中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

人手不足が深刻になる中国宅配便業界

日本と同じように、中国でも宅配便企業が苦しんでいる。利益がでない、混乱するオペレーション、厳しい価格競争、人手不足など数々の問題を抱えていると今日頭条が報じた。

 

地球の宅配便の半数は中国で配達されている

中国郵政管理工作会議が公表した統計によると、中国の2017年の宅配便件数は401億件となった。日本の宅配便件数のほぼ10倍であり、地球の宅配便件数(約800億件弱)の半数は中国で配られていることになる。

この宅配便を担う宅配便企業は、この数年で急成長をしており、すでに7社が株式上場をしている。人工知能による仕分けを採用している物流センター、ドローンによる配送、などはすでに実用化されており、自動運転車による配送、運搬などもすでに実用化可能レベルに達している。

しかし、まだまだ課題は多く、中国の宅配物流は常にギリギリの状態で、最先端技術が次々に実用化されていくのも、進化を止めた瞬間に一気に破綻をしてしまうという不安感があるからだ。

経営環境もぎりぎりで、各宅配便企業は売上、規模とも成長を続けているが、利益率は低く、ちょっとしたことで倒産しかねない状態が続いている。実際、大手宅配便が委託する地域の小規模宅配業者の倒産は珍しいことではなくなっている。

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小さな負荷でも物流が滞るぎりぎりの状態

上海市の宅配大手「園通快逓」でも、今年になって突然、倒産の噂が流れ、火消しに躍起になるという事件が起きた。あまりの荷物の多さに、園通快逓から配送を請け負っていた北京市花園橋の受託業者の物流拠点がパンク状態となった。荷物が予定通り到着しないことから、顧客が問い合わせの電話を入れても、この拠点では電話に出るスタッフを確保することもできないパニック状態となっていた。荷物も届かない、電話にも出ないということから、「この拠点が閉鎖された」という噂がネットを駆け巡り、それは次第に園通快逓が倒産するのではないかと噂に変わっていった。数日の間、園通快逓では荷物の問い合わせの対応や風評に基づいたキャンセル処理などで混乱をすることになった。

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末端の委託配送業者が物流の弱点になっている

中国の宅配便システムの弱点は末端にある。多くの宅配便企業が構築しているネットワークは、地域の物流センターまでの基幹ネットワークのみで、そこから各家庭に配送をするのは、委託業者が行う。この委託業者は多くの場合、数人規模の会社であったり、個人であったりする。さらに低賃金であるため、常に人手不足だ。当然、業務の質は低く、荷物の破損、遅配、不達は多く、さらには女性宅に押し入るなどの事件すら起こっていた。

この問題を解決するため、各宅配便企業は電子伝票を導入している。専用リーダーがなければ、住所氏名などを確認することができず、誰がいつどこで確認したかを自動記録する。また、ゲートマンションや広場、コンビニなどに宅配ボックスを設置し、最初から宅配ボックスへ配達する荷物も増え始めている。

このような努力の結果、現在は、顧客満足度は上がってきているが、それでもすぐに受託業社が倒産してしまい、補充をすることができず、配送の混乱が生じるという状態が続いている。

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▲地域の物流拠点は、業務効率は悪く、管理レベルも低い。一方で、基幹物流拠点には、人工知能による自動仕分けロボットにより無人化されるなど、行動に効率化されている。

 

配達員は1日150個は配送しないと生活していけない

記事では、このような末端の受託業社には5つの課題があるとしている。

最大の問題は、儲からないという問題だ。例えば、ある都市の末端の零細委託業者であっても、数坪程度の荷物置き場と、デスク、配送車が必要になる。荷物置き場の家賃が最低でも月1500元、事務経費に600元、ガソリン代に200元は必要で、合計月2300元のコストがかかる。ところが、荷物の引き受け価格は、1個1元なのだ。月に2300個の荷物を配送しなければ赤字になる。1日に80個配らないと赤字になり、生活をしていくためには最低でも150個は配らなければならない。受け持ち地区に、大規模なマンションか、オフィスビルがあり、1日200個以上配達できないと、まともな利益は出てこない。

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▲末端の配送を担う配送業者は、零細企業や個人がほとんど。過酷な環境で働いていて、これが中国宅配物流の弱点になっている。

 

満足度向上のための罰金制度が配送業者を苦しめている

2つ目は、受託業者の質を上げるため、多くの宅配企業が採用している罰金制度だ。これがただでさえ少ない委託業者の利益を圧縮している。遅配、破損に対して罰金をかけるのはわかるにしても、利用者からのクレームが入ると、その内容にかかわらず罰金をとる宅配企業が多い。不在のことが多く、何度も再配達をして届けても、「届くのが遅い」というクレームを入れられてしまう。その場合でも罰金になるのだ。

宅配企業はイメージを向上させるため、利用者にクレームを入れることを推奨している。理不尽なクレームを入れられ罰金を取られることが、委託業者のモチベーションを失わせている。

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▲配送業者は、昼食を食べる時間も惜しい。昼食時には、在宅の家庭が多いため、配達の効率が上がるからだ。

 

雑な管理システムによる混乱

3つ目が地域拠点での管理システムだ。委託業者は、地域の物流拠点に、自分の受け持ち地区の荷物を取りに行く。この時、荷物についているQRコードをスキャンすると、その荷物を受け取ったことになる。しかし、手作業でスキャンをするため、たびたびスキャンミス、そして誤った荷物をスキャンした時のキャンセル忘れなどが起きるが、宅配企業はこのシステムを改善しようとしない。

このため、委託業者は混乱をし、遅配が生じる。遅配ならまだしも、最悪なのは荷物のロストだ。QRコードをスキャンしたことになっている荷物がロストしてしまった場合、委託業者が弁償をしなければならなくなる。高価な品物がロストしてしまうと、数ヶ月分の稼ぎが飛んでしまうこともあるのだ。

 

休日もなく毎日12時間働いて7万円弱の収入

4つ目が、行き過ぎた価格競争だ。ある宅配企業では、北京市内の配送に3.2元のコストがかかる。しかし、ECサイトに対しては3元で荷物を受けてしまっている。損失分の0.2元は、一般の荷物の利益で吸収をするため、委託業者の報酬をあげることができない。

5つ目が離職者、廃業が続出していることだ。一般に、末端の委託業者は、毎日朝7時から夜7時まで働いて、1日200個の荷物を配るのが平均だという(土日も働くのが普通。休みは申請をしてとる)。しかし、それで月の収入は3000元から4000元(約6万7000円)程度であり、しかも委託業者になるには5000元の保証金を支払わなければならない。中国全土の大卒初任給の平均が10万円程度になってきていることを考えると、いかに高度なスキルは必要としない仕事だといっても、あまりにも過酷で、儲からない仕事になっている。

それでもなんとか回っているのは、農村からの流入人口が、離職者を埋める程度にはあるからだ。しかし、学歴の低い農村出身者も、最近では専門学校や通信教育で資格を取り、それなりの仕事に就きたいと考えるようになっている。また、将来の昇給が見えるメーカー工場などへの就職が人気になっている。末端の労働環境を放置して、いつまでもシステムが維持できるとは限らない。

そのため、宅配企業は、ドローン配送、自動運転車配送などの先端技術を、実験レベルではなく、実用レベルで真剣に取り組んでいる。中国の生活インフラシステムは、最先端のIT技術と過酷な人間の努力の2つで支えられているのだ。