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地下鉄IC乗車券データから浮かび上がった「45分の法則」

中国北京市の地下鉄では、2003年から交通カード(IC乗車券)を導入している。ここから得られるデータは、オープンデータ化され、適切な機関が研究や解析目的に自由に利用ができる。そのような研究から「45分の法則」が明らかになったと北京日報が報じた。

 

地下鉄乗車のオープンデータで進む「通勤の研究」

北京市では、2003年12月から地下鉄で使えるIC乗車券「一卡通」(イーカートン)が使われている。日本のSuicaと同じように、事前にチャージをして使うもので、現在は地下鉄だけでなく、バス、タクシーや一部のキヨスクなどでも利用できるようになっている。最近では電子化が進み、NFCを使ったスマホアプリ化、ApplePayなどへの対応も進んでいる。

この交通カードで得られるデータは、大学などの研究者であれば、匿名化されたデータをほぼ自由に利用できる。現在は、2011年から2017年までのデータがオープンデータ化されている。そのため、都市交通の研究は競争が激しくなっている。北京日報は、そのような研究成果の一部を紹介している。

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▲2003年から北京市の公共交通に導入されている交通カード。Suicaと同じようにチャージをして利用する。地下鉄、バス、タクシーなどで利用できる。

 

乗車時間45分に収束する「45分の法則」

ビッグデータ研究からわかったことのひとつが「45分の法則」だった。北京の地下鉄通勤客は、乗車時間45分をひとつの目安にしていることがわかった。乗車時間45分ということは、自宅から会社までほぼ1時間になる。

乗車時間が45分より短い人は、通勤時間が多少長くなっても、よりよい職場、よりより居住環境を得ようとする傾向がある。一方で、乗車時間が45分よりも長い人は、職場の近くに転居して、乗車時間を短くしようとする傾向がある。つまり、北京の通勤客は意識しているかどうかは別として、乗車時間45分をひとつの目安にしているようだ。

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▲中国の多くの地下鉄で、交通カードだけでなく、NFCを利用したスマホアプリ、ApplePayなどの各種ペイメントシステム、「アリペイ」「WeChatペイ」のスマホ決済に対応が始まっている。しかし、利用できる決済方式が多すぎて、どの都市の地下鉄がどの決済方式に対応しているのか調べるのが大変で、出張客などで、改札で立ち往生している姿を見かけるようになっている。

 

4種類に分類できる北京の通勤者

研究者たちは、地下鉄通勤者を4つに分類できることを発見した。安居楽業者、遷居者、昇職定居者、跳槽者の4つだ。この分類は、自宅の転居、転職のそれぞれをした、しないで4つの象限に分類したものだ。

安居楽業者とは7年間、自宅も変えず、転職もしていない安定層。全体の16.38%になる。遷居者は転職はしていないが、自宅を引っ越した人。全体の11.09%になる。昇職定居者は転職をし、自宅も引っ越した人。全体の61.35%になる。跳槽者は転職をしたが、自宅は引っ越していない人。全体の11.18%になる。

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▲北京の通勤者の二軸分類。転職と転居のあるなしで分類をすると、最も多いのは転職と転居を繰り返すグループだった。このような行動をとる人が多いことが、都市の急速な変化を支えている。

 

高収入の人は転居も転職もしない

安居楽業者は、転職も転居もしていない人たちで、全体の16.38%になる。4つの分類のうち、地下鉄乗車時間はいちばん短く36分となった。この群の人たちは、自宅も地下鉄駅周辺のコストが高い場所を選ぶ傾向にあり、価格の平均は1平米あたり6.9万元(約113万円)だった。また、この群の59%が第五環状線の内側(都心部)に住んでいる。また、職場も地下鉄2号線(第五環状線の内側を通る環状線)沿線が多かった。不動産を有し、収入も高い人たちだ。

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▲北京の第五環状線。この環状道路の外側は郊外というイメージがある。しかし、最近では第五環状線沿いに大型のビジネス地区が開発され、北京の中心部の概念が変わりつつある。

 

住宅コストを気にして郊外に移動する

遷居者は、転職はしていないが転居をした人たちで、全体の11.09%。安居楽業者に近い人たちで、2011年ではプロフィールに大きな違いはなかった。しかし、2017年になると、この群の人たちは都心から第五環状線沿線に転居し始めた。都心には住みたいけど、住宅のコストを気にする人たちだ。

おそらく、都心部の賃貸住宅に住み、住宅コストを気にするために、都心周辺部にマンションを購入した。このようにして、もともと大きな違いはなかった遷居者と安居楽業者は分離をしていったものだと推測される。この過程で、乗車時間は35分だったものが39分に伸びている。

 

最も多い、転居も転職もする人たち

昇職定居者は転職も転居もしている人たちで、全体の61.35%。この7年で、平均して転職を2.65回、転居を2.51回している。この最大の群が、都市の流動性の要因となっている。ただし、住宅コストに関しては鷹揚なところがあり、住宅コストのより高い駅周辺に転居する傾向が出てきている。

現在、北京では都心部以外の場所に、ビジネス拠点を積極的に開発をしている。そのような新興のビジネス街に入居する企業に勤めるのもこのような人たちで、都市の発展に大きな寄与をしている。しかし、転職をしてから近くに転居をするまでのタイムラグがあるため、乗車時間は36分から40分に伸びている。

 

住宅コストを気にして、長距離通勤をする人たち

跳槽者は、転職をしても転居をしない人たちで、全体の11.18%。この群の人たちは、住宅コストを気にする人たちで、長時間の通勤に耐えている。4つの群のうち、乗車時間は最も長い43分となり、65%が住宅価格の安い第五環状線の外側に住んでいる。転職を繰り返すというよりも、臨時工などの仕事についている人が多く、雇用は不安定。そのため、より環境のいい場所へ転居するきっかけがつかめない人たちだ。賃貸住宅に住む人も多い。

 

IC乗車券のスマホ化で、更に進む都市計画

交通カードからわかるのは、乗車駅、乗車時間、下車駅、下車時間の4つでしかない。しかし、毎日同じ時間に乗車をしているデータから、自宅の駅と職場の駅を推測することは容易だ。これに、アンケート調査などを組み合わせて、さまざまな都市研究が行われている。

交通カードは、今、スマホ化が進んでいる。スマホ化が普及をすると、GPS追跡データから、駅までも徒歩距離、駅からの徒歩距離、さらにはスマホ決済データから消費行動まで組み合わせてわかるようになる。

杭州市や深圳市などでは、地下鉄、バスの交通カードのスマホ化を早くから始めていて、そこから得られる詳細データを利用して、バス路線の変更や増便計画なども進めている。各都市で、乗車の利便性を高めるだけでなく、都市計画に活かす試みが進んでいる。

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北京市の交通カードもiPhoneのApplePayなどに対応をしている。iPhoneで地下鉄の改札を通ることができるようになる。もちろん、AppleWatchでも利用できる。