中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

「荒野行動」など日本でもヒット作を連発する網易。ゲーム企業としてさらなる飛躍は可能か

日本でもヒット作を連発するゲーム企業「網易」。開発力、表現力は高く、中国や海外でもヒット作を生み出している。しかし、過去には権利関係のトラブルも起こし、中国のゲーム民からは「あれだけ技術力があるのに、なぜオリジナルを開発しないのか」と不思議がられている。網易が、ゲーム企業としてさらに飛躍するためには、オリジナルゲームをヒットさせられるかどうかが鍵になると品閲網が報じた。

 

中国だけでなく、日本でもヒットする網易のゲーム

網易(ワンイー、ネットイース)という企業の名前は知らなくても、網易のゲームを遊んだことがある人は多いはずだ。日本でも「荒野行動」「とある魔術の禁書目録」「陰陽師シリーズ」「IdentityV第五人格」「ライフアフター」などがヒットをしている。

米調査会社の11月現在のiPhoneゲームアプリ収益ランキング(日本)でも、第5位に「荒野行動」、第13位にに「ライフアフター」がランクインをしている。網易のゲームのアイコンの右下には網易のロゴが表示されているので、自分のスマホを開いてみれば、ひとつぐらい網易のゲームがあるかもしれない。

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▲ライフアフター。週末後の世界を描いた世界観、美しい3Dモデリングで日本でもヒットしている。

 

元々はグーグルライクな企業だった網易

網易は、丁磊(ディン・レイ)が1997年に創業した企業だが、当初はゲーム開発企業ではなかった。わずか2年で中国語の検索エンジンを開発し、PCベースのSNS、無料電子メール、無料ホームページなどのサービスを提供していた。

つまり、米国のYahoo!やグーグルに近い事業形態で、中国では百度に近い。ただし、創業は百度よりも早く、黎明期の中国インターネットを牽引した老舗テック企業だ。2000年6月には米ナスダック市場に上場している。

 

ITバブル崩壊でゲーム開発に進出

ところが、2000年にネットバブル崩壊が起こる。ITの力を過信し、ECなどで世界が大きく変わるとして、過剰な投資がITスタートアップに対して行われ、それが限界を超えて崩壊した。網易の株価も下がり続けてしまい、事業とは関係なく、倒産の危機が迫ってしまった。そこで、当時バブルになっていたEC、電子メール、ホームページサービスとは無関係なゲームの分野で新しいプロダクトを開発することにした。ITバブルから距離が離れた分野で安定的な事業が行えれば株価も安定するという発想だ。

そこで、2001年オンラインゲーム「大活西游オンライン」を開発したところ、評判がよかった。今日のMOBA(Multiplayer Online Battle Arena)を彷彿とさせるバトルゲームで、西遊記がテーマになっていた。

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▲網易という企業の方向性を変えた「大活西游オンライン」。このヒットにより、網易はゲーム開発事業に注力をしていくことになる。

 

権利関係でトラブルを起こす網易

その後、網易は次々とヒットゲームを連発していき、すっかりゲーム開発企業になったが、その特徴は権利関係のトラブルをたびたび起こすことだ。有名なところでは「IdentityV第五人格」が、カナダのBehaviour Interactiveが開発した「Dead by Daylight」の剽窃ではないかと問題になった。

第五人格が公開された2018年4月から類似性が指摘され、網易はBehaviour Interactiveと提携関係にあると説明していたが、はっきりとしなかった。2019年7月になって、網易はBehaviour Interactiveの株式を取得、これによりBehaviour Interactiveは正式に提携関係にあることを公表した。


『Identity V(第五人格)』と『Dead by Daylight』を徹底比較、2つの非対称対戦の違いは?(Identity V: 背後確認の難易度編)


『Identity V(第五人格)』と『Dead by Daylight』を徹底比較、2つの非対称対戦の違いは?(DbD: 背後確認の難易度編)

▲第5人格とDead by Daylightを比較した動画。類似の比較動画は無数にあがっている。

 

荒野行動とPUBGは和解

網易の稼ぎ頭である「荒野行動」も、韓国のPUBGが開発した「PUBG」(Player Unknown’s BattleGrounds)との類似性が指摘された。PUBG側は2018年4月に網易を訴えている。その訴状によると、建築物、アイテムなどが97.8%も類似しているというのだ。

この問題は中国国内でも事情が複雑になった。テンセントが、正式な契約を経て、PUBGのモバイル版を開発したからだ。網易はあくまでも「オリジナルゲームである」という姿勢を崩さず、中国のゲームファンの間で、網易派とテンセント派に分かれて、激しい罵り合いが見られることもあった。

この裁判は、結局和解をすることになるが、和解内容は非公開となっている。


荒野行動 vs PUBGモバイル いろいろ比較 PUBG Mobile vs KNIVES OUT Graphic Comparison

▲荒野行動とPUBGを比較した動画。こちらも築地の比較動画が無数にあがっている。

 

オリジナルのヒット作を出すことが網易の課題

その他、「陰陽師」は原作の「陰陽師」と正式契約をして開発したゲームであり、「永遠の七日」はDeNAが配信していたゲームがベースになっている。つまり、網易はゲーム開発能力は高く、表現力も高いが、オリジナルのゲームが作れないというのが弱点になっている。

網易は、これを代理運営することで補おうとしている。2006年に陳星(ジェノバ・チェン)がロサンゼルスで創業したthatgameconpanyは「風ノ旅ビト」で、世界中のゲーム賞を総ナメにした。ゲームというより、アートに近い作品だ。その新作である「Sky星を紡ぐ子どもたち」の中国での配信、運営を網易が担当している。このゲームは中国国内でも高く評価されている。

それでも、網易が中国ではテンセントに次ぐゲーム企業であることは間違いない。最大の弱点であるオリジナルゲームを社内で生み出す体制が作れるか、あるいはすぐれたゲームスタジオとの提携関係を強化できるか、それが網易がさらに飛躍をする鍵となっていく。

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▲米国のthatgameconpanyが開発した「Sky星を紡ぐ子どもたち」の中国での運営を網易が行っている。中国でもSkyは高い評価を受けている。