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小学生が宅配ボックスの顔認証を突破。広がる顔認証技術への不安

上海外語大学附属小学校の4年生たちが、課外授業で、顔写真で宅配ボックスの顔認証が突破できるかどうかという実験を行ったところ、簡単に開いてしまった。生徒たちは大喜びしたが、教師は困惑、メディアは批判、宅配ボックス企業はコメントを出す、消費者は顔認証技術に不安を抱くという事態になっていると羊城晩報が報じた。

 

小学校に取り入れられる人工知能の体験授業

宅配ボックスの顔認証を突破してしまったのは、浙江省嘉興市の上海外語大学附属小学校の4年生たち。中国の小学校では、人工知能の授業を取り入れているところが増えてきている。その中で、人気なのが、顔認証ソフトウェアを用意して、生徒たちが変装したり、顔写真を使って、顔認証を突破するという体験授業だ。この体験授業を通じて、顔認証ソフトウェアがどのようにして人の顔を認識しているのかを体感する。

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▲顔認証を突破してしまった小学生たち。親に届いた荷物を、親の顔写真を使って開けようとしたら、開いてしまった。小学生たちは大喜びだった。

 

宅配ボックスの顔認証が小学生により突破される

その授業の一環として、街中にある豊巣の宅配ボックスの顔認証システムに、自分の親の顔写真を見せるという課外体験授業を行った。豊巣の宅配ボックスは、街中の要所においてあり、ECで商品を購入した時に、豊巣宅配ボックスを配達先に指定すると、近所の宅配ボックスに荷物が届けられる。スマートフォンに通知がきたら、その宅配ボックスに行き、顔を見せると、顔認証により、自分の荷物の入っているドアが開くというものだ。

小学生たちが、親の荷物が届いている宅配ボックスに、プリンターで印刷をした親の顔写真を見せたところ、認証され、ドアが開き、荷物を取り出せてしまった。

生徒たちは大喜びだったが、引率した教師は困惑をした。教室で体験授業に使う顔認証ソフトウェアはあえて精度の低いものを使っているため、生徒たちが顔認証を突破することもできる。しかし、教師としては、街中のサービスで使われている顔認証は、セキュリティレベルが高く、突破することはできないということを教えたかったからだ。

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▲課外授業の目的は、サービスで使われている顔認証技術は、顔写真程度では認証できないほどセキュリティ度が高いということを体験することが目的だった。それが開いてしまった。教師は困惑をしている。

 

メディアは追試、やはり突破可能と報道

この事実が報道されると、各方面に影響が広がった。報道メディア「都市快報」のウェブチャンネル「好奇実験室」では、記者が自分の印刷した顔写真を使って、追試を行なってみた。すると、5回の試行で、4回認識され、ドアが開いた。しかも、失敗した1回は、顔写真が揺れてしまったせいで、顔写真でほぼ解錠できると報じている。

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▲ウェブメディア「好奇実験室」では、同じ「豊巣」の宅配ボックスを使って、追試を行なっている。すると、印刷した顔写真で、5回のうち4回も認証に成功してしまった。

 

▲好奇実験室では、顔認証には2Dと3Dの2種類があり、3Dのものでは、平面的な顔写真では認証はできないと紹介しているが、この違いをよくわかっていない人が多く、顔認証技術そのものに対する不安が広がっている。

 

宅配企業「順豊」は、試験運用中のものとコメント

豊巣の親会社である物流企業「順豊」の株価は、この報道以後、下落をしている。豊巣では、放置しておくことができず、公式コメントをウェイボーで公表した。

「最近いただきたましたフィードバックについて、事実関係を確認したところ、問題の宅配ボックスは試験運用中のベータ版であり、ごく限られた地域で運用されていることがわかりました。問題の宅配ボックスについては、すでに使用を停止しております。今後につきましては、豊巣のツイートでお知らせします。みなさまのご支持とご鞭撻に感謝いたします」というもの。

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宅配ボックスを運営する「豊巣」の親会社である、宅配企業「順豊」(SF Express)の株価も、この報道以後、大幅に下落をしている。

 

顔写真でも認証できる2D認証、安全度が高い3D認証

好奇実験室では、顔認証には2Dと3Dの2種類があることを紹介している。2Dは顔を平面画像として捉えるもので、3Dは顔を立体として捉えるものだ。2D顔認証の場合、顔写真でも認証ができてしまうことがあり、豊巣の宅配ボックスは2D顔認証を搭載していたのではないかと、好奇実験室は疑問を呈している。

 

消費者の間に広がる顔認証に対する不安

しかし、ネットでは、この違いを知らない人が多く、最近、コンビニやスーパーに設置が進んでいる顔認証決済端末に対する不安の声が上がっている。スマホ決済「WeChatペイ」「アリペイ」では、再三、3D顔認証技術を使っているので、顔写真などでは突破することはできないとアナウンスしているが、しばらくは顔認証技術に対する不安の声が続きそうだ。