中国では「新青年」という言葉が使われ始めている。都市に出て低賃金労働に甘んじる学歴の低い農村出身の若者のことだ。生活は意外に気楽で、都市生活を楽しんでいるとも言われる。しかし、その新青年であるブロガーの神清気爽が、本音を語り、苦悩している文書を公開し、ネットで話題になっている。
半分働き、半分遊ぶ「新青年」
このような「新青年」の中には都会で一旗あげたいという積極的な若者もいるが、大半は「勉強が苦手、学校が嫌い」「都会の華やかな生活を楽しみたい」という若者が多い。そのため「石に齧りついても努力する」という感覚はほとんどなく、「きつくない仕事でそこそこの給料がもらえればいい」と考える。このような従来の伝統的な中国人からは考えつかないような現代的な考え方をしている若者が新青年だ。
極端な例では、2日ほど宅配便や外売の日雇い仕事をして、3日間はネット喫茶に寝泊まりしてネットゲーム三昧を楽しむという生活をする。シェアリングエコノミーが発達して、働きたい時間だけ働ける環境が生まれていることも大きい。もちろん、このような働き方でじゅうぶんな給料は稼げるはずもなく、今は何とか生活できても、将来は大いに不安だ。そのため、家を買わない、車を持たない、結婚しない、子どもをつくらないと、草食系どころではない虚無的な人生観を持つ若者も増えつつあるという。
▲フォクスコン工場の風景。世界で使われる電子機器の多くが、フォクスコン工場で組み立てられている。
フォクスコンで働く新青年
ブロガー神清気爽は、そのような新青年の1人だが、真面目にフォクスコン工場で働いている。しかし、将来は不安だという。
2008年5月、神清気爽が初めて働いた時、彼は中学校も卒業していなかった。働き始めてすぐ、四川大地震が起こり、会社が社員に義援金を求めた。神清気爽は、5元(約80円)を寄付するつもりだったが、20元(約320円)札1枚しか持ってなく、15元のお釣りが欲しかった。しかし、それを言い出すことができず20元を寄付してしまい、お金が一銭もなくなってしまった。次の給料日までの数日、社食でご飯を食べることもできず、お腹が空いても、水を飲んで我慢をした。神清気爽は、この時から自分の人生は転落し続けていると嘆く。
世界24位の企業「ホンハイ」入社も生活は好転せず
その後、いくつかの会社を転々とし、2013年7月にようやくフォクスコンの工場で働くことができるようになった。フォクスコンは、鴻海精密工業(ホンハイ)のグループ企業で、鴻海はフォーチュングローバル企業500の24位にランキングされる企業。神清気爽はようやく自分にも運が向いてきたと感じた。
月給は月1800元(約2万9000円)だったが、見習い期間の3ヶ月が終われば2120元(約3万4000円)になる。その後も1年に1回昇給のチャンスがある。神清気爽は遅刻もせず、早退もせず、仕事をサボらず、懸命に働いた。
しかし、4年間1回も昇給がなく、フォクスコンを辞めようと考え出した頃、思い出したように昇給があり、月給は2700元(約4万3000円)になった。しかし、以前よりも景気が悪くなっているのか、残業がどんどん少なくなる。暇な時期は3000元に届くか届かないか、残業が多い時期でもせいぜい4000元がいいところだった。工場の中で、朝から晩まで同じ作業を繰り返す。それに神清気爽は疲れ切ってしまっているという。
▲神清気爽がネットに公開した給与明細。月240時間労働+残業40時間で、給与は3070元(約5万円)。社食と寮を利用すれば生活できる水準だが、経済的な余裕はない。
低学歴者には閉ざされている昇給の道
フォクスコンの給料が安いのは全員ではないという。同僚の中にもどんどん昇給をしていく者がたくさんいる。神清気爽は、なぜ自分だけ昇給できないのか。それは中学校を卒業していない学歴にあるのだと感じている(※これは神清気爽の思い込みであると思われる。フォクスコンはスキルを身につければ昇給するシステムを採用している)。
神清気爽は言う。「これを読んでる若者たちよ、勉強だけはした方がいい。学校の先生がいつも言うように、勉強することが出世の糸口になる。それは正しかった。この記事を読み終えたら、若者は勉強しろ。大人は仕事をしろ。老人は何もせず、今ののんびりした生活を楽しめ」。
▲社食のメニュー。いちばん安いメニューが12元(約200円)。鳥か鴨を揚げたもの、焼いたもの、煮込んだもの。「豚の舌ご飯」「豚の耳ご飯」「豚の心臓ご飯」という不思議なメニューもある。なぜか焼きダック(半羽65元)、焼き鳩(半羽40元)という豪華メニューもある。何人かでシェアするのだろうか。
工場にはおばちゃんばかり。出会いもない
給料が低いので、寮から出てマンションを借りることもできない。社食の料理もどんどん値段が上がっている。
今年28歳になる神清気爽は、10年以上毎日働いて、未だに女の子と手を繋いだこともないという。「前の会社では若い女性が多く、男女比は1:5ぐらいだった。でも、フォクスコンは男女比が5:1ぐらいで、しかもおばちゃんばかりなのだ!若い女性はどこに行っているんだろう?」
神清気爽は、夜寝るとき、この10年を振り返ると、涙が出て枕を濡らすという。
「僕はどうしたらいいのだろうか。人生を間違えて、家の中は壁しかない。誰か助けてくれないか?」。
▲神清気爽が毎日、社食で食べている「鳥ご飯」。好きな理由はメニューの中でいちばん安いから。味も悪くないという。
ネットで議論になる「新青年という生き方」
神清気爽の文章は、拡散をし、多くの中国人の心に届いた。一部では「新青年というのは気楽な生き方」と肯定的に捉える人もいるが、実際に新青年と呼ばれている若者たちにとって、決して気楽ではないようだ。
これは中国社会の矛盾なのか、それとも世界的な潮流なのか、未だにネットでは議論が続いている。