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夏のドーハをスマートレールが走る。大規模イベントで負の遺産を作らない交通整備

湖南省株洲市ですでに営業運転を始めている「レールのない路面電車」スマートレール。現在、ドーハでの試験走行が始まっている。ドーハでは2022年にW杯の開催を予定していて、W杯終了後に負の遺産にならない公共交通として検討がされていると中国新聞網が報じた。

 

カタールを走るレールのないスマートレール

中車株洲電力機車研究所が開発したスマートレールが、カタールの首都ドーハで運行試験を行った。

スマートレールは「レールのない路面電車」。道路上に特殊塗料で路線をペイントし、スマートレール車両はこの塗料をセンシングして走行する。最高速度は70kmで、1両の定員が100人、3両編成または5両編成での走行を想定している。

道路に路線をペイントし、駅や交通信号などの整備をするだけで施設ができるので、建設までの時間は1年以内で済む。また、建設コストは路面電車の1/5以下。動力は電力で、バッテリー駆動をし、10分の充電で25kmを走行できる。

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▲ドーハを走るスマートレール。レールはなく、路面に特殊塗料で描かれたバーチャルレールをセンシングしながら走行する。

 

 

▲ドーハを走るスマートレールの様子。夏は路面温度が70度にもなるという。W杯に合わせた交通整備計画のひとつとして検討されている。

 

都市計画が変更になっても柔軟に対応できるスマートレール

このスマートレールが最も適しているのは成長する都市だ。成長する都市では、公共交通網の計画を立てても、完成した頃には想定した都市の形とは違ってしまっている。そのような場合でも、スマートレールは路線変更が簡単にできるので、交通網を柔軟に整備させていくことができる。

 

 

すでに営業運転。冬のハルピン、夏のドーハでの運行試験

中車株洲電力機車研究所の地元である湖南省株洲市では、2017年2月から長江路の6.5kmで試験運行を始め、昨2018年から営業運転に入っている。また、今年2019年2月からは、黒竜江省ハルビン市で、営業運転を目指して乗客を乗せた試験運行を始めている。また、江西省永修市、四川省宜賓市でも営業運転を目指した試験運行が始まっている他、国内外100都市で導入の検討が始まっている。

さらに、7月からはドーハでの試験運行が始まった。ハルビンでは極寒状況での運行、ドーハでは灼熱状況での運行が試されることになる。

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湖南省株洲市では、すでに6.5kmの営業運転が始まっている。

 

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▲冬のハルピンを試験走行するスマートレール。低温によりバッテリー性能などに問題が出ることが懸念されたが、大きな問題は出なかったようだ。

 

黒竜江省ハルビン市では、営業運転を視野に入れた乗客を乗せる試験運行が始まっている。冬のハルピンの低温にも大きな問題は出なかったようだ。

 

W杯後の負の遺産を作らない交通整備計画

2022年にはカタールFIFAワールドカップが開催される。その首都ドーハでは、公共交通網の整備を始めているが、そのひとつとしてスマートレールが有力視されている。

このような国際イベントで公共交通を整備する場合、イベントに合わせて計画を立ててしまうと、イベント後の利用率が下がり、負の遺産となってしまいがちだ。そこで、ドーハでは、ワールドカップの人の移動に合わせてスマートレールを施設し、ワールドカップ終了後に路線を変更して、市民に提供することを考えている。

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▲スマートレールに乗るドーハの関係者たち。W杯終了後に、簡単に路線変更ができるスマートレールの特性を活かして、W杯終了後に負の遺産にならない交通整備計画を考えている。

 

採用されれば、初の海外スマートレールとなる

ドーハの7月から9月までの夏の間は平均気温が45度で、最高では60度に達することもある。この環境の中で、すでに70kmの路線を敷設して試験運行が始まっている。特に注目されているのがエアコンの性能やバッテリーの消耗度などだ。

2週間に渡る試験運行の結果を、第三者機関が分析をし、その結果に基づいてカタール交通局と専門家からなる評価委員によって評価をし、採用を決定することになる。もし、採用されれば、中国外で初めてスマートレールが走ることになる。

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▲ドーハに搬入されるスマートレール車両。採用されれば、初の海外でのスマートレール運行となる。

 

世界の路面電車ビジュアル図鑑

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