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ゲームで集めた万里の長城修復費用。集まった金額は2500万円

中国で最も有名な観光資源「万里の長城」。1万4000kmに渡る長城の多くは失われていて、現在も修復、復元作業が続いている。その費用を捻出するのに、ゲームが利用された。万里の長城について知ってもらい、寄付をしてもらうことで、順調に資金が集まっていると極客公園が報じた。

 

万里の長城の修復に必要な資金は6.3兆円

中国で最も有名な観光資源「万里の長城」は、常に修復と復元がされている。1万4000km以上にもなる建造物なので、その修復費用も莫大だ。

1mの修復には6000個の黒レンガと7立方米のセメントが必要になる。黒レンガが1つ4元、セメントが1立方米400元だと仮定すると、1mの長城を修復するのに2万6800元がかかる計算になる。

しかも、万里の長城は、市街地ではなく、山の中にある。そこまで物資を運ぶだけでも大変で、足場を組んで作業するのも簡単ではない。作業にかかる費用も、材料費以上に膨大なものになる。これを加えると、1mの修復に約6万元がかかる計算になるという。万里の長城全体では、4200億元(約6.3兆円)にもなる計算だ。

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▲中国で最も有名な観光資源「万里の長城」。その多くは荒れていて、修復や復元が必要だが、その費用は莫大なものになる。

 

一部に限定されてしまう伝統的な募金活動

このような大掛かりな修復作業は、政府がやるしかないが、その負担は決して小さくない。そこで広く市民から寄付金を募る活動が行われている。しかし、伝統的な募金活動は次第に機能しなくなっている。

ひとつは、募金活動が、観光地となっている万里の長城や、関連博物館などが中心になっていることだ。そのような場所にくるのは、万里の長城に何らかの関心がある人で、そこから外への広がりが生まれない。

本来は、関心がない人にも関心を持ってもらい、募金をしてもらうという活動が必要なのだが、そのような場所、手段が今まではなかった。

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▲ゲームが終わると、テンセントの寄付ページに飛ぶ。目標額、集まった額などが表示をされ、ここからWeChatペイで寄付ができる。修復状況なども詳細に解説されている。

 

ミニゲーム万里の長城について知ってもらう

中国文物保護基金会とWeChatは、共同して「一緒に長城を修理」というミニゲームを、WeChatミニプログラムとして公開している。ミニプログラムとは、SNS「WeChat」の中から検索して起動できるアプリ内アプリのことだ。スマートフォンのアプリのようにダウンロードする必要はなく、気軽に使うことができる。また、SNSでリンクを拡散させれば、タップするだけでミニプログラムを起動できる。新幹線や飛行機のチケット予約、外売の注文など生活関連サービスの多くが、ミニプログラムの形でアプリを提供している。

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▲WeChatから利用できる「一緒に長城を修復」ゲーム。英語版も用意されている。

 

修復の一部を体験できるゲーム内容

この「一緒に長城を修理」の内容は単純なものだ。レンガ職人になってレンガを火に入れて焼くというもの。指でレンガをドラッグして、火の中に入れると、レンガの温度が上がっていく。適切なところで取り出すとうまく焼ける。時間が短いと生焼けになり、長いと焼けすぎになってしまう。それだけだ。ただし、同時に3つのレンガまで焼けるようになっていて、焼ける時間がそれぞれに微妙に異なっているため、けっこう難しいゲームになるという工夫もされている。

ゲームとしては、熱中するようなものではないが、万里の長城の修復の一過程を体験するということが大きい。レンガが焼けると、寄付金募集の画面に遷移して、寄付金の募集が行われる。いきなり寄付を求められるよりも、わずかではあっても、修復の体験を得た上で寄付を求められた方が寄付する人の割合は高くなるという。

現在、広武長城の2端9号部分の補修のための寄付が募集されている。2019年8月末現在で、36万4440人が寄付をし、171万2582元(約2600万円)の寄付が集まっている。必要な金額の63.17%まで達成できている。これは4万個のレンガに相当するという。

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伝統文化活動もスマホを積極的に利用する時代

WeChatでは、このようにゲームを文化活動に応用する活動を行なっている。2019年の春節の時には「年画で振り返る春節」というミニゲームを、WeChatミニプログラムとして公開した。これは伝統的な年賀状に使われる年画を題材にしたパズルゲームだ。ゲームとしての難易度は高くないが、伝統絵画に触れるということに意味がある。

改革開放以降の目覚ましい経済発展の中で、人々の生活は豊かになったが、一方で伝統文化を忘れてしまう現象も起こり始め、そこに危機感を持った人たちがさまざまな活動を始めている。しかし、博物館の中だけで活動をしても、忙しい現代人の多くには届かない。文化活動も、SNSを積極的に利用する時代になっている。

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▲ミニプログラム「年画で振り返る春節」。次第に失われていく中国の伝統文化に触れてもらおうと企画されたもの。ゲーム内容は単純だが、使われている図案は、文化史上重要な絵画。遊ぶことで、自然に伝統文化に親しんでいくことになる。

ナノブロック 万里の長城 NBH_136

ナノブロック 万里の長城 NBH_136