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アリババの社員が麺屋を開店したらこうなった。失敗から学ぶアリババ流

アリババの元社員が開店した熱乾麺の店「成碗熱乾麺」が人気となり、激戦区と呼ばれる鄭州市で、支店が100軒に達しようとしている。その成功の鍵は、「失敗から学ぶ」というアリババ流の発想法にあったと億邦動力網が報じた。

 

コロナ禍で人気になる「すぐ食べられる」ファスト中華料理

コロナが終息しても、客足が戻りきらず、苦しむ飲食店が多い中で、ヒット商品になっているのが「熱乾麺」だ。熱乾麺は、麺を茹で、油を和えて置いておく。食前にさっと茹でて熱くし、そこにタレをかけて食べる。汁なしの油そばだ。

中国の五大麺をあげると必ず入る有名な麺料理で、ザーサイ、ネギなど自分で好きな薬味を入れて食べられることも人気の理由になっている。

すぐに出てきて、さっと食べられるファストフード感覚に近く、しかも大人数で食べるものではなく、カウンターで食べる店が多い。新型コロナの感染リスクが低いスタイルであることからも、人気が上昇し、ケンタッキーもこの熱乾麺を発祥地である武漢限定のメニューに加えた。

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▲熱乾麺は、武漢発祥の油そば鄭州市で人気の食べ物となり、4000軒以上の熱乾麺専門店がある。

 

元アリババ社員が熱乾麺の店を開店

熱乾麺は、武漢が発祥と言われているが、人気が高いのは河南省鄭州市で、ここには4000軒の熱乾麺専門店がひしめいている。

その鄭州市に、元アリババ社員が熱乾麺専門店を開き、わずか35平米の小さな店で、創業230日で1日の売上が1万元(約16万円)を突破し、鄭州市の飲食店関係者を驚かせた。2018年に開業し、現在は支店が100店になろうとしている。

 

アリババのECビジネス専門家が目をつけた麺市場

この「成碗熱乾麺」を創業したのは、元アリババ社員の大侠(ダー・シャー)。ECビジネスに従事し、EC関係の書籍も3冊執筆している。その大侠が、熱乾麺市場に目をつけたのは3つの理由がある。

1:大衆に受け、朝食、昼食に食べられるため、来店頻度が高い。

2:まだ大手チェーンと呼ばれるブランドが存在しない。

3:フードデリバリー、テイクアウトなど新小売にも向いている

さらに、中国は麺料理を大量に消費する国だが、麺店舗の数は需要を満たすほど多くなく、成長空間が多く残されているという。そのため、大侠はあえて激戦地である鄭州市を創業の地に選んだ。ここで成功することが、全国展開に直結をするからだ。

 

アリババ流のネット事前プロモーション

大侠は、開店準備をする段階から、ウェイボーを始めとするSNSで、熱乾麺の店を開店することを告知した。アリババ時代に学んだプロモーション手法を駆使して、開店前には大侠のアカウントのフォロワーは8万人にもなっていた。そして、開店直前にフォロワーに対して、店舗で利用できる紅包(ホンバオ)、つまり割引クーポンを配布した。

一般的な店舗では、近所の繁華街などで開店予告のチラシを配り、クーポン券を手渡しする。しかし、大侠はこれをすべてネットの中で行った。8万人というのは、通りすがりの歩行者ではなく、何らかの形で大侠の熱乾麺店に興味を持っている人なのだから、その効果は絶大だった。

当初は「拌調子熱乾麺」というブランド名で開店をすると、大勢の客が押し寄せ、開店初日から人気店になった。その様子は多くの人を驚かし、ますます客がくるという成功ぶりだった。

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▲大侠が最初に開店した拌調子熱乾麺。ネットプロモーションが功を奏し、来店客であふれた。調子に乗って支店を2軒出したところで、失敗に直面する。

 

初期段階での拡大に失敗

しかし、拌調子熱乾麺がそのままの調子で成功したわけではない。大侠にとっても飲食店経営は初めてのことであり、初期の段階で失敗をしている。

開店の成功に気をよくして、すぐに2つの支店を開いてしまったのだ。しかし、ネットプロモーションも不足し、ただの人気店の支店であったため、客は入らなかった。多くの顧客が「突然できた拌調子熱乾麺がものすごく客が入っている。一度食べてみよう」という理由で訪れていただけなのだ。一時期は、従業員の給料の支払いにも苦労するところまで追い込まれた。

 

大侠が失敗から学んだ3つのこと

大侠は、この失敗から3つのことを学んだ。

ひとつは出店場所の問題だ。1号店の出店場所は必ずしも理想的とは言えなかった。それが成功してしまったため、「出店場所は悪くてもなんとかなる」という慢心が生まれてしまった。

支店の出店場所は、いずれもショッピングモールの中で、しかも周りは火鍋で有名な海底撈など、時間をかけて食事をする飲食店ばかりが集まっている場所だった。成碗熱乾麺のようなさっと食べられるファストフードを食べたいという顧客は足を運ばない場所だった。さらに家賃は高く、それで支店の経営が苦しくなってしまった。

2つ目に学んだことは、創業当初のチームは安定をしないということだ。いくら優秀な人材が集まっても、創業してすぐの段階では、ミッションや企業文化のようなものを共有できていない。その段階で、支店を出してチームを分割させてしまうことは、企業文化を構築する上で大きなマイナスだった。支店は支店で異なる企業文化が生まれてしまった。

3つ目に学んだのが、PDCAは自分が見ている範囲でしか回せないということだった。本店については、毎日営業の様子を観察し、来店客の反応を調査し、ネットプロモーションを行い、仮説を立て、施策を実行し、改善していくというPDCAサイクルを回していた。

しかし、支店では自分の目が行き届かないため、本店で生まれた改善策をそのまま支店にも適用しようとした。支店独自のPDCAサイクルを回さずに、本店で得た結果だけを適用しようとしたのだ。まったく的外れな施策を実行することになった。

半年間は経営的にも苦しんだが、このような高い授業料を払って学んだことを改善していき、ブランド名を成碗熱乾麺に変えて再出発をした。それでようやく成功をした。

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▲新たに再スタートした成碗熱乾麺。この時には、過去の失敗から多くのことを学んでいた。

 

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▲成碗熱乾麺の店内。すぐに食べられる、一人で食べられる、美味しいということからコロナ後の食べ物として人気が出ている。

 

SNSとヒヤリングで飲食店の基本である味を改善し続ける

面白いのは、成碗熱乾麺は結局、飲食店の基本である「味」の開発に力を入れていくことになることだ。麺の食感、薬味の改良は常に行われ、わずか3年で、現在の熱乾麺は第4世代にあたるという。

例えば、タレに黒胡麻を入れたところ、味としては好評だった。しかし、一部の顧客から口の中に異物感を感じるというネガティブな感想があり、黒胡麻を粉末状にしてタレに入れるように改良した。

このような顧客の感想は、SNSから拾う。直接のクレームや感想ではなく、思ったことを素直に投稿しているため、大きなヒントをもらうことができる。また、スタッフは少しでも時間に空きができると、客席の中に入り、直接来店客から感想も聞く。社交辞令で褒めてくれても、そこには表情というものがある。心底美味しいと思ってくれているのか、社交辞令で言っているのかという感触をつかむことができる。

目指すのは、多くの人が好む味と他店にはない独自性の高い味のクロスする地点だ。結局は、飲食店が成長するために必要なのは「味」の開発なのだ。

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▲元アリババ社員の大侠。時間ができると客席に入って、お客さんに熱乾麺の感想を聞く。ここから大きなヒントをつかむことができるという。

 

成功の鍵はユーザーコミュニティの構築

さらに成功をしたのが、熱乾麺狂熱官を募集したことだ。SNSのフォロワーから選び、実際に店舗にきてもらい試食をし、感想や提案をしてもらう。つまり、ユーザーコミュニティを育てていった。そのユーザーコミュニティの活動は、SNSで公開をされるため、それを見て、成碗熱乾麺のファンが増えていくといういい循環が生まれている。

当然ながら、フードデリバリー、テイクアウト、調味料の到家サービスなど新小売にも対応をしている。

面白いのは、当初の拌調子熱乾麺1号店の成功は、ネットプロモーションをうまく活かしたものだが、後の成碗熱乾麺では、地道な努力を積み重ねて成功をしている。大侠がアリババで学んだことを活かしたのは、ビジネスを成功させるための即効薬はなく、地道に努力を積み重ねていくということだった。アリババの社内には「平凡な人が集まり、平凡な努力を積み重ね、非凡なことを成し遂げる」という標語が貼られている。

 

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  • メディア: 食品&飲料