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キャッシュレス社会の闇が大学生を蝕む。半数が利用する違法「校園貸」

キャッシュレス社会は、決済だけでなく借金の利便性も高めてしまった。スマホで簡単に金が借りられるため、大学生たちが借金苦で苦しむようになり、中には自殺を選ぶ学生もいて、大きな社会問題になっていると 壱点新娯楽が報じた。

 

決済だけでなく、借金の利便性も高まったスマホ決済

キャッシュレス化が進む中国で、その弊害が若い世代を襲っている。現金がキャッシュレス化され支払いの利便性が上がるとともに、借金の利便性も上がる。現金時代のように金融会社を訪ね、申込書に記入をし、毎月返済しに行かなければならなかったものが、スマートフォンからお金が借りられ、返済も自動で行われるようになる。

銀聯カード、アリペイ、WeChatペイともに簡単にお金が借りられる機能があり、もはや借金をしているという感覚はなくなり、単に現在残高がプラスになっているかマイナスになっているかの違いしか感じなくなる。

決済ツール運営会社にとっては、この利息が大きな収益となるため、「先消費、後払い」というスタイルが、あたかも現代的でスマートな消費生活であるかのようにプロモーションをしている。

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スマホ決済「アリペイ」に付属している花唄機能。算出された信用スコアに基づいて、借金可能枠が表示される。アリペイの中にあるため、気軽に利用してしまう人が多い。


借金残高は8年前の11倍、貯金はわずか2万円

中央銀行が公開した「決済システム運営総合状況」によると、銀聯カード、銀行カードの半年以上未返済の残高は、2018年第3四半期に880.98億元(約1.5兆円)に達している。これは8年前の2010年の約11倍以上になっている。

また、アリペイの運営元であるアントフィナンシャルが公開した「中国養老将来調査報告」によると、18歳から34歳の若い世代の平均貯蓄額(生命保険、年金などを含む)はわずか1339元(約2万2000円)で、多くの人が貯蓄をせず、稼いだお金をほとんど使ってしまうことがわかった。

 

5万円の借金が15ヶ月には1150万円に

といっても、「先消費、後払い」は定収入がある人にとっては悪いサービスではない。支出の平準化ができるため、消費生活を楽しむことができる。しかし、収入がない学生にとっては、転落のきっかけになってしまうことがあり、大学生の借金苦が社会問題になっている。

話題になったのがある女子大生の事件だ。この大学生は服を買うお金や友人と遊ぶお金が必要になったため、ネット金融から3000元(約5万円)の借金をした。しかし、収入がないため、すぐに返済に困り、別のネット金融から借りて返済するという自転車操業状態になった。それから15ヶ月で、55カ所のネット金融を使い、借金総額は69万元(約1150万円)に膨らんでしまった。

両親は驚いたが、自宅が差し押さえられ競売され、58万元を返済したが、11万元の返済がどうにもならない。女子大生は遺書を書いて、自殺を図ったため、父親が娘を連れて公安に助けを求めたことから、事件が明らかになった。

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▲左の黄色のが女子学生。右の青いのが金融業者。裸の写真を撮影して担保として差し出すことを要求している。金融業者のアイコンは若い女性になっているが、もちろん女性であるかはわからない。WeChatなどを使って、簡単に借金を申し込むことができてしまう。他人にも知られることがない。

 

借金苦で死を選ぶ学生も

この他、内モンゴル自治区の赤峰市で、若い夫婦がネット金融の借金を返済するために、自分たちの子どもを13万元(約220万円)で売って逮捕された。武漢理工大学の大学院生が17カ所のネット金融から5万元(約83万円)を借りて、返済に行き詰まり自殺をした。河南牧業経済大学の2年生が、58.95万元(約985万円)の借金が返済できず、青島のホテルの8階から飛び降り自殺をした。このような事件が相次いでいる。

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▲湖南工学院が調査した校園貸の利用状況。人数は多くはないが、5万元(約80万円)前後の借金をしている学生がいる。借金をする理由は、生活苦ではなく、服やバッグ、時計を買うためだ。

 

大学生の半数が利用、40%が金利を正しく理解していない

今年になって、武漢大学、江漢大学、武漢職業技術大学などの10の教育機関が、学生に対して緊急アンケート調査を行なった。1500名にアンケートを実施し、有効回答は1205。これによると、55.6%の大学生が学生向けのネット金融を使った経験があった。また、44.4%の大学生が、借金を返済するために別のネット金融から借りるということをしていた。

しかも、正確に金利計算ができたのはわずか35.1%で、40%の学生は金利について正しく理解していなかった。

 

逃げられない大学生はうってつけのカモ

違法な学生向け金融「校園貸」がなくならない。なぜなら無届けで個人で行ってしまうので、摘発が難しいからだ。貸し借りの交渉はWeChatなどのSNSで行い、お金の受け渡しもキャッシュレスで行われる。

信用のない学生になぜお金を貸せるのか。学生は卒業するまで逃げないからだ。信用度の低い社会人は、借金で首が回らなくなると、転職をしたり、別の都市に逃げてしまうが、学生は必ず大学で捕まえることができるし、逃げる先は実家ぐらいしかない。返済ができなくなると、他の校園貸を紹介し、そちらで借りさせて自分のところの分は完済させる。最後のババさえ引かなければ、確実に返済がしてもらえるのだ。

しかも、学生は金利に関する知識がなく、違法な高金利を得ることができる。さらに、違法な校園貸に手を出しているというのは恥ずかしいことであり、友人にも相談しづらく、ましてや学校には絶対に知られては困るという気持ちがあるので、違法行為が発覚しづらい。

 

利息を天引きして、違法な高金利で貸す

人民日報は、公式ウェイボーで、校園貸に対する注意喚起のスライドを公開している。

多くの校園貸が、借りるときに利息分を天引きする。しかし、ここに金利のトリックがある。例えば、年利12%で12万元を12ヶ月返済で借りた場合、金利総額は12万元×12%=1.44万元となり、これを天引きして10.56万元を手渡し、毎月1万元を返済する。しかし、金利は本来、残金に対してかかるのに、毎月12万元に対する利息を支払っていることになる。実質の金利は倍の24%に相当してしまうのだ。

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▲人民日報がウェイボーで公開した利息に関する注意喚起。利息分を天引きして貸すので、約束した利息よりも高い利息になってしまう。大学生の40%がこの仕組みを理解していなかった。

 

大学生をカモにする5つの手口

人民日報は、典型的な校園貸の手口として5つをあげている。

「培訓貸」は、高報酬であるという触れ込みの企業が、就職希望者に訓練費用として、校園貸から借りさせる手口。

「回租貸」は、担保としてスマホを預かってしまうもの。その個人情報から、学生の家族親戚、友人などに借金の営業をする。

「裸条貸」は、女子学生に対して、身分証を持った裸の写真を撮らせ、それを担保とするもの。返済が遅れるとその写真を公開すると脅される。

「刷単貸」は、校園貸の人間が営業成績を上げたいと持ちかけ、報酬を渡して借りてもらうというもの。一定額を借りさせて、そこから報酬分を引いた額を口座に返済させ、これで借金は完済したと錯覚させるが、その口座は校園貸とは関係がなく、翌月から返済の催促が始まる。

「美容貸」は、美容整形を受けたい学生に手術費用を無利息で貸し付け、さらに追加貸付の営業をしつこくするもの。

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▲女子学生が被害を受ける「裸条貸」。借りるときに、身分証を持った裸の写真を自分で撮影し、それを担保として差し出すことを要求する。返済が滞ると、その写真がネットにばら撒かれると脅される。

 

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▲返済期限を過ぎたら、担保として入れた写真をどのように扱うことにも同意をするという念書も書かされる。最近では動画の撮影も強要される。このような念書は法的な意味はまったくないが、無知な学生を脅かすにはじゅうぶんな効果がある。

 

悪徳金融に狙われる消費者弱者たち

人民日報は、お金が必要な場合は、必ず銀行などの正規の金融機関で借りて欲しいと訴えている。しかし、手続きの面倒な銀行に行く学生はいないし、収入のない学生にお金を貸す銀行は少ない。

キャッシュレスが進んで、決済の利便性が高まると同時に、借金の利便性も高まってしまった。速度超過で進化する中国社会の歪みが、消費弱者である大学生を襲っている。