中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

淘汰の時期を迎えている無人コンビニ

中国で次々と登場する無人コンビニ。すでに過当競争となり、淘汰のステージに入っていると見られている。現在、どのような無人コンビニがあるのか。そして、課題はなにか。RFID世界網がまとめた。

 

電子タグの中国、画像解析のAmazon Go

1月22日に、Amazon Goの1号店が米シアトル市に開店した。しかし、中国では昨年7月にアリババが杭州市に無人スーパーを開店して以来、無人スーパー、無人コンビニの設立ブームが続いている。しかし、すでに過当競争となり、閉店をする店舗も現れ始め、淘汰のステージに入っていると見られている。

無人コンビニは、入店時に個人認証。店内で自由に商品を取り、自分のバッグに入れる。そのまま退店すると、自動精算される「レジなし」が理想だ。どの商品を手に取ったかを認識するには、RFID電子タグを使うのが一般的だ。しかし、電子タグには技術的な課題がある。それは商品点数が多いときには、すべての電子タグを識別するのに時間がかかってしまうということだ。このため、来店客が退店するときの精算に時間がかかってしまう。また、アルミホイル、金属、液体のようなもので電子タグの電波が遮られてしまう、電子レンジにかけられないなどの問題も存在する。

そのため、Amazon Goでは、電子タグを採用せず、画像解析により、どの来店客がどの商品を手にしたかを人工知能で判別をして、追跡することで、精算をする。これは一見スマートな方法だが、技術開発では簡単ではなかったようだ。2016年12月に試験運用を始めて、正式開店にこぎつけるまで1年以上かかっている。

中国の無人コンビニの場合は、電子タグを使い、セルフレジで精算させるパターンが多い。ユーザー体験としては「レジなし」には及ばないが、それでも十分に利便性があるという考え方だ。

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通路を歩かせることで、商品読み取り時間を確保する工夫

中国の無人コンビニブームの火付け役になったのが、2017年7月8日、アリババが杭州市に開店した「タオカフェ」だ。これは、カフェに無人スーパーが併設されているという形で、電子タグ方式を採用している。レジはなく、来店客は商品を手に取って自分のバッグにしまい、そのまま退店できる。

電子タグの精算に時間がかかる問題は、ユニークな方法で解決をしている。それは3mほどの専用の通路を歩いて退店するのだ。この歩いている時間で、精算処理の時間を稼いでいる。

昨年9月末に、大手ECサイト「京東」が北京市に開店した「京東便利店」も、電子タグ方式を採用し、タオカフェと同じように、精算通路を利用することで、電子タグの認識時間を稼いでいる。

蘇寧が出店したスポーツ用品店Biuも電子タグを採用している。しかし、一人が購入する商品点数は多くはないことから、精算通路方式ではなく、セルフレジ方式を採用している。セルフレジと言っても、天井から吊るされたモニターとカメラで、指定の場所に立つと、顔認識と商品識別が行われ、自動精算される仕組みだ。

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▲京東便利店の精算通路。この通路を歩く時間で、電子タグの読み取り時間を確保している。精算が完了すると、奥のドアが開いて、退店できる。

 

コンテナ型店舗が主流の無人コンビニ

この他、スタートアップ系の無人コンビニも雨後の筍のように登場している。その多くがコンテナ型だ。店舗の設置が数時間から1日でできるので、ちょっとした空きスペースに開店できる。また、イベントなどの時に、一時的に店舗を営業するということも可能だ。

その多くが、入店時にスマートフォンや顔認証で個人認証をし、最後にセルフレジで精算をし、スマホ決済で支払いをするというもの。高度な技術を使っているわけではないが、自動販売機が少ない中国で、大型自動販売機といった感覚で利用されている。

しかし、すでに過当競争になっており、各スタートアップもさまざまな工夫を始めている。小麦、EasyGoなどは、ゲートコミュニティマンションやオフィスビル、学校などの閉じられた地域に出店する方針を採用している。限定された人を対象したキオスク代わりに使ってもらおうというものだ。一般コンビニに比べて、来店客数は少ないが、特定の人だけが利用することで、防犯、商品毀損などの管理コストが下げられる。

また、無人コンビニは、賞味期限がある生鮮食料品は扱いにくい。スタッフが常駐し、温かい食品も提供する便利蜂(無人コンビニというよりも、通常のコンビニにセルフレジを導入した感覚)、あるいはレストランとコンビニを併設したF2などが差別化する工夫をしている。

また、無人貨架と呼ばれるジャンルでも多くのスタートアップが登場している。これは飲料、菓子などの商品に電子タグをつけただけの小さな無人キオスクだ。その気になれば、商品を盗んでしまうこともできるが、オフィス内、学校内、マンション内などに契約をして設置をするというもの。

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投資資金が得やすいことから次々と起業される無人コンビニ

このような無人コンビニが続々登場しているいちばん大きな理由は、投資資金が得やすいからだ。中国の投資会社は、昨年あたりまでは、シェアリングエコノミー関連に積極的に投資をしていた。シェア自転車などは生活に定着をし、筋の悪いシェア雨傘が淘汰され、シェアリングエコノミー関連のスタートアップが整理されると、投資資金の行き場がなくなってしまった。次にくるのは、人工知能関連と医薬関連だと言われているが、まだ積極投資をするには、技術的に成熟していない。

この隙間に登場しているのが、無人コンビニに代表される「新小売」と呼ばれるジャンルだ。資金が集まるから、起業が続く。そういう状態になっている。

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▲主な無人コンビニスタートアップ。簡単にできるコンテナ型店舗が多い。この他、飲食店と併設するタイプやオフィス内に設置する無人キオスクなどもある。多くが淘汰の時期を迎えている。

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無人コンビニには投資資金が集まりやすい環境になっている。深蘭科技は、無人コンビニシステムTakeGoを販売している。アリババのタオカフェにもTakeGoの技術が使われている。

 

電子タグも画像解析も技術はまだまだ未完成

しかし、無人コンビニには2つの課題が存在する。ひとつは技術的な課題で、もうひとつはコスト的な課題だ。

RFID電子タグはすでに枯れた技術になっていて、無人コンビニに応用するのは難しくない。しかし、金属、アルミホイル、液体などの商品では、電波が反射、吸収されてしまい、誤認識が生じるという問題がある。そのため、缶飲料、ペット飲料、冷凍食品、金属グッズなどには、無人コンビニでは扱えない商品がある。

この問題をクリアするために、Amazon Goでは画像解析による方法をとっているが、それでも過去に、商品棚から弾くように別人に投げ渡すと商品購入が認識されないという裏技が開発され、これをつぶすために、人工知能に不正行為を学習させるということを繰り返している。

画像解析、人工知能電子タグ、商品棚センサーなど複数の技術を組み合わせれば、完璧なシステムが構築できるが、今度はコストがかかり、結局、スタッフを常駐させた方が安上がりという本末転倒のことになっていく。無人コンビニの技術開発は、ようやくギリギリ合格点の段階に達したというだけで、まだまだ未完成なのだ。

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▲Biuのセルフレジ。レジといっても、指定の位置に立つだけ。顔認証と商品の電子タグの情報から、スマホ決済が行われる。

 

そもそも人件費がかからないのがコンビニビジネス

もうひとつが、コストの問題だ。中国の無人コンビニは、コストを下げることで、商品価格を一般コンビニよりも安く提供することを狙っている。しかし、無人コンビニのコストは意外に高いのだ。

電子タグの価格は1つ0.4元程度で、それを商品につけるのに0.6元程度、つまり、1つの商品に1元程度のコストがかかる。

一方で、中国大手コンビニでは、人件費は売上のわずか1.8%でしかなく、それよりもむしろ加盟店料の5%の方が、コンビニ店主にとっては大きな負担になっている。この1.8%という数字は驚異的だが、中国のコンビニは家族経営のところが多く、またスタッフを雇う場合も、賃金が安く済む地方出身者を雇用するので、人件費は極めて安く抑えられる。日本でも、コンビニの人件費は10%強であり、そもそもコンビニとは人件費がかからないビジネスなのだ。それを、高額のシステムを導入して無人化し、この1.8%の部分を圧縮することに意味があると考えるコンビニ店主は少ない。

無人コンビニBingoBoxによると、1日2000元の売上があると5ヶ月で初期費用が回収できるという。この計算が正しいとすると、記者が計算をしてみると、BingoBoxの利益率は約10%前後になるという。しかし、優秀な一般コンビニ、例えばセブンイレブンの利益率は25%もあるのだ。BingoBoxの利益率はどう計算しても20%には届かないだろうから、果たして、店主にとって無人化は意味があることだろうかとRFID世界網は疑問を呈している。

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収集したデータを活用することが無人コンビニの出口

Amazon Goは、商品の販売が主目的ではなく、消費者の購買行動のデータを収集したいのだと見ている人が多い。無人コンビニも、単に売上を上げるための販売店として考えてしまうと、あまり魅力があるビジネスとは言えなくなってしまう。しかし、無人コンビニでは、だれがいつどこで何を買ったのか、そのビッグデータが蓄積されていく。このビッグデータを活かして、次の展開を考える無人コンビニが生き残っていく。RFID世界網は、そう結論づけている。