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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

駐車場から出られない!進まない新エネルギー車への対応

中国では強引なEVシフトが進んでいる。メーカーに一定割合の新エネルギー車製造を義務付けてしまうというもので、「作ったはいいが売れるのか?」と見る向きもある。あまりの急速なEVシフトにより、周囲のシステムの対応が進んでいないと北京晩報が報じた。

 

強制的にEVシフトを進める中国

「世界のEVの半分以上は中国で製造されている。中国はEV先進国だ」と口にする人がいるが、現状はそう単純ではない。

中国政府は、昨年、すべての中国国内の自動車メーカーに一定割合の電気自動車(EV)などの新エネルギー車を製造することを義務付けた。ハイブリッドカー、EVなどをエコ度に応じてポイント換算し、2020年には12%の新エネルギー車のポイント比率を獲得しなければならない。達成できない場合は、達成済みのメーカーから不足ポイント分を購入する。それでも達成できない場合は罰則があるという仕組みだ。

要は、強制的に一定数のEVを作らなければならなくなった。だから、中国で大量のEVが製造されるのは当然の話。問題は、ちゃんと売れるかどうかだ。

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▲充電ステーションは急速に設置されているが、管理者不在のステーションでは、ガソリン車の違法駐車、充電器の故障に頭を悩ませている。

 

当面は法人需要。個人需要を喚起できるかが大問題

当面は企業需要がある。特に宅配便の配達車、カーシェアリング用などの需要が強い。しかし、法人需要が一巡した後は、個人需要に頼らざるを得ない。ここを多くの人が不安視している。

世界に先駆けてEVシフトに挑戦していることは素晴らしいことだ。以前よりかなりましになったとは言え、まだ深刻な状態の都市の大気汚染問題もEVシフトにより解決ができる。しかし、個人需要を喚起する何らかの手を打たない限り、数年後にEVシフト計画は頓挫してしまうのではないかと懸念されている。

 

駐車場から出られなくなるEV

北京でいち早くEVを購入した祖さんは、公共駐車場から出庫するたびに天に祈るという。なぜなら、駐車場に入ることはできるのに、出るときはバーが上がらずに出られないということが度々あるからだ。

北京の多くの駐車場では、ナンバーで車両管理をするようにようになっている。入庫時に自動的にナンバープレートを読み取り、出庫するときに照合し、駐車時間を計算し、料金が支払われるとバーを上げるという方式のところが一般的になっている。

ところが、北京市では、一般の自動車のナンバーは5桁であるのに対して、EVなどの新エネルギー車は6桁にして、ナンバープレートも緑色にして区別している。駐車場のシステムはまだ新しい新エネルギー車用のナンバーに対応していないところが多く、出庫時にナンバーが照合できず、エラーが起きてしまうのだ。

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▲新エネルギー車に交付されるナンバープレート。京Aは地域ナンバーで、ナンバーは実質6桁。先頭がEVの場合はD、新エネルギー車の場合はFとなる。実質的なクルマのナンバーは5桁で、従来と変わらない。

 

4割の駐車場で出られなくなる

新エネルギー車のナンバープレートを緑色にしたのは、ガソリン車が駐車場代わりに充電ステーションに駐車してしまうことが問題となっていて、これを防止するためだ。

祖さんは北京晩報の取材に応えた。「西二環のレストランの駐車場では、出るときにシステムが反応せず、困っていたら、駐車料金が3000元(約4万9000円)と表示されたことがあります」。

モール、ホテル、公園。そういうところの駐車場の多くが新エネルギー車用のナンバーに対応してなく、祖さんの経験によると大体4割ぐらいの駐車場で問題が生じるという。

 

新ナンバー制度が始まって半年。まだ対応できていない駐車場が多い

実際のところどうなのか。北京晩報の記者は、実際にEVに乗って、主だった場所の駐車場に止めてみた。オリンピック公園の公園南門駐車場では、入庫時にはなんの問題もなかったのに、出庫時にはシステムが反応せず、係員を呼ぶことになった。すると、入庫の記録がなく、駐車時間が計算できないという。記者が係員に事情を聞くと、同じことがたびたび起きて困っているという。

その後、記者は崇文門の国瑞城ショッピングモールに車を止めた。ここは新エネルギー車のナンバープレートに対応していて問題なく出庫することができた。その後、王府井のあるモールの駐車場に止めたが、ここは対応してなく、出庫時に係員を呼ぶことになった。

祖さんは言う。「新エネルギー車のナンバーが始まったのは昨年の12月28日で、それからもう半年経っています。緑色のナンバーだって、街中で見かけるようになってきているのに、駐車場のシステムはいつになったらアップデートされるのでしょうか?」。

記者が駐車場システムの関係者に取材をすると、システムをアップデートする必要があると答えるだけで、いつなのかについては応えなかった。

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▲中国の大都市では、駐車場不足にどこも頭を悩ませている。そのため、EV用の充電ステーションにガソリン車が駐車してしまう問題が多発している。新エネルギー車のナンバープレートを緑色にしたのも、このような問題を解決するため。

 

管理者がいない充電ステーションでは問題多発

北京市は、第六環状線以内の地域に2000カ所の公共充電ステーションを設置し、合計1.88万本の充電器を整備した。5kmに1カ所の充電ステーションがある計算になる。その他、民間の充電ステーションもあり、大型の駐車場内にも充電対応の駐車スペースが用意されている。

しかし、管理者不在のところも多く、ガソリン車が駐車スペース代わりに利用してしまうことや、充電機の故障が多いことも問題になっている。

将来、多くの個人がEVを買う時代がくるのかも知れないが、少なくとも現在は、EVを所有するということは煩わしいことが多すぎる。

こういう周辺問題をひとつひとつ解決していくことが、EVシフトが成功するかどうかに直結していく。