで、個人商店が抱える課題を解決するプラットフォームだ。1.769億人のモバイルネット人口を抱えるバングラデシュで、小売業を大改革する起爆剤になる可能性があると志象網が報じた。

 

バングラデシュのShopUpが大型投資を獲得

インターネット人口が1億人を突破したバングラデシュで、EC「ShopUp」(ショップアップ)が7500万ドル(約85億円)のBラウンド投資を獲得した。ペイパルの創業者ピーター・ティールが所有するベンチャーキャピタル「バラール・ベンチャーズ」の他、プロサス・ベンチャーズ、フローリッシュ・ベンチャーズ、セコイヤ・キャピタル・インディア、VEONベンチャーズなどが投資を行なっている。

ショップアップは、10ヶ月前にも2250万ドルの投資を獲得しており、合計の投資額が1億ドルを突破した。

 

世界第9位のネット人口国家バングラデシュ

この数年、バングラデシュの国内状況は安定をしており、経済も順調に回復をしている。特に2019年は経済が大きく成長しGDP成長率は8.2%の増加となっている。

これによりインターネット人口も大きく増加し、2021年7月時点で、モバイルインターネットユーザーは1.769億人、固定インターネットユーザーも1.237億人となった。このネットユーザーの規模は、アジアの中で第5位であり、世界でも第9位になる。

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バングラデシュには大規模小売店がほとんど存在しない。一方で、モバイルユーザーは1.769億人と多く、世界第9位のネット人口をもつ国になっている。

 

パパママショップのデジタル化を進めるショップアップ

EC「ショップアップ」が投資家から注目を浴びているのは、そのビジネスモデルに理由がある。

バングラデシュは、まだ大規模店舗や大規模チェーン小売が存在せず、mudir dokanと呼ばれる小規模小売店、いわゆるパパママショップが中心になっている。このような個人商店が約450万店舗存在し、94%の人がこの個人商店を日常的に使っている。

しかし、昔ながらの個人商店であり、デジタル化はほとんど進んでいない。ショップアップは、このような個人商店にデジタル手段を提供するというものだ。

この450万の個人商店は、年に1600億ドルの商品を仕入れている。現在、ショップアップに加盟をしているのは50万店。ショップアップには巨大な成長空間が存在すると見られている。

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バングラデシュでは、消費者の94%が日常的に個人商店で買い物をする。ショップアップは個人商店が抱えている課題を解決しようとしている。

 

仕入れは現金、販売はつけ払いのパパママショップ

パパママショップは3つの課題を抱えている。

ひとつは多くの仕入業者と取引をしているが、その多くがキャッシュオンデリバリー=現金取引であること。2つ目が物流コストが高いままであり、その多くが店舗までの配送を提供していない。個人商店のスタッフが近隣の配送拠点まで受け取りに行く必要がある。3つ目が、店主が運転資金を調達する金融機関が存在しないことだ。

このような問題がある中で、73%の個人商店が顧客に対してつけ払いの販売をしている。個人商店は、仕入れでは現金で支払い、顧客からはつけ払いで受け取ることになっており、運転資金がショートしやすい状況になっている。

この問題を解決しようとしているのがショップアップだ。

 

個人商店プラットフォームを提供するショップアップ

ショップアップは、アマゾンや淘宝網タオバオ)とは異なり、BtoB型のECで、仕入れ業者と個人商店を結ぶ。個人商店の店主はアプリ「Mokam」を利用して、1万種類以上の商品を注文することができる。個人商店にとっては、仕入れ業者との交渉や注文の手間が軽減され、さらには適正量を注文することで在庫の保有コストも抑えることができる。

また、RedXという物流インフラを構築し、注文した商品を24時間以内に店舗まで配送する。

また、個人商店向けにBakiという後払いサービスも用意している。

これらにより、バングラデシュの個人商店が抱えている課題が解決される。ショップアップはECというよりも、個人商店の支援サービスといった方が正確だ。

個人商店ビジネスは、1つ1つを見てしまうと零細なビジネスであり、銀行も個人商店への貸付については興味を示してこなかった。しかし、個人商店全体を見れば、大きな市場になっている。ショップアップはここに着目をして、個人商店全体にインフラを提供するプラットフォームサービスを提供した。

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▲ショップアップアプリでは、仕入れがスマートフォンで行え、24時間配送もしてくれる。また、金融機能も用意されている。

 

次の焦点はキャッシュレス決済の普及

新型コロナの感染拡大は、バングラデシュの経済成長を鈍らせたが、ショップアップには追い風となった。多くの個人商店の店主が、従来型の人と人が会って行う仕入取引から、会わなくても済むショップアップを利用するようになったからだ。2020年のショップのアップの営業収入は13倍となり、出荷商品量も11倍、利用店舗数は8.5倍に増加した。これにより、ショップアップは小売業界でのインフラ提供サービスとして、バングラデシュのリーダー的地位を確立した。

次の焦点となっているのが、キャッシュレス決済への対応だ。バングラデシュでは多くの人、個人商店が銀行口座を持っていない。そのため、現金に頼るしかなくなっているが、キャッシュレス決済を導入することで、送金などがしやすくなり、取引も活発になる。

バングラデシュではbKash、Nagadという2つのキャッシュレス決済が大手になるが、ショップアップはbKashを導入をしている。これを消費者にまで広げることにより、消費者がスマホで注文をし、近隣の個人商店に受け取りに行くという店舗ECのサービスが可能になる。

バングラデシュのテックビジネスは、インドやインドネシアに比べて5年から10年遅れていると言われている。しかし、ショップアップを軸として、インド、インドネシアと肩を並べる日がくるのもそう遠くはないかもしれない。