中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

根強い中国人の日本旅行人気。しかし、交通、食事に課題も

旅行情報サイト「馬蜂窩」は、2018年上半期に海外へ自由旅行をした旅行者へのアンケート結果をまとめた「2018中国出国自由旅行ビッグデータ報告」を公開した。これによると日本旅行の人気は相変わらず高いものの、交通と食事に課題があることが見て取れる。

 

国内旅行者数50億人、海外旅行は半年で7000万人

中国の旅行ブームが止まらない。中国の海外渡航者数、渡航先での消費金額は、ここ数年世界一で、しかも伸び続けている。中国文化・旅行部の予測によると、2017年の中国国内旅行者数は延べ50億人を超え、2020年には延べ64億人に、2022年には80億人に達するという。人口が15億人だとしても、一人平均で年に5回以上も国内旅行に行く計算になる。

中国文化・旅行部が公表した2018年上半期の海外渡航者数は7131万人となり、昨年同時期の6203万人から15%も増加している。

f:id:tamakino:20181012123322p:plain

▲海外渡航先のランキング(個人旅行)。団体旅行まで含めると、日本が1位になっている統計もあるが、個人旅行に限ると、まだまだタイに負けている。

 

団体旅行から個人旅行へ

中国の海外渡航者が増え続けているのには2つの理由がある。その根本にあるのは、中国人の経済力が上がってきていることだが、すでに大都市住民は団体旅行に見向きもせず、個人旅行を楽しむようになっている。チケットからホテルなどの手配はスマートフォンでできるようになっているので、一度の旅行で複数国を訪ねる、短い休みが急に取れた場合でも、すぐに海外旅行に行けるようになった。

もうひとつは、今まで二級都市と呼ばれながら、経済成長をし、新一級都市とも呼ばれるようになった西安成都などの地方都市の住民が海外旅行に行き始めたことだ。

今後、中国がますます豊かになれば、今度は三級都市の住人も海外旅行に行き始めることになり、しばらくの間は、海外渡航者数は毎年伸びていくと思われる。

内陸の都市では、沿岸部の国際ハブ空港がある都市に、1日がかりでまず出てから出国するというパターンであるため、チャーター機などを利用した団体旅行がまだまだ多いが、新一級都市でも個人旅行をする人は着実に増え続けている。

f:id:tamakino:20181012123325p:plain

▲海外旅行者数の伸び率ランキング。西安成都などは200%以上、つまり2倍以上になっている。新一級都市と呼ばれる都市で海外旅行者数が急増している。

 

日本の観光には満足、宿泊先と食事は不満

中国人の海外渡航先は、統計によっては日本が第1位になっているものもあるが、個人旅行だけに限ると、僅差でまだタイを追い越せていない。一方で、中国から行きやすい東南アジア各国の追い上げも激しくなっている。

実際の旅行をした人に尋ねた項目別満足度ランキングを見ると、日本の観光地としての課題が見えてくる。日本は渡航者数では第2位であるのに、総合満足度は7位。観光では5位とまずまずだが、宿泊先や買い物では満足度が低く、特に問題なのは食事で、満足度ランキングでは圏外になってしまっている。

これは日本に中華料理店が多いということが関係している。東京には3682軒の中華料理店がある。シンガポールは1658軒、ソウルでは471軒にすぎない。あまりに多いために、東京の中華料理店に行く中国人も多いが、多くの場合、本場の味とは違い違和感を感じる。その土地の名物料理を食べるわけでもなく、ちょっと微妙な中華料理を食べて帰ることになる。これが満足度が低い原因ではないかと思われる。食事の満足度が高いのは、オランダ、モルディブなど中華料理店が少ない国であることも興味深い。

f:id:tamakino:20181012123332p:plain

▲海外旅行者数の項目別満足度ランキング。日本は観光以外では低い評価。特に食事の満足度が低い。

 

不満の多い交通

もうひとつの課題が交通だ。ほぼ全国で利用できる交通カードのスイカなどは、中国の日本旅行者の間でも有名で、無記名のスイカをかなりの人が持っている。しかし、タクシーは主要事業者のみしか対応してなく、地方に行った時に交通カードでの支払いができずに面食らうという話もよく聞く。

また、中国人にとっては、アリペイやWeChatペイから直接交通カードにチャージする手段が望まれている。ホテルや銀行で、日本円に両替、それから駅に行き現金でチャージというのは、中国人にとって、もはや相当に不便で煩わしい手順になっている。

f:id:tamakino:20181012123334p:plain

▲日本国内の人気渡航先。東京、大阪を中心に広域を周遊するスタイルが好まれている。

 

f:id:tamakino:20181012123337p:plain

▲日本国内の人気観光地。京都、東京、大阪に集中している。

 

日本旅行は、長期広域周遊型

日本旅行者は、滞在日数が比較的長い。最も多いのは5-6日で35%、9日以上という人も23%いる。これは中国人が長期滞在を好むというわけではなく、日本だから長期滞在するのだ。例えば、アクセスがいいシンガポールや韓国ではいちばん多いのは4日以下で、週末+有給を利用する。日本には、ゴールデンウィーク+有給を利用してやってくる(中国はゴールデンウィークが年3回ある)。

その理由は、日本には観光スポットが多いからだ。「東京に滞在をして、都内観光+ディズニーランド、横浜、鎌倉」「大阪に滞在して、京都、奈良+USJ」という広域移動型が定番になっている。

f:id:tamakino:20181012123340p:plain

▲滞在日数のタイ、日本、シンガポールの比較。日本旅行はタイ、日本は長期滞在型。シンガポールなどは短期旅行が多い。

 

f:id:tamakino:20181012123345p:plain

渡航先での消費額。日本では圧倒的にお金を使う。シンガポールよりも高いというのは驚異的だ。

 

中国人が戸惑うJRと私鉄という複雑さ

ところが、その移動に使うJR、新幹線、私鉄、地下鉄などが別の運営であるということがわかりづらい。観光客が利用したいのが「フリーパス」「一日乗車券」だが、これも原則運営主体ごとの発行になっている。JR、東京メトロ都営地下鉄、都バスなどが乗り放題になる「東京フリーきっぷ」もあるが、私鉄や民営バスに乗車することはできない。

中国の公共交通は、原則地方政府が一手に運営しているので、複数の運営主体があるということがピンときづらいのだ。日本旅行に関するFAQランキングでも交通に関係する質問がいくつかあり、これは他の国ではあまり見ない質問だ。

f:id:tamakino:20181012123349p:plain

▲馬蜂窩に寄せられた日本旅行に関する質問ランキング。交通に関する質問があるのが、他の国と違っている。

 

子連れで行きたい日本旅行

そのため、旅行サイトで「日本」というキーワードとともに検索される言葉でも、「交通カード」という言葉が上位にきている。

もうひとつ、他の国にない特徴が「子連れ旅行」だ。日本は清潔で、設備も整い、治安もいい。そのため、小さな子どもを連れた海外旅行でも安心できると考えている人が多い。子どもが好きなアニメキャラクター関連の観光スポットもある。

今までインバウンドというと「爆買い」ばかりに目がいっていたが、この「子連れ旅行」というのはもっと注目されてもいいのではないだろうか。

f:id:tamakino:20181012123354p:plain

▲「日本」と一緒に検索されるキーワードランキング。「子連れ旅行」というキーワードは、他の国にない特徴だ。