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中国IT企業が、続々とWeChat使用禁止に。苦悩するテンセント

テンセントの主力SNSアプリである「WeChat」が危機に立たされている。ファーウェイを始めとする中国企業が続々と社内での使用を禁止しているからだ。その原因は、プライバシーの軽視にあると今日頭条が報じた。

 

10億アカウントを超えるQQ、WeChat

テンセントは、PCベースのSNS「QQ」で一世を風靡した。2009年末には10億アカウントを突破し、中国人のほとんど全員がアカウントを持っていた。メールだけでなく、チャットや音声チャットの機能も持ち、海外にいる親戚と話をするのに使われるツールの定番となった。

しかし、スマートフォンが普及し始めると、次第にQQは時代遅れとなったが、テンセントはスマートフォン向けにWeChatを公開。あっという間に、200カ国で使われ、ユーザー数は11億人を超えている。

さらに、このWeChatにスマホ決済機能「WeChatペイ」サービスを開始すると、アリババのアリペイとともに、中国ではなくてはならないアプリとなった。

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▲QQのマスコットのペンギン。中国人なら誰でも知っているキャラクターだが、目に触れる機会は少なくなっている。


アムネスティのプライバシー保護評価は0点

しかし、ファーウェイを始めとして、中国の主要企業が社内でのWeChatの使用を禁止し始めている。

きっかけは、2016年にアムネスティインターナショナルが発表したメッセンジャーのプライバシー対策ランキングだった。これは、暗号化がされているか、利用者のプライバシーは保護されているか、運営企業の人権に対する意識はどうかなどの観点で、世界中のメッセンジャーをランキング化したもの。トップはFacebookで、Apple、Telegram、Google、LINEと続く。

この中で、WeChatとQQは最下位の11位で、しかも100点満点の得点が0という厳しい評価を得てしまった。多くのメッセンジャーは通信を暗号化しているが、WeChatは暗号化の機能すらない。また、バックドア対策もなく、たびたびテンセント側が利用者のデータスキャンを行っていることが報告されている。

他愛のない暇つぶしに使いのであればともかく、業務で利用するには、いかにも危ういアプリなのだ。

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アムネスティインターナショナルが公表したメッセンジャーランキング。暗号化、プライバシー保護などの観点から評価されている。テンセントは最下位の0点という厳しい評価だった。

 

主要IT企業で広がるWeChat禁止の流れ

このような事情から、スマートフォン開発メーカー「ファーウェイ」は、社内でのWeChat使用を禁止して、同社のメッセンジャーであるeSpaceを使うように全社員に通告した。

この動きは、ファーウェイだけでなく、多くのIT企業に広がっていることがわかった。セキュリティ企業「360」、ECサイト「京東」、IT企業「百度」、ポータルサイト「網易」、携帯キャリア「中国電信」などでも、社内でのWeChat使用を禁止、または制限している。

 

テンセントの宿敵、セキュリティ企業「360」

特にセキュリティ企業「360」は、テンセントのQQ、WeChatの利用者データのスキャン問題などを告発し、テンセントと激しく対立をしている。2010年には、テンセントは、360のセキュリティソフトが動いているPCでは、QQが起動できない措置をとった。利用者は、360セキュリティソフトを使うか、QQを使うかの二者択一を迫られ、この時に多くの人がQQを見放した。

360はWeChatにも厳しい。360の内部通達は6項目から成っている。

1)WeChatのグループは48時間以内に解散すること

2)社内でのコミュニケーションはWhatsAppなどを使うこと

3)WeChatで連絡を取るときは、業務に関するいかなる内容にも触れてはならない。

4)外部と連絡を取るときは、業務に関するデリケートな内容に触れてはならない

5)この規定に反したものは、調査の後、2000元から5000元の罰金を科す

6)WeChatにより企業の秘密を漏らしたものは、それが過失であっても、360は賠償請求をする

という厳しいものだ。

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WeChatペイのシェア低下にもつながりかねない

WeChatを批判するネットワーカーの中には、テンセントはライバル企業の業務連絡内容を盗聴しているのではないかと言う人もいる。昨年8月、テンセントの裁丁珂副総裁は、「WeChatはメッセージ内容のスキャンもチャット内容の分析もしていません」とコメントした。しかし、その後に続く言葉がまずかった。「テンセントはそれができる能力は持っていますが、過去にしたことはないのです」。

各企業がWeChatの使用を禁止する流れが生まれたのには、この発言が意外に大きかったのかもしれない。

これはテンセントにとって大きなつまづきになるかもしれない。WeChatが使われなくなれば、当然WeChatペイの使用率も下がっていくことになる。先進的なIT企業の社員からWeChatペイを使わなくなっていくので、周囲に対する影響も大きい。企業で使える社内SNSメッセンジャーは次々と新しいものが登場しているし、WhatsAppやslackなどの米国のサービスを使っている人も多い。そして、スマホ決済はアリペイへという流れが生まれてしまうと、いくら巨大企業のテンセントとは言え、短期間で瓦解する危険性もないわけではない。

このWeChat禁止問題は、数年後に振り返ってみると、意外に大きな転換だったということになるかもしれない。

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▲アリペイとともにQRコード方式スマホ決済の主役になっているWeChatペイ。WeChatのシェアが下がると、WeChatペイのシェアも下がる。テンセントにとっては見過ごせない問題だ。