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老舗の包子店がセルフ注文、スマホ決済のスマート店舗を出店

習近平国家主席がお忍びで食べにきたことで有名になった老舗の包子店「慶豊包子舗」が、北京の副都心「雄安新区」に新しい店舗を開いた。この店舗が、スマホ決済を利用したスマート店舗となり、話題になっていると北京日報が報じた。

 

若年層への浸透が課題の老舗飲食店

慶豊包子舗(チンフォン)は70年の歴史がある包子店の老舗。北京市内には100店舗以上があり、全国10の省、直轄市に展開し、全国では300店舗を超える。小さめの豚マンが有名で、3つで10元という安さもあって、朝ごはんや昼ごはん、おやつ代わりに利用されている。

このような老舗店は、中高年以降の世代はよく利用をするが、若い人への浸透が今ひとつな老舗が多く、最近では業績が伸び悩んでいる。その中で、慶豊包子舗は若い世代にもよく利用されている。

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▲慶豊包子舗では、1店舗あたり最低でも14名のスタッフが必要だったが、スマート店舗にすると半分の7名で運営できるという。

 

習近平も食べにきた慶豊包子舗

慶豊包子舗は、2013年の年末、習近平国家主席が、北京市の月壇北街店に食事にきたことで、全国的に有名になった。朝6時、月壇北街店の駐車場管理者に北京市交通管理部門から電話があり、昼の時間に数台の駐車場を確保しておくように依頼があった。すると12時20分になって、役人やSPに伴われて、コートを着た習近平国家主席が店舗に入ってきた。国家主席は、自分で豚マン6個、もつスープ、からし菜の炒め物を注文し、21元(約340円)を支払った。国家主席は、自分で料理を運び、席に座って、周りの客に親しげにこう話した。「今日は遠くまで視察に行かなければならないので、途中で食事を取りに寄ったのです」。始終ご機嫌で、居合わせた客たちと握手をしたり、一緒に写真を撮ったりしたという。約20分間の滞在だったが、周りを交通規制するでもなく、駐車場の確保をしただけでふらりとやってきた国家主席の姿に、多くの市民が好感を持った。

ここから、慶豊包子舗の名前が全国的に知られるようになり、名物の豚まんは「習包子」と呼ばれ、地元の肩のこらない包子店であるのに、北京を訪れる観光客が食べにくるようになった。

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▲慶豊包子舗の定番の定食。右が名物の豚まん。これで価格は500円弱。昼食としてはかなり満腹になる。

 

老舗チェーンが挑戦したスマート店舗

その慶豊包子舗が、雄安新区に新店舗を開業した。雄安新区は、北京市の首都機能の一部を移転する副都心で、習近平国家主席肝いりの大プロジェクトだと言われている。

その雄安新区店が、慶豊包子舗初のスマート店舗となり、話題になっている。来店客は、入り口付近にある大型タッチパネルでメニューを選んで、スマホQRコードをかざしてスマホ決済。現在は、レシートが印刷されるので、それを商品カウンターに持っていくと、料理が渡される仕組みだ。

また、各テーブルにはQRコードが印刷され、これをスマホでスキャンすることで追加注文をすることもできる。

スマホ決済が利用できない人のことも考え、有人の注文レジも用意しているが、ほとんど利用する人はいないという。

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▲慶豊包子舗に導入された注文タッチパネル。表示されたメニューをタッチして選び、QRコードスマホ決済をする。現在は、注文レシートが出てきて、それを注文カウンターに持っていく方式で、食券機と変わらないが、将来的には厨房に直接注文内容が表示される形式になる。

 

自動販売機による24時間営業も

営業時間は、朝9時から夜9時までだが、それ以外の時間も、店舗外にある自動販売機で、一部の商品を購入することができる。スマホ決済で買うことができ、包子などは温められて出てくるので、その場で食べることができる。自動販売機の横に簡単なテーブルやベンチを設置する予定だ。

慶豊包子舗の路大勇常務副総経理は、北京日報の取材に応えた。「一般店舗では少なくても14名のスタッフがいなければ運営できません。多くの店舗で18名から25名のスタッフを雇用しています。しかし、スマート店舗では7名で運営できます」。

習近平が好きな老舗の包子店が、習近平肝いりの副都心にスマート店舗を出店した。そこが話題になっているが、「老舗がIT店舗化した」という点でも話題になっている。

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▲外には24時間利用可能な自動販売機も設置された。ちゃんと暖かい豚まんが出てきて、その場で食べることもできるようになっている。もちろん、スマホ決済で購入する。

 

セルフ注文機を軸にIT化されていくファストフード

すでに大都市では、入り口にセルフ注文、決済用の大型タッチパネルがある店舗は珍しくない。特にメニューが固定しているマクドナルドなどのファストフードチェーンが率先的に導入している。

慶豊包子舗はレシートが印刷され、それを持って商品カウンターで受け取るという原始的な方法だが、ここも電子化している店も増えている。例えば、ケンタッキーの新業態「KPro」では、タッチパネルで注文、決済すると、丸い無線デバイスが渡される。これをもって好きな席に座り、テーブル中央のQRコードの上に置いておくと、スタッフが料理を運んできてくれる。店舗側は、注文内容と座席の位置を把握しているのだ。

また、テーブルのQRコードを利用して、先に好きな席に座り、そのQRコードをスキャンして、スマホにメニューを表示、スマホから注文と決済をさせるという店舗も増えている。

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▲ケンタッキーが運営するKPro。入り口に注文タッチパネルがあり、顔認証決済またはスマホ決済をする。

 

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▲注文をすると、円盤のようなデバイスが渡されるので、自分の好きな席に座る。スタッフはこのデバイスの位置が把握できるので、迷うことなく料理を運んできてくれる。テーブルにはQRコードが印刷され、スマホでスキャンすると追加注文もできるようにする予定だ。

 

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ファストフード店では、注文タッチパネルはごく当たり前のものになっている。決済を済ませてしまい、印刷されたレシートを注文カウンターに持っていくパターン、注文内容は厨房が把握をし、注文札を持って好きな席に座ると料理が運ばれてくるパターンなど、扱いは店舗によって異なっているが、共通しているのはレジカウンターがなくなりつつあるということだ。また、上部にあるQRコードをスキャンすると、タッチパネルと同等の内容がスマホに表示され、自分のスマホからも注文できる店が多い。

 

競争が激しい身近な外食業

都市部では、外売(出前)の普及もあるが、来店客も多く、飲食店は「手っ取り早く儲かる業種」として、開業が相次いでいる。しかし、一方で、客に飽きられるのも早く、1年以内に90%の新開業店が倒産するとも言われる。競争が激しい分野で、それはITスタートアップと変わらないほどの厳しさだ。

そのため、人件費を圧縮することができ、話題にもなり、顧客体験も改善できるタッチパネル注文、スマホ注文が積極的に取り入れられているのだ。あと数年で、スマホ決済、スマホが利用できない外国人旅行者は、食事にも困る国になっているかもしれない。