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25分80%急速充電のBYDのEV。しかし、急速充電対応のステーションが見つからない

BYDのEV「漢EV」が売れている。25分で80%の急速充電に対応しているからだ。しかし、電動星球Newsが試乗をしてみると、多くの充電ステーション側が急速充電に対応していない事実が浮かびあがってきた。

 


25分で80%充電。人気になったBYDのEV「漢EV」

充電池メーカからEV自動車メーカーに転身した比亜迪(BYD)の「漢EV」が昨年7月に発売になり、生産がおいつかないほどの人気になっている。

北京での実勢価格は、22.98万元から27.95万元(約450万円)と高価だが、BYDが開発した新型バッテリー「刀片電池」(ブレードバッテリー)が搭載されているのが人気の理由だ。

刀片電池は、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーで、従来のセル型リチウムイオンバッテリーに比べて、容積効率が2倍近くになり、低コストで、なおかつ寿命が長い。さらに120kWの急速充電にも対応し、30%から80%までの充電時間は25分という短いものになっている。

多くの消費者が、EVの最大の欠点は、充電時間だと考えている。急いでいるのに充電を待たなければならないというのはマイカーとしては、きわめて使い勝手が悪いからだ。漢EVは、この問題を解決したとまでは言えないものの、許容範囲にまで高めたと言える。

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▲BYDのEV「漢EV」。価格は高級車の部類(約450万円)だが、80%充電が25分の急速充電に対応したことで、生産が追いつかない人気となっている。

 

急速充電の条件は気温2.7度以上

しかし、すでに漢EVを購入したオーナーから、冬の北京では充電時間がかかるという報告が、電動星球News編集部に相次いでいる。BYDでは、120kW急速充電を行うには、気温が2.7度以上必要だとしていて、零下になることが当たり前の冬の北京では、この条件を外れることが多いからだ。

そこで、電動星球Newsでは、実際に北京周辺を走行して、急速充電が可能なのか、可能でなければどのくらい時間がかかるのかを実測してレポートをした。

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万里の長城の観光地にもなっている金山嶺長城料金所。北京市内からは高速を使って2時間半ほどで、日帰り観光の圏内。しかし、満充電のEVでも往復をすることは難しく、どこかで充電をしなければならない。

 

高速SAでは急速充電ができなかった

まずは、満充電の状態で、北京市内を出発して、京承高速に乗り、走行をした。市内は通勤による交通渋滞が起きていたが、高速に乗ってからは、ほぼ時速120kmでの定速走行ができた。外気温は3度。

金山嶺長城料金所に到着すると、海抜380mで外気温は-7度。この時点で、バッテリー残量は2%となり、走行可能距離が13kmとなったので、近くの土溝サービスエリアに入り、充電を行なった。

充電を開始して2分で電流電圧が安定し、電流は119.2A、電圧は516.7Vとなったが、これでは充電効率は60kWで、120kWの急速充電ができていない。この充電ステーションは120kW充電に対応していると表示されているのに、結局、充電効率は60kWのままだった。

バッテリー残量が20%になったところで、充電を中止した。18分間で、バッテリー残量は18%増え、走行可能距離は121km増えた。

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▲漢EVの充電中のコントロールパネル。バッテリー残量と充電効率が表示される。60kWは通常充電で、急速充電は120kWにならなければならない。

 

郊外で高速を下り、充電をする

市内に戻り、高速の北六環出口あたりで、一般道に下り、再度充電を行なった。この時はバッテリー残量が10%以下になっていたからだ。

ちなみに、第6環状線はまだ北京市街とは言えない郊外にある。北京在住のEVオーナーが日帰りで郊外に出かけた場合、六環出口で高速を降りて、充電をすることが多くなっている。この辺りで、バッテリー残量が少なくなること、週末の場合はその先高速の渋滞が起こりがちであること、市街地で充電ステーションを探すのは、空きがないことが多く苦労をすることなどがあるため、郊外の高速出口付近の充電ステーションを利用し、休憩をし、それから下道を通って市内に戻るというのが、ひとつの定番パターンになっている。

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▲充電ステーションのパネル。120kWと書いてあれば、本来は急速充電ができるはず。しかし、実際にはできないことが多い。

 

急速充電対応ステーションでも急速充電はできなかった

ここでも120kW対応の充電ステーションを探して充電を行なった。しかし、結局60kWでの充電しかできなかった。電圧は問題がないようだが、電流が100A以上にあがらない。

よく見ると、この充電ステーションは1台で2台のEVが充電できる仕様だった。充電器は120kWであっても、1台あたりは最高60kWなのではないかと思われる。

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▲120kW対応充電ステーションといっても、1台から2つの充電ケーブルが出ていることが多い。この場合、それぞれ最大60kW(通常充電)という意味で、急速充電に対応しているということではないようだ。

 

急速充電対応でも安全を考えて制限をかけている?

そこで、1台の充電器に1台の充電ができる120kW対応の充電ステーションに移り、再度充電を試みた。しかし、それでも最高の充電効率は105.1kWにすぎなかった。

結局、120kW対応の充電ステーションであっても、安全を考慮して、100kW前後に制限をかけているようなのだ。

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▲急速充電対応のステーションで充電をしたが、最高で100kW程度で、バッテリー残量が60%を超えたあたりから充電効率が抑えられていく。結局、バッテリー残量14%から99%にするまでに54分かかっている。

 

結局、急速充電はできず

電動星球Newsでは、外気温の影響を調べるため、漢EVを一晩外に駐車をし、翌日の朝方充電をするという試験を行なった。

朝8時の北京の外気温は-6度。車内の温度も2度までに下がっていた。この状態で、750V、250Aに対応している充電ステーションで充電を行なった。

朝8時9分に充電を始め、8時44分にバッテリー残量80%になったところで、充電が終了した。しかし、充電効率は54.5kWにすぎなかった。

さらに続けてバッテリー残量80%の段階から再度充電を行なった。この状態では、先ほどの充電によって、バッテリー温度は20度まで上昇している。しかし、それでも充電効率はやはり54.4kWだった。そして、10分間で、バッテリー残量が86%まで増えたところで、充電が終了した。

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▲気温の影響を見るため、冬の北京の屋外に一晩放置して、翌朝充電をした。最初の数分間で電力があがり、最高で70kWほどになるが、80%になったところで充電効率が低下する。安全を考えて、充電能力を最大にしない工夫がされているようだ。

 

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▲充電を80%でいったん終え、再度充電をしてみた。この時点ではバッテリーの温度が上がっているので急速充電の条件を満たしているが、やはり60kWにも至らない。充電ステーション側が対応をしていないようだ。

 

充電ステーションの急速充電対応が急がれる

この数年のEVの進化は著しい。数年前は満充電の航続距離が200kmから300kmが一般的で、現実にはこれ以下しか走れないため、高速道路でバッテリー切れにより立ち往生しているEVを見かけることがよくあった。それが現在では、500kmから600kmが一般的になっている。平均時速40kmだとすれば10時間ほど走れることになり、「昼間走って、夜充電」という1日のサイクルが成立するようになる。

そこに、漢EVの急速充電は、多くの消費者の目を惹いた。充電ステーションの場所や航続距離をあまり気にせず、ガソリン車に近い感覚で乗れるEVだと思えたのだ。

しかし、実際は、充電ステーションの方が120kW充電に対応をしていないことが多いという事実が浮かび上がってきた。自宅や会社に急速充電設備を用意することもできるが、それはあまり意味がない。自宅や会社では、通常充電でもよく、急速充電が使いたいのは出先でなのだ。

さらに有機溶剤を使わない全個体電池も登場し、幅広い温度で性能を発揮し、発火の危険性も少なく、さらに超急速充電が可能になると期待をされている。しかし、現実には、充電ステーションの側が対応をしなければ宝の持ち腐れになる。充電ステーションが置き換わるのには、数年はかかる。この問題を解決しなければ、結局、EVの人気はどこかで失望に変わることになると電動星球Newsは指摘している。