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広州で始まった乗り捨て可能なシェアカー「立刻出行」が全国展開へ

昨年6月から、広州市で乗り捨て可能なシェアリングカーサービスが始まっている。乗り捨てを可能にするため、拠点数を多くし、投入車両も多くしなければならない。そのため、小さく始めるリーンスタートができないサービスだ。広州市で成功をした立刻出行がいよいよ全国展開を始めると億欧網が報じた。

 

自転車の次は自動車。シェアリングエコノミー

一昨年から急成長をしたシェアリング自転車。生活の中に定着をし、ofoとMobikeがシェアを握り、勢力地図を安定させた。しかし、それは、新規参入が難しくなり、ofoもMobikeも成長空間に乏しくなるというスタートアップ分野としては、魅力がほとんどなくなるということでもある。

そこで投資家たちは、次の分野に目を向けていた。当然、自転車をシェアリングするなら、次は自動車だと誰もが考える。その思惑通り、「立刻出行」というシェアリングカースタートアップが登場して、4月にはAラウンド投資、2000万元(3億4000万円)を獲得し、5月にBラウンドの投資も獲得した(ただし、金額は非公開)。

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▲立刻出行が乗り捨て可能なシェアリングカーサービスを始め、全国展開に乗り出した。

 

広州で成功した立刻出行が全国展開へ

立刻出行の立刻とは、中国語で「すぐに」の意味。ピンイン表記はlikeとなり、英語のLike(好き)と同じで、「すぐに車に乗れるのはみな大好き」というダブルミーニングの社名だという。

昨年の6月から、広州市仏山市、武漢市、成都市、南京市、長沙市の6市でサービスを開始していて、5月にBラウンド投資を獲得したことで、全国展開が見えてきた。立刻出行の王楊CEOは「2018年末までに20都市から25都市」が目標だとしている。

自動車は、ワーゲン、GM、フォード、広汽伝祺などのハイブリッドカーやEVを使っている。

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▲アプリには鍵の位置なども丁寧に表示される。また、返却拠点を指定すれば、料金の概算も事前に計算される。

 

最初から大規模投資をしなければならない乗り捨てシェアリング

今年に入って、滴滴出行など数十社がこの分野の参入を図っているが、なかなかサービスを開始できないのは、レンタカーのように貸した場所に返す方式では意味がないからだ。シェアリング自転車のように、どこにでも乗り捨てできなければ意味がない。もちろん、自動車を路上に乗り捨てるというのは問題があるので、拠点をかなり密に配置しておく必要がある。

つまり、最初から相当数の拠点を設置し、相当数の自動車を投入しなけれならず、数十台から始めるリーンスタートということが不可能なサービスなのだ。そのため、大規模の資金が必要となり、失敗した時の痛手は大きい。滴滴出行でさえ、他のシェアリング自転車企業、自動車メーカーなどと共同のプラットフォームを作って、リスクを分散しようと計画していたほどだ。

しかし、立刻出行は、単独でこの冒険に挑戦する。Bラウンド投資では、アリババ傘下のアントフィナンシャルが大型投資をしていると言われ、これが全国展開を大きく後押ししたと思われる。

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▲拠点はかなり多く設置されている。最初に乗る拠点、返す拠点を選んで、予約をする。

 

過不足解消の回送作業を不要にするには

広州市では、すでに約1000箇所の拠点を確保し、サービス提供地域の住民の80%が500m以内に拠点がある状態で、1日の利用回数は1万回を超えているという。

この乗り捨て可能システムの場合、車両が過剰になった拠点から不足している拠点に車両を回送する作業が問題になる。現状では、夜間にスタッフが巡回をし、充電や給油、清掃の作業を行い、必要があれば回送も行っている。

すでに拠点ごとの需給バランスのデータは取れてきたので、将来は、利用者に回送作業も行ってもらうようにするようだ。当面は、過剰な拠点から不足している拠点に移動した場合は、次回利用できるクーポン券をもらえるようにして、不足する拠点への返却を誘導する。

立刻出行は、乗車前に乗車する拠点と車種、それから返却する拠点を選ぶ方式なので、この時、クーポン券がもらえる拠点(車両が不足している拠点)にマークを表示するようにすれば、少し遠くなることになってもそちらに返すという人が出てくるだろう。回送作業はスタッフが行わなければならないのだから、料金がほぼ無料になる額のクーポンを発行しても、立刻出行側はソロバンがあうことになる。

さらに進んで、返却する拠点ごとに価格が違ってくるという方式で、拠点ごとの過不足を利用者に調整してもらうということも可能になってくる。

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▲専用アプリがカーナビにもなっているので、車内にカーナビは設置されていない。

 

あくまでも移動する手段としてのシェアカー

利用料金は、利用者登録時に299元のデポジット(退会時に返却)の後は、EVが1km1元、1分間0.1元の、距離と時間の併用制だ。現在、ドライブを楽しむたのレンタカーというよりは、移動のための手段として自動車を使ってもらうことを想定していて、10kmから最大100km程度の移動を想定している。

EVは満充電で200km程度しか走れない車種もあり、充電ステーションが整備されていない中国では、政府は推進をしているものの、新車販売台数に占めるEVの割合は3%程度と普及が進んでいない。

しかし、立刻出行のように「短距離の移動」目的であれば、EVが生きてくる。想像だが、売れ行きが悪く大量在庫になっていたEVを立刻出行で活用しているのではないかと思われる。

市民からはかなり歓迎をされているようだ。タクシーやライドシェアは、次第に価格が上昇してきている(サービス開始時のキャンペーンがほぼ終了したので、正規料金に戻っている)。一方で、自家用車で移動する場合は、どこの都市でも空いている駐車場が見つからず、なおかつ駐車料金が高騰しているという問題がある。

そういう状況の中で、乗り捨てできるシェアリングカーは、安く、使いやすい交通手段なのだ。

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▲16kmを走行して、41分かかった。この例ではハイブリッド車なので、1km1.3元、1分間0.13元。合計で26.13元になった。450円ぐらいで、タクシーやライドシェアよりも安い。

 

普及期の混乱を乗り越えることができるか

ただし、拠点にはそれなりの広い土地が必要で、利用ニーズの高い都心で、広い拠点を確保することは簡単ではない。また、事故が起きた場合にどのように対処するかも大きな問題だ。

シェアリング自転車では、当初、盗難、破損、放置といった問題が起こり、それをひとつひとつ乗り越えることで現在の安定したサービスに到達している。シェアリングカーでも同じプロセスを経ることになるが、盗難、破損、放置による影響は自転車の比ではない。それを乗り越えていけるかどうかも注目される。

しかし、このサービスが定着をし、普及をすれば、自動車を所有する人は急速に少なくなり、自動車メーカーは困るかもしれないが、一方で、渋滞、駐車場不足、大気汚染といった都市問題が一気に解決されていく。すでに、「都心部では、公共バスとシェアリングカー以外を規制してしまえ」という意見が記事のコメントに散見される。

大量の自動車が放置され、大きな社会問題になるか。あるいはそれを乗り越えてシェアリングエコノミー社会を実現してしまうか。中国がまた大きな社会実験を始めている。

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