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デリバリー中に汁物があふれた!配送員が自腹を切るという大きな問題

すっかり日常生活の中に定着をしたフードデリバリー。しかし、配送中に汁物があふれるなど食品の破損が起きた場合、騎手が自腹を切って食品を買い直すか、顧客に賠償をして解決していることがほとんどだという。しかし、大きな衛生上の事故にもつながりかねないことから、フードデリバリー企業が事故調査を行い、賠償をする仕組みを構築し始めていると鋅刻度が報じた。

 

配送中に食品が破損するというフードデリバリーの問題

「美団」(メイトワン)、「餓了麼」(ウーラマ)などのフードデリバリーは、すっかり日常のものとなり、食品だけでなく、コンビニの商品、薬品、電子製品などの注文もほぼ30分から1時間程度で配達してもらえ、都市の即時配送として機能するようになっている。

しかし、サービスとして成熟しているわけではなく、今でも問題を抱え、それを解決しながら前に進んでいる。

現在、問題になっているのは、届けた食品が崩れたりしていて、受け取り拒否をされることだ。ケーキなどがつぶれている、汁物がこぼれているなどだ。この場合、誰がその料金を負担するのかということが問題になる。

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▲騎手は常に急いでいる。届け先の住所が間違っている、見つからない、ビルの中に入れないなどさまざまな問題が起きても、配達時間が長くなると低評価をつけられてしまうからだ。

 

飲食店に戻り、交換をしてもらう時間はない

ウーラマですでに6年近く騎手(配送員)の仕事をする王磊(ワン・レイ)さんも、ベテラン騎手の間でも、いまだに食品の破損が大きな問題であり続けているという。

先週の水曜日にも問題が発生した。豚ひき肉とナスの炒めものと海苔たまごスープの注文を受けて、注文から約30分で配達をした。しかし、配送ボックスを開けてみて、王磊さんはがっかりした。たまごスープが袋の中にあふれ出ていて、配送ボックスを開けた瞬間に湯気と海苔の匂いがしたからだ。飲食店のパッキングが甘かったために、配送中に揺れて、あふれてしまったと思われる。

このような場合、飲食店に戻り、新しい商品と交換をしてもらうのが基本だ。しかし、それは現実的ではない。配送時間が伸びてしまい、利用者から遅延だと捉えられるからだ。遅延をすると自分の評価が下がる。評価が下がると、場合によっては一定期間業務ができなくなる。

 

判別ができない飲食店の責任と騎手の責任

王磊さんは、このようなことを想定し、時間的に余裕がある配達でも全速力で届ける。問題が発生した場合でも、解決するための手段を取ることができるし、早く配達が終われば次の注文が受けられる。それだけ歩合給が多くなる。

王磊さんは、時間的な余裕もあることから、飲食店に戻り、新しい商品に交換しようとした。ところが、今度は飲食店で問題が起きた。店主は、飲食店側のパッキングには問題がなく、配達中のミスだと主張して、交換を拒んだのだ。

結局、仕方なく、王磊さんは、自分のお金で新しい商品を購入し、パッキングを確かめた上で配達をした。

このように、食品に破損が生じると、騎手が自腹で弁償することが増えている。

 

多くの場合、騎手が自腹を切って解決している

王磊さんによると、大きなトラブルは3つあるという。

1:飲食店のパッキングが甘く、汁物があふれてしまうケース

2:学校やオフィスビルの中には入れないため、指定場所に置き配をするケースが増えている。この際、盗まれたり、間違って持っていかれたりするケース

3:配達先を間違えるなどして、遅延をするケース

3のケースで、騎手が自腹を切るのは仕方ないとしても、1や2のケースでも騎手が自腹を切って解決しているケースがほとんどだという。

 

いずれ衛生問題に発展しかねない自腹解決

この問題を放置すると、衛生的な問題もいずれ起こりかねない。騎手は、配達中にあふれやすい汁物や飲料の注文を受けると、自分で用意したビニールパックに入れてもらい、配達地点についてから容器に移し替えて配達をする工夫をしている人も増えているという。さらには、悪質な騎手になると、ビニール袋にあふれた汁物を容器の中に戻し、何食わぬ顔で届けていることもある。

作りたての食品であるので、食中毒などの大きな問題は起きなくても、異物混入や移し替えているところが撮影されネットで炎上するなどの不安がつきまとっている。

 

原則はプラットフォーム負担だが…

フードデリバリーの原則では、美団、ウーラマともに、このような損害はプラットフォーム側が負担をすることになっている。と言っても、実態は問題だらけだ。プラットフォームは騎手になる際に、100元程度の保証金を納めさせ、そこからこのような賠償を行う。結局は騎手の自己負担となる。しかも、この場合、騎手個人の評価が下げられるので、誰もこの制度を利用しようとしない。単価の高いケーキや生花を扱うには300元、さらに単価の高い電子機器を扱うには500元の保証金を収める必要がある。

さらに、それぞれの商品ごとの研修も受けなければならない。当然、この研修中に日当などは出ない。しかも、その内容のほとんどは、顧客に接した時の言葉使いに関するもので、商品を毀損しない配達技術のような内容はなく、騎手からは受けても意味がないとみなされている。

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▲フードデリバリー企業では、騎手に対してさまざまな研修を行う。しかし、騎手からの評判はあまりよくない。内容が実践的でないうえに、日当もでないからだ。

 

事故報告制度を整え始めたフードデリバリー企業

「2020外売業界報告」(iResearch)によると、2019年の飲食市場は4.6兆元(約77.6兆円)であり、そのうち外売(フードデリバリー)の市場は6535.7億元(約11.0兆円)となり、全体の39.3%を占めるようになっている。その後のコロナ禍により、この比率はさらに大きく伸びている。

これだけ大きな産業になってきているため、衛生問題にもつながりかねないこの問題を、プラットフォームも次第に重要視し始めている。

ウーラマでは、事故が発生した場合は、プラットフォーム側が負担をし、事故内容を調査することを始めている。問題が発生した場合、騎手は騎手用の業務アプリから事故を報告。その場は、自腹で賠償などをして解決してもらうが、騎手、顧客、飲食店の3者に聞き取り調査を行い事故調査を行う。その結果、騎手に責任がないと判断された場合は、後ほど賠償金が騎手の報酬に加算をされる仕組みだ。

また、この賠償報告は、騎手の評価に影響をしない。そのため、この制度を利用する騎手が徐々に増え始めている。

プラットフォーム側では、以前は、このような事故は、飲食店と騎手、利用客の間の問題として、関知をしない態度をとっていたが、現在ではサービス存続に関わるリスクとして認識されるようになっている。ウーラマはこのような制度を通じて、まずはどのような事故が起きているのか、事例を調査するところから始めている。

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▲ウーラマでは、事故報告制度を導入した。とりあえずは騎手の自腹で解決をしてもらうが、騎手用の業務アプリから賠償申請を行うと、ウーラマが聞き取り調査を行い、機種に責任がないと判断された場合は、賠償額が報酬に加算されて払い戻される。