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春節休みでECで売れたものは、漢服とマッサージ機。変わる年貨の慣習

春節に買う縁起物「年貨」。縁起物の部屋の飾りや縁起のいいパッケージに入った菓子類などが多く、春節休みの前に年貨を買って、1週間家の中でのんびりすごすのが伝統的な習慣だった。しかし、若い世代はこのような習慣から外れ、自分の欲しいものをECで買うようになっている。特に人気になっているのが漢服だと中国証券報が報じた。

 

若い世代が変えている春節の買い物の嗜好

中国の春節旧正月)には、年貨と呼ばれる買い物をする習慣がある。元々は春節の間、必要なものを買うというものだったが、次第に縁起物を買うようになっていった。一般的なのは、縁起のいいパッケージに入ったナッツ、菓子や、めでたい部屋の飾り、服などだ。

しかし、今年はこの年貨の内容に異変が起きている。EC企業「京東」(ジンドン)が公表した統計によると、京東年貨節キャンペーン期間に、前年から大きく伸びた年貨商品が3つある。

1:漢服。中国の伝統衣装である漢服は、前年から67%伸びた。購入者の76%が25歳以下だった。

2:マッサージガン。強力な振動で凝っている部分を叩くマッサージ機。前年から150%伸び、倍増以上になった。商品検索回数は25倍にもなった。購入者の90%が35歳以下だった。

3:フットバス:お湯で足をマッサージする機器。バブルや振動などの機能があるものもある。前年から35%も伸びた。

このような新しい年貨の多くは若い世代が購入していて、年貨の習慣が再び変わろうとしている。

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▲伝統的な年貨の売り場。縁起のいいパッケージに入れらた菓子類などが多い。春節休みの間に食べられるものが人気になっている。しかし、若い世代はこのような年貨をあまり買わなくなっている。

 

年貨の製造拠点である農村も様変わり

伝統的な年貨を製造しているのは多くが農村だ。従来は、製造も簡単な縁起物が多く、農民が年を越すのに重要な収入源となっていた。年貨の内容が変化するにつれて、農村の年貨づくりも変化し、この変化をうまく捉えた農村では、年越し資金どころではなく、重要な収入源になりつつある。

山東省の曹県では、戯曲、書画、武術などが盛んな場所だったが、近年では「漢服の里」と呼ばれるようになっている。曹県でつくる漢服のデザインや品質がいいと評判になり、製造が追いつかないほどの売れ行きになっているからだ。

曹県には多くの服飾工場があったが、2020年のコロナ禍により、多くの工場が製造ラインを止めざるを得なかった。そのままでは工場が倒産してしまうという中で、目をつけたのが、2019年から一部の工場で製造を始めていた漢服だった。多くの工場が漢服を製造し、2021年の春節に賭けた。曹県の服飾工場は、工場といっても、家内制手工業の小さな規模の工場が多いため、日用服から漢服への転換は早かった。また、漢服は構造がシンプルであるため、製造技術の取得も早かった。

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▲漢服で大成功した京東のオンライン店舗「昌泰」。現代的なアレンジを入れた漢服が40万着も売れるという大ヒット商品になった。製造拠点である曹県は、漢服の里と呼ばれるようになっている。

 

漢服に転換して大成功した京東のオンライン店舗

この動きに、京東にレディース服専門店を出店している「昌泰」の陳麗娜店長が呼応した。95后(20代後半)である陳麗娜店長は、若い世代の間で、漢服がコスプレ衣装やパーティー衣装だけでなく、室内着としても需要が高まっていることを知っていた。元々はメンズ服の専門店だったが、2020年6月に、漢服を中心にしたレディース服専門店に転換をした。

さらに、自分でデザインを考え、曹県の工場に生産してもらうということを始め、これが月に40万着売れる爆発的人気商品となった。

この成功を見て、2000店の服飾店が漢服を扱うようになり、曹県の漢服製造業者も600軒を超えた。曹県は、もはや「漢服の里」となった。

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▲漢服といっても、伝統的なデザインそのままではなく、大胆な刺繍、プリーツを入れて、ドレス風にアレンジをしている。この現代的なアレンジが歓迎された。

 

若い世代にとっては、中国伝統文化も新鮮に写っている

漢服の流行はごく最近のものだ。20年ほど前、パーティーで漢服を着て出席した女性が、「なぜ、日本の和服を着ているのか?」と周りから尋ねられたという話がある。それほど当時は、中国人ですら漢服を忘れていた。

現在、漢服のファンとなっているのは、10代20代の女性が中心だ。ゲームやアニメの中に登場する漢服を見て、コスプレから始まり、次第に広がっている。高校の卒業式には漢服を着る女性が見られるようになり、街頭ですら、まだまだ珍しいとは言うものの、漢服を着ている女性を見かけるようになった。ちょうど日本の和服と同じように、ハレの日に着るのを基本とし、普段着として着る人もじわじわと増えている。

この漢服の流行は「国潮」と呼ばれ、中国の伝統文化への回帰とも言われているが、漢服を着ている当の本人たちにその意識はない。ただ着たいから着ているだけで、伝統的な漢服とは違った現代的なアレンジも大胆に取り入れられている。自分たちの感覚に、たまたま中国の伝統衣装があっていたという感覚のようだ。その意味で、このブームは「新国潮」(新しい伝統文化のトレンド)と呼ぶ人もいる。

いずれにしても、漢服ブームはまだまだ続きそうだ。

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▲まだ多くはないとは言うものの、漢服を外出着として着る若い女性も現れ始めている。