中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

7日間無理由返品が可能なのに返品できない。問題は開封シールの位置

高額のカメラレンズをECで購入した人が返品をしようとして、京東から拒否をされたことがネットで話題になっている。江蘇電子台も報道番組で取り上げる問題となった。問題の焦点は、開封シールの位置であり、開封したかどうかだと華小曙が報じた。

 

ECを成長させた条件の緩い返品制度

中国のECが成長した理由のひとつが、条件の緩い返品制度だ。ECでは一般に「7日間無理由返品」、さらには「三無返品」(理由なし、現品なし、レシートなし)などが行われている。

ECで商品を購入する時に、消費者が心配をするのは、ちゃんとした商品が届くのかというものだ。アリババが淘宝網タオバオ)を始めた時、この問題がネックとなり取引が成立しないことに気がついたアリババは、担保交易という仕組みを導入した。これは、商品に問題があった場合、アリババが支払った代金を賠償する仕組みだ。

これを現金で行うのではなく、ポイントで行うようにしたのが支付保という仕組みだ。消費者はまずポイントを購入し、そのポイントで商品を購入する。商品に問題があった場合は、すぐにポイントが変換され、販売業者に渡ったポイントも戻される。これが後のスマホ決済「支付宝」(アリペイ)に発展をしていく。

 

返品はひとつの買い物テクニックになっている

このような返品制度がECの利用を促した。クーポン券が配布をされると、適用額まで商品を買い、不要なものを返品する。あるいは、サイズや色違いのある服や靴では、複数の商品を購入し、現物を見てから選び、他は返品をする。11月11日の独身の日セールでは、返品率は30%にも達するとも言われる。

このような返品は、賢い買い物テクニックとして認知されていて、業者側も返品を織り込んで販売計画を立てている。

 

商品によっては開封後返品できないものがある

ところが、なんでもかんでも返品できるわけではない。当たり前だが、開封をして使用したものを返品することができない。ここが業者と消費者の間でトラブルになることがある。

劉さんは、ライカのカメラレンズNOCTILUX-M 75 mm f/1.25を9万9800元(約160万円)で購入した。しかし、劉さんは購入する時に、金額の欄をよく見ていなく、9980元だと思っていた。商品が届いて、初めてそのことに気がつき、カスタマーセンターに返品をしたいと告げた。京東が商品を回収にきたので渡した。ところが、後になって、京東から返品は認められないと連絡があったのだ。その理由は、商品は開封をされ、使用されたものであるからというものだった。

劉さんは気がついていなかったが、商品ページには下の方に小さな文字で「7日間無理由返品対象(開封後は不可)」と書いてあったのだ。

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▲龍さんが購入したカメラレンズ。劉さんは、9万9800元の価格を9980元だと勘違いして購入ボタンを押してしまった。いちばん下に、小さく薄い文字で「7日間無理由返品(開封後は不可)」と書いてある。

 

外箱に貼られていた開封シールが問題に

ところがこの「開封」が問題になった。開封したかどうかは開封確認シールが剥がされたかどうかで判定される。剥がすと、シールの印刷内容が箱などに残り、元に戻せなくなるシールだ。

このようなシールは、通常、商品の内容が確認できる最終包装に貼られる。ところが、劉さんの荷物には外箱にこの開封確認シールが貼られていた。これでは商品は確認できないし、納品書も見ることができない。劉さんは、この開封確認シールを開けて、納品書を見た段階で、金額を勘違いしていたことに気がついて、返品を決めた。

もし、これで開封済みということであるなら、返品するかどうかも決められないことになる。

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▲届いた商品には、銀色の開封シールが外箱に貼られていた。剥がすと印刷面が箱に残り、開封したことがわかるというもの。しかし、これでは、商品に問題がないかどうかを確かめることができない。

 

返品には応じたものの返金がされないことから問題に

京東側で、配送センター内の監視カメラ映像を調査したところ、商品の外箱に開封確認シールが貼られるというミスがあったことが発覚をした。そこで、返品された商品の検査を行い、破損などがないことがわかれば返品に応じると回答した。そして、商品の検査では破損などの問題がないことが判明したが、その後、いつまで経っても返金が行われない。

1ヶ月経っても返金が行われないので、劉さんはどうしたらいいかをネットの掲示板で相談したところ、多くのネット民が京東の対応はおかしいと騒ぎになった。さらに、江蘇電子台の報道番組でも取材されることになった。

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▲劉さんは、返品には応じてもらえたものの返金がされないため、ネットで訴え、江蘇電子台の報道番組でも取り上げられることになった。

 

7日間無理由返品は法律で定められている

国家工商行政管理総局は、2017年に7日間無理由返品に関する暫定法を2017年に公布している(http://www.gov.cn/gongbao/content/2017/content_5216437.htm)。

これによると、すべての商品に対して無理由返品が適用されるわけではない。1つは果物や魚などの腐敗をする生鮮食品。2つ目は音楽、ゲーム、書籍などの消費やコピーしたことが判明しない商品などだ。

また、開封後、使用されると商品としての価値を失ってしまう下着、水着、食品などでは開封後の返品は認められていない。さらに、使用されると商品の価値はなくならなくても、中古品となり、価値が大きく減じてしまうスマートフォン、PC、デジタル製品などでも開封後の返品には応じなくてもいいことになっている。

 

開封シールをどこに貼るかが問題

ただし、この暫定法では、「開封」の定義はされていない。しかし、法律の意図からして、消費者が商品の様子が確認できる最終包装を開封した時と考えるのが妥当だ。今回は、京東側が開封シールの貼り方のミスを認めているが、今後、「開封」の定義が議論されていくことになる。

ECの利用が進んでいるのは、「気軽に買ってみても後で返品できる」という安心感があることが大きく、返品トラブルが増えていくと、ECの利用に対する影響も出かねないからだ。ネットでは、他にも開封シールが外箱に貼られていたことが続々と報告されている。