中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ブルーオーシャンに漕ぎだし始めた中国ロボット産業

中国はロボットの分野では、まだ日本に遅れをとっている。技術レベルがなかなか日本に追いつくことができない。そこで、中国が注目しているのが人工知能とロボットを組み合わせた自動ロボットの世界だ。さらに、昨年あたりからにわかに水中ロボットの世界が熱い注目を浴び始めていると智東西が報じた。

 

中国スタートアップが熱い視線を注ぐ水中ロボット

中国はあらゆる分野で日本に追いつき、一部では日本を凌駕しているが、圧倒的に立ち遅れているのがロボット分野だ。サーボモーター、コントローラーなど精密制御の技術が未成熟なのだ。

そこで、中国では日本とは異なる市場=ブルーオーシャンに進出をしようとしている。例えば、人工知能とロボットを組み合わせて、物流拠点の仕訳ロボットなどの分野では成功をしている。

さらに、狙っているのが文字通りのブルーオーシャン=海洋で、水中ロボットの開発がにわかに熱気を帯びてきた。密閉技術、防水技術などが必要になるが、要は水中ドローンなので技術開発にも馴染みがあり、また用途を工夫することで市場を創り出すことができ、その市場でのナンバーワン企業になれる可能性があるからだ。

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▲潜行科技のGladius。リモート操作で水中撮影を行う。

 

技術的難関は、防水と浮力バランス

水中ロボットは、人が操縦するタイプのものと無人で移動するタイプのものに分類できる。いずれの場合も、2つの技術的難関があり、後発の中国ロボット産業にとっては難関がある方がチャンスが生まれやすい。その難関を発想を変えることで突破すれば、市場を拡大することができるからだ。

水中ロボットの技術的課題のひとつは防水性だ。外殻によって密閉する技術、また内部の設備を個々に防水する技術を確立しなければならない。もうひとつは、水中でバランスを取る技術だ。水中では浮力が働くので、この浮力を計算して、水中ロボットのバランスを維持しなければならない。ロボット内部は、パーツごとに浮力が異なるので、現実には精密な重力分布を測定し、内部デザインを微調整していく必要がある。

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▲深圳吉影科技の波塞冬。120mの深度まで潜行できる。養殖業などでの業務利用を考えている。


既存IT企業のエンジニアが続々と起業

中国の水中ロボットメーカーの特徴は、スタートアップ企業が多いということだ。主だった企業でも2012年以降の創立が多く、ほとんどはIT企業に勤めていたエンジニアが起業している。

例えば、潜行科技のGladiusは、魚雷の設計をベースにした一般向けの水中撮影ドローンだ。ファーウェイ、LG電子、中船重工研究所などの海好きのエンジニアが集まって起業をした。

天津深之藍の白鯊MIXは、水中スクーター。水族館での作業や、海での娯楽に使われる。

北京臻迪はCES2018にPowerDolphinを出店した。4K画質で毎分30フレームの動画撮影ができる。1000m以内であれば、リモートでの操縦が可能。魚群を探索する目的に使われる他、海底地図の作成、高画質の海中撮影などに使われる。

深圳吉影科技の波塞冬は、最大120mの深度まで、海上の人間がリモートで操縦ができる。最大で5時間航行することができ、水中撮影が可能。専用のアプリからの操縦もできる。養殖などの作業、検査に使われる。

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▲水中ロボットを開発するスタートアップも増え始めている。多くが2012年以降に設立されている。

 

水道管のお掃除ロボットなど用途創出が鍵になる

水中ロボットは4つの市場で需要が生まれると見込まれる。ひとつは水産業だ。特に養殖の場合、生育状況を測定、改善するための作業は、人が潜水をするしかなかった。これは専門技術を必要とし、疲労度の高い作業で、なおかつ危険もともなう。この作業の一部をロボットに置き換えることにより、養殖業は大きなコストダウンが可能になる。

2つ目は、船体の水中部分の清掃だ。船体に付着した油、生物を除去するのは、今の所、人手が基本で、時間と手間がかかる。これを自動化することは大きな意味がある。

3つ目は、都市部の水道管の清掃だ。中国の都市化が始まって30年、上水道管の劣化が社会問題になりつつある。特に下水道管の劣化、閉塞が大きな問題で、降雨時に排水がうまくいかず、道に溢れるという現象が起こるようになり、西安市天津市では都市生活が支障をきたすほどの問題になっている。このような水道管の中を走り、検査をし、清掃する水中ロボットが求められている。

4つ目は、レジャー用だ。マリレジャーで、水中スクーター、水中撮影ロボットなどの需要が高い他、水族館、マリンレジャー施設などでの作業用にも需要がある。

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▲天津深之藍の白鯊MIX。水中スクーター。マリンレジャーにも使われる他、水族館、プールなどでの作業に使うことも想定している。

 

ブルーオーシャン状態が続く水中ロボット

水中ロボットのトレンドは、小型化、低価格化だが、さらに人工知能、ドローン技術を応用して、完全自律あるいは部分自律をするロボットに需要が集まりつつある。細かく人が操縦するのではなく、大まかな経路を指示してやるだけで、細かいところは自分でバランスを取り、判断をしながら進んでくれるというものだ。

水中ロボットは、需要が高い割に、乗り越えなければならない技術的ハードルが高いために、参入してくる企業が意外に少ない。まさに、文字通り、海洋はブルーオーシャン市場の状態にある。

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▲北京臻迪のPowerDolphin。高画質の動画撮影ができ、CES2018にも出展され、国際的に注目をされている。