中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

先端IT技術を導入して、生き残りをかける老舗ブランド・老字号

中国の老舗ブランド「老字号」が消えていっている。現代の消費生活に合わないからだ。その生き残りを図り、各老舗ブランドが積極的に先端IT技術を取り入れ始めていると媒体が報じた。

 

消えゆく老舗ブランド「老字号」

悠久の歴史を持つ中国には、「老字号」と呼ばれる老舗ブランドがある。最も有名なのは、北京ダックの名店「全聚徳」(チュエンジューダー)だ。北京ダックの調理法を開発した元祖北京ダック店で、海外や地方からの観光客は必ずと言っていいほど訪れる。しかし、その老舗ブランドは急速に消えていっている。

70年前、新中国が建国された時、このような老舗ブランドは約1万6000あった。しかし、その多くが消えていき、現在、中国経商務部が認定している「中華老字号」は1000程度でしかない。しかも、そのうち売上を伸ばしているのは2割から3割で、7割以上の老舗ブランドが衰退をしており、老字号は消滅の危機を迎えている。

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▲中国で最も有名な老字号「全聚徳」。観光客の多くは滞在中に一度は全聚徳で、北京ダックを食べる。しかし、地元の若者からは「観光客が食べるもの」と敬遠され始めている。


停滞する全聚徳、問題を起こした同仁堂

最も有名な「全聚徳」も2018年上半期の営業収入は8.76億元(約146億円)で、前年同時期の1.43%増にすぎなかった。中国全体が6%前後の成長をしていることを考えると、停滞と言ってもいいほどだ。全聚徳は2012年以来、6年連続で停滞をしている。

350年の歴史がある漢方薬の老字号「同仁堂」は、さらに苦境に立たされている。2017年末に、消費期限のすぎた蜂蜜を原材料にして漢方薬を作っていたことが発覚をして、老舗ブランドの信頼が揺らいでいる。

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漢方薬の老字号「同仁堂」。伝統的な漢方薬も若者からは敬遠され始めている。ドラッグストアでモダンなパッケージに入っている漢方薬を買う人が増えている。

 

先端技術で生き残りを図る老舗ブランド

危機感を覚えた老字号は、人工知能などの先端技術を積極的に取り入れることで生き残りを図ろうとしている。

中華ちまきの老舗ブランド「五芳」(ウーファンジャイ)は、2017年に、ちまきロボットの開発を広く求める賞金1000万元(約1億6000万円)の懸賞を行った。問題を起こした同仁堂は、年収100万元(約1600万円)で人工知能の専門家を公募し、「同仁堂ブレイン」の開発を始めている。170年の歴史がある中華靴の「内聯昇」は、航空技術の研究機関と協働して、人工知能を使って靴のデザインをする試みを始めている。160年の歴史がある北京ダックの「全聚徳」は、重慶狂草科技などと共同出資して「鴨哥科技」を設立、全聚徳のITシステムの開発を始めている。

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▲五芳の中華ちまき。日本人の口にも合う。自分で買った場合は、蒸す必要があれば、無人レストランであれば蒸したちまきが食べられるというのも、人気の理由のひとつになっている。

 

ブランド力のある無人レストランは成功している

このような試みはすでに成果が表れている。五芳は、アリババ参加のレストランガイドプラットフォーム「口碑」と協働して、杭州市に24時間無人レストランを開設した。スマートフォンで予約をし、店に行くと、ロッカーのような棚に料理ができているので、アリペイで決済をして食べるというものだ。開店1ヶ月で注文数は改装前よりも14.5%多くなり、売上は改装以前の40%増となった。

このような無人レストランは、多くが失敗をしているが、ブランド力のある五芳の中華ちまきという「強い商品」があるため成功をしている。老舗ブランドは中高年には圧倒的に浸透をしているが、若者にとっては「名前は知っているけど、利用したことがない」店になっている。このような先端技術と組み合わせることで、今までリーチできなかった若者層に浸透していくことができている。

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▲五芳無人レストランは、当然スマホ注文対応。店に向かう途中で、先に注文と決済をしておくことができる。

 

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▲五芳無人レストランでは、注文した料理がこのような棚で提供される。無人レストランそのものはあまりうまくいっていないが、五芳の中華ちまきはブランド力のある商品なので、多くの人が食べにきている。

 

伝統と先端技術をどう組み合わせていくかが問題

しかし、老舗ブランドがどのように現代感覚に適合すべきかは難しい。現在、中国では「小罐茶」という商品が議論になっている。小罐茶は、高級茶葉を1杯分パックにした商品で、茶碗に開けてお湯を注ぐだけで、高級茶が飲めるというもの。茶葉の選定、量などに関しては、著名な茶師が監修している。しかし、中国茶というのは、お湯を沸かして淹れて飲むまでのプロセス全体を楽しむもの。普段飲みの普及品ならともかく、高級茶としてはインスタントすぎるのではないか、いやこれこそ現代的な高級茶の楽しみ方だと論争になっている。

内聯昇の作る中国靴は、90以上もの工程があり、40以上の専用の道具が必要になる。150年の歴史がある扇子の「王星記」は、1つの扇子を作るのに86の工程がある。このような行程は、すべて別の職人が行う。

消費者が老舗ブランドを信頼するのは、このような伝統的な手法そのままに製品を作っているからだ。先端技術を導入して、このような製造工程を自動化、機械化していけば、それは新興ブランドが作る大量生産品と同じになり、ブランド価値を失ってしまうことになるだろう。

かと言って、伝統を守り続けるだけでは確実に消えていく。中国文化の守り手でもある老舗ブランドが苦しんでいる。