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新型コロナ感染拡大期にネットで起きた6つの現象。定着が期待される「生鮮EC」「オンライン教育」「オンライン診療」「テレワーク」

Mob研究院は、新型コロナウイルスの感染拡大期にモバイルインターネットにどのような影響があったかを調査した報告書「2020疾病拡大期モバイルインターネットデータ洞察」を公開した。

 

感染拡大期にネットで起きた6つの現象

モバイルインターネットに起きた主な影響は以下の6つ。

1)スマホゲームの需要増:特に2016年ごろから大ブームになった「王者栄耀」が、ブームは終息をしていたのに、再び強い人気となった。その他も、カジュアルゲームを中心に需要が大きく増加した。

2)ショートムービーの需要増:ショートムービーの閲覧数が増加をした。

3)生鮮ECの需要増:生鮮食料品を宅配してくれる新小売スーパー、生鮮ECの需要が急増した

4)オンライン教育の需要増:無料で学べるオンライン講義が増加し、多くの学校でライブ配信できる仕組みが導入された。

5)オンライン診療の定着:多くの病院がオンライン医療を始めた。テレビ電話などで診察を行い、薬は宅配してくれるというもの。

6)クラウドワークの定着:クラウドや動画メッセージングツールを使った在宅勤務が定着をした。


スマホゲームの需要増

感染拡大期には外出ができないため、多くのモバイルゲームの需要が急増をした。その中でも目立ったのが、「王者栄耀」(テンセント)だ。2015年にリリースされた「王者栄耀」は、過熱人気となり、中国を代表するMOBA(チーム対戦ゲーム)となっていたが、さすがに2019年の春には人気に陰りが見えていた。

しかし、今年の感染拡大期に再び火がついた。昨年同時期には日間アクティブユーザー数が3100万人程度であったものが、今年は5400万に達した。

また、昨年は春節休みが終わるとアクティブユーザー数も減少したのに対し、今年は春節休み後も学校が閉鎖され、外出もできないため、高いユーザー数を維持した。

この他、カジュアルゲームを中心に、ユーザー数が増加した。

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▲王者栄耀は昨年の春節期間は、DAUが3100万人がピークだったが、今年は5400万人と急増した。

 

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▲テンセントのヒットゲーム「王者栄耀」。すでに人気のピークはすぎていたが、外出禁止により再び人気に火がついた。

 

ショートムービーの需要増

抖音(Tik Tok)、快手などのショートムービーの利用は以前から強かったが、感染拡大期にはTik Tokが日間アクティブユーザー数が3.2億人を超えるなど、強い人気を示した。

また、映画館なども閉鎖をされたため、新作映画「媽」(ロスト・イン・ロシア)は、Tik Tok、西瓜視頻の2つのプラットフォームで無料公開に踏み切った。公開当日までの2つのアプリの新規ダウンロード数は高く、アプリの新規顧客獲得に大きな効果があることがわかった。今後、このような「オンライン封切り」による映画公開が普及をしていくかもしれない。

また、時間が有り余っているせいか、韓国ドラマを配信するプラットフォームの需要も強かった。

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春節に劇場公開を予定していたコメディ映画「媽」は、劇場が利用できないため、急遽「Tik Tok」「西瓜視頻」アプリ内での無料公開に踏み切った。両アプリの運営元であるバイトダンスと約96億円の契約を結んだ。両アプリの新規顧客獲得数には大きな効果があった。

 


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▲「媽」は、YouTubeでも全編無料公開されている。今後、このような「オンライン封切り」が増えていくかもしれない。

 

生鮮ECの需要増

外出が避けられたため、生鮮食料品を宅配してくれる生鮮ECの需要が急増した。その中でも特に需要が強かったのが京東到家で、日間アクティブユーザー数が100万人を突破した。

一方で、宅配を行わない一般スーパーは来店客が減少した。京東到家はそのようなウォルマート、永輝などの大手スーパーチェーン40社、豚肉専門小売チェーン「銭大媽」などの16の専門チェーンと契約をし、京東到家プラットフォームでの販売を行っている。このため、馴染みのあるスーパーの商品が宅配購入できることから、利用者が殺到した。売上は昨年同時期の5倍にもなったという。

一方、アリババの「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)は、平常時の6倍の需要が生まれたため、宅配物流が限界を超え、深夜0時から予約受付をする方式に切り替えた。予約は数分間でいっぱいとなり、利用できない人が多数生まれた。このため、売上は伸び悩み、感染拡大期平均の売上は通常時の50%増程度に留まっている。

いずれの生鮮ECも顧客数は50%から200%程度増えたため、アフターコロナの「新日常」での定着が期待されている。

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▲各新小売、生鮮ECの新規顧客獲得数。いずれも毎日4万人規模で増え続けた。フーマフレッシュはあまりの殺到ぶりに、配送物流が破綻をして、午前0時からの予約注文制を導入したほど。コロナ後の定着率がどうなるか注目されている。

 

オンライン教育の需要増

1月27日に、春節休みの延長が決定されると、各オンライン講義システムは続々と学校に対し、無料提供を決めた。その中でも、多くの学校が採用したのが「学而思網校」と「新東方在線」の2つだ。特に、学而思網校は利用者数が11.54倍になるという急増をしている。

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▲オンライン教育は感染拡大をきっかけに定着をしようとしている。この他、ビリビリなどの動画共有サイトライブ配信サイトもオンライン授業に利用された。

 

オンライン診療の定着

オンライン診療をするサービスは、以前から存在していた。それが感染拡大をきっかけに大きく利用者を伸ばしている。その中でも大きく利用者を伸ばしたのが「丁香園」だ。丁香園は、1月21日という早い時期に「全国新型コロナ感染地図」を公開。感染者数などの情報をリアルタイムで提供をした。これを見る人が殺到し、それにつれて丁香園の利用者数も増えた。

また、医薬品の外売(デリバリー)も感染拡大期に大幅に利用者数を伸ばしている。

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▲オンライン診療も、感染拡大をきっかけに定着をしようとしている。「丁香園」は、感染状況のまとめデータをいち早く掲載したため、それを見る人が殺到し、それにつれてオンライン診療の利用者が急増した。

 

テレワークの定着

感染拡大期は、多くの都市で地下鉄の乗車なども制限されたため、在宅テレワークが行われた。その中でも、目立ったのが、アリババの「釘釘」(DingTalk)だ。グループチャットができるだけでなく、書類の共有なども行え、在宅テレワークの定番アプリとなった。

また、テレビ電話会議のシステムも需要が急増をした。

このようなテレワーク関連アプリは、2級以下の都市で大きく伸びた。1級都市では以前から在宅テレワークが普及をしているためだ。感染拡大により、テレワークが地方都市にまで普及をする可能性がある。

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▲在宅テレワークの必須アプリとなった「釘釘」(DingTalk)は、二級以下の都市での利用者が大きく増加した。感染拡大により、テレワークが地方都市で広がる可能性が出てきている。

 

定着が期待される「生鮮EC」「教育」「診療」「テレワーク」

中国で議論になっているのが、アフターコロナ後のニューノーマル(新日常)のあり方だ。スマホゲーム、ショートムービーは以前から普及をしていて、それが外出ができないために需要が増加しただけにすぎない。しかし、日常的に生鮮EC、オンライン教育、オンライン診療、テレワークをするというのは新日常になる可能性がある。

このようなオンラインツールの多くが、公益の観点から感染拡大期には無償提供をされていた。しかし、新日常でも無償というわけにはいかず、マネタイズを考えなければならない。その方法によっては、利用者数が減少してしまうこともあるだろう。そこをどのようにして新日常への定着を図っていくか、試行錯誤が始まっている。