BATは、中国のテックジャイアント3社というだけでなく、ネットのトラフィックも分け合っている。互いのトラフィックが交錯することなく、天下三分の計の形になっている。その構造ができあがったのは、アリババが百度やテンセントからのトラフィックを遮断するという大胆な策を打ってきたからだと界面が報じた。
トラフィックの天下三分の計になっているBAT
中国のテックジャイアントはBATと呼ばれる。百度(バイドゥ)、アリババ 、テンセントの3つの頭文字をとったものだ。このBATは、中国テック企業3強の意味もあるが、もうひとつ、ネットのトラフィックを3社で分け合っていることも表している。すなわち、百度は検索トラフィックを、アリババはECトラフィックを、テンセントはSNSトラフィックを独占している。目に見えないだけで、実はBATは、ネット上で魏呉蜀の三国志時代にように天下三分の計の形になっている。
検索大手の百度が始めたEC「有啊」
2007年10月、アリババが香港市場に上場をする1ヶ月前、百度は突然EC「有啊」(ヨウア、あるよ!の意味)を始めると宣言した。アリババの淘宝(タオバオ)と同じCtoC型のECサイトだった。
当時、百度は検索トラフィックの75%を独占しており、検索エンジンはインターネット全体のトラフィックの70%を占めていた。つまり、トラフィックの面では百度が中国のインターネットを支配していたのだ。
一方、タオバオは流通総額が433億元(約6660億円)となり、スーパーやモールを有する百聯集団に次いで、第2位の小売業に躍進をしていた。ECだけで見ると、流通総額の72%を独占していた。この頃、京東はまだ創業したばかりで、eBayは撤退をし、ECはタオバオが独占をしている状態だった。
2008年10月、「有啊」が正式にスタートした。初日にDAU(日間アクティブユーザー数)400万人を獲得し、SKU(商品数)は19万件でスタートした。これはタオバオにとっては脅威だった。なぜなら、タオバオはスタートして100日後にようやくDAU150万人を超え、商品数は10万件に満たなかった。「有啊」は素晴らしいスタートダッシュを決めたのだ。百度から商品を検索すると、「有啊」に誘導される。これが大きかった。
▲百度が2007年に始めたEC「有啊」。アリババは百度からのクローラーを遮断するという対抗策にでた。
アリババはクローラー遮断で対抗
これに対抗するためにアリババがとったのは、百度を遮断することだった。百度のクローラーがタオバオのサイト情報の収集ができないようにした。つまり、百度からタオバオの商品を検索しようとしても検索できなくなったのだ。これが天下三分の計につながっていった。
検索サイトからのトラフィックをゼロにしてしまい、タオバオは不利にならなかったのだろうか。それがならなかった。すでにタオバオの名前はECの代名詞になっていて、買い物をしようとする人は、検索エンジンで「タオバオ」と検索するのではなく、直接taobao.comというURLを入力し、タオバオの中で商品を検索するようになっていた。
すでにタオバオのトラフィックの80%はダイレクトなもので、百度からのトラフィックは20%ほどになっていた。アリババはこの20%を捨てることで、タオバオの客を百度に寄り道させないようにした。百度に寄り道をさせると、その時に「有啊」に客引きされてしまうかもしれないからだ。
例えば、口紅が欲しい人は、百度で「口紅」を検索して、タオバオの口紅の商品ページを見つけてリンクをたどってくるというのではなく、いきなりタオバオにアクセスし、タオバオで「口紅」を検索して、複数の商品を比較して、購入したい口紅の商品ページにアクセスする。
百度の思い違いは、検索トラフィックを独占しているので、そこでECをスタートさせれば、ECトラフィックの得られると考えてしまったことだ。これは、ショッピングモールの案内図の横に化粧品店を開けばお客さんがたくさん入ると考えるのと同じくらいおかしなことだった。
結局、2013年に「有啊」は撤退をすることになる。
WeChatからのリンクも遮断
2013年には、タオバオはテンセントのSNS「WeChat」からのトラフィックを遮断することになる。WeChatはわずか3年でユーザー数が6億人、DAUが1億人を突破していた。当時のタオバオはユーザー数5億人で、DAUは6000万人だった。
しかし、数はあまり脅威ではなかった。最大の脅威は、WeChatがスマホ決済「WeChatペイ」を開始し、ユーザー間でお金のやり取りがスマホだけでできるようにしたことだった。
決済を始めるということは、ECを始めるに違いないからだ。テンセントは2005年にもオンライン専用の決済システム「財付通」をスタートさせ、EC「拍拍網」をスタートさせている。タオバオが手数料有料化で、ユーザーから大きな反発を受けたタイミングで、テンセントは拍拍網を手数料無料で始め、タオバオからの引越しキャンペーンまで行い、ジャック・マーを激怒させている。
これに対抗するために、タオバオはWeChatからのトラフィックを遮断した。テンセントは独自にECを展開するよりも、タオバオ以外のECと連携をする道を選んだ。京東や拼多多などで、特に拼多多はWeChatと深く連携をし、ソーシャルECという新しいスタイルを生み出している。
▲テンセントが2005年に始めたEC「拍拍網」。アリババのタオバオが手数料有料化問題で揺れている隙を狙って開始し、ジャック・マーを怒らせた。結局、うまくいかず現在は存在しない。
ECは独自にトラフィックを集める特殊なネットビジネス
タオバオは、中国で最も成功したECだが、それはECが独自にトラフィックを集められるという特性によるものだ。私たちもアマゾンや楽天で買い物をするときに、グーグル検索で「ワイヤレスイヤホン」と検索をして、アマゾンのページを検索して、リンクをたどり購入するということはあまりしない。先にアマゾンを開き、そこから「ワイヤレスイヤホン」と検索をして、商品を比較してから購入をする。
さらに、アリババは、他社がタオバオのトラフィックを検索やSNSに引き込もうとすることを許さず、トラフィックを遮断することで、圧倒的な地位を保ってきた。タオバオは、ネットの中で孤島のようになっているが、その島は広大で大陸を形成しているのだ。
このような事情があるため、百度は検索トラフィックを独占し、アリババはECトラフィックを独占し、テンセントはSNSトラフィックを独占している。三国志のように天下三分の計を成している。