中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アリババ創業20周年。アリババが中国市民に提供したのは「時間」

今年2019年9月に、アリババは創業20周年を迎え、そして、創業者のジャック・マーが引退をした。アリババは、アリババの20年は、中国人の時間を短縮した歴史だったと、この20年を振り返ったと上游新聞が報じた。

 

生活サービスの多くが10分以内に完了できる社会

アリババの登場により、買い物、出前注文、チケット購入、病院予約など、多くの生活サービスが10分以内に完了できるようになった。

アリババが公開したデータによると、10分以内に完了できるようになったものは200件にのぼるという。その短縮され、生まれた余剰時間は、個人であれば自分の価値を高めるために使え、企業であれば収益を上げることに使え、社会であれば社会効率を高めるために使える。

f:id:tamakino:20191107120622j:plain

▲アリババが公開した図版。さまざまな生活サービスを利用するのに、過去と現在でどのくらい時間がかかるかを比較したもの。10分以内で完了できるサービスは、200件にものぼる。

 

渋滞の街杭州は、渋滞第2位の都市から35位まで低下

例えば、アリババの本拠地である杭州市は、以前は渋滞の街として有名だった。2014年には渋滞度ランキングで第2位だった。ここにアリババ傘下のアリクラウドが開発した人工知能「都市ブレイン」が導入された。これは交通監視カメラの映像を画像解析し、渋滞状況をリアルタイムで把握し、それに基づいて、交通信号の明滅時間を制御することで、渋滞を緩和させるシステムだ。

この都市ブレインの本格導入後、杭州市の渋滞ランキングは第35位まで下がった。

 

3分1秒で貸付が実行される浙江網商銀行

アリババが公開したデータによると、最も時間短縮になったのは零細企業への貸付だ。1555万1999秒=約180日の時間短縮になっている。

ジャック・マーは20年以上前、アリババの前身となる企業を創業する時に、当時はベンチャーキャピタルなど存在しなかったので、銀行に創業資金の融資を申請した。何度も足を運び、大量の書類を提出したが、一介の英語教師であったジャック・マーに貸付をしようとする銀行は現れなかった。ジャック・マーは半年間、銀行に振り回されたあげく、貸付を拒否され、ジャック・マーの創業は失敗に終わった。

2015年6月、ジャック・マーは浙江網商銀行を設立した。浙江網商銀行は、貸付に310方式を採用している。310方式とは「3分で申請完了、1秒で貸付判断実行、人の介在は0」というものだ。

貸付希望者は、スマートフォンから必要事項を記入して申請をする。すでにアリババの社会信用スコア「芝麻信用」が算出されているので、限度額と貸付利率が自動計算される。貸付判断もアルゴリズムにより自動化されている。貸付はアリペイで行われるので、振り込みは一瞬だ。人が判断をすることは基本的にないというものだ。

もちろん、貸付額は大きくはなく、多くの利用者は農家や地方の個人商店主だ。しかし、すぐに貸付が実行されることから、2018年の貸付顧客数は1227万人となり、第2位の建設銀行の225万人を大きく上回っている。中国のマイクロファイナンスとして機能をしている。

f:id:tamakino:20191107120627p:plain

▲アリババにより、市民の時間がどれだけ短縮されたかを表した図版。1人1日平均で27分の余剰時間が生まれている。


個人にも毎日27分の余剰時間

個人の生活も時間が短縮された。アリババのデータによると1日あたり1620秒=27分の節約になっている。

中国版新幹線「高鉄」のチケットを買うには、以前は駅の窓口で買うしか方法がなかった。人口が多い中国では、窓口に1時間から2時間は並ぶのは当たり前だ。2015年になって、中国鉄路は12306.cnというネットでチケットが買えるサービスを始めた。しかし、これも当初は、予約票を印刷し、駅の窓口でチケットに引き換えることが必要だった。現在では、スマートフォンに対応し、駅に設置されている専用機で、チケットに引き換えることができるようになっているが、それでも専用機に行列ができるていることもあるので、早めに駅に行く必要がある。

一方で、アリペイの中にはチケット購入のアイコンがあり、こちらで列車を検索し、リアルタイムで空き座席状況を確かめることができ、そのまま購入できる。支払いはアリペイで、チケットは身分証に自動的に紐づけられる電子チケットになるので、そのまま改札に向かえばいい。

時間が短縮されただけではない。12306.cnのアカウントがなくても、アリペイのアカウントでチケット購入することができるので、アプリを切り替えたり、複数のアカウントとパスワードを管理しておく必要もない。帳票類はすべて電子化されているので、スマートフォンだけで完結する。さらに領収書のブロックチェーン管理による電子レシート化も始まっているので、電子領収書を会社に転送すればそのまま経費精算ができ、税務署に転送すれば税務申告に使える。

会社で会議をしていて、出張することが決まったら、その場でスマホを取り出して、高鉄のチケットを予約することができる。時間だけでなく、煩わしさもなくなり、すべてがスムースにできるようになっている。

f:id:tamakino:20191107120617p:plain

▲アリペイの中のチケット購入コーナー。座席の空き状況も表示され、タップをするだけでチケットが購入できる。電子チケットになるので、そのまま駅や空港に行けば、乗車できる。

 

アリババとスマホの登場で、中国は別の国になった

アリババのEC「タオバオ」「Tmall」を使えば、ほとんどの生活用品が翌日配送してもらえる。新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を使えば、30分で新鮮な野菜や肉を届けてくれる。

アリババは当初インターネットを活用し、PCベースでのサービスを開発していた。それが2011年頃からスマートフォンが普及をし始め、アリババはすぐにスマートフォンのサービスに軸足を置くようになった。これが中国社会の効率を格段に向上させた。

わずか20年前、中国では何をするにも自分で行かなければならず、長い行列に並ばなければならなかった。この20年で、中国は別の国になった。