中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

Tik Tokのプラットフォーム化で、さらなる上を目指すバイトダンス

Tik Tokがミニプログラムに対応した。ミニプログラムとは、アプリ内アプリのようなもので、Tik Tokはただのアプリではなく、プラットフォームになるということだ。運営元のバイトダンスは、この戦略で中国IT企業御三家BATの地位を脅かそうとしていると三声が報じた。

 

「今日頭条」「抖音」を運営するバイトダンス

中国のIT企業の興亡は激しい。長らくIT御三家としてBATという言葉が使われてきた。百度バイドゥ)、アリババ、テンセントの3社のことだ。しかし、検索エンジンを中心にする百度が伸び悩みを見せると、BATJ(BAT+京東(ジンドン))、BATX(BAT+小米(シャオミー))という新四天王で呼ばれることも多くなり、さらに最近では新御三家としてATM(アリババ、テンセント、シャオミー)という呼ばれ方もされるようになっている。

このトップ争いを追い上げる存在として、TMDという言葉も使われる。頭条(トウティアオ)、美団(メイトワン)、滴滴出行(ディーディー)だ。頭条というのは「今日頭条」というニュースアプリのことで、機械学習により利用者の嗜好に基づいて必要なニュースをチョイスしてくれる的確さと、優れたインタフェースにより圧倒的な使いやすさを実現し、中国でナンバーワンのニュースアプリとなっている。

この今日頭条を開発、運営しているのが北京市のバイトダンスで、今日頭条に続いて抖音(ドウイン)をヒットさせている。この国際版がTik Tok(ティックトック)で、ダンスのショートムービーを軸にしたSNSとして、アジア圏で大ヒットしている。

このバイトダンスの2大ヒットアプリ「今日頭条」「抖音」がアップデートされ、ミニプログラムの機能が追加された。これは何を意味するのか。バイトダンスがTMDを抜け出し、BATの一角に入るための戦略であるという見方がされている。

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▲バイトダンスの最初のヒットアプリ「今日頭条」。機械学習で、利用者の興味を分析し、それにあったニュースを配信してくれる。アクティブユーザーは、1日3億人。

 

Tik Tokがミニプログラムに対応してプラットフォームに

ミニプログラムは、アプリ内アプリのようなもの。すでに「アリペイ」「WeChat」「百度」が採用しており、「今日頭条」「Tik Tok」の採用はこれに続くものとなる(中国版Tik Tok「抖音」はすでに対応済み。国際版Tik Tokの採用時期は未定)。列車や飛行機、映画などのチケット購入のミニプログラムが多く、また、小売ブランドのECミニプログラムも多い。

「今日頭条」「Tik Tok」のミニプログラムは、娯楽方面を中心にするようだ。すでに「今日頭条」には「猫眼電影」という映画チケット購入のミニプログラムが利用できる他、アンドロイド版「今日頭条」ではゲームのミニプログラムも利用できるようになっている。

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▲「WeChat」のミニプログラムでは、飛行機、新幹線、鉄道、長距離バスなどの予約、チケット購入ができる。空き座席もリアルタイムでわかる。生活に必要なミニプログラムを搭載することで、WeChatアプリだけでも日常のほとんどのことができるようになった。このため、WeChatは毎日高い頻度で起動される。エンターテイメントの世界で、Tik Tokを同じような位置付けのアプリに育てることをバイトダンスは狙っている。

 

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▲「WeChat」のミニプログラム。このミニプログラムは、ECサイト「京東」のもので、さまざまなクーポンが取得でき、購入もできるようになっている。

 

トラフィックを外に逃さず、毎日使うアプリに

ミニプログラムは、現在、中国のIT企業では大きなトピックになっている。WeChatのミニプログラムは、テンセントの創業者であるポニー・マーとWeChatの開発責任者である張小龍(ジャン・シャオロン)が直接指揮をとり、すでに数百人の開発部隊がいるというテンセント内部では重要プロジェクトになっている。

今回の「今日頭条」「Tik Tok」のミニプログラム対応も、バイトダンス創業者の張一鳴(ジャン・イーミン)直接の指示だった。

ミニプログラムは、「アリペイ」「WeChat」のような元々大きなトラフィックを獲得しているアプリが、そのトラフィックを外に逃さないように、アプリ内で必要なことが済んでしまうようにする仕組みだ。一方で、チケット購入のようなアプリはトラフィックを増やすことはあまり重要ではなく、チケットを購入してもらうことの方がはるかに重要で、アリペイなどの巨大なトラフィックを持つアプリのミニプログラムにした方が、購入数を増やすことができる。ユーザーは、アリペイを起動するだけで、必要な購入ができることになり利便性が上がるという三者ウィンウィンの関係を築くことができる。

 

重要アプリは「アリペイ」「WeChat」「今日頭条」「Tik Tok」

アリペイ、WeChatは、すでに1日のアクティブユーザー数が10億人に達するというモンスターアプリだが、「今日頭条」も1日3億人、「Tik Tok」も1.5億人に達している。「今日頭条」はアクティブユーザー数の伸びは頭打ちになっているが、1人あたりの利用時間が伸びていく傾向が続いていて、「Tik Tok」はいまだにアクティブユーザー数が伸び続けている。

日本のTik Tokは、リア充な若者が、ダンス映像を公開する場になっていて、「若者ならでは現象」のように扱われるが、中国版Tik Tokではダンスだけでなく、報道映像やペットの映像、ライフハック、ゲームのワンポイント実況など、さまざまな映像が共有されている。ユーチューブのショートムービー版とも言える地位になり、幅広い年齢層が利用するようになっている。

「アリペイ」「WeChat」に次ぐ重要アプリとなってきた「今日頭条」「Tik Tok」をミニプログラム対応にすることによって、トラフィックを外に逃さず、さらにアクティブユーザー数を増やし、広告収入をさらに増加させることが狙いだ。

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▲「今日頭条」アプリで利用可能になっているミニプログラム「猫眼電影」。公開中の映画、映画館が検索でき、チケット購入もできる。

 

ゲーム関係の広告と相性のいいTik Tok

実際、すでに「今日頭条」「Tik Tok」内のゲーム関係の広告は開封率が高く、バイトダンスの大きな収益源となっている。今日頭条のゲーム広告運営責任者の何欣(フー・シン)によると、ゲーム業界の半数の広告主が「今日頭条」に広告を出稿しているほどだという。

さらに、Tik Tokでは、テンセントの「王者栄耀」、網易の「第五人格」を始めとして「吃豆大作戦」「英雄文明」「守護你前行」などのゲームが公式チャンネルを開設し、ゲーム関係のビデオを配信している。ユーザーは、Tik Tokでゲームのビデオを見て、そのままTik Tok内でそのゲームのミニプログラムを遊べるようになる。

 

WeChatのミニプログラムはすでに成功

同様のことはWeChatが先行していて、ゲームのミニプログラム配信をすでに始めている。開始から100日後で、すでに広告収入が1000万元(約1.6億円)を突破したと言われている。

「今日頭条」「Tik Tok」は大きなトラフィックを得られるアプリに育ったが、張一鳴はいち早く次の成長戦略を実行に移した。BATを追撃するTMDのTが抜け出して、BATの一角を占めようとしていることは間違いない。今のバイトダンスは、中国のIT企業の中で最も勢いがある企業のひとつであることは確かだ。