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激化する中国コンビニ戦争。4分の1が赤字経営

中国チェーン経営協会が「2018年コンビニ発展報告」を公開した。コンビニ業界は成長する都市型コンビニと赤字経営の地方ミニショップに二極分化し、都市型コンビニは日系チェーンが強い。国内系コンビニは苦しい立場に追い込まれていて、大きな再編が必要になりつつある。

 

過当競争時代に入る中国コンビニ市場

過去の国際的な経験からすると、一人当たりのGDPが2000ドルから3000ドルの時期にコンビニの参入が始まり、5000ドルに達すると急速な成長をし、1万ドルに達すると過当競争になるという。

中国では1992年にセブンイレブンが深圳市に開店して以来、中国の一人当たりのGDPは上昇をし続け、2016年には8000ドルを超え、2017年には8836ドル。コンビの数は10万軒を超え、いよいよ過当競争の時代に入ろうとしている。

2017年のコンビニ売上は前年から23%増え、市場規模は1900億元(3兆1000億円)を突破した。1軒あたりの1日の売り上げ平均は4936元。これも昨年より10%程度増えたが、上げ幅はそれ以前の半分以下になっている。

なお、日本のコンビニ市場は年間売上が約10兆7000億円、約5.5万軒。

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▲この3年間の中国コンビニ市場の伸び。順調に見えるが、一級都市はすでに飽和、過当競争になっている。

 

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▲店舗数も3年間で順調に伸びている。特に二級都市での出店が著しい。

 

二極分化する中国コンビニ業界。4分の1が赤字

2015年から2017年までの3年間、粗利率をみると、30%以上というチェーンが3%から16%に上昇している。ところが純利益でみると、4%以上のチェーンも増加している一方で、赤字チェーンも増えている。赤字のチェーンは24%にも達し、4分の1が赤字経営になっている。

この3年間で、家賃コストは18%上昇し、人件コストは12%上場し、光熱費コストは6.9%上昇している。

同じコンビニと言っても、大都市にあるコンビニは日本と同じような中型店が主体だが、地方都市ではコンビニというよりも「町のよろず屋」と言った方がしっくりする零細店が多い。このような店では、売上は限定的なのに、最低1人は店番が必要なため、これ以上コストを削ることができない。

高収益の都市型コンビニと、赤字経営の地方ミニショップに二極分化が起きている。

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▲粗利(売上ー原価)は年々改善しているが、さらに経費を引いた純利益は苦しい状態になっている。特に、赤字経営であるコンビニチェーンが24%もある。

 

一級都市は成熟。二級都市が主戦場

ただし、一級都市の上海、広州、深圳では、日本や台湾並みにコンビニがあり、売上は頭打ちになり、これ以上の成長は難しい局面になっている。北京だけは例外で、以前からキヨスクタイプの売店が多数あったため、大都市であるのにコンビニの数が少なかった。2017年になって、北京市はようやくコンビニ出店を促す政策を打ち出したため、2017年は店舗数が20.7%も増加している。しかし、これも数年で他の都市と同じように頭打ちにはなる。

一方で、コンビニが成長しているのが西安昆明重慶の二級都市で、店舗数はそれぞれ、25.0%、23.8%、21.3%の伸びとなっている。

 

地域により強いチェーンが存在する

また、地域によって強いコンビニチェーンが鼎立しているのも中国コンビニの特徴だ。上海では、ローソン、好徳/可的、ファミリーマート、快客の4チェーン。広東省ではセブンイレブン、天福、美宣佳の3チェーン、成都では紅旗、浙江省では十足/之上、江蘇省では蘇果が強い。

 

意外にキャッシュレス比率が低いコンビニ

意外なのが、コンビニは「アリペイ」「WeChatペイ」のスマホ決済が普及していない業種になっている。売上の30%以上がスマホ決済であるチェーンは56%にすぎず、10%以下というチェーンも32%ある。

これは「高収益の都市型コンビニと赤字経営の地方ミニショップ」の二極分化と関係している。中国にはコンビニチェーンが無数にあり、全国的に有名な10チェーンの店舗数は60%弱であり、40%強はローカルのコンビニチェーンになる。

このような地方ミニショップでは、未だに現金決済が主流になっている。スマホ決済が使われる場合もWeChatペイが主流で、コンビニ全体で見ると、スマホ決済のシェアはWeChatペイ48%、アリペイ47%とWeChatペイの方が多い。スマホ決済全体では、アリペイ:WeChatペイは3:2程度の規模感なので、コンビニではWeChatペイが強い。

WeChatペイは、SNSアプリ「WeChat」に付属した決済機能で、WeChatアプリは10億人以上のユーザーがあり、中国人のほぼすべてが使っていると言っても過言ではない定番アプリ。しかし、決済機能を使うには、WeChatを起動して、それからウォレットを開くという1ステップ余計な手間がかかる。一方で、アリペイは決済専用アプリなので、開けばすぐに決済ができ、しかも決済関連の機能が充実している。そのため、決済にはアリペイを使うという人が多いが、リテラシーの高くない中高年などは、すでに慣れ親しんでいるWeChatの中からWeChatペイを利用する傾向がある。大雑把に言えば、都市の若者はアリペイを使い、地方の中高年はWeChatペイを使うという傾向がある。

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▲意外に普及していないコンビニのスマホ決済。売上の10%以下というチェーンが32%もある。都市型コンビニと地方型コンビニの2つに二極分化していることが影響している。

 

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▲対面決済全体ではアリペイが優勢だが、コンビニではWeChatペイがわずかだが上回っている。WeChatペイは地方、リテラシー低めの人の間で普及をしている。

 

国内系コンビニの弱みは直営方式

中国の国内系コンビニチェーンは苦しい立場に追い込まれつつある。都市型コンビニは圧倒的に日本系コンビニが強い。ローソン、ファミリーマートセブンイレブンといった日系コンビニは大都市には必ず存在し、関東煮(おでん)、おにぎり、コンビニコーヒーといった目新しい商品を持ち込み、イートインのような新しいスタイルも持ち込む、中国コンビニ界のイノベーターの役割を果たしている。

しかも、日系コンビニは動きが早い。新たな流通拠点ができると、すぐに好立地に出店できる。これは、日本と同じようにフランチャイズ方式を採用しているからだ。日系3チェーンはいずれもフランチャイズ店舗が95%以上であり、直営店は数%。一方、中国系コンビニは50%以上が直営店だ。直営店方式では、出店をするのにも閉店をするのにも判断が遅れがちだ。面白いことに「スピード感がない」と言われる日系の方が、中国コンビニ市場ではスピード感を持ったビジネス展開ができている。

 

再編必至の中国系コンビニチェーン

二極分化する中国コンビニ業界において、利益の大きな都市型コンビニは日系コンビニで占められようとし、国内系コンビニは赤字経営の地方ミニショップに活路を求めざるを得なくなっている。最大の課題は、固定コストの上昇なのだから、IT技術を活かした効率化をしていかなければならないが、今のところそれが進んでいるようには見えない。

一方で、この地方ミニショップに世界に、IT技術を活かして徹底した効率化を図ったアリババの「天猫小店」、京東の「京東便利店」などが急速に参入してきている。国内系コンビニは、上からも下からも攻められている状況で、どこかに脱出口を見つけない限り、圧縮死してしまいかねない。

数年以内に、国内系コンビニになんらかの大きな動きが起きることは間違いないだろう。