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デジタル界の無印良品になりたい。中国製造業を変えた小米(シャオミ)創業者「雷軍」

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明日、vol. 036が発行になります。

 

シャオミの日本での知名度もだいぶ上がってきました。Xiaomi Japanが設立されて、スマートフォンやスマートウォッチ、炊飯器などの日本販売を始めているからです。

特に、日本でも発売が予定されているスマートウォッチ「Miスマートバンド5」は、OLEDを使いながら、4490円と手頃な価格で、うまくすると、中国本国と同じようにヒット商品になる可能性があります。日本では、中国製というとアレルギー反応を起こす人がまだまだ多いことや、テック好きではない人の間でのシャオミの知名度はまだ高くないことが障害になりますが、デジタルデバイスとしては買って損はないと思います。

また、中国ではドラえもんとコラボした「Mi10青春版ドラえもん限定版」が発売され話題になっています。背面や壁紙、アイコンにドラえもんをあしらったスマホで、子どもたちは目の色を変えて欲しがります。しかも、シャオミらしいのは、このようなコラボモデルでも手を抜かず、OLED、50倍ズーム、大容量バッテリーを搭載したミドルハイクラスのスペックになっていることです。これが2799元(約4万3000円)という価格なのですから、子どもだけでなく、大人でも買う人が出てくるでしょう。日本でも発売したら、かなりの数が売れるのではないでしょうか。

 

また、シャオミは炊飯器「米家」を日本でも発売していて、中国では発売後2年で100万台が売れるというヒットになっています。この「米家」の開発責任者は、IH炊飯器「おどり炊き」を開発した三洋電機の内藤毅氏です。三洋電機を退職後、中国でIH炊飯器を開発したのです。

この後継機種の炊飯器が日本でも販売されていますが、デザインが素晴らしい。シャオミは白物家電のデザインに革命を起こしたと言っても過言ではありません。

見ていただければわかりますが、本体は白一色で、ボタンが3つしかありません。「予約」「開始」「取消」の3つだけです。しかも白いボタンなので、目立ちません。時刻表示は大きめのLED表示ですが、本体のカバー下に埋め込まれているため、通常時は見えなくなります。つまり、使っていないときはほとんど白一色の箱になってしまうのです。

 

日本の家電製品は、多くが大量のボタンをつけ、大きな液晶表示がさまざまな情報を表示します。一般的な炊飯器の液晶画面には、時刻表示の他に「もちもち」「ふっくら」「玄米」「おかゆ」などの文字が常に表示されています。

最近では、このような過剰なボタン、過剰な表示をうるさく感じる人も増えていますが、日本の白物家電のデザインレベルはなかなか向上しません。

日本の白物家電は、高度成長期に10社近い大手メーカーが競い合う形で成長してきたため、売り場での競争が激しかったのです。売り場で目立たないことには埋もれてしまいます。そこで本体に、「こんな機能」「あんな機能」のボタンをつけたり、大きな表示をつけたりして、一目見て多機能であることがわかるようなデザインが求められました。それが、ゴテゴテしたうるさいデザインになっているのです。

では、米家は単機能なのかというと、そんなことはありません。お米、おかゆ、玄米はもちろんのこと、ケーキ、ヨーグルト、蒸し煮なども作ることができます。このような操作は、すべて専用アプリの中から行うのです。専用アプリには、米家で作れるさまざまな料理のレシピなども読めるようになっています。

つまり、本体のデザインはすっきりさせて、多機能はスマホから操作をする。これにより、モダンなキッチンに置いても、生活感がでない新しい白物家電の世界を追求しています。

 

シャオミは、テレビも中国市場でトップクラスの売り上げを上げ、インドでもシャオミのテレビがヒット商品になっています。これもデザインはシンプルに、複雑な操作はテクノロジーを使うというのが基本コンセプトになっています。

シャオミのテレビには、小愛同学という音声アシスタントが搭載されていて、基本的な操作は声で行います。「テレビをつけて」「テレビを消して」などだけでなく、「1時間後にテレビを消して」「朝7時にテレビをつけて」なども可能です。さらに「ヒーローものの映画を探して」と言って、リストが表示されたら、そこから「◯◯という女優が出演しているものは?」「無料で見られるものは?」と音声でどんどん絞り込んでいくこともできます。また、視聴中にも「30秒早送り」「5分巻き戻して」「54分12秒までジャンプ」という音声による命令ができます。

もはや番組表という概念は薄れ(内蔵はされている)、起動すると、過去の視聴履歴から算出された7つ程度の番組が表示されます。その中にはストリーミングサービスのものもあれば、テレビ放送されるものもあります。その中から選ぶだけなので、リモコン自体も実にシンプルです。十字キーの他は、ボタンが5つついているだけで、チャンネル番号のボタンなどありません。いわゆる成熟したスマートテレビになっていて、これも日本で発売されたらヒット商品になる可能性を秘めています。

 

シャオミの功績は、中国のものづくりの考え方を変えたことです。シャオミ以前の中国の製造業は、品質を後回しにして安くつくることを考えていました。当時の製造技術では高品質のものを作るのは難しいので、できるだけ安く作り、価格競争で勝負しようという戦術でした。当時、よく言われた「中国の人件費は驚くほど安いから」というのが中国製品の安さの理由のすべてではありません。戦略的に低価格を追求していたのです。

しかし、いくら安くても必要最低限の品質は確保しなければなりません。これも簡単なことではありません。そのため、「粗悪な中国製品」「安かろう悪かろう」のイメージが定着することになりました。

 

2010年にシャオミが創業した時、すでに中国でもiPhoneが人気となっていましたが、iPhoneのような品質の高い製品を作ることは中国には難しいと考えられていました。そこにシャオミが登場するのですが、シャオミは高品質を追求するのではなく、価格性能比を最大化することを考えました。

これは簡単そうに見えて、難しいことです。一般には、高品質の製品イメージからスタートして、でも、それでは価格が高くなりすぎるので、「削れる部分は削って」コストダウンをしていきます。でも、それでは必ず製品のバランスに歪みが生じてしまいます。

日本メーカーの初期のスマートフォンは、この罠に陥っていました。高性能のスマホを設計して、そこから「削れる部分を削っていく」やり方をしたのです。しかし、スマホは数々のチップ、センサーが協調して動作する仕組みになっています。日本メーカーの初期のスマホは、スペックだけを見ると決して悪くないのに、バランスが悪いために、使ってみると画面はカクカクし、バッテリーはカイロのように発熱するというものになってしまいました。スマホ時代になって、日本メーカーが総崩れになったのは、この時に消費者の信頼を失ってしまったからです。

 

一方で、シャオミは、設計の段階から価格性能比を最大化させることを狙いました。自分たちの製造技術、消費者が必要とする機能、部品の価格などを総合的に考えて、価格と性能の間のスイートスポットを探るのです。

創業者の雷軍(レイ・ジュン)は、「80/80の法則」がシャオミにはあると言います。これは「消費者の80%を80%満足させる」ということです。ですから、シャオミの製品に尖った先進機能は搭載されません。炊飯器をスマホから操作するというのも一見先進的な機能に見えますが、それが多くの消費者を満足させる方法であり、しかも本体につけるボタンやLEDの数が減るので、価格を抑えることにもなるのです。

 

価格性能比の最大化を狙うと言っても、なかなかピンとこないかもしれません。雷軍は、たびたび「無印良品のものづくり」に言及し、「デジタル界の無印良品になりたい」と発言しています。

無印良品のさまざまな製品も、既存の商品から不要な部分を省いたというのではなく、いったんゼロに戻して、ほんとうに必要な機能はなんであるかを考え、それを実現するのに必要な素材、製造法を採用するという手法をとっています。その結果、無駄な機能は採用されないので、価格も抑えられます。雷軍は、MUJIに憧れ、MUJIのものづくりをよく研究し、それを中国のデジタル製品の製造業に適用したのです。

そう言われてみると、MUJIの店頭に、シャオミ製品が陳列されていても、ほとんど違和感がありません。炊飯器の「米家」など、知らなければ、MUJIの製品だと言われれば信じてしまうかもしれません。

シャオミは、単なるスマホメーカーではなく、中国のスマホ市場を開拓したパイオニアであり、中国の製造業を大きく転換させてきました。今回は、その創業者である雷軍をご紹介します。

 

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