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大手テック企業が続々参入する地元密着系EC「社区生鮮店」

コロナ禍以降、都市の住宅街に「社区生鮮店」が急増している。主要テック企業が続々と参入をしているからだ。原則はスマホで商品を注文すると、近所の店舗に翌日配送、受け取りにいくというもの。しかし、店主も地元民であり、消費者と顔なじみになっているため、配達などの融通をきかせてくれる。この融通のきく人情商売に惹かれて利用する高齢者が増えているとAgeClubが報じた。

 

大手テック企業がコロナ終息に続々参入する「社区生鮮店」

「社区生鮮店」と呼ばれる小店舗が急増をしている。社区というのは中国独特の町内会組織。ここでは、「ご近所」程度の意味だ。そこに以前の八百屋、肉屋の感覚で、生鮮食料品を扱う小店舗が増えている。

といっても、従来の八百屋とは異なり、プラットフォーム化されていて、アリババ、拼多多(ピンドードー)、美団(メイトワン)、滴滴(ディーディー)などのテック企業が相次いで参入している。特に、拼多多、美団、滴滴の参入は、新型コロナ終息後だ。

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▲社区団購は、コロナ禍以降、大手テック企業が続々と参入し、競争が激化している。

 

リタイヤ世代に利用されている社区生鮮店

社区生鮮店は、日本で言えば、野菜、肉、果物などの生鮮食料品を中心にしたミニコンビニのような感覚の店舗。従来、その場所で八百屋、雑貨店などを営んでいた店主が、フランチャイズ参加することで社区生鮮店に衣替えをするケースが多い。店舗面積は40平米から80平米が一般的で、店主のみか従業員1人というケースが多く、家族経営が一般的だ。商品はプラットフォームに発注することで配送される。このようなプラットフォームは、社区団購(シャーチートワンゴウ)と呼ばれる。

ご近所の消費者は、スマホ、電話などで商品を注文し、受け取りに行くか配送をしてもらう。もちろん、店舗に行って普通に買い物をすることもできる。

この社区生鮮店の主要顧客は50歳以上の高齢者(中国では早ければ50歳で定年になる)、つまりリタイア世代だ。

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▲蘇寧グループも、従来から展開していたO2Oコンビニ「蘇寧小店」を利用して、社区団購に参入している。

 

高齢者には使いづらい菜市場やスーパー

このような世代は、従来は菜市場と呼ばれる場所で、日常の生鮮食品を購入していた。菜市場は、規模はさまざまだが、個人商店が集まったマーケットだ。感覚的には日本の商店街に近い。ただし、商店街のように商店が並んだ通りではなく、建物内に個人商店が集まっている。20年ぐらい前までは、誰もがこのような菜市場を利用するのが普通だった。

しかし、大型スーパーやコンビニが登場すると、中年や若者はそちらに流れ、高齢者だけが利用する場所になっていた。それが、コロナ禍により、高齢者が急速に菜市場から社区生鮮店を利用するようになっている。

 

コロナ禍がきっかけでECを使うようになった高齢者

新型コロナの感染拡大期間、リスクの高い高齢者はほぼ3ヶ月外出を控えていた。そして、多くの高齢者が息子や娘に使い方を教わって、生鮮ECを利用し、日用生鮮品を宅配してもらうようになった。

一般的に、高齢者は保守的で、このような新たなサービスは使わない傾向があるが、コロナ禍によって否応なしに使うしかない状態となった。そして、使ってみると、その利便性と品質の高さに満足をし、終息後も生鮮ECを利用する高齢者も多い。

 

ECよりも融通が効く地元密着系EC「社区生鮮店」

しかし、高齢者にとって生鮮ECの難点は、融通が効かないことだ。例えば、欲しい商品がスマホのメニューからなかなか見つけられない。宅配注文したが、急に出かけることになったので注文をキャンセルしたいのにキャンセルの仕方がよくわからない。

これが近所の店で、店主をよく知っているのであれば、電話1本で尋ねることができるのだ。

また、足腰が弱ってくると、菜市場や大型スーパーでの買い物はつらくなってくる。価格の表示もよく見えないことがある。

これが社区生鮮店であれば、歩く距離も少なく、簡単に買い物ができる。店主に必要な食材を注げれば、店主が代わりにピックアップもしてくれ、重たいものがあれば、後で配送してもらうこともできる。

つまり、社区生鮮店とは、消費者と店主の信頼関係を築くことによって、高齢者に他の効率的な小売店やECではできない、きめ細かい消費者体験を提供できることが強みになっている。ちょうど、日本の街の電気屋さんが、量販店に負けずに、しぶとく生き残っている状況とよく似ている。

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▲独立系の社区団購「你我您」(ニーウォーニン)。ECの宅配物流が行き届かない農村などで、ECの隙間を狙って始まったのが、店舗受取型ECの社区団購。それが店主と顧客が顔なじみであるという強みを生かして、都市部の高齢者にも利用されるようになっている。

 

商圏は狭くても、安定収入が得られる

店主と近所の消費者との信頼関係が構築できてしまうと、社区生鮮店は強い。高齢者は毎日買い物をする習慣の人が多く、さらに一度買い物習慣を作ってしまうと、なかなか変えようとしない。また、利便性を重視するため、多少の価格の高さは許容をする。

店主から見ると、市場は最大でも近所の消費者3000人弱程度と小さいが、価格競争をする必要はなく、サービス競争で勝負をしていける。例えば、雨が急に降ると、店舗が暇になるので、お得意さんに電話をかけて、宅配注文を取るというようなことはどの店主も行う。一度、顧客の信頼を勝ち取ってしまえば、商売規模は大きくないとは言うものの、安定した収益があげられる。

 

地元密着店に回帰する新小売

中国の高齢者人口は約2.5億人で、高齢者向けの生鮮食品市場は5000億元(約8兆円)規模であるといわれる。このような高齢者は、昔は近所の個人商店で買い物をしていたが、それが菜市場となり、大型スーパーとなるにつれ、歩く距離は長くなり、対面接客の時間は減少をしていった。世の中の進歩は、高齢者にとっては、退歩しているにも等しかった。

そこに気がついたスタートアップが社区生鮮店を始め、テック企業も続々と社区生鮮店に投資をしたり、自社で始めたりして、5000億円の市場を取りにいっている。

この社区生鮮店の強みは「人情商売」であると言われる。電話や対面で、高齢者の話を聞くことは、一見、効率が悪い接客に見えてしまうが、そのリピート率、購入頻度を考えれば、決して効率は悪くない。

この20年、中国の小売業は大きくうねりながらオンラインとオフラインを融合した新小売に進化をしてきた。その中で、昔と同じ形態の地元密着店=社区生鮮店に回帰してきたというのは面白く、考えさせられる現象だ。