昨年の独身の日セール、今年の春節を経て、農村でスマホ決済が使われるようになってきている。農村への普及に寄与したのは、帰郷する若者、農村タオバオ、壁広告の3つだと創業家が報じた。
普及が始まった農村でのスマホ決済
農村でスマホ決済が普及し始めている。調査会社「易観」の統計によると、2017年第3四半期のスマホ決済額は29.5兆元(約500兆円)に達し、全同時期から28.02%増加した。スマホ決済を利用している人も人口の77%に達した。
この統計では、都市部と農村部の数字はわからないが、農村部でのスマホ決済が目立つようになったのが、昨年11月11日の独身の日だった。農村部から購入は2000万件に及び、金額は32億元(約540億円)に達した。
独身の日は、中国全土でECサイトで買い物をするビッグセールの日。アリババだけで1682億元(約2兆8300億円)を突破し、その他のECサイトも合わせると、3000億元(約5兆円)に達しているのではないかとも言われている(たった1日の売上であることに注意)。そこから比べれば、農村の売り上げはわずか1%程度であり、大きな数字とは言えないが、2016年の独身の日から比べると9倍の売り上げになっていて、農村部の消費力が急激に高まっていることがわかる。
アリババによると、春節(旧正月)の期間に、祝事に必要な果物、酒、飲料などがスマホ決済で購入され、さらには、昨年までほとんど売上のなかったスマートスピーカー、ロボット掃除機、ウォシュレット、ドローンなどといった製品も、スマホ決済やECサイトで購入されるようになったという。
▲地方都市の街頭の焼き芋屋もアリペイに対応している。スマホがあれば誰でも加盟店になれる手軽さがあるからだ。アリペイは中国語で「支付宝」と言うが、店主は最初「支付銭」と間違って書いていたようだ。
春節で帰郷する若者がエバンジェリストとなる
農村へのスマホ決済浸透に大きく寄与しているのが春節だ。春節は、中国人にとって最も重要な伝統行事で、多くの人が実家に帰り、家族親戚とともに新年を祝う。都市で働き、スマホ決済に慣れている若者が、農村に帰郷すると、自然にスマホ決済で支払える店を利用する。父母や親戚に、スマホ決済の使い方を教える。彼らがスマホ決済の伝道師となって広めてくれるのだ。
農村タオバオがアリペイ普及の拠点となった
また、アリババは農村タオバオ、ECサイト大手の京東は京東便利店という実体店舗を展開している。農村タオバはすでに10万店舗、京東便利店は5年で100万店舗を出店する計画を立てている。
この店舗の使命は、農村にECサイトとスマホ決済を普及させることだ。ECサイトを使ったことがない農民がこの店舗を訪れると、スタッフが代理でタオバオや京東のECサイトにアクセスをして、代理購入をしてくれる。商品は店舗まで配送され、受け取りにきてもいいし、店舗スタッフがそこから各家庭まで配送することもできる。支払いも現金でもいいし、スマホ決済を使ってもいい。
このような試みが、じわじわと効果をあげ始めている。
▲農村タオバオは、PCが苦手な農民に変わって、スタッフが代理注文をしてくれる。ECサイト、スマホ決済普及の重要拠点になっている。
中国独特の農村壁広告の効果が大きい
もうひとつ大きいのが、中国の農村独特の広告戦略だ。中国の農村では、昔から壁という壁に、共産党のスローガンを大書きする習慣があった。「毛沢東思想で我々の頭脳を武装しよう」「革命のために家族計画を高く掲げよう」「毛主席に従い、前進だ!」というような政治スローガンが主だった。しかし、次第に「威嚇射撃2発の後に逃走するものは射殺する」「歩行者は車に道を譲れ」「ゴミを捨てるものには、子ができず、家系は死に絶える」「子どもを産まずに木を植えよう。子どもを育てず豚を育てよう」といった国際常識から見て驚愕するような内容のスローガンが問題となり、農村のスローガンは撤去されていった。
ここに入り込んだのが企業広告で、多くの企業が過去のスローガンを文字った文字広告を出している。「豚を飼い、木を植え、道を直す。百度を使って豊かになろう」「スマホのQQで京東を使おう。ワンストップでなんでも買える」「家族計画は素晴らしい。産みすぎた時の罰金はアリペイで支払おう」「アリペイを使えば、嫁さんは逃げない」などの面白広告があるという(ただし、SNSなどに画像がアップされていないので、ネット民によるジョークである可能性もある)。
情報の少ない農村では、「アリペイ」の名前を出すだけでも効果がある。農民の間で「アリペイってなんなのだ?」と話題になるからだ。このような広告効果も出てきたと考えられている。
▲農村の壁は、農民向けの企業広告が増えている。上海フォルクスワーゲンの広告。「都市の人には高く売っています。農村の人には割引します」というもの。自動車普及のため、農村での自動車購入には補助金制度があることを、このような表現で広告している。
▲豊かになりたかったら、まず道を作ろう。買い物をしたかったら、まず百度で調べよう。
▲豚を飼い、木を植え、道を直す。百度を使って豊かになろう。
▲スマホのQQで京東を使おう。ワンストップでなんでも買える。
現実味を帯びてきた「世界最初の通貨発行停止国」
現在、スマホ決済は第1級都市、第2級都市のほとんどで普及をし、市民は財布と現金を持たずに外出するようになっている。問題は第3級都市以下、特に農村での普及だった。まだ十分に普及をしているとはとても言えないが、農村部でも普及の兆しが見え始めている。中国は、普及が始まれば、後は速い。都市部でも本格普及が始まって、5年足らずで、無現金都市となった。動きの鈍い農村であっても、10年前後で無現金農村になる可能性がある。
そうなれば、中国は通貨発行を停止して、電子通貨の国になるかもしれない。その可能性が次第に現実的になってきている。