コロナ禍以降、テック企業が相次いで参入して、競争が激化している社区団購。団長を勧誘すると高額の奨励金が支払われるため、勧誘に奔走している団長も多く、それが拡大の駆動力になっていた。しかし、団長の淘汰整理が始まり、社区団購も安定期に入る兆しが見えてきたと霊獣伝媒が報じた。
農村の生活協同組として始まった社区団購
主だったテック企業が参入して、激しい競争になっている社区団購(シャーチートワンゴウ)。
元々は農村で始まった生活協同組合のようなビジネスだった。農村にも個人商店やスーパーはあるが、その数は少なく規模も小さい。日常の生鮮食料品の買い物は間に合っても、数が出ない野菜や魚などは遠くの街まで買いに行かなければならなかった。そこで、個人商店の店長が団長となり、社区団購プラットフォームと契約、必要なものは事前注文し、個人商店まで配送してもらう形で購入をする。これが社区団購の基本スタイルだった。
コロナ禍で、買い物に行くことすら控えられるようになり、都市部でもこの社区団購の仕組みが利用され始めた。そこにテック企業が目をつけ、既存の社区団購企業に投資をしたり、フランチャイズや直営の形で社区団購店舗を出店し、競争が激化している。
▲社区団購は、プラットフォームにスマホ注文し、近所の加盟店に受け取りに行くのが基本。加盟店の多くは、地域密着の個人商店だ。
融通が効く地域密着店を活用して、コミュニティ拠点に
テック企業が目をつけているのは、個人商店ならではの融通が効く点だ。社区団購は原則、注文した消費者が店舗に商品を受け取りにくるというものだが、個人商店の店主は機転を利かせて配達も行う。商品は、スマホで注文をするというのが基本スタイルだが、使い方のよくわからない高齢者などには、店長が機転を利かせて代理で注文をする。ちょうど、日本の街の電気屋さんが、電球ひとつの交換から参上をして、街の便利屋さんとして、しぶとく生き残っているのと同じ理屈だ。
さらに、高齢者は習慣を買えない傾向にあるので、ビジネス規模は大きくはなくても、継続して安定した収益が期待できる。
さらに、社区団購店舗を起点に、介護、家事補助、医療などのサービスの提供も見えてくる。このようなことから、既存のECの伸び悩みに悩むテック企業が相次いで参入をしている。
▲社区団購は元々、農村の商店の品揃えの少なさを補うための生活協同組合のようなビジネスだったが、テック企業が参入したことで、都市部に進出をしている。
消える団長。淘汰整理が始まった社区団購
当然ながら、競争が激化すれば、淘汰される社区団購も出てくる。その淘汰はすでに始まっている。「消える団長」が現れ始めているのだ。
「この辺りには4人の団長がいたのに、今はだれもやっていません」と語るのは、ある二線都市で眼鏡店を営む店主。テック企業が次々と社区団購に参入をして、条件もよく、儲かると考え、ある社区団購の団長となった。しかし、数ヶ月後にはもう団長を辞めた。結局、巨大なテック企業に踊らされているだけだということに気がついたからだ。
旧三団と新三団の激しい競争
この社区団購ビジネスを始めたのは、興盛優選、十薈団、同程生活などで「旧三団」と呼ばれる。それに対して、美団(美団優選)、滴滴(橙心優選)、拼多多(多多買菜)のテック企業系は「新三団」と呼ばれる。この他、アリババ、蘇寧は自社の新小売スーパーのサブブランドとして社区団購を始めている。
ビジネス規模は拡大しており、2021年3月には十薈団が7.5億ドル(約820億円)、興盛優選が30億ドル(約3300億円)の投資を受け、上場準備に入っていると見られる。
社区団購のビジネスが拡大しているように見えていたのは、団長が新たな団長を勧誘することに多額の報奨金を出していたからだ。団長の中には、社区団購の日常のビジネスはそっちのけで、団長の勧誘に奔走している人も多い。
しかし、霊獣伝媒が団長への取材を続けると、すでに社区団購企業は、団長の整理を始めているという。月の販売量ノルマを定め、それを達成できない団長は強制的に契約解除する仕組みを導入している。
無闇に団長の数を増やす段階は終え、利益を出せる団長だけを残す、整理の段階に進んでいると見られる。
▲コロナ禍以降、テック企業が続々社区団購に参入押している。安定した売上が確保できることと、地域コミュニティの拠点にできる将来性が注目されている。
消費者からの新奇性ボーナス期間も終わった
社区団購が注目をされたのは、コロナ禍の買い物難からで、多くの団長は、1年の間に「勧誘、選別、淘汰」を経験していることになる。
さらに、多くの団長が感じているのが、消費者の好奇心が消え失せたことだ。当初は、社区団購とはどのようなものかわからないので使ってみるという人が多かった。しかし、そのような消費者が次第に少なくなり、現場の販売量は伸び悩みを見せ始めている。
中には、団長というのは、プラットフォームから送られてくる商品を、消費者に転売をして、手数料を稼ぐビジネスだということを見透かして、欲しいものがあれば、卸売業者が行っている直販ECやライブコマースで購入する賢い消費者も出てきている。
団長の手数料も相次いで低下
さらに、社区団購プラットフォームは、団長への手数料を引き下げ始めている。以前は販売価格の15%程度が団長の手数料となっていたが、現在は5%程度が相場になりつつある。団長、店主といっても、結局は社区団購プラットフォームの従業員のようなもので、店舗の家賃や光熱費、従業員の人件費は自分もちだ。
手数料が下げられ続けているため、多くの団長が一定量以上販売すると獲得できる奨励金に注目をするようになった。そのため、団長同士で商品を互いに購入するという不正も横行した。同じ商品を大量に相互で購入すれば、商品を動かす必要がなく、売上として計上できる。一定量以上の売上になれば、奨励金がもらえる。
メディア「財経無忌」の調査によると、十薈団の2020年12月の広東省東部地区の台帳を入手して検証したところ、約9000万元の売上げのうち、6000万元に不正取引の疑いがあると報道している。
また、SNS「ウェイボー」では、「中商科技界」という利用者が、食享会がiPhone XSのセールを行い、8000台ほどが売れ、売上は7、8000万元になるはずだが、食享会はなぜか2億元の売上があったと発表したと指摘している。売上の半分程度が不正取引ではないかと想像される。
しかし、これも社区団購プラットフォームが異常な取引を検知する仕組みを導入するようになり対策されてしまった。
結局、赤字になってしまうということから、自ら社区団購プラットフォームとの契約を解除する団長が増えている。
社区団購は、安定期に入った
しかし、このような団長の「勧誘、選別、淘汰」というプロセスは、テック企業は織り込み済みだったはずだ。20%80%の法則によれば、80%の売上は20%の団長が生み出すことになる。テック企業がほしいのは、この上位20%の優秀な団長なのだ。
その意味で、社区団購は、拡大から安定へ、順調に推移していると言うこともできる。