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流行する「なんちゃって富裕層」写真。若者だけではない「自分を演出する」SNS

若者の間に「炫富」(シュエンフー)と呼ばれる写真が流行している。ハイブランド商品や高級車とともに撮影した自分の写真をSNSで公開する遊びだ。本当の富裕層ではなく、小道具を用意してくれる業者が多数存在しているため、仲間内での遊びだ。しかし、若者だけではなく、この炫富感覚がさまざまなところに広がっていると卓子的生活観が報じた。

 

リッチな自分を演出する「炫富」

中国では、SNSに高級品を身に纏った自分の姿を公開することが流行している。高級車の前での自撮り、大量の高級バッグを並べた写真など、いかに自分がリッチであるかを誇示することが流行している。

しかし、本当にリッチな人はごくごく一部。そういう写真を撮るセットを用意してくれる業者がいて、わずかな金額で、自分が富裕層になったかのような写真を撮影してくれる。本人も、それで周囲の人を騙そうというよりは、わかっている友人同士で、そういう写真を載せあって楽しんでいる。

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▲ネットで拡散した炫富写真。買い物帰りに高級車から下りようとしたら、転んじゃったというシチュエーション。バッグはいずれも高級品ばかり。すべて業者が用意をしてくれる。このような写真を仲間内で公開して楽しむという遊びになっている。

 

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▲本物の札束と撮影できるサービス。このような写真をSNSで公開して、富裕層気分を味わう。

 

8元でフェラーリ、15元で札束

このような「なんちゃって富裕層」業者の利用料は思ったよりも安い。

ある業者は、わずか8元(約120円)で、フェラーリの運転席に座り、エンジンをかけるところを写真に収めてくれる。さらに、わずか15元(約230円)で、本物の札束を用意して、それと一緒に自分の写真を撮影してくれる。

さらに、海外旅行にいったことを偽装する写真を撮影してくれる業者もある。ネットで注文をすると、世界中どこの観光地の写真でも送ってくれ、自分の写真と合成する方法を教えてくれる。単なる切り抜きではなく、背景と人物の光線の方向、照度などの揃え方も丁寧に教えてくれるので、写真を見ても合成だとはなかなか気づかれない。

さらに、写真に埋め込まれているExifの位置情報も、ちゃんと現地のものに偽装をされているので、偽装を見抜くのはほとんど不可能になっている。このような写真をSNSにあげれば、海外旅行に行ってきたことを装うことができる。

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▲ECを検索すると、炫富業者がいくらでも見つかる。Exif情報が入った海外の写真も購入でき、自分の写真と合成する方法まで教えてくれる。

 

批判の声はあるものの、本人は楽しんでいる

このような「なんちゃって富裕層」偽装写真に対する批判は多い。そんな偽装をするのは下らないことだと言う人から、周囲の人を騙すことになっていると言う人までさまざまだ。しかし、当の本人たちは、友人たちの中で、わかって遊んでいるだけなので、余計なお世話だと思っている。

しかし、このような「なんちゃって」写真サービスが、一線を越えようとしている。

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▲わずか10元程度で富裕層であるかのように演出ができる写真業者は、テレビ番組などでも取り上げられ、大きな話題になっている。

 

オバマ元大統領が上海で開催した「握手会」

2017年11月、バラク・オバマ元米国大統領は、上海で開催された第3回世界中小企業サミットに出席をした際、握手会を開催した。出席した中小企業の経営者たちが列をなし、1人数秒で、オバマ元大統領と握手をし、写真を撮影するというものだ。

料金については、公開されていないものの、メディアの取材によると、1人25万元から30万元(約460万円)になるという。相当数の人が行列をし、撮影料を支払い、オバマ元大統領との写真を撮影した。

この写真をどのように利用するのかはわからないが、撮影した本人が、人に見せて自慢をする、自分の権威づけに使うなどが容易に想像され、SNSで行われている「なんちゃって富裕層」写真とどこが違うのだという声が上がっている。

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オバマ元大統領と撮影した写真。料金は、1人400万円程度だと報道されている。上の写真では、女性社長があたかもオバマ元大統領と会談をしたかのような体裁になっている。なんちゃって富裕層写真とどこが違うのだという声が上がっている。

 

アフリカの子供たちに宣伝させるサービスも

また、面白いビジネスも始まっている。広告やメッセージなどを送ると、アフリカの貧しい子どもたちが、その文言を黒板に書いて、写真を撮り、送ってもらえるというものだ。料金は、さまざまな業者が入り乱れていてるため、1元から150元までさまざまだ。

このビジネスに対しても批判はある。アフリカの子どもたちを利用して金儲けをしているというものだ。子どもたちは、広告やメッセージの内容は中国語であるためまったく理解をせず、ただ業者の言われるままに写真に撮られているだけだ。

しかし、アフリカの貧困問題は、中国でも大きな関心事になっているため、人の目を引く写真であることは確か。写真に写っている子どもたちに、どの程度の報酬が支払われているかはわからないが、わずかであっても経済的な利益をもたらし、子どもたちはそれで食べ物を買ったり、学校に通ったりすることができる。であるなら、むしろ社会貢献になっているのではないかと言う人たちもいる。

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▲アフリカの子どもたちを使った宣伝写真。黒板には、海外の新聞を中国語に翻訳して読めるというサービスの宣伝が書かれている。アフリカの貧困問題は、中国でも大きな関心事になっているため、人の目を引きやすいのだという。

 

SNS時代のネットに求められるのは本人のリテラシー

卓子的生活観は、「ネットにはフェイク情報が多く問題だ」と憤ってみても、もはや意味がない段階に入っていると言う。接した情報を真に受けるかどうかは、本人のリテラシーの問題で、他人や権威のある機関に保証をしてもらうものではなくなっている。情報に接する時は、自分で判断をすることがなによりも大切なのだとしている。