中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

オタク×テック×ビジネス。二次創作×企業。産業として成立し始めたオタク経済

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 088が発行になります。

 

今回は、中国のオタク産業についてご紹介します。

といっても、個々の作品を解説するようなカルチャー面には触れません。では、なぜご紹介するかというと、中国のオタク文化は、テクノロジーと密接に結びついており、なおかつこの数年でビジネスとして成立するようになってきたからです。つまり、オタク×テック×ビジネスという掛け合わせの歯車が噛み合ってきたような印象です。

「vol.085:成長するオタク市場の「三坑アパレル」。JK制服、漢服、ロリータが人気の中心」でも、JK制服が産業として成立するようになってきたことをお伝えしました。また、「vol.084:テンセント帝国の終わりの始まり。ゲーム業界に起きている大きな地殻変動」でもゲーム産業が大きな転換点を迎えていることをご紹介しました。

 

中国では、アニメ、コミック、ゲーム、(ライト)ノベルの4つを合わせて、ACGNと呼ばれることが増えていますが、もはや一部の若者のカルチャーではなくなっています。大半の若者がACGNのいずれかのコンテンツを楽しんでいて、サブカルではなく、メインカルチャーになっています。

以前はオタクのことを、日本語から翻訳をして「宅男宅女」と呼ばれたこともありましたが、最近はあまり使われません。最近使われるのが「ACGN愛好者」ですが、これはマーケティングなどで使われる用語で、日常生活の中ではほぼ使われません。オタクを指す言葉が存在しないのです。それほど、若者世代にとってあたり前のカルチャー、あたり前の経済になっているため、わざわざ特定の名前をつけて、普通の若者とオタクの若者を区別する必要がなくなっているのです。

 

中国のオタクカルチャーの特徴が、テクノロジーとの親和性です。エンジニアには濃いACGN愛好者が多いため、自然にオタクテックのようなジャンルが生まれています。

例えば、上海復旦大学の学生が立ち上げたMakeGirlsMoeがその典型です。

 

https://make.girls.moe/#/

▲好みの属性を指定すると、AIが美少女画像を生成してくれるサービス。

 

これは、髪型や髪の色などを指定して、自分好みの美少女画像を生成してくれるというサービスです。生成される美少女は、世界に一人だけで、あなただけの美少女がつくれます。

しかし、このサービスの裏側にはDCGAN(Deep Convolutional Generative Adversarial Network=深層畳み込み生成対立ネットワーク)というAIアルゴリズムが使われています。

このGANは、2つのAIを作り、互いに対決させることで、高速学習を進めるというものです。GANの仕組みは偽金作りの例えで説明されるのが一般的です。既存の紙幣データを組み合わせて、それっぽい偽札を生成するAIをつくり、同時に偽札の真贋を判別する別のAIをつくります。生成AIが偽札を生成すると、それを判別AIが判定します。生成AIはできるだけ精巧な偽札をつくるように学習が進み、判別AIは精巧な偽札を見抜けるように学習が進みます。これを高速で繰り返すことで、両方のAIの学習が進み、最終的には判別率が50%に落ち着いて、人間の目には見分けがつかない精巧な偽札ができるようになるというものです。

MakeGirlsMoeでは、大量の美少女画像を収集し、それを髪、目、鼻、口などのパーツに分け学習し、これを組み合わせて画像を生成します。判別AIはそれが整合性のある画像になっているかどうかを判別します。各パーツはそのままモンタージュ写真のように合成されるわけではなく、位置、大きさ、形なども変更されて使用されるため、タッチとしては元画像にそっくりですが、元画像とは異なる美少女画像が生成されるというわけです。

 

今年の1月に、中国のオタク界隈を激震させた1つの動画が公開されました。人気ウェブ漫画「非人哉」の中のキャラクターである嫦娥の玉兎(月に住むと言われているウサギ)の小玉が躍る映像です。

 

https://www.bilibili.com/video/BV1FJ411p7tB?from=search&seid=14782316256549463393

 

▲慧夜科技が後悔したアニメキャラクターのダンス映像。ダンスのキレ、スカートの物理演算などのレベルが非常に高い。ダンスの動きはAIが生成している。

 

この映像が非常によくできていました。アニメーションであるのに、ダンスはキレキレで、さらにすごいことに、スカートや髪の揺れ具合や耳のしなり具合の動きが完璧で、スカートの素材感まで伝わってくるほどのできでした。

「この動画はどうやってつくってるのだ」と大きな話題になりました。もし、アニメーターが動画を描いているのだとしら、最高水準の技術を持っている人に間違いありません。また、今では、実際の人がマーカーをつけて踊り、その動きをスキャンして、アバターに踊らせることができます。それだとしても、まずこのダンサーのレベルが高い。さらに、スカートの揺れ具合などは、このような手法で再現することは簡単ではありません。

 

この映像の制作過程が明らかになると、視聴者たちはもう一度驚くことになりました。このダンスの動きは人工知能が生成していたのです。人間のダンスデータを学習し、キレのいい動きを学習し、あとは振りつけを指定すると、レベルの高いダンスを踊ってくれます。このデータに、スカート、髪、耳などは、動きに合わせた物理演算を行い、リアルな動きをつけます。

このAIはPhantom Net(ファントムネット)と名づけられたもので、北京慧夜科技(ホイイエ)が開発したものです。2019年5月に創業したスタートアップ企業ですが、AIとエンターテイメントをクロスさせる領域の技術開発を進めています。

声優を使った音声チャットボットも開発され、ユーザーと会話ができるバーチャルライブ配信を目指しています。

 

中国のオタク×テクノロジーの領域では、使われているテクノロジーが本格的すぎます。世界最先端レベルのテクノロジーが惜しげもなく萌えキャラに注ぎ込まれるのです。

ビジネス面でも同じで、最初は胡散臭いオタクたちの集まりだったものが、瞬く間にビジネスとして成立するようになっています。

そこで、今回は、このオタク文化を支えるビジネスにどのようなプレイヤーがいるのかをご紹介します。中国のオタク産業は、若者向けビジネスを考える上で外すことのできない必須要素になっています。オタクビジネスの基礎知識をご紹介します。

 

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先月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.083:簡単ではない自動運転ロボタクシーの事業化。試験運行を始めている6社の事業化戦略とは

vol.084:テンセント帝国の終わりの始まり。ゲーム業界に起きている大きな地殻変動

vol.085:成長するオタク市場の「三坑アパレル」。JK制服、漢服、ロリータが人気の中心

vol.086:広がるサードパーティー製インプットメソッド(漢字入力)。人気の理由は音声入力とAI機能

vol.087:洗脳神曲「密雪氷城」の背後に隠されたプロモーションロジック

 

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