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EC「タオバオ」が消費者レビューの仕組みを変更。終わらない不正レビューとの戦い

ECには必ず商品レビューが用意され、多くの人がそれを参考に購入を決めている。しかし、低評価レビューを公開しない、お金を餌に高評価レビューを書いてもらうなどの不正行為が横行していると工人日報が報じた。

 

評価レビューの仕組みを工夫するタオバオ

昨年から、アリババのEC「淘宝網」(タオバオ)が新しい仕組みを導入している。商品のレビューを読みやすくするために、「高評価」「中低評」というタグを作り、そこにレビュー数を表示する仕組みが以前からあったが、その方式に加えて、「正規品」「痩せて見える」「おいしくない」「品質が悪い」などの商品評価に関するキーワードを自動抽出し、その数を表示するようになっている。

販売業者の方で、どちらの方式を採用するかは選べるようになっているため、多くの販売業者がキーワード型の評価を採用している。

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タオバオの新しい仕組み。レビューのトップに、「到着時間が早い」「家庭用に最適」「品質が悪い」などのレビュー関連のキーワードを抽出し、その数を表示するタグが採用されている。

 

公開されない低評価レビュー

このような変更が行われたのは、「高評価」「中低評」のみのタグだけだと、「中低評」の数が多い場合、それだけで商品が死に筋になってしまうため、不正とも取られかねない行為が横行をしたためだ。

2021年6月、張潔さん(仮名)は、あるライブコマースでハイソックスを購入した。しかし、到着をしてみると、その靴下は薄く、透けている。ライブ配信で紹介された商品とは大きな隔たりがある。そこで、張潔さんは商品レビューにそのことを書き、低評価をつけた。

しかし、いつまで経っても、このレビューが公開されない。自分のアカウント内の下書きのところには残されているものの、公開されないのだ。友人のアカウントでそのライブコマースに入ってもらっても、やはり張潔さんのレビューは表示されていない。ただ、以前は高評価率が100%だったものが、92.8%に落ちていた。

つまり、張潔さんのレビューはシステム上は認識されているのに、何らかの方法で消費者側には見えないようにされているのではないかと疑った。

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タオバオの旧来型のレビュータグ。「動画/画像」「高評価」「中低評価」の3つのタグが設定され、その数が表示される。

 

レビュー操作は電商法違反

北京市東衛弁護士事務所の王瑋琨弁護士は、工人日報の取材に応えた。「電商法第17条、第31条、第39条などで、ECの運営者と販売業者には、商品とサービスに対する健全なレビューの仕組みを提供する義務が規定されています。消費者が提供したレビューの内容を削除することは許されていません。消費者には、商品とサービスに関する詳細な情報を知る権利があり、運営者や販売業者は、関連する完全な情報を提供する義務があります」。

 

業者は購入者の個人情報を取得している

李さん(仮名)は、ある旅行予約サイトである民宿を予約し宿泊した。しかし、行ってみると、部屋の調度品に湿った感覚があり、ふとんには虫食いの穴まであった。インフルエンサーが紹介していた映像を見て予約をしたのだが、インフルエンサーは過大によく見せていると感じた。それで、レビューに、正直にそのことを書いて低評価をつけた。

すると、その民宿から直接電話がかかってきた。不快な思いをさせたことを謝罪し、低評価のレビューを削除してくれないかという。削除をしてくれたら、宿泊代の一部である200元を返金するという。

李さんは、気の毒に思い、レビューを削除し、WeChatでその旨を連絡すると、200元が返金された。すると、WeChatで民宿アカウントの友人関係から外され、民宿が発信する情報を見られなくなってしまった。再度登録をしようとしても、拒否される。

李さんは、批判をするというよりも、改善をしてもらって、また行きたいと思っていたのに、裏切られた思いがした。

王瑋琨弁護士によると、このような行為には法律上の問題はないという。あくまでも消費者本人が自分の意思で削除をするのは問題なく、業者がそれを申し出ることも、削除に対して報酬を出すことも特に法に触れる行為ではないという。

しかし、販売業者が、サービス提供のために、消費者の電話番号やWeChatアカウントなどの情報を取得し、それをサービス提供以外の目的に利用したことは問題があり、議論になるという。特に、消費者にとって、連絡先を知られているということは、トラブルになりたくないという無言の圧力にもなりかねない。

 

高評価レビューにインセンティブも横行

多くの販売業者が「写真付きの高評価レビューを書けば○○元キャッシュバック!」という広告を隠すことなく行なっている。特に、新規に開店した販売業者、新商品の場合は、高評価の数により売れ行きが左右されるため、あたり前のように行われている。

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▲あるビジネスサイトで配布されているスマホ用広告の雛形。5つ星評価をつけ、10字以上のレビューを書くと、紅包(インセンティブ料)がもらえることをうたったもの。

 

消費者が直接意見を言えるライブコマース

消費者の間では、次第に「商品レビューはあてにならない」という意識が広がり始めている。タオバオのレビュータグの変更は、この問題を解決しようとするものだが、やはり「おいしくない」「品質が悪い」などのネガティブなキーワードを書き込んだ消費者に対して同様のことが行われている。

中国でライブコマースが急速に広がっているのには、この商品レビューの問題も要因のひとつになっている。ライブコマースであれば、ライブ配信中に直接業者にチャットを通じて質問することができ、劣悪商品をつかまされた場合は、そのことをライブ配信で詰問することもできる。消費者のチャットは、視聴者全員に見えるようになっているため、ネガティブな質問を無視する販売業者もわかってしまう。

品質が写真や映像だけではわかりづらい食品、衣類、宝飾品などでは、今後もライブコマースが伸びていくと見られている。

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▲抖音のライブコマースの画面。左下に視聴者からのチャットメッセージが表示される。質問やクレームがある場合は、ここでメッセージを送り、配信者がそれに答えることになる。無視をした場合は、無視したことが視聴者全員にまわわかりになってしまう。ライブコマースが広がっているのは、このような直接対話ができる安心感もある。