大ヒットEVの宏光MINI EVの勢いが止まらない。都市部の若い女性には遊ぶ車として、地方の男性には通勤車としてという二極で売れている。しかし、五菱にとってもこのヒットは意外だった。本来は、通勤車として企画されたものが思わぬヒットになった。しかし、五菱はその嬉しい誤算に素早く対応し、宏光の売れ行きを維持していると車快評が報じた。
止まらない宏光MINI EVの売行き
中国の電気自動車(EV)を含む新エネルギー車市場で、上海通用五菱(ウーリン)の「宏光MINI EV」(ホングワン)の販売台数が独走状態になっている。エントリーモデルでは満充電の航続距離は120km、冷房はなしといろいろ割り切っているが、それでも2.88万元(約49万円)という低価格と、通勤、日用の利用にはじゅうぶんなスペックから、「代歩車」(歩く代わりに使う車)としてヒット商品になっている。
メーカーにも消費者にも意外だった五菱のヒット
このヒットは、五菱にとっても消費者にとっても意外なものだった。なぜなら、それまで五菱といえば、商用バンで有名なメーカーだったのだ。街中の配送車として五菱のバンがよく使われ、働く車をつくるメーカーだった。
五菱の商用車が好評だったのは、とにかく丈夫であるということだった。接触事故を起こして多少へこんだとしても走り続けることができる。メンテがいい加減でもなんとか走る。
さらに、商用車であるため、運転しているのは習熟をしたドライバーが多く、交通事故を危機一髪ですり抜ける映像やスリップしてもうまく立て直す映像などがたびたびネットにアップされ、「神車」として認識されている。ネット民たちが面白がって過剰にもてはやしている面はあるにしても、日本のハイエースと同じように、商用車としてレベルの高い製品を作っているメーカーだった。
商用バンの弟分として企画された宏光MINI EV
この商用バンの人気車種が「宏光」であり、ヒット商品になった「宏光MINI EV」は、この商用バン「宏光」の通勤車版という企画からスタートした。そのため、「高速道路は利用しない」「通勤に必要な片道30分程度」という条件の中で、可能な限り価格を安くするという商品企画がスタートした。
運転しやすく、遊べる車
ところが、販売をしてみると、最初に反応したのは若い女性だった。中国の女性は運転に苦手意識を持っている人が多く、特に駐車周りの細かい操作に苦手意識がある。日本では、誰もが苦手としている縦列駐車をするシーンというのはさほど多くなくなっているが、中国では頻繁に要求されるテクニックだ。しかも、誰もがぎりぎりに詰めて駐車するために、難易度が高い。そのためサイズが軽自動車並みに小さいということが受け入れられた。
さらに価格が安いことから、塗装を変えたり、改造をすることが流行し、遊ぶ車としても人気となった。また、五菱の思惑通り、通勤車としての需要も高く、都市の女性と地方都市の男性という2種類の消費者により、宏光ブームが形成されている。
嬉しい誤算に素早く対応した五菱
この嬉しい誤算に、五菱は素早く対応した。2021年4月には、パステルカラーのバリエーションを展開し、インテリアも女性向けに改善した「宏光MINI EVマカロン」シリーズの販売を始めた。
さらに、9月に天津市で開催されたモーターショーでは、新しい小型EV「NANO EV」を発表した。2人乗りEVで、最も重要なのは価格が2万元(約35万円)であるということだ。11月に発売が予定されている。
女性に受け入れられるかどうかはまだわからないが、通勤車として「宏光MINI EV」を購入していた層は、こちらのNANO EVに流れることが予想される。
他メーカーも五菱の成功を見て、小型EVのライナップに力を入れ、好調に売れている。中国のEVシフトは、小型EVを軸に進みそうだ。