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中国スーパーの教科書「ウォルマート」が苦戦。コロナ禍の行動変容により、ホールセールクラブに復活をかける

世界的流通小売「ウォルマート」の中国での苦戦が鮮明になっている。新小売、社区団購などの新業態の登場により、顧客を奪われているからだ。その中で、ホールセールクラブ「サムズクラブ」の好調ぶりが救いで、ウォルマートはサムズクラブの拡大に復活を賭けていると金十新媒体が報じた。

 

ウォルマートが中国で苦戦。老舗店の閉店が相次ぐ

世界トップの流通小売業「ウォルマート」が中国での苦戦が鮮明になってきている。現在、中国で429店舗を展開しているが、今年2021年だけで16店舗を閉店し、新規開店は2店舗にとどまっている。

特に深刻なのが、長年続き、地元から愛された老舗店舗の閉店が目立つことだ。北京市朝陽店は、開店して15年、西安市蓮湖店は20年になる。ウォルマートは賃貸期間の満了によるものと説明しているが、家賃と人件費が急上昇している中国で、運営コストと売上が見合わないと判断されたのだと見られている。

 

中国スーパー業態の教科書だったウォルマート

ウォルマートは1996年に中国の深圳市に1号店を開店して以来、中国のスーパー業態の教科書だった。多くの流通小売がウォルマートの手法を研究し、それを取りれることで成長してきた。

しかし、2001年に創業した永輝(ヨンホイ)が、郊外大型店のウォルマートに対抗して、都市型小型中型店で成功したあたりから、ウォルマートに翳りが見られるようになった。

特に2016年の新小売スーパー(宅配対応)、2020年の社区団購(事前注文、受取方式)の登場により、業績悪化が鮮明になってきた。

中国チェーンストア経営協会(CCFA)は、2020年の「中国スーパー100強」のランキングを公表したが、ウォルマートは4位だった。ウォルマートはこのランキングのトップ3であり続け、4位に転落をするのは初めてのことになる。

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▲CCFAが発表した2020年の「スーパー100強」で、ウォルマートは初めてトップ3から陥落をした。ホールセールクラブの転換に復活を賭けている。

 

コロナ禍で変わった消費行動

新しい業態の登場と、さらにそれがコロナ禍による意識の変化がウォルマート業績悪化の要因になっている。

人々は、人が密集する場所を避けようとし、長距離の移動、移動回数を抑えようとした。新型コロナ感染のデータ分析により、感染リスクは移動距離と密集する場所での滞留時間に比例して高くなるという知見が紹介されため、人々は移動回数、移動距離、滞留時間を小さくする行動を取るようになった。

このため、日常の買い物は、若い世代では新小売スーパー、生鮮ECによる宅配を利用するようになり、中年以降は消耗品のまとめ買いをして、スーパーに行く回数を減らすようになった。また、遠方のスーパーから近所のスーパーを利用するようになる。社区団購も、価格が安いということもあるが、事前注文をして、受け取るだけという滞留時間が短いことも使われる理由のひとつになっている。

このようなコロナ禍の行動変化が、収束後も習慣となり、遠くの郊外大型店に行き、広い店内を歩き、日用品を買うというウォルマートのコンセプトに合わなくなってきた。

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▲サムズクラブの店内。広々としており、箱陳列であるため、商品棚前で滞留する人も少ない。時間を選べば、感染リスクを高めずにまとめ買いができることから人気になっている。

 

にわかに人気となったホールセールクラブ

ウォルマートも手をこまねいているわけではない。やはり1996年に開店した会員制ホールセールクラブ「サムズクラブ」は、なかなか中国では受け入れられず苦戦をしていたが、コロナ禍以降、会員登録者数が増えている。2021年Q2には、昨年同時期の2倍の新規会員を獲得している。

年会費の260元(約4500円)を支払う必要があるが、消耗品をまとめ買いすればすぐに元が取れる。店内も広々としていて、人が密集することが少ない。

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▲苦戦をするウォルマートだが、にわかにホールセールクラブ「サムズクラブ」の人気が高まり、ウォルマートからサムズクラブへの転換を始めている。2028年までに100店舗に増やす計画だ。

 

ホールセールクラブに追従するライバルたち

コストコも本格的な店舗展開を始め、アリババも盒馬X会員店(フーマX)の展開を始めた。ウォルマートも既存店の閉店が進む中で、サムズクラブの展開を強化し、現在33店舗展開を2028年までに100店舗にする計画だ。

今年2021年4月に、歩歩高(ブーブーガオ)の王填会長は、業界のセミナーで「社区団購の拡大により、スーパーという業態そのものが生き死にを考える暗い時代を迎えている」と発言したことが話題になっている。ウォルマートが、郊外大型スーパーからホールセールクラブへの転換をする中で、スーパーという業態そのものの価値が問われ始めている。