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整形をして20年逃げ続けた逃亡犯。顔認証防犯システム「天眼」は同一人物と判断、逮捕に至る

7件の連続強盗殺人事件を起こし、20年にわたり逃亡生活を続けていた犯人が、顔認証防犯システム「天眼」がきっかけとなり逮捕され、死刑判決を受けた。逃亡犯は整形をしていたが、顔認証システムはそれでも同一人物と判定したと笑寒新視野が報じた。

 

20年前の強盗殺人事件に死刑判決

2020年12月21日、江西省南昌市の中級人民法廷で、20年前に起きた強盗殺人事件の審理が行なわれ、被告の労栄枝に対して死刑が宣告された。

20年前、労栄枝は小学校の教師をしていた。しかし、その仕事を捨てて、10歳年上の恋人、法子英とともに国内を点々として生きていくようになった。

1996年6月、2人は南昌市で部屋を借りて、労栄枝はナイトクラブのフロントの仕事を得た。そこで拉致をして金品を強奪する獲物を探した。7月28日、2人はお金を持っていそうな個人事業主に目をつけ、労栄枝が誘惑をして自宅に連れていき、そこに法子英が乗り込み、脅して金品を奪い、殺害をした。さらに2人は、この被害者の家に向い、自宅の金品を奪い、妻と娘を殺害した。

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▲連続強盗事件を起こしていた頃の2人。各地を点々としながら、7件の強盗殺事件を起こしていた。

 

主犯は逮捕、従犯は20年にわたる逃亡生活

1997年10月、2人は浙江省温州市に現れ、22歳の女性と29歳の2人の女性の金品を相次いで奪い、革ベルトとコードで首を絞めて殺害するという事件を起こした。

1999年7月、安徽省合肥市で、同様に個人事業主を殺害し、自宅に向かったところ、妻は隙を見て逃げ出すことに成功し、警察に通報した。法子英はその場で逮捕され、5ヶ月後、裁判を経て死刑宣告を受け、死刑が執行された。しかし、労栄枝はそのまま逃亡をし、それ以来、20年間逃げ続けていた。

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▲逃亡をした労栄枝は、整形をし、偽名を使い、裕福な恋人とも出会い、油絵を趣味とする優雅な生活を送っていた。

 

整形手術を受け、優雅な生活を送る逃亡犯

労栄枝は、名前を何度も変え、最後には「雪莉」(シュエリー、シェリー)という名前で、アモイで暮らしていた。経済的に余裕のある恋人ができ、マンション、自動車、高級酒などの取引で生計を立てていた。

2匹の犬を飼い、趣味はピアノとバイオリン、油絵という優雅な生活で、周囲の人は、雪莉がかつて7件もの強盗殺人事件を起こした凶悪な逃亡犯だとは誰も思いもしなかった。

20年経って、顔も変わったが、労栄枝は数回にわたる整形手術を受け、20年前の指名手配の写真と見比べても、同一人物だと思う人はほとんどいない。労栄枝はそのまま優雅な生活を送りながら、逃げ切ることができそうだった。

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▲死刑判決を受ける被告。この裁判は一審であり、被告は上告をしたが、証拠が揃っているため、判決が覆ることは難しいと見られている。


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▲20年前の事件で、死刑を宣告された瞬間の逃亡犯。

 

整形をしても顔認識システムが逃亡犯を察知

しかし、思わぬところから、過去が発覚をした。恋人は近隣のショッピングモールで、高級時計の販売店を経営していた。そのため、労栄枝もほぼ毎日、店舗に顔を出していた。

ショッピングモールには防犯カメラが設置をされ、現在、多くの防犯カメラがネットワーク化をされ、画像解析や顔認識が行われ、逃亡犯のデータベースと照合され、逃亡犯を発見したときは公安にアラートが送られるシステム「天眼」(ティエンイエン)が稼働をしている。この天眼が反応し、公安にアラートがあげられ、捜査が始まった。

天眼の顔認識は、化粧や整形により左右されないように、顔の骨格や瞳孔間の長さなど、化粧、整形、加齢などでも変わらない特徴で同一人物であるかどうかを判断するように学習されている。過去のアラート正答率は97.33%になっている。公安が「雪莉」の過去を調査してみると、前歴がよくわからず、身分証なども偽造である可能性が高まった。

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▲当時の写真と現在。整形と加齢により容貌は大きく変わり、当時の指名手配写真と比べても同一人物だと思う人はいなかった。しかし、顔認証システム「天眼」は、同一人物だと判断をして、公安にアラートをあげた。

 

DNA鑑定により本人であることを確認

そこで、任意同行による取調べを行い、本名は労栄枝ではないのかと追求したが、「雪莉」は否定をする。しかし、DNA鑑定には理由をつけて同意をしない。刑事が取調べを進め、「労栄枝という名前を使ったことはないのか」と尋ねると、「雪莉」は「本名を使うわけないじゃない」と答えてしまった。

このミスにより「雪莉」は観念をし、DNA鑑定に同意をし、それにより本人であることが確認され、裁判にかけられることになった。

天眼は、中国の監視社会の象徴としてたびたび国外から批判をされ、市民の間にはプライバシーの問題を議論する人もいる。しかし、公安はこのような事例を積極的に公開することで、市民の理解を得ようとしている。